要旨
日本プライマリ・ケア連合学会認定医・指導医である筆頭著者が都市部の中規模病院の施 設長になり,その後取り組んできた内容を紹介する.
地域の連携病院として症状にかかわらず診療する総合外来を開設し,かかりやすさを追求 した結果,患者件数の増加をもたらした.また「高齢者診療に強い病院」を方針に掲げ,高 齢者委員会を開催し,ユマニチュードの普及,せん妄の予防介入,ポリファーマシーに対す る介入,アドバンス・ケア・プラニングの普及に取り組んだ.結果として高齢入院患者のせ ん妄発生率の低下(14%→
9%)をもたらした.
さらに
WHO(世界保健機関)の提唱する HPH(ヘルス・プロモーティング・ホスピタル
&ヘルス・サービス)ネットワークに加盟し,地域住民のヘルスプロモーションを目的に,
スクエアステップの実施,小学校での防煙教室の開催などを行った.
総合診療医が病院施設長となることで,外来・入院ともより幅広い,医療の提供のみなら ずケアも意識した方向に進めることができ,地域の健康増進活動を含め,地域包括ケア時代 に求められる中小規模病院の役割を推進することが容易となる.
①取り組みの背景
当院は大阪市西北部に位置する
218
床のケアミッ クス型病院(一般病棟2
病棟108
床,地域包括ケア 病棟54
床,回復期リハビリテーション病棟56
床)である.病床規模としては厚生労働省の過去の定義 では中病院に該当するが 1),当病院の半径
5km
には 病床規模500
床以上の大規模病院が4
つあるなど林 立している状況で,地域における役割としては小病 院と考えられる.また機能的にも循環器分野のイン1.一般財団法人淀川勤労者厚生協会附属西淀病院
ターベンション,外科の開腹手術といった高度医療 は行っていない.厚生労働省は,2025年(平成
37
年)を目途に,高齢者の尊厳の保持と自立生活の支 援の目的のもとで,可能な限り住み慣れた地域で,自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることがで きるよう,地域の包括的な支援・サービス提供体制
(地域包括ケアシステム)の構築を推進するとしてい る 2)(図1).この中での当院のような病院は患者住 民の自宅や高齢者施設と急性期病院をつなぐ,日常 合学会認定医・指導医・大阪家庭医療センターセンター長として、2006年よりファミリークリニックな
ごみ(大阪市淀川区)の院長に 就任し家庭医療後期研修プロ グラムの運営と家庭医療専門 医の育成に携わった。その後 2013
地域の連携病院のモデルとな るべく活動を行ってきたため、
その内容を報告する。
図1
の医療を提供する「連携病院」として,いわゆるサ ブアキュート,ポストアキュート機能を果たすこと が求められている.筆者は日本プライマリ・ケア連 合学会認定医・指導医・大阪家庭医療センターセン ター長として,2006年よりファミリークリニック なごみ(大阪市淀川区)の院長に就任し家庭医療後 期研修プログラムの運営と家庭医療専門医の育成に 携わった.その後
2013
年より当院病院長となり,地域の連携病院のモデルとなるべく活動を行ってき たため,その内容を報告する.
②導入の経緯と内容および成果
病院施設長として取り組んだ内容は,A.総合外 来の開設,B.高齢者診療に強い病院づくり,C.地 域住民の健康づくりへの寄与,に大きく分けられ る.それぞれの内容と成果について解説する.
A. 総合外来開設
日本のように総合診療医でない専門医が地域で開 業する形態が主流となっている状況は,一人の患者 の複数科受診が珍しくない.そのことは主治医機能 の不明瞭化,ポリファーマシーの問題など課題が大 きく,患者が何らかの症状を有したときに「まずか かる科」としての総合医療医の役割は今後も増して いくことと思われる.
当院はこれまで内科二次救急告示病院として救急 搬送受け入れと,内科救急外来としての初診受け入 れの役割を担ってきたが,家庭医療専門医が一定配 属されたことを機に,「総合外来」として内科に限ら ず広く患者の訴えに対応する外来を
2013
年5
月に 開設した.診療体制は,午前は救急対応医師1
名と ウオークイン対応医師2
名,午後は救急対応医師1
名とウオークイン対応医師
1
名を配置した.ウオー クイン対応医師のうち1
名は極力日本プライマリ・ケア連合学会認定医,日本プライマリ・ケア連合学 会認定家庭医療専門医が診療を行った.
結果として,受診者数は開設以来インフルエン ザの流行期のずれによる波はあるが,外来患者数 は
2013
年から2016
年にかけて増加傾向となってい る(図2).また,プライマリ・ケアのセッティング で有用と言われている,愁訴や病名,診療行為に ついての世界共通のコード分類であるプライマリ・ケア国際分類(International Classification of Primary
Care:ICPC)-2
3)に沿って当院総合外来を受診した 患者の訴えを分類した.内科的な訴え(ICPC-2の
A(全身及び部位が特定できない),B(血液),D
(消化器),K(循環器),N(神経),R(呼吸器),
T(内分泌,代謝,栄養))に該当するもの全体のが
82.0%であったが,それ以外に L(筋骨格),U(泌
尿器),S(皮膚),P(心理,精神)などの訴えも一 定の割合で出現した(図3).
B. 高齢者診療に強い病院づくり
日本は今後人口減少に向かっていくことが予測さ れているが,都市部では当分高齢者人口が著しく増 加することが予想されている 4)(表
1).当病院のあ
る大阪市西淀川区も,介護需要はもちろんのこと,医療需要も
2025
年に向け漸増し,2040年まで減ら ないことが予想されている 5)(図4).入院医療にお いても高齢者の占める割合は今後ますます増加する ことが予想され,高齢者が入院した時に発生しやす いせん妄の予防,ポリファーマシーへの介入,アド バンス・ケア・プラニング(Advance Care Planning,以下ACPと略,将来に備えて患者・家族とケア全
図2
体の目標・治療について話し合う過程)の普及など は医療費の過剰な増加を防ぐうえでも重要性を増し ていくものと思われる.
