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1.  研究の背景と目的

ネイスビッツの̀Think Globally, Act Locally'のスローガンのもと,地球環境保全

に向けた多くの活動がNPOなどを中心に行なわれているが,もともとこれは,グローバ ル化が同一化を意味するのではなく,地域資源や地域文化をグローバルに展開しようとい

う観点から述べられたものである.ところが,深刻で逼迫した地球環境問題とこのスロー ガンを組み合わせると,地球環境保全のために地域社会での活動を控えるよう強制するこ

とにもなりかねない.勿論,筆者らは地球環境問題の重大な局面においてこのスローガンの もつ意味の重要性を否定するものではない.ここでは, 『グローバルスタンダードによる活 動よりも,ローカルな活動に豊かな地域づくりの可能性がある』という点を重要視してい

る.

近年の環境倫理学は分配的正義に重きをおきつつも,その中味については様々な見解が ある.少なくとも共通理解として,地域に住む市民の幸福や富だけではなく,地域生活にお いて市民の暮し向き(生き方)はどうなっているのかといった、ある種の「卓越主義」的 な見方も可能である.生き方の画一的な計量は難しく, 「よい生き方とは何か」という論題 はおそらく未来永劫のものであろうが,筆者らはA.センのケイパビリティ(生き方の幅)

を一つの指標におきたい.

本研究では,暮し向き(生き方)の分配に着目するのではなく,地域での環境行動が地域 市民の暮らし向きを決定づけるとの前提で,地域環境の計画づくりを題材にした地域市民 の環境学習を実践的に行うロールプレイイング・ゲーム(以降, RPGと略記)を構築・設 計し,実際に地域市民の参加による実験を通してこのシステムを評価する・

このシステムの特徴は,地域の環境行動を地域の『文脈』に関連づけていることであり, 市民の暮し向きをこの『文脈』に依拠させている・したがって,市民の環境椎持・保全行動 が,地球規模の大局的観点からの『道徳』 (ギャレットハ‑デインの救命ボート的な倫垣 による全体主義的行動規範)に根拠づけられるものではない点が重要である・

2.地域性を考慮した地域づくり 1)暗黙の知としての地域の文脈

M.ボランニーは,私たちのもつ「知」には「暗黙の知」というものがあり,それは説明

しがたく,かつ説明しようとするとその知が損なわれる「包括的存在」というものがある

と論じる1).同じことが地域性についても言えるのではないだろうか・同じ地域で生活す

る市民が,地域の性格(‑包括的存在)に注目するとき,それは地域の諸部分について市

民が感知していることに依拠している・諸部分と包括的存在,およびこれらの論理的関係 が暗黙の知であるが,諸部分を細かく分析すると包括的存在の観念は破壊される.筆者ら は,この暗黙の知という概念を用いて地域性を説明することができると考えている.すな わち,地域性とは,地域市民が共有する暗黙の知であって,それは彼らの地域の諸部分に ついての感知から生じるものであるが,その諸部分を彼らに説明させようとすると地域の 文脈は壊れてしまう・したがって,地域づくりにおいてその地域性(‑地域の文脈)を考 慮するためには,第三者が地域の諸側面を分析し,説明し,そして市民にそれを議論させ

るような直接的な方策は機能しないことなる.

2)ベルクの風土論

A・ベルクは「風土」を「ある社会の,空間と自然に対する関係」と定義している2).そ

して,主体(人間・社会)と客体(自然環境)の間の通態(相互の働きかけ)による風土 の感覚的なあらわれが風景である・風土性は実証科学の視点を大きくはみ出し,客観的事 実は主観的価値であると同時に,価値もまた事実であるとしている.本研究で考えている 地域性をこの観点から述べてみると,ある一つの現実(地域性)を把握しようとすること には基本的に主観性の部分がつきまとうが,それは単に観察される現実(地域性)に対し てだけではなく,観察する人自身の中においてもつきまとう.観察者が何らかの風土に必 ず属しているということを確認しておけば,風土学的「事実」には常に価値の部分が含ま れることを十分考慮でき,価値と事実を混同しないことができる.

ベルクは,物理的なものと現象的なものとの非合理的な結合に関して,科学万能主義や 生態学主義(ェコロジズム)という形の下に,自然と人間との関係についての我々の判断 に踏み込んでくることを恐れているのである・地域づくりには,地域市民と地域環境の間 の通態から生み出される風土学的事実が十分に考慮され,それを軽視するような第三者に よる『科学合理的』な環境整備,地域開発は避けなければならない.

3.地域の文脈を考慮した地域づくりのためのRPG

1)文脈不一致型RPGのコンセプト

地域づくりのためのRPGのもつ合意形成支援効果として次の2つの観点から捉える.

①地域社会の独自性(地域の文脈),各人の社会的役割の認識

②地域環境に関する学習(教育)

RPGの各参加主体(プレイヤー)は,あらかじめゲーム化された世界(地域社会)の 中で社会的役割が与えられる・そして,各プレイヤーがゲームのルールの下で,役割に記 された目的を達成するべく意思決定を行う. ①の観点でみると, RPGには他のプレイヤ ーを第‑者的に知る仕組みが考慮されるべきことが示唆される.つまり,地域社会の中で

自分とは異なる役割が与えられる役割交換型のRPGがクローズアップされる.しかし,

このRPGは②については限定的なものとなる・プレイヤーが集合として地域の中で閉じ

ており,地域性を風土の視点でみるとき,地域における空間と自然との関係性を引き出す ことができないからである. ②に着目した地域づくりRPGとして,第三者を含めた新し

いRPGのコンセプトが生まれる.

