携帯電話や無線通信端末を支えている無線通信システムにおいて,将来的に は更に大容量,広帯域な特性が求められる.そのため次世代の携帯電話システ ムで使用される電力増幅器には,広いダイナミックレンジで高電力効率が実現 でき,複数チャンネルや広帯域信号を増幅できる広帯域性,さらには小型・量 産化に対応できる技術が必要である.高調波処理が必須な高効率増幅器や,広 いダイナミックレンジでの高効率増幅器は,その高機能化のために複雑な回路 構成や整合回路構成を持つために回路の大型化やその結果として生じる狭帯 域化を検討する必要があることを第一章の序論にて述べた.
これに対して先ず,第二章では,単一増幅器の高効率化技術において小型化に 関し,高出力,高効率化のためのトランジスタ内部整合回路に,高調波処理の新 しい機能を付加するための基本検討を行った.小型で簡便に高効率化が図れる 手法として,トランジスタパッケージ内部に内蔵可能である小型の内部高調波 処理回路(IHN:Internal Harmonic Network)による高効率増幅回路構成を提案し,
GaAs MMICを用いてその試作及び評価を行い,基本周波数2 GHz帯で四次高調
波まで高調波処理特性が得られることを確認した.また高出力トランジスタで
あるGaN HEMT用にIHNを試作し,このIHNをGaN HEMT素子に適用し,基
本波ロードプルでシミュレーションにおいてPAE 71.2%,実測でPAE 57.5%を確 認した.実測での効率低下は主に IHN回路内の並列インダクタンス回路の抵抗 損失が大きく影響していることを解析により確認した.MMIC構造の場合,金属 膜厚がせいぜい 1~2μm 程度であり,また,線路幅を広げることにはプロセス の都合上限界があるが,近年,LTCC 等の低損失高誘電率セラミック基板上に MIMキャパシタやスパイラルインダクタを構成する技術が進んでおり,そのよ
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うな技術を用いることで,高効率化を図ることが可能であると考えらえる.また,
近年の通信容量増大に伴う高周波化により,高い周波数では分布乗数線路が用 いられるため,高調波処理回路の回路構成の選択肢の幅が広がり,低損失化を考 慮した回路構成による高効率化が図れると考えられる.
第三章では,現在簡便さ等の観点で広ダイナミックレンジでの高効率増幅器 システムとして最も利用されているドハティ構成に着目し,その更なる改善に 関する事項として,ドハティ電力増幅器の小型化,広帯域化を実現する技術につ いて述べた.小型化,広帯域化を実現するための手法として,小型化に関しては MMIC技術を採用し,そして,広帯域化に関しては,ドハティ増幅器の特徴であ る負荷変調において,それを実現する 4 分の 1 波長線路での狭帯域特性化を避 けるための,集中乗数素子を用いた2入力電力レベル整合設計手法を採用した.
その際に,集積化により表面化した分周調波周波数でのループ発振現象に着目 し,不安定性の解析を通して,安定化バイアス回路装荷による安定化手法を提案 した.以上に基づき,実際に集中定数素子を用いた小型直列接続型GaAs p-HEMT MMICドハティ増幅器をC帯にて設計・開発した.開発したドハティ増幅器は,
最大付加電力効率PAE 49.9%,最大出力電力23.4 dBm,入力10 dBバックオフ 時の付加電力効率PAE 40%以上を6.1 GHzから6.8 GHz という広い周波数帯域 で達成した.
第四章では,第三章の応用技術として,ドハティ増幅器のバックオフ特性の改 善について述べた.スモールセル化による低出力電力化,更にGaN HEMT素子 などの高電圧デバイスの利用により,個別トランジスタの出力インピーダンス 低下を考慮する必要がない場合も増えており,また,第三章で述べた,並列接続 型の場合の欠点である 4 分の 1 波長線路インピーダンス変換器の変換比に関し ては,第三章の2入力電力レベル設計手法により回避が可能である.この場合,
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並列接続型では出力結合回路としてバラン等の特別な回路が不要であり,更な る小型化が期待される.
一方で,通常,マイクロ波帯でのドハティ増幅器の構成は、AB級~B級にバ イアスされたキャリア増幅器と,低入力時のオフ特性を実現するために C 級に バイアスされたピーク増幅器とを用いているが,キャリア増幅器とピーク増幅 器に同じサイズのトランジスタを用いた場合,C 級にバイアスされたピーク増 幅器の最大電流値がキャリア増幅器の最大電流値より小さくなり,ドハティ負 荷変調動作の前提である両方の飽和出力電力が同等という条件が崩れてしまい,
高効率化が図れるダイナミックレンジが狭くなる問題が生じる.
第四章では,4分の1波長線路を用いない2入力電力レベル設計手法で設計さ れたドハティ増幅器でもこの問題が発生することを示し,また,この問題を解決 するために,MMICの設計自由度の高さを利用して,キャリア増幅器およびピー ク増幅器に対して異なるサイズのトランジスタを用いて各々設計し,飽和出力 を等しくした並列接続型 MMICドハティ増幅器について述べた.具体的には,
集中定数素子負荷変調回路を有する小型 GaAs p-HEMT MMIC 等飽和出力並列 接続型 MMICドハティ増幅器に関し,入力電力分配には集中定数素子ウィルキ ンソン電力分配器を使用して設計理論を構築した.試作した MMIC 並列接続型 ドハティ増幅器は基本周波数3.6 GHzにおいて出力6 dBバックオフポイントで の効率40.6%,最大電力効率PAE 43.6%,最大出力電力27.3 dBmという設計通 りの良好な結果を得た.
以上述べてきた結果をもって直ちに実用的な小型・広帯域かつ低消費電力な 無線通信システム用電力増幅器が実現しうるかというと,高出力トランジスタ 素子を用いた時に生ずる回路損失による効率低下の影響の低減などまだまだ 課題は残っている.しかし,集中定数素子を用いた高効率増幅回路のMMIC化
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技術はドハティ増幅器の大幅な小型化,広帯域化を可能にし,無線通信システ ム用電力増幅器の将来的な小型化,低消費電力化,広帯域化への道筋を示した と言える.
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謝辞
本研究を遂行し本論文をまとめるにあたり、指導教員として研究を支えて頂 き、終始適切な助言を賜り、また丁寧に指導して下さった電気通信大学・本城和 彦教授に深く感謝します。
また電気通信大学・石川亮准教授には本研究の遂行にあたって多大なご協力 と適切な助言を賜り、研究生活を支えて頂きました。深く感謝します。
また電気通信大学・山尾泰教授、同・和田光司教授、同・石橋功至准教授には 学位論文の審査委員として、多くの有効適切な助言とご指導を頂き深く感謝い たします。
電気通信大学・高山洋一郎客員教授には、本研究をまとめるにあたって特に細 部に渡るご助言、ご指導をいただきました。深く感謝いたします。
東京電力・井口洋輔氏には第四章の実験で使用した資料を提供して頂き、深く 感謝いたします。
電気通信大学本城・石川研究室 斎藤昭特任教授,共同研究員島田雅夫氏をは じめ同研究室同窓生の皆さん、現学部生、大学院生の方々など研究室のメンバー には常に有益な議論を頂き、様々な面において研究生活を支えて頂きました。深 く感謝申し上げます。
そして、温かく支援してくれた家族、皆様に心から感謝します.本当にありが とうございました.
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