本論文では,モバイルコンピューティング環境下で活動するユーザに実世界情報 を提供するための,周辺情報提示手法を提案した.まず,実世界向けの汎用検索手 法として,領域可変型情報検索手法Baumを提案した.Baumは,検索対象と検索 範囲それぞれに特定の幾何形状を仮想的な「領域」として設定し,互いの領域の重 なり度合いによって対象の評価値を決定する手法である.次にBaumによる情報 検索を,モバイルユーザ向けの周辺情報提示に適用した.Baumの適用によって,
ある対象に設定された重要度と,現在地からその対象までの物理的距離とを総合 的に評価できることを評価実験によって示した.Baumを利用したモバイルユーザ 向け周辺情報提示によって,ユーザの地理的位置に合わせ,店舗・施設のような周 辺情報を提示することが可能であり,これによってユーザの行動計画を効果的に支 援できると考えられる.さらに,環境の変化やアプリケーションの要求に応じて 動的に構成・機能を変更することができる,構造可変モバイルエージェント機構
AgentStackを提案した.AgentStackは,システム内のデータフローをデータスト
リームと捉え,データ処理過程を5つの基本機能に分割した階層構造を持つミドル ウェアとして構成される.各階層をモバイルエージェントベースのコンポーネント として実現することで,モバイルエージェントのコンピュータ間移動性を通して,
ミドルウェア機能の変更・拡張を可能とする.提案するミドルウェアをJava言語 により実装し,基本性能の評価を行った.また,動的な機能の変更・拡張および複 製・転送による動的配置が可能であることを,事例を用いて示した.
モバイルユーザは物理的な移動をともなうため,動的な位置変化と許容される移 動距離を考慮して適切な情報提示を行う必要がある.また,一般に利用されている 位置情報サービスにおいては,地図データ規格の相違や携帯端末間の機能差が大き く,実用システムの構築には,リソースを相互利用するためのデータ処理行機構が 必要となる.本研究では,領域可変型情報検索手法Baumおよび構造可変モバイル エージェント機構AgentStackを提案し,これらの要求に応える.
本研究の目的は,実世界で行動するユーザの移動支援を行うために,行動計画を 立てる上で必要な周辺情報の提示手法を開発することである.周辺情報提示アプリ
第7章 結論
ケーションをPalm OSで動作するPDA上に実装し,ユーザの動的な位置変化と 許容される移動距離に応じた周辺情報の提示が可能となることを評価実験により示 した.
本論文で提案した周辺情報提示手法は,実世界情報システムの分野において有用 であると考える.当該分野は,通信環境や携帯端末,位置情報技術の発展により,
モバイルコンピューティング環境下で活動するユーザに実世界情報を提供するサー ビスとして注目されており,今後ますます重要になると考えられる.とりわけ,領 域可変型情報検索手法Baumによって,ユーザの地理的位置に合わせ,店舗・施設 のような周辺情報を提示することが可能となり,ユーザの行動計画を効果的に支援 することが可能であると考えられる.さらに,構造可変モバイルエージェント機構
AgentStackによって,環境の変化やアプリケーションの要求に応じてシステムの
構成・機能を動的に変更・拡張することが可能となり,クライアントとなる携帯端 末や位置情報を提供するデータ形式が多様な傾向にある実世界指向システムにおい て適応性に優れたシステム構築が可能となると考える.
謝辞
本研究を行う機会を与えて下さり,また研究を進めるにあたり厳しくも温かく御 指導下さいました 慶應義塾大学理工学部教授 安西 祐一郎 先生 に心より感謝致 します.安西先生には,お忙しい中いつも気に掛けていただき,格別の配慮を頂き ました.幾度も挫折しそうになる私を励まし,温かく見守って下さいました.安西 先生の薫陶を受けることができたことが,私にとっての最大の幸運だと思ってい ます.
慶應義塾大学理工学部助教授 今井 倫太 先生 には,多くのディスカッションを 通して研究内容に関して多くのアドバイスを頂きました.また,研究の進め方,論 文の書き方など多くの御指導を頂きました.自らの経験に基づく今井先生の御指 導は,論理的かつ非常に理解し易く,研究に行き詰まり悩んでいた私のブレイクス ルーとなるものでした.心より感謝致します.
