第 4 章 使用者の回外動作を利用した無動力型空気式義手の提案 – 57 –
4.8 結言
本章では,外部動力源を必要としない,全く新しい空気式義手を提案した.基本性能,把 持性能等を実験によって確認した結果,以下のことが明らかになった.
1. 本義手は,一般的な筋電義手よりも,一定の把持力を維持することが容易である.十 分な指の可動範囲と最大指先速度の絶対値を有しており,対象物の素早い把持/解放 が可能である.
2. 空気圧駆動による柔軟性を活かして,小型のペットボトル,消しゴム,ゴムボール,
紙コップ等の安定な把持が可能である.また,感覚フィードバックシステムを併用す ることにより,一層柔軟なパウチゼリー等の把持も可能である.
3. 疲労評価の結果から,日常生活での使用時にも使用者の筋疲労は小さいものと考えら れる.
第 5 章 結論
本研究では,筋電義手が重量·コスト,そして公的制度の不備や訓練施設の不足等の問題 により,ほとんど社会に普及していない現状を踏まえ,ベローズアクチュエータを指関節 に直接組込んだ,空気式義手を提案した.
第 2 章では,出力/重量比の高いベローズアクチュエータの採用とラピッドプロトタイ ピングにより,一般的な筋電義手よりも軽量·安価な重量 240 g の空気式筋電義手を提案し た.本義手の基本的な制御性能では,目標角度および圧力に素早く追従することを示した.
対象物把持実験では,EMG envelopeに閾値を設定した,ON/OFF 制御にて,大きな把持 力と柔軟ハンドの特長を活かし,500 mlのペットボトルの安定した把持を実現した.そし て小さな消しゴム,柔軟なゴムボールや紙コップの把持が可能なことも示した.その一方 で,義手を駆動するには空気圧部品や電子部品,PC 等の外部機器が必須であり,システ ム全体の可搬性改善の必要性ついて言及した.
第3 章では,前章の空気式筋電義手の高機能化について述べた.トグルスイッチを用い た安価な把持モード切替システムの提案では,筋電位の動作推定なしに所望の把持モード を使用者がスイッチングするため,確実な把持動作の選択が可能である.また,筋電セン サーが 1個のみの比較的シンプルなシステムであるため,低コスト化が期待できることを 示した.感覚フィードバックシステムは,義手本体と同様の空気圧による圧覚提示機構で あり,重量 123 g と軽量かつ安全なものを提案した.これにより使用者は,本システムの ベローズの押し付け力から把持力を知ることにより,閾値以下でも安定した筋電位の生成 を可能とする.その結果,過不足のない把持力の印加によって,柔軟なパウチゼリーの把 持が可能になることを示した.
第4 章では,外部動力源を使用しない,全く新しい空気式義手を提案した.本義手によ り,一般的な筋電義手の,バッテリーによる稼働時間の制限と筋電制御のための複雑な電
子回路によるシステムの高コスト化,提案した空気式筋電義手では,コンプレッサ,バル ブ,PC等の外部機器によるシステムの可搬性の悪化,e-NABLEでは,把持姿勢の制限等 を解決できることを示した.また,本義手は,筋電位ではなくホルダーの回外角度の調整に より義手を操作する.すなわち,一般的な筋電義手よりも一定の把持力を維持することが 容易であるため,操作性が高い.また,十分な最大指先速度により対象物の素早い把持/解 放が可能であることも示した.そして,空気圧駆動の柔軟把持の特長はそのままに,重量 25 g と軽量な無動力型の圧覚提示機構を併用する,高機能化により,ゴムボールや紙コッ プよりもさらに柔軟なパウチゼリーの把持を可能とする.また,日常生活で義手を使用す るうえでの筋疲労が小さいことも示した.このように,軽量·低コストで操作性の高い無 動力型の空気式義手が一般的な筋電義手のハード面とソフト面の問題を解決するものと思 われる.
今後は,義手本体の軽量化のため,CAEを利用して構造や材質を検討する.また,ポン プおよび円筒リブカムは,使用者の断端を挿入するホルダーと指の間に設置しており,外 観がやや不自然となる.その対応として,空気圧システムの特長である方向変換性を活か し,ポンプを肘の方向へ移設,もしくは,回外動作による回転運動を円筒リブカム等で直 線運動へ変換することなく,直接ポンピングが可能な新しいポンプの提案である.これに より,ホルダーと指の間隔を短く変更する.それに関連して,様々な対象物に対してより 安定した把持を実現するため,回外動作 1 チャンネルの入力により,5 指を 1自由度で駆 動する義手とすることも検討する.これは,ベローズ圧力と屈曲角度について十分な計算 を行い,指関節に設置する各ベローズからポンプの押しのけ容積を決定する.また,3 D プリンタを使用した義手開発プロジェクトのような高いデザインの検討,より重量のある 対象物の把持にも対応するため,ポンピング圧力の増加による把持力増大機構の提案,そ して,義手使用者を被験者としたSHAPによる評価が課題である.
現在,3 D プリンタのラピッドプロトタイピングの技術革新と低コスト化がめざましい.
近い将来,柔軟なベローズアクチュエータと高強度な骨格が一体化した義手モデルを一括 で安価に造形することが可能になると予想される.そうなれば,先に示したとおり指関節 を駆動するアクチュエータは電動ではなく,空気圧駆動の方が無動力デバイスとして応用
が可能であり,重量やコスト面においても有利であるといえる.一方,提案した空気式筋 電義手は以降,使い道がないわけではない.それは,システムの可搬性が求められる義手 としてではなく,システムの可搬性が比較的求められない場面においてのロボットハンド として,利用が期待できる.たとえば,柔軟対象物のハンドリングが必要な,食品工場の 生産ロボットや人間との親和性·安全性が求められる医療·介護·サービス分野等のロボッ トに対しての応用が考えられる.制御則には,外乱オブザーバを導入することにより,高 機能な運動制御を実現する.
そして現在,軽量·安価で高機能な空気式義手を社会に提供できるよう,本研究成果の 実用化を目指し,特許出願済である.筆者は,先述した課題解決に取組み,将来的に本研 究のような空気式義手が義手使用者の選択肢の 1つとなることを期待するとともに,空気 式ハンドの「動力」と「無動力」の両面においての研究をライフワークとして継続する所 存である.
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