第一章 フランスの倒産手続における経営者責任
第二節 制度上の違いに関する比較
二、 非金銭的制裁
フランス法における分類に従うと、経営者の倒産責任は、財産上、職務上、および刑事責 任に分かれる。そのうち、財産上の責任以外の職務上の責任(制裁)と刑事責任(制裁)は、
非金銭的制裁とも呼称されている。
刑事制裁の典型となっている詐欺破産罪について、日仏法は、ほぼ同様な趣旨に従い、そ
414 最大判昭和44年11月26日民集23巻11号2150頁。大法廷は、以下のように商法266条ノ3(現行 会社法429条)の範囲を解釈した。すなわち、同条文は、「取締役の任務懈怠の行為と第三者の損害との間 に相当の因果関係があるかぎり、会社がこれによって損害を被った結果、ひいては第三者に損害を生じた 場合であると、直接第三者が損害を被った場合であることを問うことなく、当該取締役が直接に第三者に 対し損害賠償の責に任ずべきことを規定したのである」。
415 山田・前掲注(12)218-219頁。山田教授の論文が発表された時期は、経営者の填補責任が責任推 定の形でとられていたにもかかわらず、その債権者権利保護の機能からすると現行法における積極財産不 足責任と共通しているといえる。
113 の構成要件を定めている。
制度上、やや異なっているのは、職務上の制裁たるフランス法における個人破産の制裁と 日本法における資格制限である。厳密に言うと、フランス法の企業倒産時に経営者に適用さ れる職業上の制裁は、日本法には設けられていない。ただし、経営者保証の適用により、自 己破産に付随している資格制限から、フランスの職業上の制裁と類似の結果が生じている。
したがって、本稿は、非金銭制裁について、フランス法における個人破産の制裁、および 日本法における資格制限の制裁を職業上の制裁の比較対象とし、詐欺破産罪を刑事制裁と する。
第二節 制度上の違いに関する比較
具体的には、フランス法上の経営者倒産責任制度は、次の点において、日本法における 企業倒産時の役員の損害賠償責任追及制度とは異なっている。
第 1 款 倒産手続類型による区分有無とその意義
フランスでは、2005年法以降、それまで厳格責任として評価されていたフランスの填補 責任が、その呼称のみならず全体的に斬新な制度に変革された。新たな積極財産不足の責任 のみならず、職業上の制裁、刑事制裁も裁判上の清算手続においてのみ追及されるものとさ れた。例えば、財産上の責任について、フランス法は、債務者企業の支払停止を倒産責任の 基準時としており、基準時後に、経営者によって債権弁済の必要性が顕在化されてきたため、
清算型倒産手続において特別に経営者の倒産責任があるとした。基準時前は、企業救済手続 の中で、経営者の立場が非常に優遇されている。
これに対して、日本法の下では、破産手続のみならず民事再生・会社更生手続においても、
役員責任査定の手続が存在する。その結果、経営者にとっては、民事再生手続の申立てをし ても、自分の個人財産が損害賠償責任の危険に晒されている状態となり、再生手続の申立て に躊躇することとなる。理論的に考えると、債務超過に陥る前の民事再生手続の場合、会社 の財産がまだ存在しているにもかかわらず、役員責任査定の申立てを破産の場合と同様に 認容し、予備的な弁済の担い手とされている経営者の個人財産に損害賠償の負担を求める ことは、もともと合理性が乏しいものである。また、民事再生手続において、経営者個人責 任の追及により、弁済の原資を増殖する目的を実現する制度設計は、経営者の手続への協力 意欲・積極性を抑え、民事再生手続の本来の目的とは合致しないといえよう。
すなわち、日本法における査定制度は、再建型・清算型手続における経営者責任の軽重が 区別されておらず、経営者の民事再生手続の利用意欲を減殺させる一方で、破産手続におい ては、損害填補の機能は十分果たせていない。その結果、倒産手続終結後に、債権回収を実
114 現できなかった債権者による個別訴訟が増えてきている416。
企業が経営に行き詰った場合、無理やり企業を延命し、最終的に破産手続を通して法人格 が消滅するか、あるいは、より理性的に早い段階で再生申立てをして回復するかを選択する ことは、経営者にとっては、難しい問題である。そのゆえ、本稿は、民事再生手続の魅力性 を向上するために、破産手続における倒産責任と区別するように、民事再生手続において経 営者に対する優遇措置を設けることに意義があると考える。
第 2 款 清算型倒産手続における経営者責任に関する比較 一、 財産上の責任
1.帰責事由
(1)平常時
帰責事由に関して、日仏の財産上の倒産責任には若干相違点がみられる。フランス法にお いては、倒産状態には至らない平常時において、株式会社の有限責任制度が徹底的に貫かれ、
債権者による個別的な経営者の責任追及はかなり制限されている。第三者たる債権者が、経 営者に対して責任を追及する際、経営者の「職務と分離されたフォート」を証明しなければ ならない(第二章第一節第1款一1.参照)。すなわち、会社債務の責任を経営者に負担さ せることは極めて例外的なこととされ、厳格な条件が定められている。これに対して、日本 では、昭和44年最高裁判決は、会社法429条1項に関して両損害包含説を採用した。それ に従い、倒産手続の開始を問わずに、役員の対第三者(債権者)責任の帰責事由には、不法 行為のみならず、経営者の任務懈怠行為も含まれ417、役員の第三者に対する責任の帰責事由 の範囲が拡大された。