慶應義塾大学理工学部教授 寺岡 文男 先生 には,論文の細部にわたり多くの貴 重な御意見を頂きました.また,何度も時間を割いて頂き,快くディスカッション に応じて頂きました.慶應義塾大学理工学部教授 櫻井 彰人 先生 には,お忙しい 中,本論文の審査を御快諾頂き,有益なコメントを数多く頂きました.特に,研究 内容について御理解を頂き,温かい御意見に大いに励まされました.ここに謹んで 感謝致します
国立情報学研究所教授 佐藤 一郎 先生 には,モバイルエージェントシステムの 研究にあたり多くの御指導を頂きました.そもそも,モバイルエージェント技術と の出会いは佐藤先生の研究紹介プレゼンテーションでした.その後御縁があり,研 究を御一緒させて頂き,大変貴重な経験を積ませて頂きました.私の力不足によ り,佐藤先生には色々と御迷惑をお掛けしましたことを大変申し訳なく思っており ます.また,研究を御一緒させて頂いた期間,もっと多くのことを吸収できたので はないかということが非常に悔やまれます.佐藤先生の存在なくしては,現在の研 究者としての私は在り得ません.心より感謝致します.
名古屋大学教授 長尾 確 先生 には,長尾先生が日本アイ・ビー・エム東京基礎 研究所に御在籍の折,学生研究員として研究を御一緒させて頂き,多くの貴重な経 験をさせて頂きました.長尾先生の研究に対するひたむきさ,純粋な情熱には多大 な影響を受けました.学生研究員と対等な目線で議論を交わす姿勢のお陰で,様々 なことを学ぶことができました.思えば,私が研究者の道を選んだ決め手は,長
尾先生と研究を御一緒させて頂いた経験であると云えます.ここに謹んで感謝致し ます.
また,日本アイ・ビー・エム学生研究員として時間を共にした,大平茂輝氏,東 中竜一郎氏,細谷真吾氏,福岡俊樹氏,片桐由希子さんには,長尾プロジェクトメ ンバーとしての研究活動を通して,多くの貴重な経験をさせて頂きました.一つの システムを共同作業によって完成させる過程や,展示会への出品準備など,様々な 苦労を共にした日々は私の大きな財産です.ここに,心より感謝致します.
安西研究室の先輩である白石陽氏には,卒業研究時より大変お世話になりまし た.研究内容への有益なコメントはもちろん,大学院での研究生活や様々な手続き に至るまで,実に多くの助言を頂きました.また,共に博士課程に進んだ同期であ る,川島英之氏,大村廉氏,宮崎崇史氏には,様々なディスカッションを通して多 くの意見を頂きました.皆で集まって話をする際には,たわいない雑談である程有 益な意見が飛び出したように思えるのも,良い思い出です.特に,それぞれ修了し た後も機会のあるたびに,残された私に励ましの言葉を頂きました.心より感謝致 します.
安西研究室の卒業生である,谷澤佳道氏,白井俊紀氏,大前寛子さん,油本宗久 氏,鳴海真里子さん,広田裕氏には,研究グループの活動を通して貴重な経験をさ せて頂きました.後輩と一緒に研究に取り組むことで,一人で学んだり,他人から 教えを受けたりすることでは得られない,貴重なことを習得することができたよう に思います.頼りない先輩を慕ってくれ,大変ありがたく思っています.心より感 謝致します.
そして,向井淳氏,石井健太郎氏,佐竹聡氏,大澤博隆氏をはじめとする,安西・
今井研究室の現役学生の皆様には,多くの御協力と御意見を頂きました.また,元 研究室秘書の永坂弘子さんには,研究室生活を様々な面から支えて頂くとともに,
何度も励ましの言葉を頂きました.ここに,心より感謝致します.
そのほか,本論文は本当に多くの方々に支えられて完成することができました.
ここに全ての方の御名前を挙げることは叶いませんが,謹んで感謝致します.
最後に,深い理解と様々な協力により,最も身近に研究生活を支えてくれた家族 に感謝します.とりわけ,一人上京したまま長年にわたり勉学と研究の生活を続け る息子に理解を示してくれた母に心より感謝します.
2007年 2月 梅澤 猛