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「約定利息部分」の在り方に関連した現行制度の問題点

ドキュメント内 □2016 年度専門職学位論文 (ページ 67-84)

第3章 延滞税の見直しの方向性

第2節 「約定利息部分」の在り方に関連した現行制度の問題点

1 延滞税の計算期間の特例(除算期間)について

第2章第1節3で述べたとおり、延滞税の計算期間の特例(除算期間)については、

現行制度上、「約定利息部分」及び「インセンティブ部分」を区分せず、一律に設定さ れている。そこで、ここではこの整理を維持することの妥当性について、検証を行うこ ととする。

⑴ 制度の趣旨・沿革

延滞税については、国税の履行遅滞について課されるものであり、原則として法定 納期限から課されるが、納税申告書の提出後から長期間経過後に納付すべき税額が確 定された場合又は源泉徴収等による国税について強制徴収がされた場合に、法定納期 限まで遡って多額の延滞税の納付義務を負わせることが、実際上酷であること及び税 務官署の事務配分上更正の時期が納税者ごとに区々であることにより、経済上の負担 が生ずることは適当ではないことから146、除算期間が設けられている。

この制度の前身となる制度は、昭和 29 年度税制改正において、当時の利子税額につ いて、所得税法、法人税法、相続税法に設けられたものである。

具体的には、所得税法の規定の例を見ると、「第 44 条第7項の規定による通知(更 正・決定に係る通知)をなした日が申告後1年経過日以後となるときは、第 46 条の2 第1項但書の規定に該当する場合(詐欺その他不正の行為により所得を免れた者等)

を除く外、申告後1年経過日から当該通知をなした日までの期間を、利子税額計算の

145 「General explanation of tax legislation enacted in 1998」73 頁Joint committee on taxation。なお、我が国においては、還付金等が生じた場合において、納付すべき国税がある ときは、還付に代えてその国税に充当しなければならないこととされており(通法 57①)、そ の国税については、充当適状となった日(還付金等が生じた日と法定納期限等のいずれか遅 い日)に、納付があったものとみなされるため(通法 57②)、実際の充当が充当摘状となった 時後に行われた場合には、そのときに遡って還付金等と納付すべき国税が消滅する。つまり、

延滞税及び還付加算金は、充当適状となった日まで付され、その日後は付されない。

基礎となる期間から控除して、利子税額を計算する」とされており、これは、納税の 遅延が納税義務者のみの責に帰すことができないことを考慮した改正と説明されてい る147。また、上記の更正が遅延した場合と同様に、確定申告書が提出されてから1年 以上経過してから修正申告書が提出されたとき、納期限後1年以上経過してから源泉 徴収額が納付されたときも1年経過後の利子税額は課されない措置が講じられている。

なお、当時の利子税額の計算期間の特例は、昭和 37 年の国税通則法制定時において、

「新しくとられる延滞税の制度においても、このような実際的配慮をこの際特に改め るべき必要もないと認め、この制度を存続することが妥当である」148とされ、新たに 延滞税の除算期間として国税通則法に各税統一的な規定が新設された149。これにより、

国税通則法制定前は、申告納税方式による所得税、法人税、相続税、贈与税及び源泉 所得税に関してのみ適用されることとなっていたが、制定後においては、申告納税方 式による国税全体及び源泉徴収による国税に適用されることとなった。

また、この点について、「これは、租税債権の確定遅延に伴う救済措置として認めら れたものと言われているが、租税債権の確定の除斥期間は5年ないし、7年間として その早期安定を図っており、これをさらに1年内に確定しなかったことを理由として、

延滞税の除算期間を設けて、その確定を遅延せしめた者の保護を図ることには問題が ない訳ではない」との見解もあるように150、そもそも税額の確定は納税者自身で行う べきものとの前提を考慮すると、延滞税の計算期間の特例(除算期間)については、

そもそも設ける必要はなく、原則通り、未納期間に応じて延滞税を課することが、期 限内に適正に申告納付を行った者との公平性の観点からも適当との考え方もあり得る ものと考えられる。

なお、平成 28 年度税制改正において設けられた新たな除算期間(国税通則法 61 条 2項の除算期間)との関係については、⑹において述べる。

⑵ 延滞税の性質と除算期間について

この延滞税の除算期間については、延滞税の性格と結びつける考え方がある。上記

⑴で述べたとおり、制度創設時においては、遅延利息的性格を有する「利子税額」に

147 国税庁「財政 1954 年-所得税法の一部を改正する法律の解説-」517 頁。

148 税制調査会昭和 36 年 7 月・前掲注(58)95 頁。

149 これに伴い、所得税法、法人税法及び相続税法において設けられていた利子税額の特例に 関する規定は削除されている。

150 田中・前掲注(84)362 頁。

ついて除算期間が設けられていたことを踏まえると151、もともとは延滞税の利息的な 性格に着目された制度とも考えられる。しかし、制度趣旨において、「法定納期限まで さかのぼって延滞税を課すことは、実際上酷であること」とされており、現行民法上 の利息には制裁的な要素が加味されていないことを踏まえると、延滞税の除算期間と は、その利息的な性格というよりも、制裁あるいは「インセンティブ部分」としての 性格が適合するものと考えられる。

