本節の最後に近年の福岡市の地域コミュニティ政策の変化について,福岡市市民局コ ミュニティ推進部へのインタビュー(2011年
5
月13
日実施)に基づいて述べる。福岡 市では1953
年から2003
年度まで,自治会・町内会長などを「町世話人」に任命して,注:博多区基本計画(平成16年3月)より作成。
図4−2−1 博多部人口の推移
「都心回帰」時代の大都市都心地区におけるコミュニティとマンション住民 44
コミュニティへの情報伝達や協力依頼,推薦要請などを一貫して行ってきた。町世話人 は非常勤特別職職員で,1953年
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月に制定された「福岡市町世話人規則」に則り行わ れてきた。報酬は,受け持ち世帯あたり月額160
円で,平均受け持ち数は242
世帯であ った(2003年9
月1
日時点)。当初は
30
を超える業務を担っていたが,業務の民間企業への委託などによって,近 年では減る傾向にあり,2003年度の町世話人制度の廃止時点では,5つになってい た(8)。町世話人は必ず自治会・町内会長がなるというわけではなく,8割程度であり,残り
2
割は町内会長ではない人が任命されていた。そして山崎広太郎市長の主導により,町世話人制度の見直しが
2000
年頃から検討さ れ始め,市長が設けた「コミュニティ自律経営市民検討委員会」が2003
年3
月に「コ ミュニティの自律経営推進に関する提言」を提出し,そこで「市民と行政の連携方策」「コミュニティの活性化策」とともに「町世話人制度の抜本的な見直しを行う必要性」
がうたわれた。これを受けて,2004年
3
月に町世話人制度が廃止された。廃止された背景には,第
1
に町世話人の事業が,当初は30
ほどあったものが5
事業 に減っていたことが挙げられる。業務が減少したにもかかわらず町世話人への報酬があ まり減少していないことから,予算上の問題が浮上してきたと言える。第2
に,阪神・淡路大震災を受けて,防災上の必要性から,今までの上意下達の制度ではないものが必 要という認識が,市役所にもコミュニティの側にもあったという。第
3
に,居住者台帳 の問題(9)で,制度の見直しが必要になったということがある。4−3−2.自治協議会制度
2003
年度まで,行政情報の伝達や依頼は,すべて町世話人を通じて行っていたが,その一方,地域で取り組んでもらいたい分野については,市がそれぞれの分野で,小学 校区を単位として,役所主導で組織化を図り(「安全推進委員会」「体育振興会」「男女 共同参画協議会」「青少年育成連合会」「ごみ減量・リサイクル推進会議」「献血推進協 力会」「衛生連合会」「自主防災組織」の
8
団体),それぞれ活動してもらっていた。こうした団体に対して,市はそれぞれ別々に補助金を支出しており,それが年間
12
億円にもなっていた。小学校区を単位とするものとしては,これらに自治会・町内会に よる自治連合会があるほか,地区社会福祉協議会,人権尊重推進協議会,老人クラブ連 合会などがある。自治会・町内会(自治連合会)とこれらの団体は,人的に重なるとこ ろも少なくなかったが,別々に活動していることも少なくなく,ヨコの連携がない場合 もあった。これを改めるため,2004年度から「自治協議会」制度を開始した。自治協議会は校 区単位に設立するもので,自治会・町内会をはじめ,上述の
8
団体(場合によっては地「都心回帰」時代の大都市都心地区におけるコミュニティとマンション住民 45
区社協なども)がここに加わる。「行政の上意下達」から「地域の住民が主体となり,
行政と共働でコミュニティづくりを進める」システムに改めるという趣旨だ。
自治協議会は,各校区に自主的につくってもらうもので,市が強制的につくらせるも のではない。自治会・町内会の
8
割以上の参加によって作れるものとした。中にはさま ざまな事情で加わらないところもあるが,補助金を支出するにあたって,8割以上とい う要件を設けたという。補助金は「活力あるまちづくり支援事業補助金」(通称「統合補助金」)として,校区 の人口規模に応じて配られる。それまで町世話人個人に報酬という形で支給されていた が,今後は自治協議会に渡るようにした。またそれまでタテ割りで上述の
8
団体にそれ ぞれ配られていた9
つの補助金は廃止し,これに一本化した。一本化することで,たと えば「うちは今年は防犯を重点的にやる」とか「うちは交通安全に使う」といった具合 に校区の実情に合わせて,必要なところに重点的に使うことができるようになった。こ れにより,これまで1
校区あたり97
万9600
円が配られていた補助金は(10),新しい制 度では,実質的に以前の町世話人の報酬分が上乗せされる形で200〜300
万円(その後見直して
230〜370
万円)が配られるようになった(表4−3−1
を参照)。また,この間,市のコミュニティ支援体制を強化するため,区役所に「地域支援部」
を設置し,係長を置き,職員
1
人あたり4
校区(自治協議会)を担当するようにした。さらに新制度に合わせて公民館の所管を教育委員会から市長部局(区役所)に移管し て,名称はそのままに区役所と一体となったコミュニティ支援が行えるようにした。そ の後,2006年
10
月から2008
年10
月にかけて,「福岡市コミュニティ関連施策のあり 方検討会」を設置して,自治協議会制度の見直しを行っている。なお本稿では,都心部の自治会・町内会の現状と課題について検討するまでには至っ ておらず,今後の課題としたい(11)。
注
⑴ 福岡市都心部では,福岡空港が近接しているため,空港を底にすり鉢状に高さ制限が設けられている。
