1
11月1日,外務省,大蔵省,商務省,コモンウェルス関係省,枢密院 府(原子力エネルギイ問題担当),燃料動力省といったメッシナ提案に関 わる関係各省庁の事務次官および次官代理級の官僚が出席して開催され た経済運営員会において,相互援助委員会からの共同市場構想に関する 最終報告書が審議された。会議の司会を務めたのほ大蔵事務次官代理ギ ルバート(SirBernardGilbert)であり,共同市場問題に関わる各省から では,大蔵省からは他に同じ次官代理のローワン,そして新たに相互援 助委員会委員長に就任していたクラーク,外務省からほ次官代理キャッ
シア,商務省からは事務次官リー(SirFrankLee)およびブレザートン,
コモンウェルス関係省からは事務次官ライスウェイト(Sir Gilbert Laithwaite)といった人物が出席していた(1)。
委員会はではまず司会のギルバートが発言し,三通の相互援助委員会 最終報告書のうち,共同市場の政治的意味と経済的意味に関する,二通 の相互援助委員会作業部会報告吾がそのまま提出されたものに関しては
すでに相互援助委員会で各省庁とも綿密な検討をおこなっているので経 済運営貞会としては細部に立ち入る必要はないと発言した。これに対し
てコモンウェルス関係省事務次官リーは,彼の「個人的見解」は,「経済 的見地からは共同市場加盟の方に我が国の利益が存在する」というもの
であり,したがって彼としては「経済的意味に関する報告書を完全に承 認することはできないが,当委員会における意見の大勢が我が国の参加 に反対するのであれば,この意見をあえて貫くつもりはない」と控えめ
な不賛成の意を示したが,この発言に関しては他の出席者からほ何のコ メントも出されなかった。ついでギルバートが再び発言し,まず決定す
べきことは,「11月7日に開催されるスパーク委員会運営委員会におい てどのような発言をおこなうべきか」であり,その後で,「他の国々は我 が国が不参加であったとしても共同市場の計画を推し進めるとの仮定に 従って,後の交渉段階で我が国にはいかなる譲歩が可能かについて考慮 する必要がある」,と議論の進め方を提案した(2)。
引き続き議論の中で指摘されたのは次のような点であった。まず,(a) ス/く‑ク委員会でイギリスは,メッシナ提案が扱う問題ほ核エネルギイ を除いてはすべてOEECもしくは他の既存の機関において同様もしく はより効果的に協力を推進することが可能であることを常に指摘してき た。11月7日の運営委員会でも共同市場問題以外の点でほス/く‑ク委員 会の最終報告の内容に影響を与える機会はありうる,(b)駐フランス大 使館からはフランスは現段階では原則支持の姿勢を示しているが,最終 的にはその反対によって共同市場が不成立に終わる可能性は高いとのさ
らなる報告が届いている。EDCと同様の戦術をフランスが取る可能性は 相当に高く,総選挙はフランスの対応に影響ほ与えるであろうが,それ でもフランスが他国に受け入れ可能な条件で共同市場加盟を決定すると ほ考えられない。であるからには,そしてとりわけ今後,イギリスが OEEC強化のためにも新たなヨーロッパ経済協力のためのイニシア
ティヴを提案することを望むのならば,イギリスが共同市場の失敗の原 田とみなされるのは好ましくない,(c)にもかかわらず,イギリスの態度 についての誤った期待や誤解を避けるためには12月の6カ国外相会議 までには共同市場加盟が不可能であることを明示しなくてはならない。
不参加の表明のしかたとして最終報告書が提案する三つの方法である が,(i)単純な拒否は直裁に過ぎ不要な損害をもたらす,(ii)6カ国側
にOEEC内に共同市場構想の議論の場を移すように説得するのは成功 の見込みがない,(iii)したがって,第三の,6カ国の議論と並行して OEECとの協議を働き掛けるという方法しか残されていないがこれも 時間稼ぎにしかならず,共同市場構想の放棄と引き換えにいかなる代替 物を提示できるのかをその間に考える必要がある。相互援助委員会は直
ちに関税の低減・貿易障壁全般の除去を最優先要素とする新たなヨー ロッパにおける経済的イニシアチブの検討を開始すべきである,(d)11 月7日の運営員会での発言についてのブリーフを早急に外務省が作成す る必要がある,といった点であった(3)。
そしてこれらの意見を受けて委員会は,相互援助委員会最終報告書を 早期に閣僚に提出すること,新たな経済的イニシアチブの検討を開始す
ることを決定し,散会した(4)。
この決定の翌日,11月2日,訪英したベイアンとバトラーとの間でお こなわれた会談においては,バトラーは,「共同市場への参加の決定は我 が国の政策の大きな再編を必要とするであろうから,短期的にはそのよ うな可能性は除外される」し,イギリスにとってはコモンウェルスとの 貿易と友好関係は依然としてきわめて重要であるとまでは述べていた
が,「イギリス政府はいまだ最終的態度を決定していない」と(閣僚レベ ルでの正式な決定がない以上当然でほあるが)含みを持った発言をして おり,共同市場の形成がOEECのような既存の組織に害を与えないよう
6カ国ほ慎重に進むべきでありイギリスおよびOEECとの接触を常に
維持しなければならないと述べるにとどまっていた。またこの会談では イギリスと6カ国が協力することがもっとも困難な分野ほ核エネルギイ の分野であろうともバトラーほ発言しており,この会談での印象がむし ろイギリスの共同市場参加の可能性についてベイアンに誤った期待を与 えた可能性はあるとバトラー自身,後年回想している(5)。
