第3章 税法における非上場株式評価の問題点
第4節 経営承継法と税法の関係
事業承継対策や事業承継税制は、古くて新しいというか、税法上の財産評価との関係に おいて非常に長い間議論されている。当初、事業承継税制といえば、取引相場のない株式 の評価を下げればいいのだと、極めて短絡的に考えられてきた。その結果、評価通達の取 引相場のない株式の規定は、複雑化され、また、制定当初の趣旨から外れるものも多くな った。
そのような中、平成14年、租税特別措置法69条の5において、「特定事業用資産につ いての相続税の課税価格の計算の特例」が制定され、初めて立法的に事業承継税制が導入 された。しかし、この特例制度は、株式価額についての減額割合が10%であることと、
原則として、「小規模宅地等についての相続税の計算の特例」(措法69の4)との選択で あることから、第2章で述べたように実際は利用する企業は尐なく、批判も多かった。
そのため、平成20年10月、経営承継法が成立した。また、平成20年度税制改正大 綱中で、「政府は、平成20年度中に、中小企業における代表者の死亡等に起因する経営の 承継に伴い、その事業活動の継続に支障が生じることを防止するため、相続税の課税につ いて必要な措置を講ずるものとする。」とされた。これを受け、平成21年度税制改正大綱 では、事業承継税制として、「取引相場のない株式等に係る相続税の納税猶予制度」の概要 を明らかにした。これによると、「経営相続人が、相続等により、中小企業における経営の 承継の円滑化に関する法律12条第1項第1号に基づき経済産業大臣の認定を受けた非上 場会社の議決権株式等を取得した場合には、その経営承継相続人が納付すべき相続税額の うち、その議決権株式等(相続開始前から既に保有していた議決権株式等を含めて、その 中小企業者の発行済議決権株式等の総数等の3分の2に達するまでの部分に限る。以下「特 例適用株式等」という。)に係る課税価格の80%に対応する相続税額についてはその経営
70 品川芳宣「非上場株式の評価をめぐる問題点」『租税研究(平成19年5月)』691号41 頁
76 承継相続人の死亡等の日までその納税を猶予する。」と定めている。
この事業承継税制は、「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」(措法 69の4)のような課税価格の減額ではなく、「農地等についての相続税の納税猶予等」(措 法70の6)と同様に納税猶予制度とした71ことで、政策効果が減殺されることが懸念さ れている72。このような問題はあるが、事業承継の問題を、評価通達の評価の問題と切り 離して、株式の課税価格を減額することで対応してきたことを考えると、政策税制として、
租税特別措置法において事業承継税制を別途定めることについては評価できる。
また、経営承継法上の固定合意における非上場株式の評価方法に関しては、前述した通 り、本ガイドラインが公表されたが、本ガイドラインにおける収益方式、純資産方式及び 比準方式などの経営承継法上の評価方法の問題に関しては、税法や会社法及び会計の評価 方法と同じような問題点がある。
経営承継法における後継者は、株式を贈与等により取得することが要件となっており、
通常、当該株式に係る贈与税の計算のために国税庁方式(評価通達)による評価を行って いるケースが多いことが想定されるため、固定合意においても、国税庁方式に配慮するケ ースが多いことが想定されるが、国税庁方式以外の評価方法が採用される場合もある。そ のため、両者の調整も問題となる。
なお、本ガイドラインによると、東証マザーズやJASDAQといった新興市場に上 場している同族会社の株価について、収益還元方式、DCF方式又は純資産方式と国税 庁方式とを比較した場合に、下記図のようになっている。
このような乖離が生じる場合、固定合意による評価額が贈与税の計算における評価額 を上回ったときには、固定合意による評価額によって課税されないかという懸念(総則 6項の適用)が生じ、その逆のときには、固定合意による評価額によって納税申告をす ることができないかという疑問が生じる。
71 昭和58年11月の税制調査会の「今後の税制のあり方についての答申」では、相続税につ いて、「中小企業者の事業用財産等について農地と同様の納税猶予の制度を設けるべきである とする意見がある。」としており、兼ねてからそのような意見はあった。
72 品川芳宣「事業承継税制(納税猶予制度)の意義とその問題点」『税研(平成20年11月)』
142号38~43頁参照。
77 新興市場における上場会社の評価方式別の株式の価額のレンジ
A社 各評価方式 61,294円~187,700円 国税庁方式
類似業種比準方式 純資産方式
99,122円
64,655円
B社 各評価方式 56,025円~241,474円 国税庁方式
類似業種比準方式 純資産方式
125,010円
59953円
C社 各評価方式 25,807円~120,450円 国税庁方式
類似業種比準方式 純資産方式
60,932円
26,098円
D社 各評価方式 221円~823円 国税庁方式
類似業種比準方式 純資産方式
255円796円
出典 経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン
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