第 6 章 希土類三価イオン含有酸化物蛍光体の劣化及び回復現象
6.4 実験結果と考察
6.4.3 励起光照射による PL 強度劣化
Fig. 6.4に励起波長 (a) λex ~ 379 nmと (b) λex ~ 280 nmでのTGG:Eu3+のPLスペクトルの時間依存性を 示す。励起光照射を開始直後を時間t = 0 sとして、t = 0.5-10 sの間のPLスペクトルである。Fig. 6.4(a)のλex
~ 379 nm励起測定では、TGG中のEu3+に起因したPLスペクトルに変化は見られないが、Fig. 6.4(b)のλex ~
280 nm 励起測定では、発光強度が徐々に下がっていくことが分かる。ただし、PL スペクトルの形に変化は
見られなかった。
Fig. 6.5に、Eu3+発光劣化の波長λex = 280 - 490 nmでの励起光波長依存性を示す。時間t = 0.5-30 sで の Eu3+発光強度をプロットしている。Fig. 6.5から、λex = 280 nmでの励起が発光強度の低下が最も速く、t
= 30 sで最大値の40%の強度値であった。λex = 354 nm以上の励起波長では、発光強度の低下がほとんど
観測されなかった。Fig. 6.5のフィッテング線は次の式を用いている。
200 300 400 500 600 700
PL, PLE
Wavelength (nm)
7FJ
J=0
6 5
・・
・
5DI
4 9E
7E
4f 75d ⇔4f 8
VB
4f 8 ⇔4f 8
I=0 1 2 3 4
PL PLE
CB
Tb3+
(b) (a)
Cr3+
Eu3+
em =543 nm ex =325 nm (Tb3+)
FIG. 2 K. Sawada
200 300 400 500 600 700 800
PL, PLE
Wavelength (nm)
7FJ
J=6
0 1
・・
・
5DI(I=0~4)
2 9E
7E
4f 75d ⇔4f 8 [Tb3+ ]
VB
4f 6 ⇔4f 6 (Eu3+)
10
PL PLE
CB
Tb3+
(b) (a)
5L6 5G2
7F6
5DI
Eu3+
01
・・
4 ・・4
×10
em =708 nm
ex =325 nm (Eu3+)
4f 8 ⇔4f 8 (Tb3+)
RET
FIG. 3 K. Sawada
65
0 0
PL
( ) exp t c
I t
I
(6-1)ここで、
0 .
0 1
0 c
I (6-2) である。ここでτは劣化時定数と呼ぶことにする。Eq. 6-2から、λex = 280 nmではI0 = 0.58、c0 = 0.42、τ = 2.5 s、λex = 312 nmではI0 = 0.46、c0 = 0.54、τ = 10 s、λex = 325 nmではI0 = 0.27、c0 = 0.73、τ = 16 s、λex = 354 nmではI0 = 0.15、c0 = 0.85、τ = 75 sであった。
Fig. 6.4 TGG:Eu3+試料のPLスペクトルの時間 依存性。PL測定の励起波長は(a) λ ex ~ 379 nmと、(b) λ ex ~ 280 nmである.
Fig. 6.5 TGG:Eu3+試料のEu3+に起因した 発光劣化の励起波長依存性
Fig. 6.5から見積もった劣化時定数とPLEスペクトルをFig. 6.6に示す。Fig. 6.6 から、PL強度の劣化は
λ ~ 350 nmを境に引き起こされ、350 nm以下での励起波長では顕著に劣化し、350 nm以上では、劣化をほ
とんどしないことが分かる。350 nm以下の波長帯はTb3+の4f →4f5d遷移の励起帯があり、350 nm以上の 波長帯にはTb3+及びEu3+の4f →4f遷移に起因した励起ピークがある(Fig. 6.2参照)。
Fig. 6.7に励起波長λ ex ~ 379 nmとλ ex ~ 280 nmでの発光ピークの時間変化を示す。TGG中のEu3+発光 はλ ~ 592 nm、610 nm、695 nm、708 nmにピークを持ち、それらはほとんど同じ時間変化を示した。
Fig. 6.8に、He-Cdレーザーのパワー依存性を変更した時の劣化特性を示す。レーザーパワーILASERを
3–54 mW/cm2に変えて劣化測定を観測したが、ほとんど違いが観測されなかった。
575 600 625 650 675 700 725
(b) ex =280 nm
×5
Wavelength (nm)
PL intensity (arb. units)
t (s) 0.5 1.5 2.5 5
×5 10 (a) ex =379 nm
×5 t (s)
0.5 1.5 2.5 5 10 TGG:Eu3+
×5
FIG. 4 K. Sawada
0 5 10 15 20 25 30 35 0.2
0.4 0.6 0.8 1.0
