6.1 研究から得られた結論
本研究では,5つの研究課題が要請された.この 5 つの研究課題に ついて,以下のように結論づけた.
【研究課題 1】
研究課題1に対し,G.Vergnaud(1988)の視点の考察により,多様 な解決を数学的な語を用いて一般的に表すことで,場面に依存せず考 え方の違いを表すことができることから,Theorems-in-action(行為 における定理)を数学的な語で表すことで,各学年でのわり算の学び 方を表す枠組みを構築することができるということが明らかとなっ た.
【研究課題2】
数学的に見てわり算とはそもそもどのようなものか
わり算の問題では,1 にあたるものを求める問題がほとんどである.
研究課題 2 に対し,文献の考察から,この1 にあたるものを求めると いうことには,除法は,数学的には乗法の逆演算として定義されるが,
単位元が 1 である乗法についての逆元を考えると,乗法の逆演算が登 場 する と いう 数学に おけるわ り算の 位置 づけ があ るとい うこ とが明 らかとなった.
このことは,実際のわり算の問題場面の計算過程において,1 を作 っていることが確認できることから,単位元が 1であるかけ算につい ての逆元 を求 めると いう考え が用い られ ているこ とが明 らか となっ た.また,1 にあたるものを求める場合でない場合においても,その 計算過程において,単位元が 1であるかけ算についての逆元を求める という考えが用いられていることを確認することができることから , 1 にあたるものを求めるということが前提となっていると解釈するこ とができることが明らかとなった.
各学年でのわり算の学び方はどのような枠組みで表すことができるか
【研究課題3】
算数・数学教育においてわり算の学習内容の系統はどのようになって いるか
研究課題3に対し,先行研究から,数学では除法は乗法の逆演算で あると定義されており,わり算の学習内容の系統を把握するにあたっ ては,かけ算の学習内容の系統についても,把握する必要があるとい うことが明らかとなった.さらに,各学年におけるかけ算,わり算の 学習内容の系統について検討し,それらを「わり算の学習内容の系統 表」として示した.ここから,学年を通して用いられていることから,
今までに学習した知識を生かし,積み重ねていくことができるような 学習指導を考えるにあたって重視するべき3つの関係が明らかとなっ た.それは,以下に示す関係である.
Ⅰ 除法は乗法の逆演算であるという関係
Ⅲ 「基準量 割合」とその逆演算の関係
【研究課題4】
よりよいわり算の学習指導をどのように設計するか
研 究 課 題4に 対 し , 【 研 究 課 題1】 に お い て 明 ら か と な っ た
Theorems-in-action(行為における定理)を数学的な語で表すという
枠組みを用いて,【研究課題2】において明らかとなった単位元が1で ある乗法についての逆元を考えると,乗法の逆演算が登場するという 数学におけるわり算の位置づけ ,【研究課題3】で構築した「わり算 の学習内容の系統表」から明らかとなった学習指導を考えるにあたっ て重視するべき3つの関係を基に,学習指導要領及び教科書分析を通 し て 現在 の学 習指導 と比較さ せなが ら よ りよいわ り算の 学習 指導を 設計した.
Ⅱ 除数及び被除数に同じ数をかけても同じ数で割っても商は変わ わら らない」という関係
【研究課題5】
どのようにわり算について教材を論理立てるか
研究課題5に対し,【研究課題4】において設計したわり算の学習指 導を基に,第4章で示したわり算の学習内容の系統表を
「Theorems-in-action(行為における定理)を視点とした教材論理の
系統」として本研究の視点から捉え直した.これにより,以下の事柄 が明らかとなった.
第2章で述べたベルニョのTheorems-in-action(行為における定理)
を数学的な語で表すことで,各学年におけるわり算の学習で用いる考 え方を場面に依存せずに表すことができ,わり算というトピックスに ついて学年を通して見たときに,どのように考え方がつながり変化し ているのかをはっきりと把握することができる.この
Theorems-in-action(行為における定理)を用い,各学年のわり算の 学習におけるTheorems-in-action(行為における定理)の学び方を考 慮することで,子どもたちが今までに学習した知識を生かし,積み重 ねていくことができるようなわり算の学習指導を設計することがで きるということが明らかとなった.また,このような学習指導を設計 するにあたり,平成23年度版の教科書から6社すべてにおいて取り扱 われる数直線上の対応図を学習指導の道具として用いることは有効 であるということも明らかとなった.
