4. 磁歪法によるアンカー軸力測定
4.5 載荷実験
載荷フレーム
ロードセル
磁歪センサ
図4.11 軸力載荷装置
(この写真は別のタイプのアンカーヘッドにおける実験の際に撮影したもの)
図4.11に示す軸力載荷装置(最大荷重1500kN)を用いて実験を行った。以下に、リング ナットにおける計測結果、およびアンカーヘッド端面における計測結果を順に記述する。
4.5.1 リングナット側面における計測結果
アンカーヘッドの浮き高さ:d
図4.12 アンカーヘッドの浮き高さ
このタイプのアンカーは軸力が低減した場合に最緊張ができるようにリングナットが備 えられているものである。したがって図4.12に示すようにアンカーヘッドを距離dだけ浮 かせた状態で使用されることもある。この時、dの大きさに依存してリングナット側面の応 力分布が影響を受けるため、軸力載荷実験においては d の大きさを3 通りとして実験を行 った。その概要を表4.1に示す。
表4.1 リングナットの載荷実験
リングナットの番号 実験の内容
Nut 1
【載荷サイクル1】
まず、d=25mmに設定する。次に、0から250kNまで荷重をあげ
る。軸力は50kNごとにホールドし、リングナットの側面におい
てCenter、 Bottomの合計8か所において電圧値を計測する。ピ
ーク荷重後は、同様に50kNごとに荷重を下げ、それぞれのレベ ルで計測を実施する。
【載荷サイクル2】
d=12.5mmにして同様の実験を行う。この際、アンカーヘッドは
サイクル1を終えた状態のもの(くさびが食い込んでいるもの)
を使う。
【載荷サイクル3】
d=0mmにしてサイクル1、 2と同様の実験を実施する。この際、
アンカーヘッドはサイクル1、 2を終えた状態のもの(くさびが 食い込んでいるもの)を使う。
Nut 2
リングナットだけを交換して、Nut 1に対して実施したものと同 様の実験を実施する。アンカーヘッドはそのままのものを用い る。
図4.13に実験結果のまとめを示す。ここでは、それぞれの荷重レベルで計測したCenter、
Bottom の計測箇所における電圧値の平均値をプロットしている。また、載荷と除荷のプロ
セスを区別するために、載荷の最初のポイントに黒い矢印を示している。
0 50 100 150 200 250 300
-1.6 -1.4 -1.2 -1 -0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0
Load (kN)
Voltage (V)
リングナットの載荷実験結果
Nut 1 d=25mm Nut 1 d=12.5mm Nut 1 d=0mm Nut 2 d=25mm Nut 2 d=12.5mm Nut 2 d=0mm
図4.13 リングナットの載荷実験結果
Nut 1の結果においては、浮き高さdの値によって電圧値が尐しずつ小さくなっているこ
とがわかる。また、それぞれの傾きは概ね等しいと考えてよいようである。また、このナ
ットについては残留応力の平均値が-0.5V程度であったため、その付近に集中した結果が出 ている。
Nut 2においては残留応力の平均値が-1V程度であったため、Nut 1とは別の領域に電圧値
のグラフが分布する結果となっている。浮き高さ d の変化によって電圧値の反応が尐しず つ小さくなること、またそれらの傾きが全体的に同レベルの値であることがわかる。
全体を通じて、載荷の最初に比べて除荷の最後のほうが電圧値が小さく(絶対値として は大きく)なっており、荷重に対するヒステリシスが出ているが、これは比較的小さい範 囲にとどまっている。リングナットにおいては残留応力の平均値が個体によって大きくば らつくため、統一的な校正曲線(荷重 vs 平均電圧関係式)を定義することは容易ではない ことがわかる。また、それを定義する際には、浮き高さ d を考慮する必要があることがわ かる。
4.5.2 アンカーヘッド端面における計測結果
リングナットを対象とした計測から、その表面における残留応力が大きいことが分かっ たため、固定部の他の計測候補地としてアンカーヘッド端面の 5 か所を選定し、その場所 に限定した計測を実施した。その内容を表4.2示す。
表4.2 アンカーヘッド端面の計測
アンカーヘッド 実験内容
新しいアンカーヘッドを使用
【載荷サイクル1】
d=0mmとしてリングナットはNut 1を使用する。アン
カーヘッドは新しいものを用いて 250kN までの上げ下 ろしを行う。計測は50kNピッチで実施する。
【載荷サイクル2】
サイクル 1 でくさびはすでに食い込んだままになって いるが、そのまま同様の試験をサイクル2として実施す る。
0 50 100 150 200 250 300
-1.6 -1.4 -1.2 -1 -0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0
Load (kN)
Voltage (V)
アンカーヘッド端面における反応
1st cycle 2nd cycle
図4.14 アンカーヘッドの計測結果
図4.14に計測結果を示す。新しいアンカーヘッドに初めて載荷する形となる1st cycleで は小さな残留応力を有しているアンカーヘッドがリングナットよりも低い感度(同様の荷 重増加に対する電圧値の変動が尐ない)で反応していることがわかる。また、2nd cycleでは、
すでにくさびが食い込んだままとなっているため、アンカーヘッドは周方向に引っ張り応 力が作用したままの状態となっていることが推察される。従って、それを表している電圧 値が荷重の増減にかかわらずほぼ一定値を示していることがわかる。