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第 5 章  医療スタッフの立場の明示化を指向した

5.3  医療行為の初期オントロジー

5.3.1  医療行為の関係性の表現

医療行為はパスの中で,タスクとして日ごとや手術の前後など大まかな時間枠で整理され ている.そのため医療行為の関係性は,医療知識に基づきパスから読みとる必要がある.そ こで,医療行為の関係性という観点からタスクという概念を分析しオントロジー化した.図 5-4 に医療タスクの概念定義を示している.

医療タスクは,タスクを実施する人として実施者,患者や患者から採取されたサンプ ルなどタスクで処理される対象物,タスクを実施することで得ようとしているモノや情報・

知識としてのアウトカム,そのタスクの部分タスク(部分タスクから見たタスクは全体タス クと呼ぶことにする)からなる.タスクは1つ以上の目的を持つ.タスクはそのタスク単独 での目的と,上位タスクから受け継いだ目的を合わせ持っている.

図5-4:「医療タスク」の概念定義

図5-5:「モノ」のオントロジー

タスクのアウトカムは,血液や生体組織など患者由来のモノやレントゲン写真や心電図な ど医療機器から得られるモノと,患者に関するデータやデータの解釈結果など多岐にわたる.

図5-5にモノのオントロジーを示す.

モノのオントロジーのトップレベルは,実在物と抽象物に分かれている.実在物は,

人体構成物,人工物,感覚などがある.ここでいう感覚とは,例えば鎮痛剤の投与の 結果として得たい,軽減された痛みなどである.抽象物の下位には患者から採取する データがある.データは,数値など客観的なものと見なせる客観的データと人による何 らかの解釈が加わっている解釈データを大分類としている.

モノとデータの区分,客観的データと解釈データの区分は以下の理由で重要である.アウ トカムでは前述のように多岐にわたる.「あるタスクで患者状態を得る」と言った場合,それは 患者が実際にどのような状態にあるのかを観察結果を得ること

.........

と,ある状態に患者をする,つ まり状態を作りだすこと.........

の2つのがありえる.例えば,患者を観察して耐えられない痛みがあ ると判断するのは前者であり,鎮痛剤を与えて痛みを軽減してやることは後者である.どちら のタスクも痛みをアウトカムにしているが,その概念は全く異なる.パスを用いる人間は2つの 概念を暗黙的に切り替えてパスを読み解くことができるが,自然言語による分析では曖昧に なりがちである.このような気付きが得られることがオントロジーに基づく対象分析の効用で ある.

解釈データには解釈者である人がいる.このことは,ある同一の患者に対して複数の解釈 結果がありえること,例えばある患者が痛みを訴えたときに,医療スタッフ A ならばそれが耐 えられる痛みであるという判断を下すが,医療スタッフ B ならば耐えられない痛みであるとい う判断を下すことなどを意味している.実際にこのようなことは医療現場で起こっており,パス を設計する上で鎮痛剤の投与基準を決めるさいには重要な考慮事項であり,そのような事 態を医療行為のモデルとして表現することをこのオントロジーは可能にしている.

タスクと目的となる医療目的のオントロジーを図5-6に示している.

医療目的は,治療を進める,治療の効率性を高める,患者のQOL(Quality of Life) の向上など抽象度の高い目的を上位として, QOLの向上には,入院中,退院中で区 分され,痛みなど身体的な負担の軽減,精神的な負担の軽減,危険物の除去,知識 の提供などがある.

図5-6:「医療目的」のオントロジー

医療タスクオントロジー(図 5-7 参照)は,最上位で医療タスクから,実施タスク(患者に対 する処置など実世界に影響を与える行為)と診断タスク(解釈や意思決定など,それだけで は実世界に影響を与えない行為)に分類される.現場で用いられる紙パスには,診断タスク が書かれることは皆無である.これはパスの利用者が医療行為を実践する上で,実際に体 を動かしてやらなくてはいけないことをパスの上に書いておき作業漏れを防ぐことに利用して いる.そして作業の結果得られたモノを用いて何を考えるか医療スタッフ各自がその職務の 権限と責任の上で行うことになっていることに由来していると考えられる.パスの設計の際に は,現場で体を動かして行っていること(実践タスク)以外に,診断という頭の中で行われて いるタスク(実践タスク)を捉え両者の関係を適切にモデル化する必要があり,その基礎を医 療タスクオントロジーは提供する.

図5-7:「医療タスク」のオントロジー

以上をまとめると,本研究において医療行為の関係性は,タスクの全体部分関係としてモ デル化される.モデル化の際には,現場で用いられるパスに書かれている実践タスクだけで はなく,医療スタッフが頭の中で行っている診断タスクも明示化する.

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