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第 6 章 研究 1-2: 反偏見事例による潜在的偏見の低減に評

価の顕現性が及ぼす影響-黒人に対する偏見を用 いた検討-

6-1.問題と目的

検討事項

研究1-1では、新奇の有能な肥満者事例を呈示しても、肥満者を無能とする潜在的偏見 が影響を受けることは示されなかった。反偏見事例の呈示によって潜在的偏見が低減しう ることは、Dasgupta たちの一連の研究(Dasgupta & Greenwald, 2001; Dasgupta &

Rivera, 2008)で示されているが、研究1-1の結果から、呈示される事例は著名人である

ことが重要であると言える。著名であるということは、そうした事例は対象となっている カテゴリーに関する知識として表象されており、反偏見的な側面として記憶内に貯蔵され ていると考えられる。そして、事例の呈示をきっかけとして、反偏見的な側面が活性化さ れ、潜在的偏見が低減するのだろう。

このように、反偏見事例の呈示による潜在的偏見の低減は、部分的活性化のメカニズム によるところが大きいと言えるだろう。そうだとすれば、カテゴリー表象内の反偏見的な 側面に焦点があてられるほど、その側面の活性化水準が高まり、潜在的偏見は低減しやす くなると考えられる。特定のカテゴリーに対してネガティブな感情価が結びついて偏見が 持たれている場合、反偏見事例はカテゴリーの表象内で、逆のポジティブな感情価と結び ついて、反偏見的な側面を構成していると想定できる。そのため、事例が呈示されたとき、

その事例の感情価(ポジティブな評価)に注意が向けられることが、反偏見的な側面が活 性化するうえで重要となるだろう。言い換えれば、事例の評価以外の点に注意が向けられ れば、反偏見的な側面が活性化しにくいことが予想され、結果として潜在的偏見の低減効 果が生じないともいえるだろう。

このことに関連して、Mitchell, Nosek, and Banaji(2003)は、著名な黒人や白人のど のような側面が着目されるかによって、それらの人物から導出される潜在的評価が異なる ことを検討している。Mitchellたちの実験では、参加者に、好きな黒人の運動選手と嫌い な白人の政治家を挙げてもらった。そして、各参加者が挙げた人物を使ってIATを実施し

たのだが、このとき、黒人の運動選手と白人の政治家は、職業(i.e., 運動選手 vs. 政治家)

か人種(i.e., 黒人 vs. 白人)のいずれかで分類された。その結果、職業で分類されたとき は、黒人運動選手は白人政治家よりもポジティブに評価されたが、人種で分類されたとき は、黒人運動選手は白人政治家よりもネガティブに評価された。こうした実験結果は、同 じ人物であっても別の側面に焦点があてられれば、活性化する感情価も異なることを示し ているだろう。

以上のことを考慮すると、一般にポジティブに評されている人物が反偏見事例として呈 示され、それが著名な人物であったとしても、その人物が属すカテゴリーに対する潜在的 偏見は必ずしも低減するとは限らないと考えられる。低減するのは、呈示された人物のポ ジティブな評価が顕現的な場合に限られるだろう。例えば、「ウサイン・ボルトはオリンピ ックで金メダルをいくつも獲得している」といったように、その人物がポジティブに評価 されていることが強調されるときのほうが、黒人のポジティブな側面が活性化しやすく、

結果として黒人に対する潜在的偏見が低減しやすいと考えられる。そこで、研究1-2では、

反偏見事例を呈示するときに、その人物の評価に関する情報を含めるか含めないのかによ って評価次元の顕現性を操作し、反偏見事例の呈示が潜在的偏見に及ぼす影響を検討する。

実験の概要と仮説

研究1-2では、以上の点について、人種に関する偏見(黒人を白人よりもネガティブに 評価する傾向)を用いて検討する。人種に関するステレオタイプや偏見は、主に北米で検 討されており、一般に、白人に比べて黒人は潜在的にネガティブに評価されやすいことが 報告されている(e.g., Nosek, Banaji, & Greenwald, 2002)。日本でも、黒人が歴史的に 偏見や差別の対象となってきたことはよく知られており、そうした知識から、黒人はネガ ティブな感情価と連合しやすいことが予想される。その一方で、映画俳優(e.g., デンゼル・

ワシントン)や運動選手(e.g., ウサイン・ボルト)など、ポジティブに評価される黒人事 例も知られているだろう。そこで、研究1-2では、ポジティブに評価されている黒人の著 名な人物(i.e., 著名な反偏見事例)を呈示することが、潜在的人種偏見に影響を及ぼすか どうかを検討する。

実験では、まず、著名かつ卓越した経歴を持つ黒人事例の写真を呈示する。このとき、

評価の顕現性を操作するため、その人物の評価にまつわる情報を呈示する条件(評価顕現 条件)と、評価とは直接関連しない情報(e.g., 出身地)を呈示する条件(評価非顕現条件)

第6章 研究1-2

を設ける。また、黒人事例を呈示しない統制条件も設ける。そして、人種(黒人 vs. 白人)