この点、酒井克彦教授は、「例えば、国税通則法は期限後申告書が提出されている場 合にその提出があった日の翌日から起算して1年を経過した日よりも後に修正申告等 がなされた際、期限後申告から1年を経過する日の翌日から修正申告等がなされた日 までの期間が延滞税の計算期間から除外する規定を用意しているが(通法 61①一)、

この規定は、一般的に、修正申告等が遅れた場合に延滞税の金額が過大となり納税者 に酷な結果となることを防止するためのものと説明されており、制裁と捉えないとか かる理解は成り立たないことになるのではなかろうか。単なる遅延利息が遅延期間に 及んで追徴されるのであれば、何ら酷として捉える余地はないからである。」152と述べ ている。また、佐藤英明教授も「約定利息という部分を明示的に打ち出すならば、除 算期間はその部分には必要がない。(中略)約定利息部分という考え方は、現在の除算 期間という考え方に整合しない。」153と述べている。

第2章までで述べたとおり、従来、延滞税については、全体として「遅延利息」と

「制裁」の機能を有するとされ、一律で延滞税の除算期間を適用させてきた。しかし ながら、平成 25 年度税制改正においては、延滞税について「約定利息部分」と「イン センティブ部分」の区分が明確とされているため、あらためて「約定利息部分」につ いて除算期間を適用させるべきかどうかという点について検討する必要が生じている と考えられる。

⑶ 経済的視点から見た延滞税の約定利息部分の除算期間

利息の法律学上の意義については、第2章第3節1で述べたとおり、「元本債権の所 得として、その額と存続期間とに比例して支払われる金銭その他の代替物である」と 考えられているが、経済学上の意義については、ケインズの流動性選好理論によれば

151 延滞加算税額については、除算期間は設けられていなかったが、滞納税額の5%を限度と されていた。

152 酒井克彦『附帯税の理論と実務』446 頁(ぎょうせい、2010)。

「利子率とは、流動性を手放すことに対する報酬である」と述べられ、またケインズ 以前の古典派の多くは、利子率とは、貸し手が消費を一定期間断念し貯蓄することの 対価であるとみなしている。このように、経済学上、利息をどのように理解するかに ついては、様々な考え方があるが、いずれにしても、利子率は現在の購買力と将来の 購買力との間の交換比率(相対価格)であると考えられる154

このように経済学的な視点で見た場合には、法定納期限時点で納付する国税と、法 定納期限から一定期間経過して納付する国税についての利息部分を考慮した交換価値 は等しいことが望ましいと考えられる155。一方で、現行法上は、延滞税の除算期間が 設けられているため、この除算期間が適用される場合には、交換価値が等しくならな いことがある。

この点について具体的に確認するため、キャッシュフローを現在の時点の価値で評 価する方法である「現在価値(Present Value(PV))」を用いることとするが、単利計 算である国税債権の一定時点における価値を算定する場合には、下記の算式を使用す ることとなる156

【単利法による n 年後の将来価値】(国税について適用) n 年後の将来価値=現在価値×(1+年利率×期間)

FVn=PV(1+nr)

(参考)複利法による n 年後の将来価値

n 年後の将来価値=現在価値×(1+年利率)

FVn=PV(1+r)

仮に、100 万円の国税を滞納した納税者が法定納期限の翌日から1年経過後に納付 する国税については、r(=延滞税の約定利息部分)を 1.8%とすると、100 万円×0.018%

=101.8 万円を納付することになり、この法定納期限時点の 100 万円と、1年後の 101.8 万円の相対的な価値は等しいこととなる。

一方で、法定納期限の翌日から2年経過後に税務当局から更正がなされ、当該更正 に基づき納付する 100 万円の国税については、延滞税の除算期間が適用され、1年を

154 晝間文彦『基礎コース 金融論』112 頁(新世社、2000)。

155 佐藤・前掲注(4)209 頁において、「約定利息ということは「誰の手の中にあってもこれく らいの経済的価値を生み出す」という部分のはず」とされている。

156 小林道正「ファイナンス数学の基礎」1 頁(朝倉書店、2000)。

期間 n

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