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章 総括と展望

ドキュメント内 永澤 和道 (ページ 117-147)

6-1. 本研究の総括

造血生理は脊椎動物に共通した生命維持機構である.したがって,様々な種にお いて造血生理を比較し普遍性と多様性を解明することで,その理解を深耕すること ができる.しかし,造血生理に関する多くの知見は,臨床との繋がりから哺乳類で あるヒト,マウスに限られてきた.そこで本研究では,両生類であるアフリカツメ ガエルの造血生理に関与する蛋白質群の生物学的特性を解析した.すなわち,まず 造血因子

EPO

の分子性状と構造について解析し,さらに

EPO

を含めた蛋白質群の 調節系に対象を広げ,血液・造血系の低温環境応答における蛋白質群の量的変動を 解析した.

6-1-1. EPO

の分子性状と構造活性相関

EPO

の遺伝子配列は,約

80

種もの生物で明らかとなっているが.哺乳類以外で

EPO

が赤血球産生にはたらくことが示されているのは,アフリカツメガエル,ゼ ブラフィッシュ,キンギョのみである.また,

EPO

の分子性状や構造活性相関に ついてはヒトで明らかとなっているのみであり,哺乳類以外の

EPO

では不明であ った.そこで,アフリカツメガエルの

EPO

の分子性状と構造活性相関を明らかに することを目的とした.

研究を進めるにあたり,xlEPOの検出系が不可欠であった.そこで,xlEPOに対 する抗体を複数作製し,免疫学的手法による

xlEPO

の検出を可能とした(第

2

章). そして,得られた抗体のうち,huEPO の受容体結合部位に相同な領域を含む抗原 ペプチドに対する抗体は中和活性を有し,この部位は

xlEPO

においても活性に重要 な領域であることが示唆された.xlEPOと

huEPO

は一次構造の相同性が約

38%と

低いにも関わらず交差活性を示す(Nogawa-Kosaka et al., 2010).一方で,xlEPOに は哺乳類に共通する

3

か所の

N

結合型糖鎖付加部位がない(Nogawa-Kosaka

et al.,

2010)

.そこで,この性質に着目して,

huEPO

との相同部位(Asn24,

Asn38, Asn83)

に導入した

N

結合型糖鎖が

xlEPO

の物理化学的性質と

in vitro

生物活性に与える影 響を調べ,分子性状と構造活性相関について考察した(第

3

章).野生型および糖

鎖付加

xlEPO

COS-1

細胞で発現させたところ,

Asn24

Asn38

には問題なく糖鎖

が付加されたが,

Asn83

には付加されない分子を認めた.これより,

huEPO

xlEPO

の立体構造は,

24

位,

38

位周辺は保存されているが,

83

位周辺は異なると考えら れた.陽イオン交換または疎水性クロマトグラフィーでの分画により,野生型

xlEPO

huEPO

よりも塩基性および疎水性が高いこと,糖鎖付加により塩基性は

低下し親水性が上昇することがわかり,野生型

xlEPO

は内分泌よりも傍分泌に適し ていると考えられた.糖鎖付加により

xlEPO

in vito

生物活性は消失しないこと

から,

xlEPO

の活性領域は

huEPO

と同様に

24

38

位周辺以外に位置すると考えら

れた.また,糖鎖付加は

xlEPOR

に対する

xlEPO

のエフィカシーを減少させるが

huEPOR

に対するエフィカシーには影響を与えないことから,導入した糖鎖は

xlEPO-xlEPOR

の立体配置には干渉するが,

xlEPO-huEPOR

の立体配置には干渉し

ないことが示唆された.

以上を通し,

EPO

の分子性状と構造活性相関に関して,アフリカツメガエルと ヒトでは,物理化学的性質は異なるものの立体構造と活性領域が保存されている可 能性,シグナル伝達に最適な

EPO-EPOR

の立体配置は異なる可能性を示した.

6-1-2.

造血の低温環境応答

温度は生物が常に曝される外部環境の一つであり,生物は環境温度の変化や高 温・低温環境といった外部ストレスに対して応答し,内部環境である体内の恒常性 を維持する必要がある(温度環境応答).血液・造血系も例外ではなく,様々な生 物において,季節性にあるいは低温環境下で末梢血球数が変動することが報告され ている.しかし,末梢血球数の変動に至る機序や末梢血球数の変動に連鎖する生体 内反応はほとんど理解されていない.アフリカツメガエルは

5°C

の低温環境下にお いて汎血球減少を呈し,赤血球減少は肝臓における赤血球破壊の亢進が一因である ことが示されている(Maekawa et al., 2012).そこで,本研究では,低温環境下に おける血球減少の分子機序および血球減少に連鎖して誘導される造血巣の初期応 答に関する仮説生成の糸口を得ることを目的とした.そして,2010 年にネッタイ

メツガエルで全ゲノム解読が達成され,ツメガエルにおけるプロテオミクスの重要 性が高まっていたことから,仮説生成の手段としてプロテオミクスを採用した.