以前から,日本でも「既習事項を使う」ということや ,「高いとこ ろから見る」という概念領域に関連する研究は行われている .しかし,
1つのトピックスを学年,学校種間を通して見るということはまだ十 分に行われているとは言えない.
本研究では,Theorems-in-action(行為における定理)を数学的な 語で表すという枠組みを用いて一般的に表すという視点を大切にし,
本質的な視点から分析を行うことで,教材を論理立てること,そして,
学年,学校種間を通して,子どもたちが今までに学習した知識を生か し,積み重ねていくことができるような学習指導を根拠を持って設計
することが可能になるということが明らかとなった.本研究では,わ り算を取り上げたが,他の教材においても同じような方法で教材を論 理立て,学年,学校種間を通して子どもたちが今までに学習した知識 を生かし,積み重ねていくことができるような学習指導を設計するこ とができるのではないかということを提言したい.
6.2 残された課題
本研究の残された課題として挙げる点は以下の 2点である.
1 点目は,第 3章において単位元と逆元という視点から,数学の中 でのわり算の位置づけについて明らかにしたが,数学で逆元を認める というこ とが な ぜ 大 切にされ ている のか について は考察 する ことが できていない点である.
2 点目は,実践面についてである.本章において,本質的な視点か ら分析を行うことで,教材を論理立てること,そして,学年,学校種 間を通して,子どもたちが今までに学習した知識を生かし,積み重ね て いくこ とが できる ような学 習指導 を根 拠を持っ て設計 する ことが 可能となることを明らかにした.しかし,このような学習指導を実践 した際,学年を通して教師が実際にどのように指導を行っていくのか,
また,子どもはどのような反応を示すのかについては検討することが できていない.
引用・参考文献
・伊藤説朗(2008). 算数科の未来型学力=思考力・表現力を育てる 授業, 明治図書
・啓林館(2006).未来へひろがる数学 1
・啓林館(2006).わくわく算数 4 年〜6 年上下
・キース・デブリン 山下純一郎訳 (1995). 数学:パターンの科学,
日経サイエンス社
・文部科学省(2008).小学校学習指導要領解説 算数編,東洋館出 版社
・文部科学省(2008).中学校学習指導要領解説 数学編,教育出版 株式会社.
・中島健三(1981) .算数・数学教育と数学的な考え方 その進展のた めの考察,金子書房
・Smith,E&Henderson,K,B .(1959). The Growth of Mathematical Ideas K-12.Twenty-fourth yearbook. (pp.111-181).NCTM.
・算数教育学研究会(1979). 算数科教育研究,学芸図書株式会社
・杉山吉茂(1997).少なく教えて多くを学ぶ算数指導,明治図書出版 株式会社
・Vergnaud,G.(1988).Multiplicative structures. Hiebert,J &
Benhr,M (Eds). Number Concepts and Operations in the Middle Grades.(pp.141-161) LEA.
・矢部敏昭,溝口達也,栗岡玲子,児島幹夫(1999).小数の除法の 意味の拡張を図る学習指導に関する‐考察‐第5学年における数直 線の活用,鳥取大学教育地域科学部教育実践研究指導センター研究 年報第 9 号
謝辞
この研究を遂行するにあたり,ご指導いただいた方々に深く感謝い たします。
溝口達也先生には,物事を理解することが遅い私に,具体例を挙げ て分かりやすく説明して下さるなど,終始熱心にご指導していただい たことを心から感謝しています.先生から多くのことを学ぶことがで き,大変嬉しく思っております.本当にありがとうございました.
また, 矢部敏昭先生にも, 講義や卒業論文中間発表の際にご指導 いただき, 大変感謝しております.時折声をかけていただき,励み になりました.温かく見守っていただき,ありがとうございました.
最後になりましたが,研究室の先輩である早田透さん,前田静香さ ん,池田和彌さんには,いつも快く相談に乗って下さったり多くの助 言をして下さったりしたことに心から感謝申し上げます.同級生であ る小村亮さん,安井紗笑さん,日野治樹さん,後輩である朝岡卓 哉さ ん,尾崎いづみさん,玉川奈緒さんにも大変お世話になりました.感 謝しています.
このように多くの方に支えられ, 本論文を完成させることができ ました.教師になっても学ぶ姿勢を大切にし,自分自身を磨いていき たいと思います.
平成2 3 年1 月 柏木美穂