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社会福祉法人(介護保険施設)の経営管理

ドキュメント内 非営利法人の経営管理 (ページ 40-60)

第3章では介護保険施設を運営する社会福祉法人を扱う。第2章(図表2)で整理した通 り,社会福祉法人では「要員管理」,「介護の質向上」,「人件費(直接)=賃金水準(直接)」 の努力余地は大きい一方で,その実現には大きな困難を伴うため,第Ⅰ領域のじっくり取り 組むべき経営管理のテーマに位置付けられる。本章ではこの第Ⅰ領域における 3 つのテー マのうち要員管理について論じるが,要員の増減と介護の質や人件費の問題は密接に関連 しているためこれらを踏まえた総合的な整理が求められる。

ガバナンス機構との関係でみると,介護保険施設における要員管理は労働支出を統制す ることからインセンティブではなくパフォーマンス・モニタリングの問題に位置付けられ る。具体的指標として人員配置数が問われるが,人員配置数の下限は配置基準として規制40 により規定されている。この下限値を下回っては法律に抵触するため,要員管理は規制によ り規定された配置基準(下限値)と現行水準との差が努力余地になる。

法人経営にとって最も効率的な状態は,この規制により規定された配置基準と実際に配 置される人員数が等しい状態である。介護保険施設において法人が受け取る介護報酬の主 要部分は,個別の介護サービスの投入量に対する対価(各種加算費)ではなく,入所者の1 人に対する包括対価(施設サービス費)となっており入所者数により収入はほぼ固定される。

従って財務面での管理可能な要素は費用である。第2章でみた通り費用のうちおよそ6割 を人件費が占めており,配置する人員数が多くなると法人の人件費負担増加に加えて,職員 にとっては 1 人当たりの賃金水準が低くなる関係にある。また介護の質は配置する人員数 に比例することから,人件費及び介護の質は要員管理の在り方に大きく影響される。

上記の点から整理を試みると,介護報酬は,価格(単価×単位数)と数量(介護サービス の供給量)がある程度は所与のものとして決まるため,社会福祉法人の経営管理における努 力余地の本質は配置基準の適正化を通じた生産性の向上にある。これを踏まえて,本章では 介護職員の付加価値労働生産性を明らかにし,改善施策を整理する。

1.介護保険施設を取り巻く環境と経営課題

我が国においては 2042年に高齢者人口がピーク(3,878万人)41を迎えるまで少子高齢 化が急速に進み,介護需要(要介護認定者)が大幅に拡大していくなかで介護職員の不足が 危惧されている。自由市場であれば介護需要の増加は,価格の上昇を通じて介護職員の数を 増加させる。しかし価格は介護保険制度により介護報酬として介護サービス毎の単価が定 められている上に,地域における介護サービスの供給量を左右する介護保険施設の開設は

40 介護保険法(平成9年法第123号)第88条に基づく「指定介護老人福祉施設の設置基 準(平成11年3月31日厚生省令第39号)」。

41 内閣府(2012)によると,2042年以降は高齢者人口が減少に転じても,高齢化率は上 昇を続け,2060年には39.9%に達する。その時点では,国民の約2.5 人に1 人が65 歳 以上の高齢者となる社会が到来すると試算している。

市町村の許認可制42となっているため,需給の変化に対して個々の法人がコントロールでき る余地が限られている。

まず,介護報酬は以下に示す特徴を有している。

① 公定価格である

サービスを提供する法人は独自に利用者ごとの価格を設定することはできない。また,

繁閑の差や季節によって価格を値上げしたり値下げしたりすることもできない。

② 単位として表示される

価格は単位を基準に算定される。例えば「看護職員1名と介護職員2名による訪問入浴 介護は1250単位」43となる。単価は「1単位=10円」が基本であり,実際にサービスを 提供する場合には利用者に価格を提示して了解を取り付けたうえで取引が成立する。

③ 地域により単価が異なる

上述した1単位=10円の基本単価は,地域毎の人件費を調整するための「地域区分」が あり,2012年4月の介護報酬改定では1級地~6級地とその他の7区分(国家公務員の 地域手当の区割りに準じた区分)に整理され,それに応じて単価は10円から最大11.26 円までの範囲で設定されている。

