結果はA児と関与者の関与の質的変化に着目し,互 いの関与の変化の時期的なズレを基に観察期間を便宜的
Figure 1 対象児−関与者の関係性
生活年齢 【A児】 【関与者】
10: 5:0 1段階『不特定の第三者』 1段階『対象児優先の養護的な関与』 第Ⅰ期 ⅰ.「孤立と無関心」 ⅰ.「表面的な理解と支援」
10:06:11 ⅱ.「自己との関連での理解と支援」 第Ⅱ期
10:06:18 ⅱ.「関心の萌芽」 第Ⅲ期
10:07:24 ⅲ.「対象の定着」 ⅲ.「多元的な理解と支援」 第Ⅳ期
10:09:25 2段階『気を許す特定二者』 2段階『関与者主導のプレイフルな関与』 第Ⅴ期
10:10:22 3段階『自ら求める特定二者』 第Ⅵ期
10:11:19 4段階『愛着対象』 第Ⅶ期
10:11:26 3段階『愛着関係によって促される養育的な関与』 第Ⅷ期 ⅰ.「外界から守り支える者」
11:01:07 変動期 ⅱ.「自閉的世界と外界とを繋ぐ者」 第Ⅸ期
11:02:04 第Ⅹ期
78 発 達 心 理 学 研 究 第 22 巻 第 1 号
に10の期間に分けて整理した(Figure 1)。以下では主 に,A児の関与者への関与,関与者からA児への関与,
相互作用という3つの切り口から,各期の特徴を記述,
考察する。A児の関与者への関与は,特に接近−維持お よび回避行動の変化とそれによる関係の質に着目する。
関与者からA児への関与は,特にA児の振る舞いをど のように捉え,それを自分の行動に反映させ,どのよう な意図を持って関与するのかに焦点を当てた。また各段 階の特徴を描写するために,その様相を端的に示してい ると考えられたエピソードを抽出した(Table 1〜10)。
(1) 第 Ⅰ 期(10:5:0〜10:6:10) の 特 徴 こ の 時期のA児はフィールドへの慣れと母子分離が確立し ていることから,予定の変更や自分の欲求が妨げられな ければ安定して過ごすことが可能であった。その一方で A児は挨拶した関与者の前を素通りしたり(10:5:0: E1),関与者が一人遊びに加わろうとしてもやりとりに は発展しない(10:6:11:E2)など,関与者への直接 的関わりには反応せず,関与者を意識したり必要とする ことはなかった。この時期のA児にとって関与者は『不 特定の第三者』と言える存在に過ぎず,A児の振る舞い は個人としての関与者に注意を向けず,ただそこにある もの程度にしか認識することのない「孤立と無関心」を 特徴とした。そのようなA児の振る舞いを受けた関与 者は,A児の内面が分からないながらも理解しようと して,同じ行動をやってみて遊びを共有しようとしたり
(10:5:7:E10),A児の遊びや行動に込められたA児 固有の意図や興味を母親に尋ねてみたりする(10:5:0: 母親との会話)などをしながら,A児の体験世界を行動 レベルから理解・共有しようとする関わり方をとってい る。この時期の関与者は一方向的な〈支援する−支援さ れる〉という関係の中で,A児の振る舞いを理解し共有 し,支援しようとした。具体的には,自らの主体性を譲 る形で,相手が快の情動を感じ,不快な情動を感じない ように支援する関与,すなわち『対象児優先の養護的な 関与』に徹していた。しかしまだ関わり合いの浅さゆえ にA児のことが十分には理解できず「表面的な理解と 支援」に留まっていた。
(2)第Ⅱ期(10:6:11〜10:6:17)の特徴 この 時期のA児は引き続き孤立と無関心の状態を取ってい たが,遊びの中で生じたA児の笑顔にその場に居る関 与者の対応が関係していると感じる場面(10:6:11: E3)が現れた。これをうけ関与者はA児の行動を理解 する際に関与者に対する関心という新たな参照枠を手が かりとするようになり,否定的な言葉と異なる意図が 表情から感じ取られることや(10:6:14:E3),A児 の心境をその場ですぐに推測できる場面(10:6:25: E16)が増加し,「自己との関連での理解と支援」がな されるようになった。加えて,A児の理解に自信がつき,
