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第4章 物体操作の進化シミュレーション

4.5 結果と考察

4.5.1 個体間相互作用モデルのシミュレーション

適応度関数

F

IVにおいてエージェントを進化させた結果,相互作用を強くすること

α = 1.0

まではサブアセンブリ戦略を使用する個体が増加した(図

4.18

).これは

相互作用が強まることで他のエージェントが作った道具を作っても適応度を得られ なくなり,結果的に多様な道具を作ったほうが適応的になるという環境が現れるとい うメカニズムが働いたと考えられる.さらに,

α = 1.0

以上になると他者が作ったも

のを作っても適応度が得られないことに加えて,自分の道具製作に関しても一つ以上 の道具を作ることが適応度を下げてしまうという関数になる.このため,本来は同じ 道具を安定して作ることに寄与する手段の多様性促進が仇になってしまい,サブアセ ンブリ戦略の出現数が減少したと予想される.

図 4

.16

相互作用の強さとサブアセンブリ戦略使用個体数の関係

4.5.2 作製される道具の変化

相互作用の強さと,

5000

世代目で作製される道具数の平均値の関係を組み合わせ の長さごとにわけて表

4.11

に示す.カッコ内は各組み合わせ長さの道具が作られた 総数(一物体の道具であれば×3,二つ組であれば×9,三つ組であれば×27)であ る.相互作用が

0

に近いと,どの道具を作っても適応度が得られるのでエージェン トは最も操作回数の短い一物体の道具しか作らなくなる.三つ組の道具を作ること がないため,サブアセンブリ戦略を使用する個体は

0

になる.相互作用を大きくし ていくと,全エージェントによる適応度への影響が強くなっていき,多くの個体が 作れる道具は適応度が低くなるため,より作製が難しい道具を作るようになってい く.相互作用が

1.0

を超えると,今度は自分の道具製作回数に関しても一つ以上同 じ物体を作ると適応度が下がるという制約が入ってくるため,多くの道具を作らな くなる.

表 4

.9

相互作用の強さと作製される道具数の平均(

5000

世代目)

()内は各組み合わせ長さの道具の総製作数

相互作用の強さ

α

一物体の道具数 二つ組の道具数 三つ組の道具数

0.3 10633 (31899) 0 (0) 0 (0)

0.5 6627 (19881) 431 (3879) 23 (621)

0.6 4147 (12441) 452 (4068) 53 (1431)

0.7 2584 (8052) 370 (3330) 66 (1782)

0.8 1703 (5109) 300 (2700) 64 (1728)

1.0 1056 (3168) 171 (1539) 39 (1053)

2.0 320 (960) 33 (297) 5 (135)

4.5.3 資源獲得競争で有効な適応性と進化

適応度関数

F

IVには,ある道具によって得られる資源の量が有限であるとき他個体 と同じ道具を作ってしまうと,その道具を使って得られる適応価を奪い合うことにな ってしまい,生存しにくくなるという含意がなされている.多様に道具を作れる個体 のほうが生存しやすくなるため,この環境においてもサブアセンブリ戦略の「成果の 多様性促進」が機能すると考えられる.

加えて,FIVでは他個体よりも多くその道具を作ってより多くの適応価を得るとい う戦略も可能となっている.これによりサブアセンブリ戦略の「手段の多様性促進」

も同時に有効になり,シミュレーションにおいてサブアセンブリ戦略を使用する個体 数の平均が適応度関数

F

IIIよりも増加したと考えられる.