研究を開始するにあたり,アフリカツメガエルはゲノム解読の途上にあり,プロ テオミクスが有効である確証がなかった.そこで,まず,アフリカツメガエルとネ ッタイツメガエルの血漿蛋白質を分析し,比較することでその有効性を検証した

(第

4

章).その結果,蛋白質同定数に大差はなく,遺伝子オントロジーの注釈が 付与されている蛋白質が占める割合はアフリカツメガエルの方が高かった.以上よ り,プロテオミクスで同定した蛋白質群から生物学的解釈を通して仮説生成に至る にはアフリカツメガエルの方が適していると考え,低温環境下のプロテオーム変動 の解析へ進んだ(第

5

章).造血・代謝器官である肝臓と構成蛋白質の変動が生理 状態を反映する血漿を対象に,

LC–MS/MS

分析による蛋白質の網羅的同定と量比 解析,遺伝子オントロジー解析とパスウェイ解析を実施し,対照(

22°C

飼育)と 低温曝露(

5°C

24

時間飼育)で比較した.

低温曝露の血漿では,ヘモグロビンサブユニット鎖の増加を認め,イムノグロブ リンと補体が減少傾向にあったことから,赤血球減少は破壊亢進のほか溶血にも起 因し,抗体や補体が関与する可能性があると考えられた.また,

α

2

マクログロブ リンとフィブリノーゲンの減少を認め,アンチトロンビンは減少傾向にあった.ヒ トにおいては,このような血漿蛋白質の変動を伴う血小板減少が

DIC

で認められ る.これより,栓球減少は血管内凝固による栓球の消費が一因である可能性がある と考えられた.

肝臓で誘導される応答に関しては,同定された蛋白質群のパスウェイ解析におい て対照と低温曝露に共通して抽出された糖代謝系に着目した.まず,低温曝露では 解糖系律速酵素とグリコーゲン合成系酵素の減少,グリコーゲン分解律速酵素の増 加を認めたことから,解糖は抑制され,グリコーゲン分解が亢進していると考えた.

そして,肝臓中グリコーゲン量を比較し,低温曝露では低値傾向にあることを確認 した.そこで,次に,グリコーゲンの用途について調べた.グリコーゲンは分解後 に

G6P

となり,主に解糖とグルコース産生に利用される.肝臓中グルコース量を 比較すると低温曝露で有意に低く,解糖とグルコース産生には利用されないと考え られた.他には,ペントース–リン酸経路における

NADPH

産生への利用が挙げら

れる.しかし,肝臓中

NADPH

量には対照と低温曝露で差を認めなかった.酸化ス トレスが生じるとき,

NADPH

は抗酸化物質の供給に消費される.そして,肝臓の 組織所見では,低温曝露において鉄の集積を認めることから酸化ストレスが生じて いると考えられる.これらをふまえると,低温環境に曝されたアフリカツメガエル の肝臓では,破壊赤血球に由来する鉄の集積で生じる酸化ストレスに対応して抗酸 化物質を供給するために,グリコーゲンの分解を亢進させ

NADPH

産生を維持して いる,と考えると合理的である.

以上を通し,血液・造血系の低温環境応答として,アフリカツメガエルにおける 低温環境下での血球減少機序と肝臓における赤血球破壊亢進に連鎖する生体反応 ついて仮説生成につながる知見を得た.マウスでは,

5°C

の低温環境下で末梢赤血 球数が増加する(

Maekawa et al., 2013

).これは酸素消費量の増大に伴う低酸素状 態により腎臓での

EPO

発現が増加し,骨髄と脾臓における赤血球産生が亢進する ことによる.したがって,血液・造血系は低温環境に応答して生物ごとに固有な調 節を受ける.本血球ではその一旦を示した.

6-2. 今後の課題と展望

6-2-1 EPO

の分子性状

野生型

xlEPO

と糖鎖付加

xlEPO

は,それぞれ臓器内拡散による傍分泌と血液循

環を介した内分泌に適した分子性状を有していることが明らかとなった.野生型

xlEPO

と糖鎖付加

xlEPO

in vivo

での生物活性や動態を実際に調べることで,作

用様式の理解を深めることができる.

脊椎動物間で

EPO

の糖鎖修飾の有無や発現分布,赤血球産生部位を比較すると,

種によって様々である.

EPO

の糖鎖修飾は,生息環境を反映した種ごとの赤血球 産生体系によって異なるのかもしれない.ヒト・マウス成体の主要な赤血球産生部 位は赤色骨髄であるが,胎仔期には肝臓内で

EPO

の分泌と赤血球産生が同時に行 われている.その後,赤血球産生部位は脾臓,骨髄と移行し,出生後には骨髄が中 心となる.また,大量出血時などには成体においても肝臓や脾臓などの骨髄以外で 造血が生じる(髄外造血).したがって,造血器は柔軟に変化すると推察される.

一方で,アフリカツメガエルの主要な赤血球産生部位は肝臓であり,骨髄は黄色脂

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