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第4回

ドキュメント内 2008_JAN.ren (ページ 34-70)

シミュレーターによるPhysical Incapacitation の再現と

CRM (Crew Resource Management) の応用についての試み

航空 空医 医学 学委 委員 員会 会

このたび、 航空医学安全委員会は PILOT 誌に、 操縦士のための 健康情報を掲載します。 会員の皆様、 自らの健康作りに活用してください。

MPL に関する ICAO 要件 (抜粋)

・ Communication effectively with other flight crew members and demonstrate the ability to effectively perform procedures for crew incapacitation, crew coordination, including allocation of pilot tasks, crew cooperation,adherence to standard operat-ing procedures (SOPs) and use of check-lists.

他の乗員と効果的なコミュニケーションが でき、 かつクルー・インキャパシテーション、

パイロットの各役割分担やクルー間の協力を 含むクルー・コーディネーションのプロシー ジャ、 スタンダード・オペレ−ション・プロ シージャの遵守およびチェック・リストの使 用を効果的に行う能力を実証すること。

当医学委員会が NTSB の事故レポートを解 析した結果、 いかに身体検査基準を厳しくして も、 あるいは、 最新検査機器をいかに導入しよ うとも、 Physical Incapacitation を予測し、

その発生を0%にすることは不可能であること が推測されました。

そこで、 観点を結果としての事故ならびにイ ンシデント0%という目的に変更し、 そのため に何が必要なのかを検討しました。 結果、 ひと つ の 方 法 と し て 、 わ れ わ れ は ま ず Phsycal Incapacitasion が起こったときのシミュレーター 訓練を行うべきという結論に至りました。

今回実際にシミュレーターを使用して訓練を 行ないましたのでここに報告します。 これは、

あくまでも将来に向けてのトライアルです。 ま た航空各社は同様の訓練を具体化する方向で準 備を進めており特記すべき事柄であると受け止 めています。

〈方法〉

B777のシミュレーターを使用した

Physical Incapacitasion を Stroke (ST) と Heart Attack (HA) の二つに限定した。

Stroke (ST) 脳卒中

Heart Attack (HA) 心臓発作

状況として、 離陸・着陸時に Physical Inca-pacitation があるという想定をした。

同時に機体のトラブルが発生する設定はしな かった。 (二つのトラブルが同時に起こること は、 想定外と判断した。)

機長は50歳代、 副操縦士は40歳代でB777の 限定保持者であった。

ランプアウトから離陸、 上昇、 巡航、 降下、

着陸、 ランプインに亘るすべての行程において CRM (Crew Resource Management) による Standard Call Out が行われていた。

〈結果〉

離陸滑走時に80kt のコールが副操縦士より あり、 それに対する返答がなく、 もう一度80kt のコールにも機長よりの返答がなかった。 2回 のコールアウトに対する返答がないため、 左側 の機長を確認したところ、 機長はコントロール ホイルに倒れこんだ形で返答がなかった。 その 時点で副操縦士は 「I HAVE」 を宣言し、 機体 のコントロールを行った。

この場合は、 離陸中止 (reject) を選択、 機 体は安全に停止することができた。

−トライアルの報告−

1) 離 陸 時 、 機 体 速 度 が 80Kt 時 に 機 長 が Heart Attack で死亡した場合を想定した。

(HA at 80kt)

2)離陸後、 V1 (離陸決定速度) VR (ローテー ション速度) V2 (安全離陸速度) に達し たところで片発エンジン停止と同時に、 機 長が Heart Attack で死亡した場合を想定 した。 (HA after V1)

離陸滑走後、 80kt、 Hold のコールに対する 機長の反応は正常であった。 その後、 V1・VR のコールに対して機長は反応せず、 2回のコー ルに対する反応がないために副操縦士が Take Over した。 機体は正常に上昇を継続した。

基本的に Heart Attack の場合は、 即死に近 い状況を想定し、 機長の体が前に倒れこみ、 両 手はコントロールホイルとスロットルレバーか ら離れてしまうことを想定した。

