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本研究では,日中翻訳チャットにおける単語だけ並べたコミュニケーションについ て検討した.

世界中の人々が母国語ではない外国語でコミュニケーションする機会が増えてい る.しかし,多くの人々にとって,新たな言語を習得することは大きな負担であり,

簡単には乗り越えられない壁である.特に,文法や発音が難しい場合,学習に困難を 感じる場合もあると思われる.

ところが,幼い子供は一つ一つの単語を並べて自分の意志を伝えられるし,母親は 丁寧に反応を返す.また,海外旅行の場合,片言でも双方協力し合えばコミュニケー ションが通じる場合もある.

以上の現状をもとに単語だけ並べてもコミュニケーションは可能だと仮説を立て,

日中翻訳を用いたシステムを作り,評価実験を行った.

また,比較実験として,文章会話による実験も行った.その結果から以下の知見が 得られた.

(1)単語会話と文章会話を比較すると,会話速度,参加者の理解度,第三者による 会話の評価において差が見られなかった.よって,日中翻訳チャットでは単語会話で も文章会話と同等のコミュニケーションが行える可能性が高い.

(2)アンケート結果より,参加者は単語会話よりも文章会話のほうが使いやすい,

かつ,使いたいと考えていることがわかった.

(3)日中翻訳チャットを用いてコミュニケーションに関する第三者の理解には母国 語が影響する可能性が示された.具体的には,第三者である日本人が中国人発話を評 価した場合の理解度は 0.98 に対して,第三者である中国人が日本人発話を評価した 場合の理解度は 0.74 と差がみられた.

(4)会話応答に対する分析より,単語チャットの応答率は 157/160≈98%,文章チャ ットの応答率は 149/152≈98%で,「単語チャット」と「文章チャット」とも「コミュニ ケーションがしっかりとれた」と判断できる.

(5)会話のキーワードの分析からは,翻訳システムによる翻訳ミス以外に,また,

文化の差と形態要素の差も現れた.

以上より,単語チャットでも文章チャットと同等なコミュニケーションがとれるこ と,また,入力インタフェースを改善する余地があることが分かった.

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6.2 今後の課題

今後は,第三者の理解には母国語が影響する可能性,つまり,母国語利用の習 慣(文化)がコミュニケーション理解に及ぼす影響を検討したい.5.5 の第三者評 価のところで,「単語チャット」と「文章チャット」とも母国語に対する評価はす べて 1.00 であるが,母国語に翻訳された相手語による会話に対する理解度は中国 人評価者と日本人評価者の間において差が見られた.これは言語運用において,

日本人がもつ曖昧な表現を許容する文化が影響したとも考えられる.今後,中国 人評価者と日本人評価者の人数を増やして, 検討する予定である.

また,「単語チャット」と「文章チャット」の間に定量的な差は見られなかった が,アンケート調査からは,「文章チャット」のほうが使いやすいという結果にな った.そして,会話の応答調査で「単語チャット」の聞き直しの割合は 11%であ った.これからは,もっと使いやすい「単語チャット」用のインタフェースを検 討していきたい.

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参考文献

[1] 白井恭弘 : 外国語学習に成功する人,しない人 –第二言語習得論への招待, 岩 波書店 (2004).

[2] 石田 亨, 内元清貴, 山下直美, 吉野 孝:機械翻訳を用いた異文化コラボレーシ ョン,情報処理, Vol.47, No.3, pp.269-275 (2006).

[3] 言語グリッドHP, http://langrid.nict.go.jp/jp/index.html (2009 年 12 月 12 日アクセス)

[4] Yamashita, N., Ishida, T.: Effects of Machine Translation on Collaborative Work, Proc. of CSCW'06, ACM Press, pp. 515-524 (2006).

[5] 藤井薰和,重信智宏,吉野 孝:機械翻訳を用いた異文化間チャットコミュニケ ーションにおけるアノテーションの評価,情報処理学会論文誌,Vol.46.No.4,pp.1-9 (2005).

[6] 森本浩一 : デビッドソン-「言語」なんて存在するのだろうか, NHK 出版 (2004).

[7] Winograd, T.: 自然言語処理, 別冊サイエンス コンピュータ・ソフトウェア,

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[8] Chapanis, A.: 人間相互のコミュニケーション, サイエンス, Vol.44, No.5, pp.62-69 (1975).

[9] 宗森 純,大野純佳,吉野 孝:絵文字チャットによるコミュニケーションの提 案と評価,情報処理学会論文誌, Vol.47,No.7,pp.2071-2079(2006).

[10] 宗森 純,福田太郎,ムンヤティ ヤティド,橋崎裕人,山下裕考,伊藤淳子:絵文 字チャットコミュニケ-タⅡ,情報処理学会研究報告, 2008-GN-66(17)(2008).

[11] 宗森 純,MOONYATI BINTI MOHD YATID,福田太郎,伊藤淳子:絵文字チャットコミ ュニケ-タⅡの海外での適用,情報処理学会研究報告, 2009-GN-70(25)(2009).

[12]宮部真衣,吉野 孝,重信智広:折り返し翻訳を用いた翻訳リペアの効果,電子情 報通信学会論文誌,D.Volume J90-D.No.12,pp3143-3150(2007-12)

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謝辞

本研究を進めるにあって,研究の方向性や研究の視点について示唆し,論文の執筆 に終始一貫して熱心なご指導,ご意見をくださった主指導教員の由井薗隆也准教授に 心より深く感謝の意を表します.さらに,由井薗准教授ならびに杉山公造教授からは,

研究のことだけではなく日常生活のことにおいても様々なご配慮をいただき,改めて 心より感謝いたします.

また,副テーマ指導教員の羽山徹彩助教授からは,数か月にわたり副テーマである Java による絵文字チャットシステムの実装をご指導いただき,心より感謝の意を表し ます.中間審査委員であった杉山公造教授,Ho Tu Bao 教授,吉田武稔教授からは、

研究に関する様々な助言をしていただいたことに感謝の意を表します。

そして,貴重な時間を割いて本研究の実験にご協力してくださった実験協力者皆様 に心より感謝いたします.

最後に,由井薗研究室のメンバーであり,友人である玄麗花さん,張蒙さんには研 究のことから日ごろの生活の面まで非常に多くのことを支えてもらい,心より感謝の 意を表します.また,常に応援してくれる後輩の李微さんにも感謝します.

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