ただし、近年、フランス破毀院商事部の判例によると、「職務と分離されたフォート」に 対する解釈がところどころに拡大されてきている。ここでいう経営者の職務418の内容は、一 般的に会社の定款において、経営者が会社の利益を実現するために包括的に執行すること が任務として書かれている業務のことをいう。その職務と分離される行為として、法令ない し会社の定款に違反した場合、会社の利益ないし目的と反する行為を行った場合(下線筆 者)、あるいはリスク管理体制を整備せずに投資を行った場合(第二章第一節第 1 款一の
416 例えば、上記表4判例3 武富士会社更生事件において、責任査定の申立と対会社責任の申立いずれ も棄却された。倒産手続終結後に、武富士会社の取締役に対して、債権者(過払金返還債権など)の個別 追訴は多く行われている。①東京地判決平成26年3月14日判時2254号63頁、②東京地判平成27年3 月31日(【事件番号】平成24年(ワ)第271118号)
417 神田・前掲注(356)265頁。
418 フランスでは、平常時に、経営者の個人財産が保護される範囲は、会社と締結した委任契約に定めら れている職務の範囲と等しく、経営者が委任契約で定められた職務の範囲内において経営行為を行う際に は、たとえ過失があったとしても、債権者はその過失のある経営行為を不法行為として損害賠償責任を請 求することはできない。
115
(一))が挙げられる419。
したがって、平常時における、債権者が個別に請求しうる経営者の損害賠償責任の帰責事 由については、不法行為以外には、フランス法では拡大解釈がなされているとしても、利益 相反行為ないし法令・定款に違反する行為に限定されていることに対して、日本法では経営 者の全ての任務懈怠行為420に解釈されている。また、帰責事由が同様に拡大されたにもかか わらず、フランス法においては、経営者の職務内容を具体化し、職務と分離されたフォート に対する解釈を通して帰責事由を拡大し、日本法においては、第三者が被った損害に対する 解釈によって、帰責事由を拡大したところから、解釈論のルートもやや異なっている。
(2)企業倒産時
従来、フランス商法典における積極財産不足責任(填補責任)は、債務を弁済するために、
会社の積極財産が不足しているという状態があれば経営者に責任を負担させるところから、
厳格責任として位置付けられている。このような取扱いは、経営者にとって過酷であるとの 批判が強かったため、1985年法をはじめとして、責任推定の構造が徐々に廃止されてきて いおり、その要件は一般民事責任と統一する方向に傾いているといえる。現行の「積極財産 不足の責任」や「支払停止の寄与責任」も1985年以降の填補責任の要件を踏襲したため、一 般民事責任の構造に従って規定されている421。積極財産不足責任の帰責事由については、フ ランス商法典において、明確に定められていないが、経営上の過失、管理・代理上の過失、
無謀な決定、不当・過度の融資または投資、有限責任個人事業主〔EIRL〕の場合は、財産 の混同、法定充当資産の創出〔constitution〕義務違反(第一章第二節第1款二、の2.参照)
などが、判例法理によって認められている。
日本でも、経営の萎縮を導く危険性に対して考慮を配り、平成17年会社法制定時に無過失 責任の規定が大幅に廃止された。企業倒産時の経営者責任については、そもそも特別責任と されておらず、役員責任査定手続において、会社法上の任務懈怠責任が適用されているため、
原則として、その責任の追及は民事責任の要件と同様のものであるとされている422。倒産時
419 Cass.com., 27 mai 2014, n°12-28.657. Juris-Data n°2014-011476.両社の経営兼任する者が、一方の会 社の資金を用いて他方の会社の債務を弁済したこと。Cass.com., 24 juin 2014. n°13-50050. Juris-Dara n°2014-021732. Dr.Sociétés nov. 2014, comm. 164, note M.Roussille.経営者が刑事手続を係属していたこ とにより、倒産手続の開始が遅延された〔dilatoires〕事例。
420日本法では、いわゆる利益相反取引、リスク管理体制を整備義務違反の行為、法令又は定款に違反する 等の行為は、役員の会社に対する任務懈怠責任の帰責事由となっている。間接損害が429条1項に含まれ るように解釈すると、第三者たる債権者による責任追及の際に、任務懈怠行為も帰責事由となっている。
421 そこで、改正前の規定と比べると、1985年法以降の填補責任ないし2005年法の積極財産責任にもっ とも特徴づけられるのは、因果関係の証明の要否である(第二章第二節第2款一参照)。
422 例外的に、任務懈怠責任の帰責事の中に、厳格責任が残されている。すなわち、役員が株主に対する 利益供与行為と自己のために利益相反取引を行った場合の損害賠償責任である。具体的には、自己のため 直接取引をした取締役は、無過失を立証して責任を免れることはできない(会社法428条1項4項、ま た同法103条1項募集設立の際の財産不足額填補責任も同様である)。また、取締役が428条にいう加害