Incapacitation 役の機長の感想としては、 コ ントロールホイルを体全体で押す感じでやって みたが (機体はすでに離陸しており墜落を避け るためにはコントロールホイルはあるプレッ シャーで手前に引かなくてはならない) ショル ダーハーネスのために体全体が自然にコントロー ルホイールを押すことは不可能だった。

副操縦士の感想として、 右席側のコントロー ルホイールの操作性 (機長側と連動している) もほとんど気になることもなく、 通常通りのコ ントロールを行うことができた。 また、 オート パイロットに移行後には、 スムーズに機長の体 を片手で起こし、 電動シートのスイッチで容易 に機長の体を移動させることが可能だった。

Heart Attack と の 違 い は 、 Heart Attack の場合は、 基本的にほとんど即死に近い状況を 設定し、 両手がコントロールホイールとスロッ ト ル レ バ ー か ら 離 れ る こ と を 想 定 し た が 、 Stroke の場合その神経学的特性 (屈筋の能力 が最後になくなる、 つまり握ったまま離せなく なる) ことを加味して、 両手は離せないまま Incapacitation に陥ったことを想定した。 よっ て、 機長の左手はコントロールホイルを握って おり、 右手はスロットルレバーを握った状態と なる。

前述の1) と同様コントロールは簡単であっ た。 特に当初危惧していたコントロールホイー

ルに関する問題はまったくなかった。 むしろ、

スロットルレバーの上におかれた機長の右手が 邪魔であったが、 機長の右手の上からスロット ルレバーを握ることにより、 エンジンをアイド ルとし、 さらに逆噴射レバーを引くことによっ て簡単に状況は解決した。

前述の2) 3) と同様に機体のコントロール は簡単であった。 この場合は、 オートスロット ルボタンを押すことにより、 3) よりも操作性 は簡単であった。

ILS CATI 進入中に Approaching Minimum 最終着陸判断をする高度 (Dicision Altitude, DA) より100ft 高い高度、 着陸帯より300ft 高 い高度 において Heart Attack が起こったこ とを想定した。

着陸時にはまず500ft、 Approaching Mini-mum (DA より100ft 高い高度)、 MiniMini-mum (DA) のコールが行われる。 今回、 機長は500 ft、 副操縦士からの Approaching Minimum というコールに対する反応がなく、 さらに副操 縦士はもう一度 Approaching Minimum のコー ル を 行 い 、 そ れ に 対 す る 反 応 が な い 時 点 で Take Over し、 Go Around (着陸復行) を行っ た。 また、 この場合は即死を想定しており、 機 長 の 体 が 前 の め り に な る こ と で 、 Standard Call Out 時にはすでに副操縦士は異変に気が ついていた。

3) 1)と同様の条件で Stroke による Inca-pacitation を想定した。 (ST at 80kt)

4) 2)と同様の条件で Stroke による Inca-pacitation を想定した。 (ST after V1 )

5)着陸時に Heart Attack による Incapaci-tation を想定した。 (HA at 100 above Ap-proach Minima)

6)着陸時に Stroke による Incapacitation を 想定した。 (ST at 100ft above Approach Minima)

5) と同様に Approaching Minimum での 反応がなく、 副操縦士は2回の Standard Call Out に対する反応がない時点で Take Over し Go Around を行った。 この場合、 Heart At-tack と違い、 機長の姿勢の変化はわずかであ り、 Call に対する反応がないことで機長の In-capacitation を判断した。

以上で基本的なパターンは全てクリアしたた め、 以下にさらに負荷を加えて行った。

前回同様、 簡単に Take Over することがで きた。

この場合は、 Standard Call Out はすでにな く、 機長の異常や機体の RWY に対する位置 やずれ等から機長の Incapacitation を副操縦 士が察知し、 通常の Take Over を行った。 結 果、 地上10ft で上昇に移ることができた。 こ の 場 合 、 判 断 が 遅 れ て も 、 い わ ゆ る Hard Landing 程度で済む状況であった。

