人口が減少する社会において下水道事業を持続させるためには、整備の方向性、経営形態、財政支 援制度などを変更して対応することが求められている。こうした対応を行う際には、コストと効果を 検証しながら推進することが必要であり、この観点から、下水道のコストを定量的に時系列的に算定 できるシミュレーションモデルが必要と考えた。また、シミュレーションモデルによって効果を定量 化できた場合には、何を基準にして評価するかの課題も生じた。つまり、収支が算定され、対策によ って赤字額が減少することが予測された場合でも、それを赤字額の削減額、削減率だけで評価するの でなく、別の指標による評価が必要ではないだろうか、との考えから、新たな指標の開発を行った。
論文は、先に評価指標である「下水道持続性指標」を開発し、その指標を定量的、時系列的に算定 する「下水道持続性シミュレーションモデル」を構築し、実績に基づいてパラメータを設定して現況 を再現できるモデルであることを確認し、ケーススタディによって下水道の持続性を妨げる要因を 探るという構成とした。
第2章では、自治体にも「下水道事業に負担できる費用」に限度があり、人口と収入が減少する中 で施設の更新などへの投資可能性を定量的に評価するために、下水道の持続性を事業の年次収支と 自治体の自主財源(地方税)との比率で評価する「下水道持続性指標」を開発した。下水道持続性指 標の大小には、自治体の規模、費用、収入が相互に関係するが、その中でも一人当たりの起債償還費 が下水道持続性指標との相関が大きく、限定した条件のなかでの回帰式を導くことができた。
第3章では、「下水道持続性指標」の将来を予測するために、下水道の財務を時系列に予測するシ ミュレーションモデルを構築した。このモデルは、行政人口の増減、整備率、接続率を変更した場合 の算定ができること、下水量の増減に対して適切な維持管理費を算定できるよう、過去の運転実績を もとに下水処理量と維持管理費の関係を活用できること、統計から起債償還費を推定できるものと した。
第4章では、第3章で構築したモデルに既存自治体の実績を分析してパラメータを設定し、シミュ レーション結果を実績データと比較して適合性を確認した。これにより維持管理費や起債償還費も、
構築したモデルで近似できることを確認した。さらに、構築したモデルを使用して「下水道持続性」
のケーススタディを行い、追加の投資額や人口の変化に対する収支を予測するとともに、人口の変化 による税収の変化も考慮した下水道持続性を定量的に予測できることを確認した。ケーススタディ では、起債償還費が下水道持続性指標の与える影響が大きいことと、下水道持続性指標が低い場合に は、投資などのインパクトが大きく影響することが確認できた。ここでは人口動態や投資の有無によ る影響のケーススタディを行ったが、本モデルは人口や投資額を細かく設定できるため、PPPや広域 化、IT化などの投資の増加やコストの影響を予測できると考えられる。
「下水道持続性指標」は、単純な収支バランスだけで評価できない下水道の持続性について、収支 を地方の自主財源との比率で一般化したものである。ナショナルミニマムである下水道も行政サー ビスのひとつとして、財源とバランスを保ちながら自立的な進めていくための指標として活用でき ると考えている。また各種施策を評価するためには時系列的な定量モデルが必要であり、ここで構築 したモデルが活用可能と考えている。本研究が今後の都市経営に資することができれば幸いである。
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謝辞
本研究を進めるにあたり、主指導教員として終始熱心に的確なご指導を頂いた国際地域学部の北 脇秀敏教授に心より感謝申し上げます。教員業務、大学のマネジメント業務と研究にお忙しい中、昼 夜を問わずに丁寧にご指導を頂きました。
副指導教員として、要所で的確なご助言を頂きました国際地域学部の荒巻俊也教授にも深く感謝 いたします。
審査に当たってはその過程で数々の貴重なご指導を頂きました松丸亮教授、及び花木啓祐教授に 深く感謝いたします。
大学院生発表会や研究会での議論では、国際地域学研究科の先生方、及び北脇研究室の皆様に、多 くの知識や示唆を頂きました。心より御礼申し上げます。