第 8 章 皮膚 pH 測定実験
8.2 健常 / アトピー部位の比較実験
8.2.3 結果と考察
Fig.8.2.2に健常部位とアトピー部位を乾式pHセンサにより計測した5回の測定値の平均値を正規化
(100 mV)し,標準偏差のエラーバーを示す.
乾式pHセンサによる測定電圧値に,健常部位とアトピー部位の違いによると思われる違いが明確に 現れている.測定におけるばらつきは、アトピー部位において大きく,健常部位においてばらつきが小 さい傾向が観察された.
次に示す特性式は皮膚測定実験の当日,サンプリングシートによる特性実験により5種類のpH標準 液についての得られた90-120秒間の平均電圧を基にした.
pH-電圧特性式 :
V /mV = -19.1 pH + 135.5
(8.2)Fig.8.2.3 に式(8.2)を用いて,健常/アトピー部位の乾式pHセンサ測定電圧値をpH値に変換した結
果を示す.
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
0 30 60 90 120
V /100 m V
Time/s
Normal Skin Atopic Skin
Fig.8.2.2 乾式pHセンサによる健常/アトピー部位測定電圧
3.5 4.0 4.5 5.0 5.5 6.0 6.5 7.0
0 30 60 90 120
pH
Time/s
Atopic Skin Normal Skin
Fig.8.2.3 乾式pHセンサによる皮膚pH測定結果
Fig.8.2.4 に健常/アトピー部位の測定電圧平均値(90-120 秒間)をセンサ pH-電圧特性に従い pH値に 変換した結果を示す.Fig.8.2.5にガラス電極による皮膚pH測定結果を示す.
乾式pHセンサ電圧平均値(90-120秒間)をpH-電圧特性式よりpH値に変換した結果は,ガラス電極 により測定された測定結果と同様なpH値としては得られなかった.その一方で,健常/アトピー部位の 両者の違い,pHの大小関係については乾式pHセンサでより大きな差として検出された.
Fig.8.2.6に,健常/アトピー部位について皮膚水分量と経皮水分蒸散量(TEWL)の傾きの比較結果を示
す.
アトピー部位では,皮膚のバリア機能低下により,皮膚に水分を保持することが難しく,その為に体 内からのTEWLが多くなる傾向が指摘されている.Fig.8.2.6におけるアトピー部位の健常部位との比 較から,アトピー部位では皮膚水分量は低く,TEWLは多くなる結果が得られた.この結果から,測定 部位がアトピー肌の特徴を示しており,適切な部位選定が裏付けられた.
Fig.8.2.5 ガラス電極による皮膚pH値
0 1 2 3 4 5 6 7
pH
Normal Atopic
Fig.8.2.6 皮膚水分量と経皮水分蒸散量の比較
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
1
W ater Content /100 [ a.u.]
Normal Atopic
(a) 皮膚水分量
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
1
Slope of TEWL /10
Normal Atopic
(b) 経皮水分蒸散量
0 1 2 3 4 5 6 7
pH
Normal Atopic
Fig.8.2.4 乾式pHセンサによる皮膚pH値
Fig.8.2.3-5の測定結果から,乾式pHセンサによる皮膚pH測定結果は,湿式のガラス電極による測 定結果と異なるpH値に変換され,従来手法同様のpH値は得られていない.この要因には,乾式と湿 式の計測手法の相違,及びFig.8.2.6 (b)に示したTEWLの傾向が異なる事が原因と考えられる.
また,Fig.8.2.4,乾式 pH センサによる測定電圧値と,Fig.8.2.6 (a)の皮膚水分量においても,健常 部とアトピー部の大小関係の傾向が似ており,乾式pHセンサによる測定電圧が皮膚水分量の影響を受 けている可能性が考えられる.Fig.8.2.5より,アトピー部位と健常部位の湿式測定の違いは0.4[pH]程 度であった.乾式pHセンサでも2.2[pH]程の違いとして検出されているが,pH-電圧特性および皮膚水 分蒸散の影響を含むために大きな違いとなっていると想定される.健常/アトピー部位の違いが0.5[pH]
程度あり,乾式pHセンサが皮膚水分量および蒸散量を含めて測定しているとすると,部位の違いの検 出に役立つことが期待される.現状では,乾式pHセンサの乾式測定における変換式に課題があるため,
測定電圧値についても検討した.
Fig.8.2.7に正規化後の乾式pHセンサ(90-120秒間)平均電圧値を示す.
Fig.8.2.7 乾式 pHセンサの平均電圧値の傾向は,Fig.8.2.6 の経皮水分蒸散量の大小関係と傾向が似
ていると考えられる.2分間の測定中にも,皮膚からは水分蒸散があり,微量な水分の蓄積が,乾式pH センサ測定電圧値の増加に関与していると推測される.従って,乾式pHセンサの乾式手法による皮膚 pH測定結果は,TEWLの影響を受けた皮膚pH測定結果であると考えられる.
皮膚水分蒸散量が大きい,アトピー部位と健常部位の比較実験から,アトピー部位における乾式 pH センサの測定電圧値は,健常部位と比較して明らかに大きな結果が得られた.この結果から,乾式 pH センサによる乾式手法を用いた皮膚pH測定では,皮膚水分蒸散の影響を大きく受けることが推測され る.また,アトピー部位では,健常部位と比較して,脂肪酸結合タンパクやアルブミンなど特異なタン パク質が有意に検出されたとの報告がなされている43).乾式pHセンサが,これらの特異なタンパク質 による影響により,アトピー部で乾式pHセンサが大きな電圧値を検出していた可能性も考えられる.
今後,乾式pHセンサによる乾式手法による測定では,従来手法による皮膚pHに加えて,皮膚水分 量,皮膚水分蒸散量を合わせて測定を行う事が考えられる.複数の測定部位において湿式と乾式手法に よる皮膚pHセンサと,水分蒸散量と皮膚水分量の関係から,皮膚水分蒸散量,皮膚水分量の影響を取 り除くことで,乾式pHセンサを用いた乾式手法による皮膚pH測定が可能となると考えられる.
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
V /100 mV
Normal Atopic
Fig.8.2.7 乾式pHセンサ平均電圧値(90-120秒間)