当院は
2014
年度より病院方針に「高齢者診療に 強い病院」を目指すことを掲げ,そのために必要な 活動として,筆者が委員長として先頭に立ち2014
年3
月より多職種型の高齢者委員会を開催した.月1
回定例会議を行い,その中で高齢認知症患者に 対する接し方を体系化した「ユマニチュード」の学 習 6)を行った.そしてその内容を病棟,外来などの 診療場面で生かせるように月1
回計8
号のユマニ チュード紹介ポスター作製を行い(図5),並行して 外部講師を招聘しての講演会を開催した.以降は毎 年新入職員のオリエンテーション時に医師・看護師 だけでなく事務職員も含めた全新入職員対象のユマ ニチュード講習会を開催している.また入院患者のせん妄発症予防に
Inoue
が開発した
HELP(=Hospital Ender Life Program)
7)の内容を 参考に,当院で実施可能な内容を検討し,70歳以 上の重症者,意識障害者でない患者に対して7
つの 介入項目を設定した.7つの介入項目は,①「せん 妄の予防と対策について」のパンフレットを患者・家族に渡し説明を行う,②眼鏡・義歯・補聴器の持 参と着用を促す,③睡眠への援助:睡眠状況の観察 を行い,日中の覚醒を促す,④レクリエーションの 支援:アクティビティ,⑤見当識をつける(リアリ ティーオリエンテーション),⑥夜間持続点滴中止:
転倒予防のため夜間のルート類を最小限にする,⑦
ADL
低下予防・早期リハビリオーダー(リハビリ テーション科による医師への働きかけ),とした.高齢者にはポリファーマシー(5剤以上の薬剤使 用)が多く,ポリファーマシーによって不適切とな る可能性のある薬物使用(Potentially inappropriate
medications:PIM)が も た ら さ れ, 薬 物 有 害 事 象
図4 濃赤:介護需要西淀川区,薄赤:介護需要全国,濃青:
医療需要西淀川区,薄青:医療需要全国 表1
(心理、
図3 (内科的愁訴を黄色,それ以外を緑で表示)
※被写体はすべて職員
図5
(Adverse drug event:ADE)が増加することが知られ ている.当院の日本プライマリ・ケア連合学会指導 医と薬剤師が協力し,薬剤師が患者または家族に面 談を実施した患者について,下記の減量・中止基準 に基づいて薬剤継続服用の必要性について主治医に 情報提供し,その後の医師による処方変更の有無を 確認した.減量・中止情報提供基準は以下の通りと した:①疾病・病態によらず一般に使用を避けるこ とが望ましい薬剤(スルピリド,第一世代抗ヒスタ ミン薬など),②特定の疾病・病態において使用を 避けることが望ましい薬剤(糖尿病でのクエチアピ ンなど),③アドヒアランス不良,もしくは処方目 的不明な薬剤.
上記の介入を行った後,評価を
2015
年10
月〜11 月(介入前)と2016
年10
月〜11月(介入後)につ いて西淀病院を退院した65
歳以上の患者を対象と して比較したところ,入院時と退院時の比較では介 入前群では退院時のほうが処方薬剤数が増えていた のに対し,介入後群では変化がなかった(p=0.004).また
PIM
の処方数は介入後群で入院時よりも退院 時のほうがより減る傾向にあった(p=0.006)(表2).
ACPについては
2017
年6
月16
日に川口篤也氏(函館陵北病院・総合診療科)を招き
ACP
ワーク ショップを開催した.参加者は60
名で,ACPの在 り方についてロールプレイを交え,有意義な研修と なった.また病院内で月1
回定期的に全職種参加型 の臨床倫理カンファレンスを開催している.カン ファレンスには「医学的適応」「患者の意向」「QOL」「周囲の状況」をバランスよく検討できる臨床倫理
4
分割表 8)を用いた.そのカンファレンスの司会を家庭医療専門医もしくは家庭医療後期研修中の専攻医 が担い,病院職員の終末期医療に対する考え方を醸 成するようにした.実際に当院に入院した死亡退 院となった患者について調査したところ,2017年
8
月から12
月にかけて71
名が入院中に死亡してい たが,そのうち75
歳以上の患者58
名においては52
名(90.0%)の患者で,患者本人もしくはご家族 から心肺停止前に心肺停止時の方針が確認されてい た.その中で100%の方が挿管人工呼吸,心臓マッ
サージといった救命処置を希望されず,DNAR(Donot Attempt Resuscitation)の方針となっていた.死亡
前に心肺蘇生処置を施行された患者は8
名で,うちACP
が不明なために心肺蘇生処置を施行した患者 が6
名であった.以上に述べた高齢者に対する取り組み全体の評価 として,せん妄発生率,入院日数を比較した.せん 妄発生率については,①
70
歳以上,②意識障害や 人工呼吸など重症でない,③クリニカルパスなどで48
時間以内に退院する患者でない,患者を対象に,表2 高齢者のポリファーマシー介入前後の変化
介入前群 介入後群 性別(男/女)
144/186 165/222 NS
平均年齢(歳)79.8 80.6 NS
入院期間中央値(日)21 20 NS
入院時の薬剤数6.72 6.49
入院中の薬剤数変化 +0.38 0.01
p
=0.004
入院時PIMあり164
(50%)
202
(52%)
入院時PIM数
1.68 1.74
入院中の