一方,同じ11月2日,外務省よりブレザートンあてに送られた運営員 会での発言用の訓令も,EURATOMに関してはイギリス政府は態度を 決めていないこと,しかし超国家主権的な組織は受け入れがたいことを 明示することを求めてはいたが,共同市場問題についてこれまで以上に 特に否定的態度をとるものではなく,ただイギリス政府ほOEECの立場
と権威を損ないたくないと考えていることを一層強調することが求めら れているものであった(6)。
同じ11月2日付で外務事務次官カーク/くトリックが駐仏大使ジェッ ブに送った書簡の中ではこの時点での外務省首脳部のさらに露骨な本音 が吐露されていた。すなわち「メッシナは明らかな誤りでほないにせよ 疑わしいアプローチ」であり,カークパトリック自身は「我が国の『ヨー
ロッパ人』としての成果に,軍事的な面でも経済的な面でも何ら恥ずべ き点はない」と断じ,「我々としてはヨーロッパにおけるモネのような輩 に対しては疑惑を抱き続けるのが当然であり,彼らはこれまでその特殊 な政治的目的の実現に失敗しているがゆえ今や『経済統合』というスロー ガンを隠れみのとして利用している。いずれにせよ一体彼らが何を成し 遂げ得るというのか?」と強い懐疑の念を示していた。フランスは自国
の経済的弱点を埋め合わせる手段としての高関税排他的経済圏を形成し ようと望んでいるのであって,そのようなものはアメリカにも受け入れ 難く成功の可能性ほ低い,そして「ドイツ人もまたこの経済統合という 事業全体に関して,アデナウアー以外は,全く積極的ではない」という のである。そしてフランスのせいで共同市場が失敗に終われば,OEEC
に危害を与えることによってEDCよりもさらに悪い影響を与えること が危供される以上,「我が国としては将来の時点でOEECにおける何ら かのさらなる全般的な経済的イニシアチブをとる可能性は除外しない」
が,「それも当てにしない方がよい!」とまでカーク′くトリックはヨー
ロッパ経済協力へのイギリスの関与への消極的姿勢,そしてその裏打ち となる共同市場計画の失敗への楽観的期待を示していた(7)。
さらに11月4日には外務省よりエリス=リースに対して,前章で見た 彼の提言に対する正式の回答として書簡が送られ,経済運営委員会での 決定内容が伝えられた。すなわち,慎重なる検討の結果ほイギリスの共
同市場参加にほ特に利益がないことを示している,しかしイギリスは6 カ国に対してその計画をより大きなOEECの枠内で追求するように提 案することほできない,6カ国は共同市場形成に失敗するかもしれない がイギリスが彼らを説得してOEECの舞台に引き戻すことに成功する 可能性は低い,そのような試みは妨害工作と受け取られOEECそのもの が分断されてしまうであろう,しかしイギリスとしては6カ国によって 最終的に共同市場が創設されるという薄い可能性に対しても保険を掛け
るためにはいかなることもしたいと考えている,イギリスがとる針路は, 6カ国外相会談でス/く‑ク委員会の報告書が考慮される前に彼らに対 し,(1)イギリスほ共同市場に参加できない,(2)もし6カ国が共同市場を 設立したいのなら彼らの特殊利益とより広いOEECの利益との調整の ための何らかの手段が講じられなければならない,そうしなければ共同 市場によってヨーロッパは二つの陣営に分断されてしまう,(3)メツシナ 構想とOEECとの関係はOEEC閣僚会議によって議論されるべきであ
る,と告げることである,そしてそうすることによってイギリスは OEECにおいて共同市場への対抗策としてイギリス独自のイニシアチ
ブを用意すべきかどうかを考慮するための時間稼ぎができる,というよ うな内容であった(8)。
こうしてイギリス政府内で,共同市場不参加,OEEC枠内での新たな 経済協力イニシアチヴを翌年をめどに提示する,という方針が定まりつ
つある申,11月7日に開かれたプラッセルでの運営委員会において,ブ レザートンは上掲の訓令に沿った,依然として参加・不参加の態度を明 示しない発言をおこない,これに対して委員長であるスパークはイギリ
スの曖昧な態度を厳しく批判した。そして,結果的にほこのブレザート ンとス/く‑クとのやりとりが,ス/く‑ク委員会でのイギリス代表による 最後の発言の機会となったのである(9)。
2
11月10日開催された経済政策に関する閣僚レベルでの(閣議以下の
ものとしてほ)最高意思決定機関である経済政策委員会(the Cabinet EconomicPolicyCommittee:EPC)が開催され,この席で先の経済運営
委員会で承認された相互援助委員会最終報告書が審議され,共同市場構 想に対する官僚レベルでの検討・勧告が,正式に承認されることとなっ た。この委員会にそなえ各省では閣僚用にブリーフが作成されており, 外務省でもェッデソによってマクミラン用にブリーフが作られ,その中 では相互援助委員会最終報告書の主な結論は,(1)メッシナ6カ国の共同 市場設立という目標をイギリスが採用することは全体としてイギリスの 経済的政治的利益にはならない,(2)6カ国は実際には共同市場設立に失 敗するかもしれない。特にフランスはあてにならない,(3)もし6カ国が 実際に共同市場を設立したならばイギリスはその外に留まる余裕がある かどうか考慮しなくてはならないだろう,(4)メッシナほOEECへの脅威 である,(5)イギリスは共同市場に参加しないという意思を明確にしなけ ればならないであろう,(6)同時にイギリスはメッシナとOEECとの関係
はOEECで議論されるべきであると提案してもよいであろう,6カ国の 共同市場という理想に対して否定的である一方でイギリスはOEECの