感じられたことを言語化し,A児に問い返してみたり,
自分の遊びの意図をA児に提示するなど,支援も多様 Table 1 エピソード1:ドミノ遊び(10:5:14:E10)
α室でのプログラムが終わり,他児たちよりも一足先に人気の無いβ室へと一人やってきたA君は勝手知ったる様子で窓 辺の棚の中から積み木を取り出した。後を追って来た私は,棚の上に積み木でドミノを作り出した様子のA君の傍に寄り
〈おっ,A君ドミノ作ってるんやな〉と興味を示すように声をかけた。しかし返事はおろか視線すら向けずに黙々とドミノ を繋げていくA君は,様々な連結や仕掛けのある手の込んだドミノを作り上げていった。一人真剣な顔でドミノを繋げるA 君に,どう関わってよいのかわからなかった私がただ邪魔にならないように傍で様子を見守っていると,ついに完成を迎え た様子のA君は黙ってドミノの初めの一個を指先でそっと弾いた。私たち二人しかいない静かな室の中,カタカタとドミノ が進んでいく音だけが響き,最後の一個が床のカップへと滑り込むようにきれいに落ちて収まると,A君は「ピタゴラスイッ チ」とNHKの仕掛けドミノ番組のメロディーを一人嬉しそうに口ずさんだ。隣で一緒になってドミノの動きを見守ってい た私が〈A君,凄〜い!〉と嬉しそうに言ってA君の方を振り返ると,A君は元の無表情な顔をして,返事をすることもな くその場を立ち去った。
Table 2 エピソード2:あえて追わない(10:6:11:E17)
次にする遊びを探すように部屋の隅の方へと一人歩き出したA君に対し,何か面白そうなことをしているとそれに興味を 示すだろうと考えた私は,あえて後を追わずに,近くにあった大きなイモムシの形をしたクッションに寝転がった。一度気 持ちよさそうに寝転がってみせたところ,A君はそんな私の方へ素っ気無い様子であるがちらっと視線を向けた。少し興味 を持ってくれたのかと考えた私が,何も言わずにクッションからどいてあげると,A君は待ってましたとばかりに勢いよく クッションの背に寝転がり,気持ちよさそうな笑顔を一人浮かべた。そしてしばしの間クッションを枕や布団のようにしな がらA君は寛いだ様子で過ごしていた。
79 自閉症児と特定の他者とのあいだにおける関係障碍の発達的変容
化し,養護的な関わりに厚みが生じた。
(3)第Ⅲ期(10:6:18〜10:7:23)の特徴 この 時期のA児は,A児の意図に則した関与者からの働き かけに対して興味を示し始め,関与者が示すものや遊び を共有することは少ないものの,自分の一人遊びに組み 込んで遊ぶことが多くなっていった。他にも,関与者 の働きかけを真似して返したり(10:6:18:E11),関 与者を意識した様子で自分の作ったブロックの作品を見 せる(10:6:18:E13)など,関与者に対して関心を 示すようになり始めた「関心の萌芽」の時期である。し かし依然として不快な状況において関与者に自ら助けを 求めることはせず,遊びが上手くいかなくなると表情を 失って駆けだす(10:6:25:E16)というように,諦 めてしまう姿が見られた。
(4)第Ⅳ期(10:7:24〜10:9:24)の特徴 1泊 2日でキャンプへ行き,関与者が母親の代わりになっ て,見通しの立たない状況下でパニックになるA児の 訴えを傍で聞きつつ,なだめようとし続けたり(10:7: 24:E35),共に遊んだり寝起きをした。この体験は二
