5.1
実装
4章をもとに、RT-Mach上に通信メディア切替え機構、通信メディアへの適応機構、ハ ンド オフコントローラを実装した 。以下ではそれらについて述べる 。
5.1.1
全体構成
本稿で提案するシステムを実現する上で中心となる移動計算機およびプロキシーエー ジェントの全体構成を図5.1に示す。
移動計算機はメディア切替え機構と環境サーバを持つ 。メディア切替え機構はプロト コルスタックとデバイスの間に位置し 、通信メディアの選択、切替え、通信メディアへの 適応を可能とし 、それぞれ内部にあるハンドオフコントローラ、メディアスイッチャ、ス ヌーパが機能する。環境サーバは、移動計算機の環境情報をデータベースとして一元的に 管理し 、統一されたインターフェースによりアプリケーションにそれらの情報を提供する サーバプログラムである。メディア切替え機構では、環境サーバからの情報はハンドオフ コント ローラが受け取る 。それらの情報をもとにハンド オフコント ローラで状況に応じ た通信メディアを選択する。その結果をメディアスイッチャへ通知することでメディアス イッチャは通信メディアを切替える 。
通信メディアの特性に適応するための機構がスヌーパである 。スヌーパは従来のIETF
Mobile IPシステムのフォーリンエージェントを拡張したプロキシーエージェント内と移
動計算機のメディア切替え機構に提供されている 。移動計算機とプロキシーエージェン ト 内のスヌーパはお互いに協調動作することにより通信メディアへの適応を可能として
図 5.1: 全体構成
いる 。
5.1.2 RT-Mach
への実装
図5.1の全体構成をもとに、メディア切替え機構とプロキシーエージェントの実装を行 なった 。ベースとなるOSにはRT-MachマイクロカーネルとUnixサーバ(Lites)を採用 した 。構成を図5.2に示す。
RT-Machは、マイクロカーネルである。マイクロカーネルでは基本的な機構のみをカー
ネルサービスとして提供しており、その他のサービスはユーザレベルのサーバとして実装 される。今回使用するLitesサーバは4.4BSDのエミュレーションを行なうサーバであり、
この中にプロトコルスタックなどが提供されている。このようにデバイスとプロトコルス タックが分離されているためメディア切替え機構の実装が容易になる 。
メディア切替え機構はユーザレベルのプロセスとして提供するが、プロトコル階層的
図 5.2: RT-Machへの実装
には IP層の下に位置する 。メディア切替え機構をこの位置に配置することにより、通信 メディアの切替えに伴うIPアドレ スの変化を上位の層から隠蔽することができ、通信メ ディアの仮想化が実現されている 。移動計算機のLitesはトンネルデバイスを通信メディ アとして認識し 、アドレスはトンネルデバイスに割り当てられたものを使用して仮想的に ネットワークに接続する 。こうすることにより、Lites上のシステムは常にこのアドレ ス を使用して通信を行なおうとする 。Litesがトンネルデバイスに書き込んだパケットは メ ディア切替え機構によって取り込まれ、内部で適切な処理を行なった後、ネットワークイ ンターフェースへ渡される。ネットワークインターフェースからのパケットは内部で処理 を行ないトンネルデバイスへ渡される 。
この実装方式の利点としてはメディア切替え機構をプロトコルスタックより下位に位置 することにより従来のネットワークアプリケーションをそのまま利用できることである 。 また、ユーザレベルのプロセスとして実装されているため拡張や変更が容易にできると いった利点もある 。
プロキシーエージェントも移動計算機でのメディア切替え機構と同様にRT-Mach上に 実装する 。このプロセスでは、RT-Machのカーネルレベルのパケットフィルタを用いる ことにより必要なパケットをフィルタリングすることでLitesとは完全に独立したものと して実装されている 。
以下でメディア切替え機構とプロキシーエージェントの内部構成について述べる 。 メディア切替え機構
図5.3にメディア切替え機構の内部構成を示す。メディア切替え機構はプロトコルイン ターフェース、スイッチゃ、デバイスインターフェースから構成される 。
デバイスインターフェースはカーネルにあるデバイスとのパケットの受渡しを行なう インターフェースである 。デバイスド ライバとの入出力はRT-Machマイクロカーネルの パケットフィルタを利用して直接接続して行なう。またデバイスインターフェースは異 なる通信メディア毎に用意されており、各通信メディアに特化した処理(イーサネットで のARPなど)やアドレ スの取得はここで行なわれる 。スイッチャからデバイスインター フェースへのインターフェースを統一し 、IPパケットのやりとりをすることにより、ス イッチャはリンク層を意識する必要がなくなり、イーサネットやPPPなど異なるメディ アを同等に扱うことができる 。
