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第 1 節 インピーダンススペクトル(Cole-Cole plot)

図5-1に膜厚2.0 μm、変形率0 %、温度300 Kでのインピーダンススペクトル

(Cole-Cole plot)を示す。

図5-1 膜厚2.0 μm、変形率0 %、温度300 Kでの-AgI薄膜のCole-Cole plot プロットされたデータは一つの円弧を描いている。これはデバイの経験則によ りフィッティングすることができる。

デバイの経験則

B B B

R C i Z R

 

) 1

*( ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2-15a)

 

2

B B B

ωC R Z R

ω

Z '( ) 1 ( )

Re *

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2-15b)

 

2 2

*

) (

) 1 (

"

Im

B B

B B

ωC R ωC R ω Z

Z     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2-15c) デバイの経験則の詳細は第 2 章第 3 節に記述されている。

得られたデータはデバイの経験則によりフィッティングできるが、フィッテ ィングして求めた直流抵抗率と直接読み取った直流抵抗率に大きな差はなかっ た。そのため、実軸と交わる部分のZ’(ω)のデータを直流抵抗率とした。そし て、直流イオン伝導度は直流抵抗率の逆数から求めた(式5-1)。

直流イオン伝導度= 1

直流抵抗率・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5 − 1)

0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500

0 1000 2000 3000 4000 5000

-Z" [cm]

Z' [cm]

Thickness 2.0m 変形率 0%

at 300K

直流抵抗率

36

第 2 節 β-AgI薄膜の直流イオン伝導度の温度依存性

前節のようにして直流イオン伝導度を様々な温度で求め、β-AgI薄膜のイオン 伝導度の温度依存性を求めた。いくつかの膜厚でのイオン伝導度の温度依存性 を図5-2に示す。

0.01 0.1

3 3.05 3.1 3.15 3.2 3.25 3.3 3.35

T [ 

-1

cm

-1

K]

1000/T [K

-1

]

● Thickness1.0m

■ Thickness2.0m

◆ Thickness4.0m

▲ Thickness5.2m

図5-2 β-AgI薄膜の幾つかの膜厚に対する温度依存性。

●:膜厚1.0μm, ■ : 膜厚2.0μm, ◆ : 膜厚4.0μm, ▲ : 膜厚5.2μm

β-AgIにおけるイオン伝導は熱活性型のイオン伝導であり、これを反映して測

定されたイオン伝導度は、温度の上昇とともに指数関数的に増大している。こ のような熱活性型のイオン伝導は単純な熱活性型の式

 

e T

k T Δ

σ 1

log log

log

B

0  

 



  但し、

 

Γ f k

a Z

σ N 0

B 2 2 0

 e ・・・・・・・・・・・・・(2-11)

でフィッティングすることができる。詳細は第 2 章第 1 節に記述されている。

(2-11)式より活性化エネルギーと前置因子を求めた。また、膜厚によってイオ ン伝導度が変化していることからイオン伝導度は膜厚に依存して変化すること を示唆している。そこでイオン伝導度の膜厚依存性について調べた。

37

第 3 節 β-AgI 薄膜の活性化エネルギー、前置因子、直流イオン伝導度の膜厚依存 性

図 5-3 に β-AgI 薄膜の活性化エネルギーと前置因子の膜厚依存性を示す。ま

た、図5-4に300 Kでのβ-AgI薄膜の直流イオン伝導度の膜厚依存性を示す。

0.1 0.15 0.2 0.25 0.3

1000 2000 3000 4000 5000

0 1 2 3 4 5 6 7 8

[eV] 0 [ -1cm -1K]

Thickness [m]

0

図5-3 β-AgI薄膜の活性化エネルギーと前置因子の膜厚依存性

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0

0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10

[×10-4 -1 cm-1 ]

Thickness [m]

変形率0%

at 300 K in N

2 gas

図5-3 β-AgI薄膜の直流イオン伝導度の膜厚依存性

38

活性化エネルギーは0.22~0.27 eV程度の間で変化し、膜厚による大きな影響は 見られなかった。前置因子は膜厚の増加に伴い減少することが分かった。イオ ン伝導度は膜厚の増加に伴い減少し、膜厚2.0μm付近でピークを持った。この 結果はイオン伝導度が界面からの距離に依存することを示唆している。イオン 伝導度は膜厚の連続関数になると考えられるが、本研究の結果を連続関数で考 えるのは難しい。そこで、界面からの距離によって薄膜をイオン伝導度の異な る4つの領域に分けてβ-AgI薄膜のイオン伝導度の膜厚依存性の議論を試み た。

