第 7 章 結言
D.1 磁場なし理論
プラズマ中にプローブD-1), D-2)を挿入し,導体周辺のプラズマが持つ電位(プラズマ空間 電位)Vsと同電位に保つとプラズマは電気的に何の擾乱も受けずプラズマ状態のままで 存在する.このプラズマ中のプローブに外部からプローブ電位 Vpを印加すると,プロ
ーブ電流IpはFigure 80のような電流電圧特性を得ることができる.電流-電圧特性は,
空間電位Vsと電流がゼロになる浮動電位Vfを境に,大まかに言って3つの部分に分け られる.プローブが空間電位 Vs にあるときは,周囲のプラズマと全く同電位であるの で,プラズマ中の電子とイオンは熱運動によって自由にプローブ表面に到達する.この プローブ電流はプラズマ粒子の熱拡散電流である.プローブ表面の単位面積を単位時間 内に通過する電子の個数をΓeとし,また電子の速度がマクスウェル分布に従うとすれば 以下の式で与えられる.
e e e
e e e
e e
e e
e
e n v
m n kT kT dv
v m kT
v m n dv v vF
n 4
1 2
exp 2 ) 2
0 ( 0
2 2
=
=
−
=
=
Γ
∫
∞∫
∞p p
ただし,ne:電子密度,k:ボルツマン定数,Te:電子温度,me:電子質量,f(v):速度 分布関数,〈ve〉:電子の熱運動平均速度である.またイオンも同様に表せる.
e e
e m
v kT
p
= 8
ここで,eを電荷素量,S をプローブ表面積とすると,電子・イオンの熱拡散電流はそ れぞれ以下の式で与えられる.
電子に関しては
1 2 0
1 1 8
4 4
e
e e e e
e
I N ev S N e kT S
pm
= =
正イオンに関しては
1 2 0
8
1 1
4 4
i
i i i i
i
I N ev S N e kT S
pm
= =
でそれぞれ表される.ここで,meと miは電子及びイオンの質量,νeとνiは電子及びイオ ンの平均熱速度を表す.プローブにはIe0とIi0の両方が同時に流入するためプローブ電 流Ipは次のようになる.
付録
11
{
e i}
p eSn v v
I = 0 −
4 1
ただし,Ipの正の方向は便宜上電子の流れる方向にとる.
mi≫meのためTiがTeに比べはるかに大きくない限り〈ve〉≫〈vi〉が成り立ち,プロー ブには負の電流が流れる.
プローブ電位が Vsよりも正になると,プローブ付近生じた電界により電子は引き寄 せられるが,イオンはプローブ表面から追い返さる.プローブ表面には電子鞘(Electron
sheath)が形成され,正電圧の増加と共に電子電流は増大する.このとき正電荷に打ち勝
つ速度を持ったイオンのみがプローブに流れ込むからΓiは次のようになる.
∫
∞
−
=
= Γ
mi
eV i
i i i
i kT
v eV n dv v vF
n 2 exp
4 ) 1 (
したがって,プローブに流れる全電流Ipは次のようになる.
−
−
=
i i
e
p kT
v eV v
eSn
I exp
4 1
0
プローブとの電位差 V によらず一定の値となった時のプローブ電流 Ipを電子飽和電流 Iesと呼ぶ.この領域では正電圧を極端に増やすと,最終的にはプローブを電極とした放 電状態が始まり,電流が急激に増大し,プローブが焼損破壊される恐れがあるので注意 を要する.
プローブに Vsより負の電圧を印加すると,今度はプローブ表面から電子が追い返さ れ電子電流の流入が減る一方で,イオン電流の流入が増える.したがってプローブ電流 は先ほどと同様に次のように表すことができる.
−
−
= i
i e
p v
kT v eV
eSn
I exp
4 1
0
しかし電子電流はイオン電流に比べて断然大きいので,プローブには見かけ上依然とし て電子電流が流れるが,負電圧の増加とともに,負のプローブ電流は急激に減少し,浮 動電位 Vfの点でゼロとなる.これはこの点でプローブに流入する電子電流とイオン電 流の値がちょうど等しくなるからである.プローブの電位を Vfに比べてさらに負にす ると,電子電流はさらに減少し,イオン電流はさらに増えるので,差し引きでプローブ には正のイオン電流が流れるようになり,負の電圧が増えるとともに電流は増大する.
この時プローブ表面付近にはイオン鞘(Ion sheath)を形成する.プローブ電流Ipは一定と なり,このときの電流をイオン飽和電流と呼ぶ.イオン飽和電流は次の式で与えられる.
−
=
2 exp 1
12
i e e
is m
eSn kT I
プローブ測定が行われるプラズマにはいろいろな状態のものがあるが,最も基本的な ものとして,低圧ガス圧の無衝突プラズマ(Collision less plasma)で(1)電子の平均自由行 程がプローブの寸法及びイオン鞘の厚みに比べて十分大きい,(2)電子のエネルギーが マクスウェル分布である,と仮定できる場合である.
プラズマ電位 Vsは電子が減速される減速電界領域から電子飽和領域へと折れ曲がりを 生ずる点である.Vsは熱拡散電子電流がほとんどプローブに流れている点であるが,実 際に測定で得られる値は電子電流のみではなく,イオン電流Iiも含まれているので,は っきりとした折れ曲がりがみられない.そこで,Ieだけの特性曲線を推定してVsを求め る.プローブ電位が十分に負である領域では電子電流は入り得ないので,プローブ電流 IpはほぼIiとみなしてよい.イオン飽和領域で接線を引きそれを Iiと見なし,IpとIiの 差からIeを求める.イオン電流の補正をして得られた電子電流Ieは,横軸にV,縦軸に Iをとりセミロググラフにプロットする.セミログにプロットしたIeはVs付近で屈曲点 を持つはずであるが,実際ははっきりとした形は見えず緩やかな曲線を描く.これはプ ローブが,プラズマに擾乱を与えるために起こると考えられている.そこで,Vsのz前 後の領域の直線部分に接線を引き,交わる点をVsとする.
Figure 80 Typical probe I-V curve
0.01 0.1 1 10
-4 0 4 8 12 16
-10 0 10 20 30
Logarithmic electron current,µA
Probe current,µA
Probe voltage, V e/kTe Plasma voltage
付録
13