プロトコルインターフェースはLitesのトンネルデバイスとの入出力を行なうインター フェースを提供する 。この他にトンネルデバイスの初期化や終了処理も行なう。
スイッチャの主な機能は、プロトコルインターフェースとデバイスインターフェースを 結びつけることである 。スイッチャはデバイスインターフェースからプロトコルインター フェースへのパケットの送信とプロトコルインターフェースからデバイスインターフェー スへのパケットの送信といった処理を行なう2つのスレッド を持つ。スイッチャのその他 の機能としては 、移動先のネットワーク上にプロキシーエージェントが存在しない時に ホームエージェントへの登録を行なうためのプロキシーエージェントの最低限の機能を持 つ。これはICMPルータディスカバリヤレジストレーションメッセージの中継を行なう。
また、ハンドオフコントローラからの通知によりデバイスインターフェースの切替えも行 なう。切替える際に2つのスレッド を同時に切替える必要があるためミューテックスとコ ンディション変数を用いた同期機構を用意している 。
移動先ネットワークにプロキシーエージェントが存在する場合は、移動計算機が使用し ている通信メディアの特性に適応するためスヌーパを使用する。スヌーパを使用する時の 内部構成を図5.4に示す。
移動計算機内のスヌーパはデバイスインターフェースとプロトコルインターフェース の間に位置する 。スヌーパへのインターフェースは upSnoopとdownSno opの二つがあ
る 。upSnoopはデバイスインターフェースからプロトコルインターフェースへ流れるパ
ケットを受け取る。downSno opは逆にプロトコルインターフェースからデバイスインター フェースへのパケットを受け取る。正確にはこれらのインターフェースはスイッチャにあ
図 5.3: メディア切替え機構
るupcallと downcallのスレッド に提供している 。スヌーパにはupSnoopと downSnoop の2つのスレッド 以外に様々な通信メディアへの適応モジュールがある 。これらの イン ターフェースはそれぞれのモジュールで統一されているため、新たなモジュールの追加や 変更は容易に行なうことができる 。現在実装したモジュールは 、PHS等のバンド 幅の狭 い通信メディアを利用する時に使用するパケット圧縮モジュールと無線LAN等のエラー 率の高い通信メディアを利用する時に使用するエラーリカバリモジュールの2つである 。
upSnoopは、アップコールから受け取ったパケットのヘッダをチェックし 、これを元に
どのモジュールを使用するかを判断する 。これと同時にこのパケットを元のIPパケット に戻しプロトコルインターフェースに渡す。downSno opはダウンコールから受け取った
図 5.4: 移動計算機内のスヌーパ
IPパケットにプロキシーエージェントへ送るためのヘッダを付加し 、現在使用している 通信メディアの特性により使用するモジュールを判断し処理を行なう。そしてそのパケッ トをデバイスインターフェースへ渡す。
プロキシーエージェント
図5.5にプロキシーエージェントの内部構成を示す。プロキシーエージェントはMobile
IPでの登録用のスレッド 、ICMPルータディスカバリへの返答用のスレッド 、基本的に
は MHsnoopとHAsnoopの2つの手続きおよび様々なメディア適応モジュールから構成
される 。
図 5.5: プロキシーエージェント
プロキシーエージェントはRT-Machマイクロカーネルのパケットフィルタを用いてデ バイスと直接繋がっている。そのためLitesサーバとは完全に独立して動作している 。最 初にプロキシーエージェント 内の手続きpktSwitchが必要なパケット 取り込み、そのパ ケットに対応する手続きへ振り分けてる 。パケットが移動計算機からのICMPルータ懇 願である場合は図のrouter advertスレッド へ、移動計算機やホームエージェントからの 登録パケットの時は図のregistスレッド へ、移動計算機からの適応処理を施されたパケッ
トはMHsnoopへ、ホームエージェントからのIPIPパケットはHAsnoopへそれぞれ渡さ
れる 。
スヌーパ内のメディア適応モジュールを機能ごとに分け、インターフェースを統一する