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 援助プロジェクトが、それを受け取る途上国の人々のあいだに援助成果の持 続性をもたらす SC を変容(あるいは構築、形成)することは、本プロジェク トにおいては可能であった。そして本研究では、その SC を変容させ人々のな かで循環させる原動力としての “ 応答の交換 ” の制度に注目した。またそれら SC により “ 応答の交換 ” の循環の制度が成立、持続し、強められたとも考え ることもでき、その基盤には、これまで意識外におかれていた現場の人々のセ ンチメントが存在する。本プロジェクトにおいては、上述の手法により、これ らの過程を経て持続的な住民参加型サシガメ監視体制が確立し、人々がシャー ガス病の脅威から解放されていくことが期待できる60)

 結びにおいて、援助成果の持続性と SC の観点からも、今まで意識の外にお かれていた援助現場での個人のセンチメントについて今こそ向き合うべきであ ることを主張したい。その対峙は、援助受入国の人々のセンチメントだけでは なく、介入の過程で循環し援助供給側の我々にももたらされる。

 そもそも、開発と援助のパラダイム転換により、これからの援助は従来のよ うな援助供給側対援助受入側、前者から後者への資源の移転といった二者間の 簡単な図式で語ることは難しくなりつつある。そうであればこそまたいっそう、

双方の接触面の現場の人々が個別に抱くセンチメントをくみあげ、向き合うこ

とは価値のある営為といえよう。そして、そのセンチメントの循環が双方(あ えて援助供給側、援助受入側と表現すれば)にもたらす空間こそ “convivialité/

共愉・自立共生 ” であり、これからの開発や援助が目指すべき新たな地平なの ではないだろうか。

以 上

1)本論文(4 章以降)での “ 援助 ” は「外部者の介入による操作性が低いことが想定され る領域、つまり途上国の多くの人々の日常的な意識 / 行動の変化に深く関連し、かつ脆 弱層に直接大きな影響を与える領域での、公的機関による途上国援助(ODA:Official DevelopmentAssistance)、特に本事例のような感染症対策に代表される人間開発分野の 技術協力」と定義する。

2)2000 年にグァテマラで開始された JICA シャーガス病対策プロジェクトは、その後、ホ ンジュラス、エル・サルバドル、ニカラグアそして再びグァテマラへと展開した。ベリー ズ、パナマにも青年海外協力隊員が派遣され、IPCA(WHO/PAHO 中米シャーガス病対 策イニシアティブ)参加国の殆ど(コスタ・リカ以外の 6 か国)に波及することとなっ た。ホンジュラスでのプロジェクト実施期間は第 1 期が 2003 年 9 月~ 2007 年 9 月、第 2 期が 2008 年 3 月~ 2011 年 3 月。

3)本論文での「応答」:入力や要求をうけとったアクターが、公平に責任(responsibility)をもっ てその入力に応答し、出力を生み出すこと。

4)本論文での「交換」:実際に人々の間で交換されるのは病原虫を媒介するサシガメ個体や 殺虫剤散布指示、技術・情報 の 提供、無償 の 労働奉仕、啓発活動、予算配布・実行・評 価などの行政活動、消耗品、そしてセンチメントなど多岐のレベルにわたる。

5)“ 感情 ” は、根源的な身体的感覚をあらわす “emotion” と、より理性的で社会関係におい てもたらされる “sentiment” に分類される。援助という社会変化の現場での “ 感情 ” に注 目する本論文では後者を用いた。

6)国家レベル、中央レベルでの介入は JICA 専門家が主に担った。県レベル、住民レベルへ のはたらきかけにおいては青年海外協力隊(JOCV)が貢献した。

7)カワチ・イチロー『ソーシャル・キャピタルと健康』日本評論社、2008 年。

8)稲葉陽二ほか『ソーシャル・キャピタルのフロンティア - その到達点と可能性』ミネルヴァ 書房、2011 年。

9)佐藤寛編『援助研究入門―援助現象への学際的アプローチ』アジア経済研究所、1996 年。

10)BasicHumanNeeds:人間として最低限必要な食糧、水や栄養、医療・保健衛生・初等 教育なでの基本的な社会サービスを、貧困層に効果的に届く方法で提供しようとするア プローチ。

