プロフィール
1. 教室員と主研究テーマ
教 授 石井 拓男 歯科医学史教育のカリキュラム・プランニング
むし歯半減運動の消長と児童生徒のう蝕の変遷
わが国における近代歯科医学のルーツ
在宅歯科医療の推進
眞木 吉信 特定および要介護高齢者の口腔環境・機能のアセスメントと改善・向上プログラムの構築 Risk Control Dentistry の臨床評価
フッ化物応用の総合的研究
准 教 授 岡田 眞人 歯科医学教育における医療倫理に関する研究
平田創一郎 歯科医師臨床研修における研修歯科医の地域分布に関する研究
リサーチレジデント 酒寄 孝治 自立老年者および要介護老年者の口腔保健および機能の実態とその改善・向上プログ ラムの検討
2. 成果の概要
1) 歯科医学史教育のカリキュラム・プランニング
歯科医学史が 2007 年に教授要網にそして 2009 年に歯科医師国家試験の出題基準に位置づけられ、近年その 学習の重要性が増してきている。我々は、2010 年に歯科医学史教育のカリキュラム・プランニングについてのワーク ショップを開催した。これにより、歯科医学史教育のカリキュラムに関する問題点が明確となった。ワークショップ で作られた一般目標は、歯科医師としての自己確認や独自性、主体性の確立についてのものであった。作成された 行動目標はすべてが認知領域のものであったが、想起のみならず解釈の行動目標も多く提案された。歯科の意義、
使命そして貢献についての行動目標は、既存の学習方略では対応が困難なことが推察された。
2) むし歯半減運動の消長と児童生徒のう蝕の変遷
むし歯半減運動は、1955 年(昭和 30 年)から 1992 年(平成 4 年)までの 37 年間続いた歴史的な記録を持 つ運動であった。この運動は、時の文部省保健課長塚田治作が結核死亡半減記念式典(1952 年)をヒントとした 助言によるとされている。文部官僚の助言によって開始されたむし歯半減運動に対し、当初歯科界から疑問や批判 の声があった。結核予防は国が法律を作り、予算を持って実施したのに対し、むし歯予防に国は実質的に何もして いないことが批判の根底にあった。しかし、一方で学校保健関係者が独自で運動を行い、それが 40 年近く続けら れた点で評価されるものである。
むし歯半減運動は、わが国の児童生徒のう蝕有病状況に対して明かな実績を上げる事無く終了したようである。
学校保健統計の推移と第1次から6次までのこの運動の関係をみると、開始直前の 1953 年(昭和 28 年)でう歯 のある者は小学生で約 52%、中学生で 36%であったものが、急激に増加し 1956 年(昭和 31 年)では小学生 70%、中学生 50%となった。第1次運動はこのう蝕急増期のまっただ中に始まった。運動の主体である未処置者を 半減させる目標の達成は非常に困難な状況であった。う歯ある者の割合に減少傾向が見られ出したのは、1981 年(昭 和 56 年)第5次半減運動開始時であった。さらに、小学生のう歯のある者が 90%を割るのは 21 世紀に入る頃であっ た。
むし歯半減運動がわが国に及ぼした影響を明かにするためには、単にう蝕の統計学的な解析のみならず、社会状 況の変化や国の政策など多くの方面からの分析が必要と思われる。
3) わが国における近代歯科医学のルーツ
2011 年(平成 23 年)8月2日、「 歯科口腔保健の推進に関する法律 」 が成立した。明治初年から制定されていた、