人にとって楽しいだけでなく,強い負の情動を伴った共 有体験となり,現在の関係性の力ではストレス状況下で A児の情緒的安定を十分には保つことができないという 関係の弱さを露呈すると共に,関係をより深める契機 となった。A児は思いついた遊びを関与者に嬉しそうに 仕掛けたり(10:7:25:E3),自力では困難な状況下 で関与者に助けを求めるように呟く(10:7:25:E16) など,関与者を特別な存在だと認識する「対象の定着」
がなされた。他方で関与者は障碍特性ゆえのA児の脆 さと支援の困難さを再認識した。パニックをおさめて キャンプに参加するために予定表による構造化支援を 活用したり(10:7:24:E1),他児と同じ活動ではな く,A児なりの参加の仕方と目標を考えて次善策をとっ た(10:7:24:E3)りした。このように時には障碍特 性に応じて目標を修正したり,障碍特性の改善を棚上げ にした支援をするなど,生活的,発達的,心理社会的な 観点から対象児を捉えて様々な支援を状況に応じて用い るという「多元的な理解と支援」を行い,養護的な関わ りにある種のゆとりが生じた時期であった。
Table 3 エピソード3:信号ではなく団子(10:6:18:E3)
まだ他の子どもが少なくボランティアたちだけがゆったりと子どもたちの到着を待って過ごしていたβ室で,他児よりも少 し早くやってきたA君は床に敷かれたマットの上で何をするでもなく一人寝転んで過ごしていた。A君担当の私が何か遊べる ようにしなければと考えていると,部屋の隅の方からバレーボールほどの大きさのゴムボールが4つ転がって傍へとやってき た。それを見た私が赤 ・ 黄 ・ 緑の順に並べて〈A君,信号!〉と言って嬉しそうに披露すると,A君は返事こそしないもののボー ルには興味を持ったようで視線を向けた。そして寝転んだまま3つのボールを自分の胸の上に垂直に3つ立てるように抱える と,一番下のボールを食べる仕草を少し楽しそうに頬を緩めながら,私に見せるように大きく口を動かしてし始めた。
Table 4 エピソード4:(10:7:24:E35)
キャンプ地で行っていた夕食のカレー作りがずるずると長引き,泣きそうな声で「あ゛ぁー!もう食べれない!」と叫ん でいたA君は,とうとう「もう帰る!」と大きな声を上げて駆け出した。慌てて後を追いかけると,A君は硬い表情のまま 歩いては立ち止まり,立ち止まってはまた歩くことを続け,ようやく歩みを止めて道端の岩に腰かけた。A君が「もう帰る…」
と幾分落ち着きを取り戻した声で呟くので,〈もう帰っちゃうんか?カレー食べへんの?〉と残念そうに返すと,A君は「お 腹壊れた」と呟いた。〈お腹痛いん?〉と心配をしたのだが,返事をしないA君は苦しそうではなかった。そこでしばらくの間,
座りながら何を言うわけでなく行き交う人々を眺めて過ごした後,〈そろそろカレーができたかもしれんから,みんなの所 戻ろっか?〉と言って手を差し出すと,A君は手を引いて立ち上がると,来た道を引き返し始めた。
Table 5 エピソード5:オペごっこ(10:10:1:E16)
ここのところ毎回のように作っているブロックのロボットをA君が寝転びながら組み上げるのを隣に腰掛けて見守っていた 私は,待ちくたびれたこともあってか,無防備で柔らかそうに脂ののったA君のお腹を見て悪戯心がうずいた。そこで近くに 落ちていたおままごとの包丁を手に取ると,真剣そうな声色で〈オペを始めます〉と言い,A君のお腹へと包丁を近づけていっ た。するとお腹に包丁が触れたところでA君は手を止め,こちらを意識した様子で患者役を引き受けるように仰向けになった。
〈メス〉と言って包丁をゆっくりと動かし,A君のお腹を横に開くという動作に合わせて,指でお腹をくすぐって更に悪戯をす ると,A君は不自然なくらいに大きな声を出して笑い転げ,私も可笑しくなり,何度何度も二人で繰り返し遊んだ。