11)レヴィ=ストロース『野生の思考』みすず書房、1976 年。

12)Escobar,Encounting Development: The Making and Unmaking of the Third World,Princeton UniversityPress1995

13)スピヴァク『サバルタンは語ることができるか』みすず書房、1998 年。

14)西川潤ほか『開発を問い直す』日本評論社、2011 年。

15)メドウズ『成長の限界』ダイヤモンド社、1972 年。 

16)ラトゥーシュ『経済成長なき社会発展は可能か?』作品社、2010 年。

  勝俣誠、マルク・アンベール編『脱成長の道』コモンズ、2011 年。

17)MDGs(ミレニアム開発目標)は「極度の貧困および飢餓の撲滅」をはじめとする 8 つ の 目標(普遍的初等教育達成、ジェン ダー平等推進、乳幼児死亡率削減、妊産婦健康改 善、HIV/ エイズ等の疾病蔓延防止、環境の持続可能性確保、開発のためのパートナーシッ プ推進)を 2015 年までに達成しようとする国際目標である。

18)国際協力事業団『課題別指針PrimaryHealthCare』2001 年。

19)日本ヘルスプロモーション学会 http://www.jshp.net/

20)マラリア対策の “RollBackMalaria”、結核治療の “DOTS(DirectlyObservedTreatment, ShortCourse:直接監視下短期化学療法)” 推進、HIV/ エイズについては予防、治療に いたる全ての過程において “3by5” イニシアティブ、““THREEONES”principles”、“ ユ ニバーサル・アクセス ” などがある。

   “3by5” は、2005年末までに低・中所得国の HIV 感染者 300万人に抗レトロウイル ス療法を提供することを目的としたWHO/UNAIDSのグローバル・イニシアティブ。

   ““THREEONES”Principles” とは、一カ国内での、全パートナーの作業調整基盤を提 供するひとつの同意されたエイズ行動フレームワーク、複数のセクターから幅広い権限 を付与されたひとつの国家レベルのエイズ対策調整機関、ひとつの同意された国家レベ ルのMonitoringandEvaluation の制度を指す。

   “ ユニバーサル・アクセス ” は、HIV 予防、治療、ケア、支援が万人に利用可能にな る社会を目指す。

21)NTDs の “Neglected” も故橋本首相が 2000 年に初めて使った言葉であったとされてい る。

22)ギニア・ウォーム、ブルリ潰瘍、フィラリア、住血吸虫症、オンコセルカ症、リーシュ

マニア症、アフリカ睡眠病、ハンセン病、狂犬病、土壌伝播寄生虫、デング熱、シャー ガス病の 12 疾病。

23)BernhardH.Liese,LianeSchubert,”Officialdevelopmentassistanceforhealth — how neglectedareneglectedtropicaldiseases?Ananalysisofhealthfinancing”,International Health,pp141-147,2009

24)トクヴィル『アメリカのデモクラシー』岩波書店、2005 年。

25)JohnDewey,The School and Society,UniversityofChicagoPress,1915.

26)Hanifan,“TheRuralSchoolCommunity“Center Annuals of the American Academy of Political and Social Science,1916.

27)ブルデュー『遺産相続者たち』藤原書店、1997 年   P.Bourdieu, The forms of Capital,GreenwoodPress,1986

28)Coleman,J.“SocialcapitalintheCreationofHumanCapital”,American Journal of Sociology, 1998.

  Coleman,J., Foundation of Social Theory, HarvardUniversityPress,1990.