東区のアイランドシティでは100 m以上ものマンションが確認できるが,博多区・中央区では45 m 程度のマンションが主である。
⑵ このような若年女性を中心にした居住人口増加の背景について,日本政策投資銀行九州支店(2010)
は次のような仮説を提示している。
①福岡の一大商業集積地「天神」に,多様な商業施設や美容院・エステなど,若い女性等にとって魅 力的な都市機能が一層充実している。
表4−3−1 校区規模別の統合補助金額
校区人口 2000人以下 2001〜5000人 5001〜1万人 10001人以上 15001人以上
2004〜07年度 200万円 240万円 270万円 300万円
2008年度〜 230万円 270万円 310万円 340万円 370万円
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②福岡都心部は事業所の集積が厚く,サービス関連業などを中心に若い女性等の働き場所も多い。
③このような中で,90年代以降の地価下落によって,東京や大阪に比し低廉なコストで入居できるマ ンションの建設も進み,「職・住・遊の近接」という若い女性等の潜在的なニーズが実現できるよう になった。
また,日本政策投資銀行九州支店(2006)では福岡市の都心回帰について行政機関,不動産関係者,
地元企業へのヒアリングを行っている。上記②の関連では,中央区は専門学校の集積(デザイン・美 容・医療・コンピューター等)を背景に九州中から学生を集めており,これらの専門学校卒業生たち が携わる業種(美容関係,コンピューター関連,フリーペーパー編集者やライター,カメラマン等)
も集積しており,「そうした専門学校を卒業した人たちは,ネットワークもあるし学校の近く(福岡)
で仕事をしたいと思うようだ」(日本政策投資銀行2006 : 19)と述べている。
⑶ 長沼・荒井は,中央区薬院地区と南区博多南駅周辺地区を対象にした質問紙調査から都心居住が選択 される要因として生活上の利便性の他に,世帯が必要とする居住面積と関連する子どもの人数を挙げ ている。「都心居住は子供1人以下であるか,このトレードオフの選択を迫られないほどに居住費負担 力のある場合に取られる選択肢であるとみなすことができる」(長沼・荒井2010 : 807)。
⑷ 注⑵の不動産業者からのヒアリング記録には,「新規に建設されるマンションも,女性のニーズに合っ たものが供給されているようだ」とある(日本政策投資銀行九州支店2006 : 20)。また,梶田はフクニ チ住宅新聞社が発行している『福岡県の民間分譲マンション資料』をもとに,福岡市のマンションの 供給動向を分析する中で,都心部の中部から東部に位置する今泉,大手門(中央区),美野島,対馬小 路,冷泉町(博多区)の各地区では2 K以上が中心の物件と1 R/1 K/1 DKが中心の物件の数が拮抗し ており(混在型),都心部の西部に位置する町および福岡空港南部に位置する町では2 K以上が中心の ファミリー向け物件が多く(2 K以上中心型),「もともと女性の多い地区であった中央区側の都心西 部地域が,1995年以降の人口回復過程を経てその特徴を強め,男性の多い地区であった博多区側の都 心東部地域でも人口回復を通じてその性格を強めている」(梶田2007 : 148)と分析している。博多区 でも中央区よりの地域では人口の女性化が進みつつある。
⑸ 以下の記述は,博多区基本計画(平成16年3月),日本建築学会(2007)に基づいている。
⑹ この他に,「共同化促進助成制度」によって,都心部等において土地所有者が敷地の共同利用を図り,
良質な住宅の供給とあわせて住環境の整備を行おうとする場合に,ハウジングコンサルタントの派遣 や建設費の一部を助成している。
⑺ 「福岡市博多区御供所地区調査団派遣事業」を参照
(http : //www.jcca.or.jp/kyokai/kyushu/dream/images/pdf/gokusyo.pdf。2013年2月10日閲覧)。
⑻ 5つの業務は具体的に「広報に関する事務(市政だより,市議会だより,その他広報物の配布)」「防 災に関する事務(災害発生状況の調査,被災状況調査等)」「衛生に関する事務(保険・衛生関係書類 等の配布)」「特に指示する調査に関する事務(受け持ち世帯数の調査,国勢調査など各種統計調査)」
「その他,市民に関係ある事項の周知徹底(選挙公報の配布等)」である。
⑼ 「福岡市が世帯主や構成員の名前,住所,性別,生年月日といった個人情報を住民基本台帳から引き出 して「町内居住者台帳」を作り,「町世話人」と呼ばれる市民約二千五百人に担当区域分を配ってい る」ことが,プライバシー保護の上で問題が多いとの指摘があり,その旨は2000年8月3日,同年8 月6日朝日新聞西部本社版朝刊で報道された。
⑽ 補助金の名称は次のとおり。「校区交通安全推進委員会補助金」(交付先:交通安全推進委員会),「校 区体育振興会補助金」(同:体育振興会),「校区女性団体組織化補助金」(同:女性協議会),「校区青 少年健全育成連合会補助金」(同:青少年育成連合会),「ごみ減量・リサイクル推進会議補助金」
(同:ごみ減量・リサイクル推進会議),「校区献血協力会補助金」(同:献血推進協力会),「校区保健 活動助成金」「校区動物適正飼養啓発補助金」「校区・町内清掃事業市民活動補助金」(同:衛生連合 会)。自主防災組織は,設置にあたって市が補助金を支出していた。
⑾ このような制度改革にともなう自治会・町内会に関わる人々の受けとめ方については,例えば中央区 春吉校区自治協議会役員を務める笠井進氏の論考を参照(笠井2006)。
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