3.2 純音聴力検査と語音聴取検査
3.2.4 結果
純音聴力検査
実験参加者ごとの周波数別の聴力レベルの平均値を,左耳と右耳との聴力レベル を平均して求めた.各年代の聴力レベルの平均と標準偏差を図 3.1に示す.50–60 歳代は他の年代に比べ,特に高周波数において高い聴力レベルを示した.
統計的検定として,聴力レベルを従属変数として,年代(20s vs. 30–40s vs. 50–
60s)を被験者間要因,周波数 (125 vs. 250 vs. 500 vs. 750 vs. 1000 vs. 1500 vs.
2000 vs. 3000 vs. 4000 vs. 6000 vs. 8000 Hz) を被験者内要因とした 2 要因の分 散分析を行った.その結果,年代と周波数の交互作用が有意であることが示され た (F(11.36,119.30) = 6.18, p < .01).Bonferroni 法を用いた多重比較を行ったと ころ,次の周波数で 50–60 歳代と,他の年代のいずれかの年代との間に有意な差 が示された(50–60s と 20s, 30–40s 間:125, 3000, 6000, 8000; 50–60s と 20s 間:
表 3.2: 語音聴取検査の正答率:年代,刺激音の種類別
High familiarity [%] Low familiarity [%] mono [%]
20s 99.58 99.50 98.44
30–40s 99.53 99.21 98.00
50–60s 98.74 96.12 91.57
1500, 2000, 4000 Hz; 50–60s と 30–40s 間:250 Hz; p < .01).20 歳代と30–40 歳 代との間では有意差は示されなかった.
500, 750, 1000 Hzに対しては年代間で聴力レベルの有意な差は示されなかった.
他の周波数に対しては,50–60 歳代の聴力レベルは若い年代に比べて上昇してい ることが示された.
語音聴取検査
実験参加者と,刺激音の種類(高親密度語,低親密度語,単音節)ごとに,モー ラ正答率を求めた.
主に外来語に見られた表記の揺れは,内閣告示第 2 号「外来語の表記」 (平成 3 年 6月 28日)に従って,回答の正誤を決定した.たとえば,長音を表すには長 音符 (ー)と母音字を用いる場合があり,刺激語「リューマチ」に対する「リュウ マチ」という回答が存在した.長音と母音字は,同じ音を表すとして正答とした.
「ヅ」と「ズ」,「ヂ」と「ジ」も同様に正答として扱った.ただし,刺激語「ピラ ニア」に対して「ピラニヤ」という回答があったが,これらは同一の対象を指す ものの,日本語の音としては別と考えることができるため,本実験の分析では誤 答として扱った.この例では「ア」に対する「ヤ」は誤答として処理した.
まず,年代,刺激音の種類ごとに求めた平均正答率を表 3.2に示す.20歳代と
30–40 歳代では,高親密度語・低親密度語に対しては 99 % 以上,単音節に対し
ても 98 % 以上の正答率を示した.一方 50–60 歳代では,高親密度語に対しては
98 % を超えたものの,低親密度語に対しては 96 % 台,単音節に対しては 91 % 台の正答率となり,他の年代よりも正答率が低くなった.
さらに語音の音響的特徴に基づいた区分ごとに分析するため,音韻別の正答率 と,音韻の区分別の正答率を求めた.まず,音韻別の正答率は,音節頭の音韻ご とに平均正答率を求めた.母音のみから構成される V音節の場合は,母音として 平均正答率を求めた.子音と母音からなる CV 音節の場合,音節頭の子音別に平 均正答率を求めた.次に,音韻の区分別の正答率は,音節頭の音韻について,音 響的特徴において弁別的とされる音韻の区分による平均正答率を求めた.音韻の 区分は以下とした.「母音,長母音,半母音 (w, y),拗音 (ry, my, ny, shy, hy, py, ky, by, gy),弾音 (r),鼻音 (m, n, N),無声摩擦音 (f, s, h),有声摩擦音 (z, j),
無声閉鎖音 (p, t, k),有声閉鎖音 (b, d, g),破擦音(ts, ch),促音 (Q)」 (鹿野他,
1997).音韻別の正答率を図 3.2に,音韻区分別の正答率を図 3.3に示す.
統計的検定として,音韻区分別の正答率について,逆正弦した正答率を従属変 数として,年代 (20歳代 vs. 30-40歳代 vs. 50-60歳代) を被験者間要因,音韻区 分 (母音 vs. 半母音 vs. 拗音 vs. 弾音 vs. 鼻音 vs. 無声摩擦音 vs. 有声摩擦音 vs. 無声閉鎖音 vs. 有声閉鎖音 vs. 破擦音) と刺激音の種類 (高親密度 vs. 低親 密度 vs. 単音節) を被験者内要因とした 3 要因の分散分析を行った.長母音と促 音は単音節には存在しないため,これらの音韻区分はこの分析から除外した.そ の結果,年代と音韻区分と刺激音の種類の交互作用が有意であることが示された (F(18.50,194.27) = 2.25, p < .01).Bonferroni による多重比較により,50–60 歳 代の正答率が,20歳代より,または 20 歳代と 30–40 歳代のいずれよりも低くな る音韻区分があることが次のように示された (p < .01).50–60歳代の正答率が 20 歳代より低かったのは,高親密度の拗音,有声閉鎖音,低親密度の鼻音,有声閉 鎖音であった.50–60歳代の正答率が,20歳代と30–40 歳代のいずれよりも低く なったのは,低親密度の拗音,無声摩擦音,有声摩擦音,無声閉鎖音,単音節の 拗音,無声閉鎖音であった.
以上,20歳代と30–40歳代とでは,正答率に有意な差は示されなかったが,50–
60歳代は,20歳代と,あるいは 20歳代と 30–40歳代いずれよりも正答率が低く なる音韻区分があることが示された.
図 3.2: 語音聴取検査における音節の聴取正答率の平均と標準誤差 : 刺激音の種類 (高親密度,低親密度,単音節),年代,音韻別
図 3.3: 語音聴取検査における音節の聴取正答率の平均と標準誤差 : 刺激音の種類 (高親密度,低親密度,単音節),年代,音韻区分別