  コールマン『社会理論の基礎』青木書店、2004 年。

29)コールマン『社会理論の基礎』青木書店、2004 年。

30)Ostrom.E,“Institutionalarrangementforresolvingthecommonsdilemma,some contendingapproaches”,inMccayetal.eds.The Question of the commons –the culture and ecology of communal resources,UniversityofArizonaPress,1990

31)Ostrom.E,Governing the commons: the evolution of institutions for collective action,Cambridge UniversityPress,1990.

32)リン『ソーシャル・キャピタル 社会構造と行為の理論』ミネルヴァ書房、2008 年。

33)パットナム『哲学する民主主義』NTT 出版、2001 年。

34)Evans,“Governmentaction,socialcapitalanddevelopment:reviewingtheevidenceof synergy”inEvansed.State-society synergy: Government and social capital in development, Berkeley,Univ.ofCalifornia,1997.

35)カメムシの一種。

36)サシガメ攻撃段階(殺虫剤散布)もシャーガス病対策において非常に重要な過程で、プ ロジェクトが貢献した領域ではあるが、活動成果の持続性を考察する本論文においては、

住民の日常生活に長期的に関わるサシガメ再発生監視段階に焦点をあてて検討を進め る。

37)住民どうし、あるいは保健行政内部などさまざまなレベルでも “ 応答の交換 ” が観察さ

れたが、ここでは省略する。

38)殺虫剤散布においても、その準備段階での生息調査、殺虫計画策定と実施後の殺虫効果 測定はすぐれて科学的かつ技術的な過程であり、初期には紙の集落地図のサシガメ発生 箇所にピンを指すことにより、次いで GPS を活用することとなったリスク・マップの策 定と更新も、行政と住民保健ボランティア双方に重用されることとなった可視的な手法 であった。

39)佐藤寛編『援助研究入門 – 援助現象への学際的アプローチ』アジア経済研究所、1996 年。

40)パウラ 49 歳 主婦 エル・ロサリオ 

  「ボランティアをやることにより新しい知識を学び、コミュニティの役に立つのが嬉 しい。」

41)アニバル 31 歳 農業、男性 ドローレス 

  「ボランティアで得たものは、自分たちと子どもの健康に関する正しい知識とコミュ ニティの役に立つことの満足感だ。夜中に具合の悪くなった近所の子どもが連れてこ られ、翌朝に保健施設に連れて行くまで、解熱剤を処してなんとか体調をもたせたこ ともある。ボランティアをやることにより仕事時間が減るわけだが、コミュニティの 役にたつことのほうが自分にとっては重要だ。天国の神様が自分を認めてくださるよ うにボランティアを続ける。サシガメが減り、コミュニティの子どもが元気になって きたことを見るのが一番大切な経験だ。」

42)エスメラルダ 45 歳 主婦 エル・ロサリオ

  「サシガメをみつけたら保健所に届けている。そうすると保健所から殺虫剤噴霧指示 や啓発などの反応がかえってくることに満足している。次も届けようという気持にな る。」

43)マルガリータ 44 歳主婦 エル・ロデオ 

  「講話の時に皆が自分の話を黙ってきいていてくれる時、自分が尊敬されていると感 じることができる。これはボランティア以外では味わえない実感です。」

44)Coleman,J.,“SocialcapitalintheCreationofHumanCapital”,American Journal of Sociology, 1998.

  Coleman,J., Foundation of Social Theory, HarvardUniversityPress,1990.

45)オストロムの SC 定義:グループが、現在と将来の協調行動における問題を克服するた めの能力を強める、グループ成員間の関係と、彼らが共有する価値の総体。制度は SC の単なる outcome ではなく、SC の一種である。そして、ある時点での SC への投資は 次の時点でのあらたな SC を産出する。そして制度は SC に影響を与え、またそれらに 影響されるという循環を形成する。Ostrom,E.,”WhatisSocialCapital?”inBartkusV.O.

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