④サービスの種類,量,利用者の要介護度によって単位数が異なる

各種サービス毎に単位が設定されている。単位数は基本的にサービスの種類と量(時間又 は回数)と,介護サービスを受ける側の要介護度によって決まる。例えば介護福祉施設サ ービス費(Ⅰ)従来型個室(2012年度)を算定する基準は,要介護1の利用者は577単 位/日,要介護5は858単位/日となっており1.49倍の開きがある。要介護度による単 位数の違いはその人にかかる介護に必要な事案,あるいは介護の密度に差があるためで ある。

次に,介護保険施設の開設については増大する入所の需要に対して多くの市町村で新規 開設等による供給体制の整備が進んでいない。理由は地方自治体の財政にあり,建設に要す る交付金の支出に加え,開設後に入所者が増加することによる介護保険への拠出が増加す るためである。横田(2011)によると「今後の介護保険負担のインパクトを試算すると,仮 に財政面で地方交付税の追加支給が行われなかった場合,財政健全化法の判断指標のひと つである「実質赤字比率」が大きく悪化する自治体が続出することになる。2025年度には

「早期健全化団体」に転落する市町村が急増し始め,2030年度以降は「財政再生団体」へ の移行が急増する。この間,関西の市町村の実質赤字額の合計は2008年度の83億円から,

2035年度には1兆3,000億円まで累積する。」(p.78)としており,市町村における介護保 険制度への負担の大きさが伺える。

介護保険施設の開設が伸び悩む中,医療経済研究機構(2011)は特別養護老人ホームへの

42 老人福祉法(昭和38年法第133号)第15条及び,介護保険法(平成9年法第123 号)第48条にて規定。

43 指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(厚生労働省告示第87号)。

入所申込者数,いわゆる待機者が42.1万人とし,そのうち「真に入所が必要」である待機 者は“身体の状態”や“独居”,“介護放棄及び虐待”等の観点からおよそ4.5万人(10.8%)

と報告している。更に細かく見ると「ケア・マネージャーが特養に入所が望ましいとする待

機者」が46.4%おり,先の調査で明らかになった待機者数42.1万人をもとに計算すると入

所が必要な待機者は19.5万人に上る。加えて,家族の申し込み理由においては「自宅での 生活が困難」(70.5%),「家族の介護が困難」(67.0%)を挙げる人が多くなっており入所の 必要性の高さが見て取れる。更に居宅サービスを週に5日から7日受けているケースが30%

を超えているなど厚生労働省の試算した「真に入所が必要」とする待機者数と比較して現実 はより深刻な状態であることが伺える。

介護保険施設を運営する事業者はこのように入所の需要があるにも拘わらず,事業者の 自助努力だけでは供給量を決められない構造の中で経営をしているのである。

2.介護職員の労働生産性と賃金水準

2-1 生産性の考え方

はじめに生産性の定義について確認する。国際的に合意形成がなされているものとして OECD(2001)の生産性を測定するためのマニュアルがある。当マニュアルにおいては生 産性を「産出物を生産諸要素の一つによって割った値である」(p.11)と定義しており,基 本的にはインプットのタイプ(単一要素生産性,複数要素生産性)とアウトプットの測定方 法(生産物ベース,付加価値ベース)の4象限44に区分される。労働生産性は単一要素生産 性(インプットの要素は労働)であり,アウトプットとしては生産物や付加価値のどちらで も算定することが可能と言える。

次に我が国の生産性研究及び測定を行う代表機関の一つである日本生産性本部(2013)

では生産性を「投入量と産出量の比率」と定義し,投入量に対して産出量の割合が大きいほ ど生産性が高いとしている。投入量については,労働,資本,土地,原料,燃料,機械設備 等を例に挙げている。特に労働について,「労働投入量に対する産出量を重量や個数で示し た場合を「物的労働生産性(生産量÷従業者数)」,産出量をその時点での価格で示したもの を「価値労働生産性(生産額÷従業者数)」,さらに付加価値を労働投入量で除したものを「付 加価値労働生産性(付加価値額÷従業者数)」」としており,OECD の定義と比較して投入 及び産出の諸要素はより細分化された形と言える。

2-2 我が国の労働生産性

次に我が国の労働生産性を諸外国との比較において確認する。これについては日本生産 性本部が 1989 年から継続して購買力平価換算後の国内総生産と就業者数等のデータを用 いて調査し,「労働生産性の国際比較」として発表している。日本生産性本部(2012)によ

44 単一要素生産性は労働,資本等の要素に,複数要素生産性は労働と資本又は中間投入物 等の組み合わせによって更なる細分化が可能である。

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