39

第 4 節 イオン伝導モデルによる解析

図5-4に議論するためのイオン伝導モデルを示す。

図5-4 イオン伝導モデル

図5-4のようにAgI薄膜を 4 つの領域に分けて考える。PETフィルムとAgI薄 膜の界面に近い領域から順に、それぞれの領域のイオン伝導度をσ0、σ1、σ2、 σ3とする。PETフィルムの表面をyz平面にとり、それに垂直な方向にx軸をと る。それぞれの領域のイオン伝導度とx座標の関係は以下のようになる。

σ0とσ1の境界

𝑥 = 𝑑0・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5 − 2) σ1とσ2の境界

𝑥 = 𝑑1・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5 − 3) σ2とσ3の境界

𝑥 = 𝑑2・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5 − 4)

β-AgI薄膜の表面

𝑥 = 𝑑3・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5 − 5) 測定によって得られるイオン伝導度を𝜎𝑒𝑓𝑓とするとそれぞれの領域内でのイオ ン伝導度𝜎𝑒𝑓𝑓は以下のようにして求めることができる。

𝑑1 𝑑2

σ0 σ1 σ2

PETフィルム σ3

𝑑0 𝑑3

𝑥 = 0

y x

z w

l

40

𝟎 ≤ 𝒙 < 𝒅𝟎のとき

関連するイオン伝導度はσ0のみであるから、(図5-5)

図5-5 0 ≤ 𝑥 < 𝑑0のときの(a)イオン伝導領域 (b)領域の抵抗モデル

このときの抵抗R0(x)は 𝑅0(𝑥) = 1

𝜎0× 𝑙

𝑆(𝑥)= 1 𝜎0

𝑙

𝑤𝑥= 1 𝜎𝑒𝑓𝑓

𝑙 𝑤𝑥

となり、

𝜎𝑒𝑓𝑓 = 𝜎0・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5-6) を得る。

R0(x) 𝑑1

𝑑2

σ0 σ1 σ2

PETフィルム σ3

𝑑0 𝑑3

𝑥 = 0

y x

z w

l

(a) (b)

41

𝒅𝟎≤ 𝒙 < 𝒅𝟏のとき

関連するイオン伝導度はσ0とσ1であるから、(図5-6)

図5-6 𝑑0 ≤ 𝑥 < 𝑑1のときの(a)イオン伝導領域 (b)領域の抵抗モデル

このときの抵抗R0R1(x)の合成抵抗は 1

𝑅1(𝑥)+ 1

𝑅0 = 𝜎𝑒𝑓𝑓×𝑆(𝑥) 𝑙

となり、

𝜎𝑒𝑓𝑓 = 𝑙

𝑆(𝑥)( 1

𝑅1(𝑥)+ 1 𝑅0)

= 𝑙

𝑤𝑥[𝜎1(𝑤

𝑙) (𝑥 − 𝑑0) + 𝜎0(𝑤 𝑙) 𝑑0]

= 𝜎1+ (𝜎0− 𝜎1)𝑑0

𝑥 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5 − 7) を得る。

𝑅0 𝑅1(𝑥) 𝑑1

𝑑2

σ0 σ1 σ2

PETフィルム σ3

𝑑0 𝑑3

𝑥 = 0 y x

w z l

(a) (b)

42

𝒅𝟏≤ 𝒙 < 𝒅𝟐のとき

関連するイオン伝導度はσ0とσ1とσ2であるから、(図5-7)

図5-7 𝑑1 ≤ 𝑥 < 𝑑2のときの(a)イオン伝導領域 (b)領域の抵抗モデル

このときの抵抗R0R1R2(x)の合成抵抗は 1

𝑅2(𝑥)+ 1 𝑅1+ 1

𝑅0 = 𝜎𝑒𝑓𝑓×𝑆(𝑥) 𝑙

となり、

𝜎𝑒𝑓𝑓 = 𝑙

𝑆(𝑥)( 1

𝑅2(𝑥)+ 1 𝑅1+ 1

𝑅0)

= 𝑙

𝑤𝑥[𝜎2(𝑤

𝑙) (𝑥 − 𝑑1) + 𝜎1(𝑤

𝑙) (𝑑1− 𝑑0) + 𝜎0(𝑤 𝑙) 𝑑0]

= 𝜎2+ [(𝜎0− 𝜎1)𝑑0+ (𝜎1− 𝜎2)𝑑1]1

𝑥・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5 − 8) を得る。

R0

R1

R2(x) 𝑑1

𝑑2

σ0 σ1 σ2

PETフィルム σ3

𝑑0 𝑑3

𝑥 = 0 y x

w z l

(a) (b)

43

𝒅𝟏≤ 𝒙 < 𝒅𝟐のとき

関連するイオン伝導度はσ0とσ1とσ2とσ3であるから、(図5-8)