医科疾患に係る法律と比較すると実に 140 年近い年月の差がある。1912 年(明治 45 年)の日本連合歯科医会総 会で、「 歯牙衛生事業に関する意見書 」 が提出され、1924 年(昭和 3 年)に 「 6歳臼歯保護法制定 」 の検討が日 本歯科医師会の内部でなされたが、国政の場に出ることはなかった。歯科界の動きが、法律制定という明確な運動 となったのは 1953 年(昭和 28 年)の林了による 「 むし歯予防法案 」 が作られた時が初めてであった。この時から 数えても 58 年かかったことになる。
歯科保健独自の施策が作られなかった理由を、宮武は戦前の学歴と行政が医科・歯科二元論でなかったためと 考察している。厚生行政に歯科医師が配置されたのは、1942 年(昭和 17 年)であった。幕末から明治維新にか けてすでに国家の中枢に位置づけられていた医師とは大きな隔たりがあった。その厚生省に歯科衛生課が設置され たのは 1948 年(昭和 23 年)であり、当初その所管事項に歯科保健医療は含まれていなかった。歯科衛生課が、
歯科保健の独自の施策を立てたのは、1985 年(昭和 60 年)からであった。1984 年(昭和 59 年)まで、厚生省 に勤務する歯科医師は、社会全体の広範な保健施策に影響を持つ官僚になりえない状況にあったようである。
戦後制定された歯科医師法、歯科衛生士法そして歯科技工士法は、その後幾度かの法改正を経て今日にいたっ ている。この法改正こそが、わが国の歯科保健行政が独自になしたものであり、オリジナルの歯科の制度整備である。
歯科衛生士業務の追加を行った歯科衛生士法の法改正、歯科医師臨床研修を制度化した法改正等はその典型で ある。
新たに制定された歯科口腔保健の推進に関する法律が、今後どのように改正されていくか、またその影響が他の 歯科関連の法律に影響し、行政にいる歯科医療関係者の職務に変化をもたらすか、その評価を行いたい。
日本歯科医史学会々誌 29(2): 89, 2011.
4) 在宅歯科医療の推進
在宅歯科医療を推進するために、まず在宅歯科医療を行う意志がある診療所と患者側との情報交換の必要性が 示唆された。さらに在宅療養支援歯科診療所と、介護施設のみでなくケアマネージャー、病院、訪問看護ステーショ ンとの情報共有が重要と考えられる。また、歯科診療所での歯科医師数の雇用の増加によって、在宅歯科医療が 推進する可能性も示唆され、これらを踏まえた今後の歯科医療提供体制の構築が望まれる。
老年歯科医学 26(4): 423-433, 2012.
5) 特定および要介護高齢者の口腔環境・機能のアセスメントと改善・向上プログラムの構築
2006 年に介護予防の一環として地域支援事業が位置づけられ、生活機能の低下が認められた者を特定高齢者 として選定し介護予防プログラムを実施している。2011 年度は、プログラム介入前後に口腔機能の改善または維持 が認められた特定高齢者における、口腔機能トレーニングの習慣化との関連性を調査した。
文部科学省科学研究基盤B「特定および要介護高齢者の口腔環境・機能のアセスメントと改善・向上プログラムの 構築」平成23年度実績報告書
6) Risk Control Dentistry の臨床評価
歯科疾患は適切な予防処置の継続を停止すれば再び発病することも良く知られている。このような事実からすると、
「歯科疾患の予防とは発病リスクの先送りに過ぎない」とも言える。したがって、歯科疾患の予防は1回の処置で解 決できるものではなく、常に発病のリスクをモニタリングしながら対応する必要がある。公益財団法人ライオン歯科 衛生研究所の目黒診療所において、現在のう蝕発病リスクに対する効果的な予防手段で対応し、適切な処置を継 続していく「Risk Control Dentistry」の臨床データをまとめた。
日本歯科衛生学会雑誌 6(2): 55-61, 2012.
