第2章 弱毒ウイルス株の作出と選抜
2.1.2 結果と考察
自然界からの弱毒ウイルス株の探索では、BYMV に感染しているが病徴が軽い弱毒系統 候補グラジオラス4個体を得たが、これらから分離したBYMV株は検定植物で病徴を示し た。グラジオラスでの病徴の軽さは、グラジオラスの品種間差異などの宿主側の要因が大 きいと考えられ、弱毒系統候補グラジオラスで見られた病徴の軽さは弱毒ウイルスによる ものではないと判断した。したがって、本法ではBYMV弱毒系統は得られなかった (表2-1)。
低温処理による弱毒ウイルス株の作出において、1回目の試験では、109株を単病斑分離 し、うち3株で病徴の弱毒化が認められたが、これらは軽微な病徴を呈した。2回目の試験
生苗での接種15日後の接種葉におけるウイルス増殖量を調べたところ、平均ELISA値は、
M11では0.24、親強毒株IbGでは2.26であり (健全対照は0.067)、弱毒株M11のグラジオ ラス内での増殖量は親強毒株IbGのおよそ1/10程度と推定された。
図 2-1 ソラマメ上位葉における BYMV 強毒株 IbG (左) と BYMV 弱毒株 M11 (右) の病徴 .
表 2-1 京都府内栽培ほ場および市販球茎からの BYMV 弱毒系統の選抜
分離株 Pathotype 由来 元のグラジオラス
での病徴
戻し接種による病徴a) 本金時 ソラマメ
TMB-1 Ⅳ ほ場 mM sM M,N
TMB-3 Ⅰ ほ場 mM vmM M
TB-47 Ⅰ 市販球茎 vmM M M
MBM-4 Ⅰ ほ場 mM TN sM,N
表 2-2 低温処理による BYMV の弱毒ウイルス株の選抜
a)試験 番号
ウイルス分離株数b)
病徴の程度 c)
ⅰ ⅱ ⅲ ⅳ
1 109 1 105 3 0
2 93 0 88 4 1
a) BYMV強毒株IbGを 接種したソラマメを15℃の低温で90日間処理した.
b) 処理葉から Chenopodium quinoa を用いて単一病斑分離を行って得られたウイル ス株数.
c)
ソラマメにおける病徴の程度:ⅰ=IbGより激しい, ⅱ=IbGと同程度, ⅲ=IbGよ り軽い, ⅳ=ⅲよりさらに軽い.選抜した弱毒ウイルス株M11と親株IbGのゲノムRNAの塩基配列は、その後、佐藤ら によって解析されており (佐藤ら, 2001; Nakazono-Nagaoka et al., 2004)、M11では3アミノ酸 残基 (塩基では7ヶ所) の変異が認められている。また、高橋らはM11と IbGの感染性ク ローン (高橋ら, 2004; Takahashi et al., 2007) を用いて、何れのアミノ酸変異が弱毒化に影響 するかを調べている。M11で変異していた3個のアミノ酸を含むM11感染性クローンの制 限酵素3断片をそれぞれIbG感染性クローンと置換し、得られた3種類の感染性クローン のソラマメ葉での病徴の程度を観察したところ、HC-Pro領域の314番目の1アミノ酸残基 の変異(Leu→Ser) が弱毒化に関与していることが明らかとなった (Nakazono-Nagaoka et al.,
2009)。HC-Proは、植物のウイルスに対する防御反応 (PTGS) を抑制する機能が知られてお
り(Anandalakshmi et al., 1998; Kasschau et al., 1998; Valkonen et al., 2002)、この機能の変化が M11の増殖量の低下と感染植物の無病徴化に関与していると考えられる。
本研究では、低温処理によってBYMVについては弱毒ウイルス株M11を得ることができ た。この弱毒化は1アミノ酸残基の変異によると考えられているが、低温処理により核酸 の変異が生じたのか、低温処理により元々生じていた変異株の分離が容易になったのかは 不明である。なお、 ゲノム塩基配 列の情報はデ ータベースに登録さ れている (M11:
AB079886, IbG: AB079887)。