図5-8 𝑑2 ≤ 𝑥 < 𝑑3のときの(a)イオン伝導領域 (b)領域の抵抗モデル

このときの抵抗R0R1R2R3(x)の合成抵抗は 1

𝑅3(𝑥)+ 1 𝑅2+ 1

𝑅1+ 1

𝑅0 = 𝜎𝑒𝑓𝑓×𝑆(𝑥) 𝑙

となり、

𝜎𝑒𝑓𝑓 = 𝑙

𝑆(𝑥)( 1

𝑅3(𝑥)+ 1 𝑅2+ 1

𝑅1+ 1 𝑅0)

= 𝑙

𝑤𝑥[𝜎3(𝑤

𝑙) (𝑥 − 𝑑2) + 𝜎2(𝑤

𝑙) (𝑑2− 𝑑1) + 𝜎1(𝑤

𝑙) (𝑑1− 𝑑0) + 𝜎0(𝑤 𝑙) 𝑑0]

= 𝜎3 + [(𝜎0− 𝜎1)𝑑0+ (𝜎1− 𝜎2)𝑑1+ (𝜎2− 𝜎3)𝑑2]1

𝑥・・・・・・・・・・・・・・(5 − 9) を得る。

R0

R1

R2

R3(x) 𝑑1

𝑑2

σ0 σ

σ2

PETフィルム σ3

𝑑0 𝑑3

𝑥 = 0 y x

w z l

(a) (b)

44

式(5-6)~式(5-9)の結果は横軸を膜厚の逆数、縦軸を𝜎𝑒𝑓𝑓でプロットすると図

5-9のようにそれぞれの領域で直線になる。図5-9の場合は、各領域の関係を σ3 < σ1 < σ2 < σ0と仮定した場合である。

1/x

eff

図 5-9 イオン伝導モデルのプロット

式(5-9)より1

𝑥1

𝑑2の範囲では直線の切片がσ3に相当する。式(5-8)より1

𝑑2 <1

𝑥

1

𝑑1の範囲では直線の切片がσ2に相当する。式(5-7)より1

𝑑1 <1

𝑥1

𝑑0の範囲では直 線の切片がσ1に相当する。式(5-6)より1

𝑑11

xの範囲で一定になる𝜎𝑒𝑓𝑓が𝜎𝑖𝑓とな る。

そこで横軸を膜厚の逆数、縦軸をβ-AgI薄膜の直流イオン伝導度として再プ ロットした結果を図5-10に示す。図5-10の各領域を直線でフィッティングす ることによって各領域のイオン伝導度を求めた。その結果を表5-1に示す。表 5-1に示されているように、σ0が最も直流イオン伝導度が高いことが示唆され た。

1 𝑑0 1

𝑑1 1

𝑑2

45

1.0 1.5 2.0 2.5

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

[×10-4 -1 cm-1 ]

1/Thickness

0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10

0 2 4 6 8 10 12

[×10-4 -1 cm-1 ]

1/Thickness

図5-10 直流イオン伝導度の膜厚依存性の再プロット。(a) 𝑑1 ≤ 𝑥 (b) 𝑥 ≤ 𝑑1

表5-1 各領域のイオン伝導度

σ0[×10-4 Ω-1cm-1] 7.7

σ1 1.4

σ2 3.4

σ3 0.9

(a) (b)

46

第5節 β-AgI薄膜の直流イオン伝導度の変形率依存性

次にβ-AgI薄膜の伸張変形に対して垂直な方向の直流イオン伝導度の変形率

依存性を調べた。図5-11に温度300 K,膜厚3.0 μmにおけるβ-AgI薄膜の直流 イオン伝導度の変形率依存性を示す。試料1と試料2は再現性を確認するため に同時に作製された2つの試料であり、それぞれを試料1、試料2とした。

1.6 1.7 1.8 1.9 2.0 2.1 2.2 2.3 2.4

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

変形率[%]

[×10-4 -1 cm-1 ]

Thickness3.0m at 300 K in N

2 gas

図5-11 β-AgI薄膜の直流イオン伝導の変形率依存性

図 5-11 に示されているように直流イオン伝導度は変形率の増加とともに増加 することが分かった。井田らの研究による伸張変形に平行な方向のイオン伝導 度は変形率の増加とともに減少したが、これとは異なる結果が得られた。

この結果は図5-12に示すように、伸張変形に垂直な方向の場合のβ-AgI薄膜 の変形では、膜厚方向は縮むが横方向には伸長すると考えられる。この横方向 の伸長変形がイオン伝導の増加に寄与していると考えている。

図5-12 伸張変形によるβ-AgI薄膜の変形。(a) 垂直方向 (b) 平行方向

AgI

PETフィルム

伸張方向 ⦿ 伸張方向

⦿ ⦿

試料 1 試料 2

(a) (b)

47

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