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【第Ⅱ部】

ドキュメント内 -社会的企業実践を手がかりに- (ページ 90-200)

83 第Ⅱ部 実践課題の克服方法

第Ⅰ部では, 生活課題を抱えた人およびその家族が参加できる「場」と「仕組み」の形 成主体としての社会的企業による実践に存在する課題が, 大きく 3点あることを明確にし た. それらを具体的にいえば, 第一に社会的企業が生活課題を抱えた人の家族との協働を いかに推進するのかという点, 第二に社会的企業が他組織との協働をいかに形成し促進す るのかという点, そして第三に社会的企業が生活課題を抱えた人の事業体内における参加 をいかに深化しうるのかという点であった. 第Ⅱ部ではそれら社会的企業が抱える実践課 題の克服に向け, その方法を明確にすることを目的として行った大きく 3つある調査の結 果およびその分析結果について述べる. 第 5 章では家族との協働方法に関する調査結果, 第6章では組織間協働の形成方法に関する調査結果, そして第7章では生活課題を抱えた 人の社会的企業への参加の深化方法に関する調査結果について述べる. それらの結果を踏 まえ社会的企業実践が抱える3つの課題をいかに克服すればいいのかについて, その方法 を明確にしたい.

第5 章 生活課題を抱えた人の家族との協働方法

本章は, 生活課題を抱えた人の家族との協働を, 社会的企業はどうすれば推進できるの かについて, その方法を明らかにすることを目的としている. そのために, 障害者の自立 を支援する事業体と障害者の家族との協働に関する調査を行った. その前にまず第 1 節 では, 協働というものが社会福祉分野における研究の中で長らく課題とされてきたことを 簡潔に指摘する. そのうえで第2節では改めて家族との協働に焦点を当てた調査研究の必 要性について述べる. そして第3節で調査目的, その方法, 調査先概要について述べ, つい で第4節で調査結果について述べる. その結果を踏まえ第5節では小括として, 生活課題 を抱えた人の家族との協働を社会的企業がいかに推進しうるのかについて考察する.

第1節 歴史的課題としての協働

協働は, 社会福祉分野における研究の中で歴史的に課題とされてきたが, 今なお課題と して積み残しの状態にある. 前田(1968)は,地域における福祉実践の中核を担うことを期 待される社会福祉協議会(以下, 社協)を「地域の保健福祉問題を,地域住民の自主的な協働 活動あるいは協同事業によって解決しようとする団体」とした. 自主的な協働活動あるい は協同事業のうち, 地区組織活動が協働活動だとした. また, 前田(1977)では, その協働活

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動をコミュニティ・オーガニゼーションにおける第一の活動の形態としたうえで, コミュ ニティ・ケア・サービスへの住民の参加が必要だが, 参加のルートやシステムも出来上が っていないと指摘している. 前田のこうした指摘は, 社会福祉協議会に向けたものである.

しかし, 生活課題を抱えた人およびその家族が参加できる「場」と「仕組み」の形成主体 として期待がかけられている社会的企業研究は, 「社会問題の解決のために, 市民が参加 し、コミュニティを生み出すような事業体がどうやったら発展していくことができるのか」

という問いに応えられるレベル(藤井 2013)に到達する必要性を抱えており, そうした指 摘は示唆に富む.

その後2004年には, 全社協から「インフォーマルサービス協働システム開発研究普及事 業 報告書(以下, 協働報告書)」が公表された. 協働報告書では, 地域の多様な活動主体が, もっといきいきと活動し, 効果をあげるためには, 「協働」するしくみづくりが求められ ているとする. 「地域のパワーをつなぐ協働 くらしの場をささえるしくみづくり」と題 したハンドブックも同時に作成されたが, その読者として, とりわけ市町村社協職員があ げられている. このことは, 社協による協働の仕組み創出が求められていたということだ が, この指摘も同様に地域における生活課題の解決主体として期待されている社会的企業 にも, 協働の「仕組み」づくりが求められていると言い換えることができよう.

また福山(2009)は, 協働を体制として理解したうえで, 協働体制を稼働させ機関間の役 割・機能について明確に提示する必要があることを指摘している. その背景として, 協働 の成果があまり見られていない事実があり, 協働体制がうまく稼働していないことがある と述べている. さらに近年でも, 「パートナーシップ」や「協働」という言葉がよく使わ れているが, 住民参加という形式や協働という言葉だけが注目され, その内実は検討され ていない(原田 2014:57)現実がある. このように社会福祉分野における研究の中で, 協 働を仕組みにするために, どのように協働を推進していけばいいのかということは長らく 課題として残されてきた. そのことは, 地域に存在する多様で重層的な生活課題の解決と いう役割を担うことが期待されている社会的企業にとっても当てはまる.

第2節 家族を対象とした調査研究の必要性

前節で述べたように, 協働は社会福祉研究の中で長らく課題として残されたままの状態 にある. 第Ⅰ部で明らかにしてきた社会的企業が抱える実践課題として 3 点あったが, 家 族そして他組織との協働を社会的企業がいかに形成および促進するのかについての方法は,

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まさにそのことを裏付けている. その中でもとりわけ家族との協働は, 社会福祉の現場に いる人びとはいうに及ばず, 一般の人びとも, 家族に課せられた役割期待が実際の家族の 力を超えたことから起こる課題を数多く見てきている(渡部 2015:3)実態があり, その必 要性の高さは明らかであるにもかかわらず, その方法についてはこれまで明らかにされて いないと考えられる.

