ここでは,各観測点で得られた3成分の最大速度振幅(Peak Ground Velocity; PGV)値をベ クトル合成した結果についての考察を行う.PGV値のベクトル合成は,以下の式に基いて計算 した.
P GVcomp =
(P GVN S2 +P GVEW2 +P GVU D2 ) (6.2) ここに,P GVcompは3成分のPGV値のベクトル合成値,P GVN SはNS成分のPGV値,P GVEW はEW成分のPGV値,P GVU DはUD成分のPGV値を表す.以下に用いるPGV値とは,上 式により求めた3成分のPGV値のベクトル合成値のことを指す.
本研究モデルおよびJ–SHISモデルを用いて計算されたPGV値の空間分布を図 6.5,図 6.6 にそれぞれ示す.ただし,これらには,シミュレーション計算により得られた速度波形に周波数
0.5〜1.4 Hzのバンドパスフィルタ―を施してある.フィルターの上限周波数については,不連
続格子を用いた3次元有限差分法に基づいてシミュレーション計算を行ったことに起因して,以 下に示すシミュレーション計算における安定条件式により定義される計算上限周波数値を参考に 設定した.
fmax = VSmin a×gridmin
(6.3)
ここに,fmaxはシミュレーション計算における上限周波数値,VSminは3次元地下構造モデル における最小S波速度,gridminは最小格子間隔,aは1波長を表現するために用いる格子数を 表す.本研究では,VSmin= 500 m/s,gridmin = 71 m,a= 5とした.一方のフィルターの下 限周波数については,5章4節で述べたように鳥取平野における地盤増幅の影響は0.5 Hz以上 の周波数帯で議論することができるため,このように設定することにした.
本研究モデルによる結果(図 6.5)を見ると,平野の中央部の地域において北北西–南南東の
傾きで40 cm/s前後のPGV値が分布している.この分布は,モデルにおける基盤形状に対応し
ているものと考えられる.そのなかでも,北緯35◦31’,東経134◦13’付近において,80 cm/sを 超える比較的大きなPGV値の分布が見られる.また,当結果では,平野中央を流れる河川の東 岸よりも西岸の方がおよそ20 cm/sほどPGV値が大きくなる傾向が見られる.その他の特異な 分布として,北緯35◦27’から35◦30’を結ぶ直前上で断続的に40 cm/sのコンター線で囲まれる 楕円形状の空間分布が見られる.これは,分布位置とその広がり方から,震源による影響を反映 したものと考えられる.震源モデルの深度およびメッシュサイズに対して補正を行ったにも関わ らず,平野の直下に位置しているということもあり,少なからず震源特性の影響が露呈する結果 となった.本研究では,地盤構造に着目しているため,これ以上の震源モデルに対する改良に関 しては行わないことにする.したがって,アスペリティ領域の配置または震源位置などの特性化 震源モデルに対する更なる改良に関しては,今後の研究に期待するものとする.
当時の建物の立地分布状況および耐震強度も加味して考察する必要はあるが,定性的には当時の 鳥取駅周辺で比較的大きな振幅の地震動が伝播してきたことが推測される.その点で本研究モデ ルによるPVG値の空間分布は,非常に定性的ではあるが,平野中央部の建物被害率分布に関し ては地盤増幅特性の影響によるところが大きいと説明できる結果であると言える.
本研究における地下構造モデルは,敢えて少ないデータにより初期的な3次元地下構造モデル を構築した段階に留まっている.そのため,距離減衰式などの簡易手法に比べれば地盤増幅特性 を反映した結果を得られてはいるが,改良の余地は残されている.例えば,図6.7中の湖山池の 北東岸周辺地域および湖山池から南東方向に数km離れた谷地形の地域を見ると,被害率が50
〜75%のBクラスの領域が極局所的に分布している.このような分布傾向は,地盤増幅特性の 影響によるものと推測される.これらの分布を再現するためには,今以上に深度方向のリファレ ンスサイトを追加してデータ補間を行う必要性がある.また,本研究では取り扱わなかった工学 的基盤以浅の構造による影響も考慮する必要がある.
134˚05' 134˚05'
134˚10' 134˚10'
134˚15' 134˚15'
134˚20' 134˚20'
35˚25' 35˚25'
35˚30' 35˚30'
35˚35' 35˚35'
5 km
20
40
40
40
40 40
60
Tottori_pref.
0 50 100 150 200
Max Amplitude(cm/s)
134˚05' 134˚05'
134˚10' 134˚10'
134˚15' 134˚15'
134˚20' 134˚20'
35˚25' 35˚25'
35˚30' 35˚30'
35˚35' 35˚35'
5 km
40
40
40 40
40
40
40
40 60 60
60
60
Tottori_pref.
0 50 100 150 200
Max Amplitude(cm/s)
図 6.6. J–SHISモデルを用いて計算された最大速度振幅分布(NS成分)