7) フッ化物応用の総合的研究
フッ化物の応用によるう蝕予防方法は、ライフステージを通して有効な手段とされている。平成 23 年度は厚生労
働科学研究の最終年度であり、前年度までに作成した局所応用マニュアルを基に、ライフステージごとのフッ化物応 用プログラムを作成し、その効果について部分的な臨床評価を行った。また、フッ化物を栄養素として考えることに よって、サプリメントの開発や水道水フロリデーションのアピールを実施した。
厚生労働科学研究 「フッ化物応用の総合的研究 」 平成 23 年度総括研究報告書 8) 歯科医学教育における医療倫理に関する研究
平成 16 年度より開催している日本歯科医学教育学会の教育研究集会をふまえて、平成 18 年においてはカリキュ ラムWSを開催し、行動目標及び学習方略について論議した。また平成 22 年度までに歯科大学で医療倫理にかか わる教員による医療倫理教育におけるPBLのあり方と学習評価について検討したところ、「 医療倫理教育は存在す るが、臨床教育との具体的な関連付けがない 」、「 複数の学年・講座で教育しているが連携が十分でない 」、「 適 切な教員・専門的知識をもつ教員がいない 」、「 医療倫理教育・評価の基準がない 」 といった問題点が明かとなっ た。一方、第 25 回日本歯科医学教育学会総会のサテライトシンポジウム 「 歯科大学における医療倫理教育 」 にて 提言された歯科大学における医療倫理教育の学習目標・方略・評価に基づき、Jonsen の 4-Box Case Analysis Method を倫理的判断の手順を学ぶためのツールとして用いることで、学生の学習レベルに応じた医慮倫理に関す る知識・態度を評価できる可能性が示唆された。本年度は 4-Box Method を用いたカリキュラムを実施した。
9) 歯科医師臨床研修における研修歯科医の地域分布に関する研究
研修歯科医の全国的な在籍分布状況について,すべての研修プログラムを対象に調査を行った結果,1 年目の研 修歯科医の総数は 2,423 名であった.月平均の都道府県ごとの研修歯科医数は,最大が東京都で 387.7名(16.3%),
最少が秋田県・島根県の 2.0 名(0.1%)であった.中断例は 16 例であった.また,研修歯科医は研修先の確保 のため,マッチングでマッチしておくこと,研修施設はマッチングで研修歯科医を採用しておくことが望ましいことが 示唆された.一方,歯科診療所の研修プログラムで研修を行った研修歯科医数は増加しているものの,協力型施設 への出向者も含めて実際に歯科診療所で臨床研修を受けた研修歯科医の割合は 4 分の 1 強で,昨年度に比べてほ とんど増加していないことが明らかとなった.
平成23年度厚生労働科学研究費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)「歯科医師臨床研修施設である診 療所を中心とした医療連携体制に関する研究」総括・分担報告書
10) 自立高齢者および要介護高齢者の口腔保健および機能の実態とその改善・向上プログラムの検討
2006 年に介護予防の一環として地域支援事業が位置づけられ、生活機能の低下が認められた者を特定高齢者
(2011 年から二次予防高齢者)として選定し、介護予防プログラムを実施している。施策における口腔機能の向上 プログラムの効果を研究対象とした。その結果、口腔機能評価において、介入前の一般高齢者と特定高齢者の間 に明確な差は認められなかったが、介入によって特定高齢者の口腔機能の向上に効果が認められた。特に介入前 の値が低い者ほど大きな改善傾向を示した。今後の課題としては、プログラム介入前後に口腔機能の改善あるいは 維持が認められた二次予防高齢者における、口腔機能トレーニングの習慣化が挙げられる。また、プログラム参加 者の経年的な口腔機能の変化を評価したところ、1年後・2年後と経過するに従い、低下していく傾向がみられた。
特にプログラム終了後もトレーニングを続けていた者に比べ、続けていなかった者はその低下が著明であった。この ことから、プログラムに一定の効果があったことがうかがえた。また、トレーニングの継続や習慣化が今後の課題と なることが推察された。
3. 学外共同研究
担当者 研究課題 学外研究施設
研究施設 所在地 責任者
眞木 吉信 歯科疾患予防のための日本人のフッ化 物摂取基準とフッ化物応用プログラム
神奈川歯科大学・歯学部・社会 医歯学系健康科学講座口腔保 健学分野
横須賀市 荒川 浩久