この場合 HA に比べて機長の姿勢は変化せ ず、 機体の状況のみからの判断となったが、 前 回同様 Take Over はスムースに行われた。

今回は通常起こりえない二つの事柄が同時に 起こった事を想定しており、 従来の安全理念の 考え方 (同時に二つは起こらない) に反するも のの、 トライアルとして行った。

Take Over 自体はスムースに行われたが、

機体のコントロール自体はかなり難しかった。

今回も Take Over はスムースであり、 離陸 時に比べて機体の不安定さは目立たなかった。

〈考察〉

われわれの渉猟しえた範囲での NTSB にお ける1987年から2007年11月にかけての20年間の Incident/Accident Report の解析結果は、 カ テゴリーとして Airplane without Homebuilt としたときに次のとおりであった。

Heart Attack によるものは68件、 うち Two Men Operation の Airline におけるものは2 件であった。 これら2件は、 いずれもパイロッ トが死亡した以外に乗員乗客に死傷者はいなかっ た。

Stroke によるものは10件、 うち脳梗塞に限 定した場合7件であり、 いずれも自家用パイロッ トによるものであった。 Airline における事故 はなかった。

以上を鑑みるに、 現実での Airline における Physical Incapacitation が Accident/Incident になる可能性はきわめて低いものと考えられる。

しかるに、 可能性が残る以上は、 その対処をす るのは当然であろう。

今回のトライアルは、 実験的なものではある が、 以下の事実が判明した。

CRM により一方の Physical Incapacitation は容易に判断できた。 また、 その後の操作は、

従来の訓練とさほど変わりはなかった。

た だ し 、 7 ) の ケ ー ス の よ う な 場 合 は 、 7)離陸時、 Haneda RWY34よりの出発の際

に250/35kt の横風を加え、 ST after V1 を行った。

8)着陸時、 今回は DA 後に Heart Attack が 起こった事を想定した。 (HA after DA)

9)同じく着陸時 DA 後に Stroke が起こった ことを想定した。 (ST after DA pattern)

10) 離陸時、 250/35kt の横風に加え、 after V1で右エンジン不作動が起こり、 さらに、

機長が Stroke を起こし、 右のラダーの踏 みかえ等が行えなくなったことを想定した。

(ST after V1 with one engine)

11) 着陸時、 250/35kt RWY34 ILS CATI において、 DA 後に右エンジン不作動と機 長の Stroke が起こったことを想定した。

(ST after DA with one engine)

Incapacitation の判断が遅れる傾向があった。

しかし、 ひとたび判断できた後は、 従来通り の手順でスムーズに操作できた。

今回は限られた時間内でのトライアルであっ たが、 興味深い結果を得ることができた。

1) CRM をしっかりと遂行すれば、 ほとん ど問題ないと思われること。

2) パイロットはもちろん、 医師自体も、 人 が Incapacitation になった瞬間はあまり 診ておらず、 その後に搬送されてきた状況 でしか想像できないということ。

3) 医師は航空機自体の進化の状況を理解し なくてはならないということ、 逆にパイ ロットは病気の基礎的な知識を持たねばな らないということ。

4) CRM の視点からみれば、 航空従事者、

医療関係者、 行政関係者が情報を共有して 問題解決に及ぶ必要があるということ。

5) 実際に1回目よりも回を重ねるごとに副 操縦士の対応は速く、 的確となったことか ら、 こういった Physical Incapacitation を想定した CRM 訓練は必要だと感じた。

〈まとめ〉

このトライアルを行うに当たり、 財団法人・

航空医学研究センター所長・津久井一平氏のご 同席ならびにご指導を賜ったことを付記し、 こ の場を借りて御礼申し上げます。

・B777を使ったシミュレーター訓練におい て、 Physical Incapacitation を再現する 試みを行った。

・時間的にも内容的にも今後のトライアルが 必要だが、 実際に事故を予防する上で有効 である可能性が示唆された。

ドキュメント内 2008_JAN.ren (ページ 34-70)

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