これまで日本の社会福祉そしてソーシャルワークは, 児童, 高齢者, 障害者などの援助 を必要としている本人を対象として彼ら個人の自立に向けた支援をし, 障害者の親, 兄弟 への支援は不十分であった(杉山 2007:5). 障害分野では, 2013年4月の障害者総合支援 法施行に続き, 2014年2月には障害者の権利に関する条約が発効し, 2016年4月1日から は障害者差別解消法が施行された.それらは, 障害者の地域自立生活支援(大橋 1999:15) を市町村圏域で展開しようとするものである. だが制度化は進んでも,障害者の親はわが 子に対して「制度」と同等の機能を期待され, すなわち「制度の含み資産」としてあり続 けている(川向 2015:78)との指摘がある. 春日(2001)が指摘した, 障害者の親が「生活権 の保障」を求めて, 声をあげにくい,「愛情」規範,「自助」規範が支配する社会のありよう は変わっていないとも言える.

その一方で, 障害者にとって一番の専門職はその人自身である(中西・上野 2003)が, 家 族は「日常生活の情報を専門職とは比較にならないほど有している」(青木 2013:120) 存在であり, 生活課題を抱えた人の地域自立生活に向けた支援を仕組みにしていく中で不 可欠な存在であるといえる.

そうした中, 社会的企業研究では協働の対象として, 課題を抱えた人にとって重要な

「環境」として意味を持つ家族(渡部 2015:3)は取り上げられていない. 図表 20 は, 社 会的企業が協働をする対象, その対象との協働の促進に向け必要だとされる要素, そして その要旨の抜粋を, 第3章にてレビューを行った文献の中から,「協働の試み」カテゴリー に分類された19論文についてとりまとめたものである. 整理の進め方としては, ①文献の 再精読, ②目的, 協働の対象, 研究方法, 結果, 課題等のとりまとめ, ③協働の促進に向け 強調されている箇所のマーキング, ④対象としての「行政」「地域」「営利企業」「他組織」

ご と の, 協 働 に お け る 必 要 な 要 素 の 抽 出 と い う プ ロ セ ス に て 行 っ た も の で あ る(南

2015c). ここではその詳細については触れないが, 社会的企業が多様な主体との協働を促

進するうえで必要な要素として大きく 4 点あった. 具体的には, 第一に対等な立場で連携 をしておくこと, 第二に協働する相手を知ること, 第三に対等に協働するための力を蓄え

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ておくこと, そして第四に成果訴求を行うことである. これらの要素をまとめれば, 協働 の前, 協働の最中における, 多様な主体との意図的なコミュニケーションが不可欠である ということができる. そのことは,「過程を重視した対等型協働」(原田 2014)を重層的に, 多方向に構築する必要性を意味するともいえる.

図表20 社会的企業研究における協働の対象と協働の促進要素

対象 必要な要素 要旨抜粋

行政 組織としての能力 文書作成能力,補助金給付までの間を耐えうる資金力,早期に結果を出せる体制,外部に対し自 身の活動を可視化できる力など(Gabor 2011)

最終ゴールの再確認による適切な実践方法の選択能力(Piccitto 2013)

行政とのつながり 情報や資源へのアクセシビリティの向上,行政言語や煩雑な手続きへの適合(Gabor 2011) 市の中での発展を可能にする前提としてのネットワーキング(Birkhölzer 2009) 関係性にかかるスキルの向上が必要(Imamura 2013)

組織間連携組織 公民協働の前提(Gabor 2011) 住民の主体性醸成に向け

た教育

協働を推進する力,協働のプロセス構築力,あるいは協働そのものの開発力に向けて(Zivkovic 2011)

ソーシャルキャピタルの構築および改善に向け.人びとが課題に気づくところから発展が始 まる.(Birkhölzer 2009)

地域 地域のステークホルダー との,開かれた,濃密なコ ミュニケーション

地域と協同組合のリーダーたちとの対話(Chun, Han, Park 2011) 関係性にかかるスキルの向上が必要(Imamura 2013)

支配的な論調そしてその論調が持つ価値,ゴール,そしてルールに敏感である必要性(Glun 2013)

ボランティアに対する考え方の変化に敏感である必要性(Schenkel 2013) 組織間連携組織 目的や関心の共有,新たな協同組合の醸成(Chun, Han, Park 2011)

インフォーマルな方法に よる,地域のサービス供 給への参加促進

地域課題共有の為の場所の提供および協働実践の展開が必要.それが社会的企業自身の持続 可能性につながる(Nakagawa 2009)

エンパワメントモデルへの移行が肝要であり,貧困層の変容を支援する構造やシステム構築 が必要(Dacanay 2013)

コミュニケーション戦略 戦略的,計画的,システマティックな展開による正当性の担保が必要(Gilorimini 2013)

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