IPL (normalized)
t (s)
325 nm
312 nm
280 nm TGG:Eu3+
(Eu3+ emission)
ex =379 nm
354 nm
FIG. 5 K. Sawada
66
Fig. 6.6 (a)TGG:Eu3+試料のPL時間変化曲線(Fig. 6.5)から見積 もった劣化時定数と(b)PLEスペクトル
Fig. 6.7 TGG:Eu3+試料のPL劣化特性の発光波長依
存性。PL測定の励起波長はλ ex ~ 379 nmとλ ex ~ 280 nmである。
Fig. 6.8 TGG:Eu3+試料のHe-Cdレーザーを用い たPL劣化特性の励起光強度依存性
250 300 350 400 450 500
PLE (arb. units)
Wavelength (nm)
(b)
em =708 nm
→ 4f
8 →4f 8 (Tb3+) 4f 6 →4f 6 (Eu3+) 4f 8 →4f 75d(Tb3+)
4f 6 →4f 55d(Eu3+) ←
0 20 40 60 80
(s)
(a)
TGG:Eu3+
∞
FIG. 7 K. Sawada
0 5 10 15 20 25 30
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2
Eu
3+e m is si on i nt ens it y ( nor m al iz ed)
t (s)
ex =379 nm
ex =280 nm592 nm (5D0→7F1) 610 nm (5D0→7F2) 695 nm (5D0→7F4) 708 nm (5D0→7F4)
TGG:Eu3+
FIG. 6 K. Sawada
0 10 20
0.7 0.8 0.9 1.0
51 mW/cm
225 mW/cm
213 mW/cm
26 mW/cm
23 mW/cm
2I
LASERI
PL(no rm a li z e d)
t (s)
67
Fig. 6.9に焼成温度を800、1000、1200℃で作製したTGG:Eu3+試料の劣化特性を示す。焼成温度が高い
程、発光強度劣化の度合が大きくなっていくことがFig. 6.9から分かる。これは、焼成温度が高い程、TGG結 晶中の酸素欠陥が多くなることに起因していると考えている。Ga2O3が1227℃(1500 K)でO2とGa2Oに分解 することがあることや、TGGの結晶成長時にTGG融液からGa2Oが揮発することが知られている。26 それゆ え、1200℃焼成試料では特に、酸素分子の揮発による結晶欠陥によるトラップ準位の存在が考えられる。
Fig. 6.10に真空中で温度300、150、20 KでのPL劣化特性を示す。温度が低い程発光劣化するという結
果になったが、常温常圧での劣化特性よりも強度減少が少なかった。また、この温度依存性は再現性がな かった。これは、クライオスタットの機構上の問題があるために、PL 劣化測定が容易でなかったからである。
これは今後検討すべき課題である。
Fig. 6.9 TGG:Eu3+試料のPL劣化特性の 焼成温度依存性
Fig. 6.10 低温装置とクライオスタットを用いた
TGG:Eu3+試料のPL劣化特性の温度依存性
TGG試料のPLスペクトルの時間変化を調べ、そのスペクトルをFig. 6.11に示す。時間t = 0.5-30 sの間 にλ ex ~ 379 nmの測定ではTb3+発光にほとんど変化は観測されなかったが、λ ex ~ 312 nmの測定ではTb3+
発光強度が時間とともに低下していった。なお、PLスペクトル形は変化がなかった。そのTb3+発光強度の時 間変化をFig. 6.12にプロットした。Eq. 6-1を用いてフィッテイングしたところ、λex = 312 nmではI0 = 0.4、c0 =
0.6、τ = 8 sという値を見積もった。また、Fig. 6.6から分かるように、TGG:Eu3+のEu3+発光と類似の発光劣化
曲線であった。
0 20 40 60
0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
T
c= 800°C
1000°C 1200°C
t (s) I
PL(norm a li z e d)
0 10 20
0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 1.1
T = 300 K
150 K 20 K
TGG:Eu
3+He-Cd Laser
I
PL(nor m a li z e d)
t (s)
68
Fig. 6.11 TGG試料のPLスペクトルの時間依存性。
PL測定の励起波長は(a) λ ex ~ 379 nmと、
(b) λ ex ~ 312 nmである。
Fig. 6.12 TGG試料のTb3+に起因した 発光劣化の励起波長依存性