当該地域の文脈とは異なる第三者(代理人)に,地域の人になってもらい地域づく りについて真剣に議論してもらう,これを地城の人が応援していく,思うように意思 が伝わらない,それならば私たちが議論を,といったプロセスを生むようなRPGを 実施することで地域性を意識させようとする.このRPGを文脈不一致型RPGと名

づける.

2)RPGの設計

教育という側面では,代理人の方が効果が大きい.というのは,彼らは地域と無関 係な第三者であり,地域のことを地域市民の議論を通して,他のメディア情報からは 得られないような地域の自然環境,社会環境を学ぶことができるからである.

地域市民の教育という観点では,地域における一つの問題をいくつかの論点から議 論してもらい,それが広範な問題に関わっていることを認識し,大局的視点を提供す ること,また逆に,地域の自然・空間と地域社会との関係性という地域的視点を提供 することである.後者が,文脈不一致型のRPGの最大の目的となる.

地域市民のゲームGaと代理人のゲームGbの間を次のように結びつけられる・

①地域市民は代理人のゲームGbでの議論は観察のみが許され,それに参加すること はできない.議論の終わった後,対応する代理人に意見を述べることができる.

②代理人は,地域市民の選好に沿って意見を述べるのではなく,自分の選好に沿っ て意見を述べることを指示されている.

③ゲーミングを通して,地域市民は自分に対応する代理人以外はどの市民がどの代 理人であるかは知らされない

①はGaとGbのゲームとしての独立性の確保, ②は代理人の個人文脈を生かしておくこと,

③は地域市民に対する代理人の匿名性を確保することの要請である.実際には,地域市民

のゲームG。だけがRPGであるが,文脈不一致型RPGと言うときは, 2つのゲームの 組(Ga, Gb)を指すものとする.

3)議論のテーマとRPGの手順

RPGでは,当該地域で実施中あるいは計画中の地域づくり(議論のテーマ)に関する 様々な活動に関して,地域市民に自由な意見を述べてもらうことを基本としている.ただ

し,ゲーム性を高めるために市民の間で意見のくい違いがあると思われる論点を前もって 用意する必要がある.

議論の形式は,フアシリテ一夕‑が, RPGに参加する各プレイヤーを指名し(地域市 民の議論でも同様),論点に沿って順次意見を述べてもらうよう交通整理をする.最後にフ

リーの議論を行ない,一つのRPG (地域市民の議論)が終了する.

本研究でのRPGは,代理人の学習プロセスを重要視している.すなわち,代理人は与 えられた地域市民の役割を演技するために,市民の立場や考えを知るだけではなく,地域 の環境について代理人が可能な範囲で知っておく必要がある.したがって,代理人は, R P Gの本番前に,実験者が用意した市民の個人情報や地域環境に関する情報を記した文書 を参考に,事前のRPGを実施する.さらに, RPG本番当日には実際に現地を歩いても らい,地域環境を体験してもらう.

R PGの本番は以下の手順で実施する.

(ヨプレイヤーについて

地域市民(住民)数名,代理人(大学生)数名

②ゲームの進行手順(図1)

・手順Ⅰ 〔地域市民同士の議論(1)〕

地域市民同士で地域づくりについて議論する.代理人にはこの議論を見せない.

・手順Ⅱ 〔代理人の情報収集(1)〕

(地域市民,代理人)のペアをつくり,個室で代理人は地域市民から地域づくりに 対する意見,地域の現状等の情報を収集する.

・手順Ⅲ 〔代理人の議論(1)〕

代理人が各地域市民の立場に立ち,自分の選好にもとづき,地域づくりについて 議論する.地域市民はその議論を見る.

手順Ⅱ, Ⅲと同じことを繰り返す.

・手順Ⅵ 〔住民の議論(2)〕

最後にもう一度,地域市民同士で議論する.代理人はその議論を見る.

・手順Ⅳ, Ⅴ 〔代理人の情報収集(2),代理人の議論(2)〕

手順Ⅰ地域市民の議論(1) 偃引xuY 9yル ネ,ネ 饑 ク r 手順Ⅲ代理人の議論(1) 

〇〇〇  ク ネ ネ ク ネ ツ ●●● 

〇〇〇  ク ネ ネ ク ネ ツ ○●●●○ 

○⇔●○⇔●  ィ ィ ィ 「

手順Ⅳ代理人の情報収集 偃引xu 9yル ネ,ネカ9 手順Ⅵ地域市民の議論 

(2)  2) 

○⇒●○⇒●  ネ ネ ツ 〇〇〇 

○⇒●○⇒●  ク ネ ネ ネ イ ●〇〇〇● 

○⇒●○⇒●  ィ ィ ィ 「 ●●●● 

図1.ゲームの進行手順(地域市民○ 代理人●)

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