と感情価(良い vs. 悪い)間の潜在的な連合強度を、紙筆版 IAT によって測定する。ま た、顕在的偏見も測定し、事例呈示の影響を探索的に検討することにする。

仮説は次の通りである。黒人事例が、ポジティブに評価されていることを顕現的にして 呈示されると、黒人に対する潜在的偏見が弱まるだろう。

6-2 .方法

実験参加者

東京都内の大学で、「量的データ解析法」を受講している大学生 49名(男性22名、女 性27名)が実験に参加した。平均年齢は20.8歳(SD = 1.65)であった。参加者は、受 講している講義の出席追加点と引き換えに、実験に参加した。

実験計画

呈示事例(評価顕現条件 vs. 評価非顕現条件 vs. 統制条件)の1要因3水準実験参加 者間計画であった。各参加者は、3つの条件のいずれかにランダムに割り当てられた。

事例呈示に用いた刺激

評価顕現条件と評価非顕現条件で呈示する黒人の人物として、日本でもよく知られてい ると思われる人物を中心に 15 名選出し、インターネット上から各人物の顔写真を収集し た(選出した人物は表6-1参照)。なお、各人物は、その人物を知っているかどうかを判断 させる課題の中で呈示した(詳細な手続きは後述)。そのため、課題自体が不自然にならな いように、あまり知られていないと思われる人物(e.g., シドニー・ポワチェ)も選出した。

評価非顕現条件では、人物の写真・名前と、その人物の生没年・出身地・職業に関する情 報を1枚のスライド上に載せ、呈示した。評価顕現条件では、人物の写真・名前と、その 人物の評価にまつわる情報(e.g., 受賞歴)を1枚のスライド上に載せ、呈示した(図6-1 参照)。

統制条件では、日本でよく知られていると思われる世界遺産を15選出し(e.g., パルテ ノン神殿; 表6-1参照)、各遺産の写真と名称、その遺産の簡単な紹介文・所在地・遺産の 種別に関する情報を呈示した。例えば、パルテノン神殿については、「古代ギリシャ時代の

遺構、ギリシャ・アテネ、1997年文化遺産登録」といった情報であった。なお、選出され た世界遺産の中にも、あまり知られていないと思われるもの(e.g., 九寨溝)も含めた。

6-1.研究1-2の各条件で呈示された人物・世界遺産

条件 (種別) 人物名・遺産名

評価顕現条件 評価非顕現条件

(運動選手) マイケル・ジョーダン / ウサイン・ボルト / ペレ タイガー・ウッズ / シャキール・オニール

トニー・グウィン

(映画俳優) モーガン・フリーマン / デンゼル・ワシントン シドニー・ポワチェ

(ミュージシャン) スティーヴィー・ワンダー / ルイ・アームストロング

(政治家・学者) バラク・オバマ / マーチン・ルーサー・キング Jr.

コフィー・アッタ・アナン

統制条件

(文化遺産) パルテノン神殿 / サグラダ・ファミリア モン・サン=ミシェル / ストーンヘンジ アブ・シンベル神殿 / サンスーシ宮殿 サン・ピエトロ大聖堂 / 紫禁城(故宮)

アンコールワット / ナスカの地上絵

(自然遺産) イグアスの滝 / ヨセミテ国立公園 アイガー/ 九寨溝

(複合遺産) マチュピチュ

【評価顕現条件での呈示例】 【評価非顕現条件での呈示例】

6-1.研究1-2の評価顕現条件と評価非顕現条件における事例の呈示例

注)顔写真は、図中では模式的なものになっているが、実験時には各人物の顔がはっきり と映っている写真を用いた。

第6章 研究1-2

潜在的人種偏見の測定

人種(黒人 vs. 白人)に関する潜在的偏見を紙筆版IATによって測定した。IATでは、

「白人-黒人」、「良い-悪い」を分類カテゴリーとして用いた。「白人」と「黒人」に分類 される刺激には、呈示した事例とは別の、無名の白人と黒人の顔写真を 5 枚ずつ用いた。

「良い」と「悪い」に分類される刺激には、それぞれの意味を表す単語を5語ずつ用いた

(「良い」関連語: 好き、快い、美しい、うれしい、素晴らしい/「悪い」関連語: 嫌い、

不快な、醜い、やかましい、汚い)。

IAT は4ブロックから構成されていた。ブロックAは、「黒人」と「悪い」に該当する 刺激を左側に、「白人」と「良い」に該当する刺激を右側に分類する課題の練習試行で、ブ ロックBはその本試行であった(以下、偏見一致ブロック)。ブロックCは「黒人」と「良 い」に該当する刺激を左側に、「白人」と「悪い」に該当する刺激を右側に分類する課題の 練習試行で、ブロックD はその本試行であった(以下、偏見不一致ブロック)。偏見一致 ブロックと偏見不一致ブロックの実施順序はカウンターバランスをとった。

各ブロックは 1 ページ上に表されていた。各ページには、分類する刺激(写真・単語)

が縦方向に並べられていた。そして、それらの上部左右には分類カテゴリーが記されてい た。参加者には、各刺激が上部左右に示されたカテゴリーのどちらに分類されるかを、各 刺激の左もしくは右に○印をつけることで回答してもらった。黒人と白人の写真は分類の 誤りを防ぐため、カラー印刷されていた。

紙筆版IAT用の冊子の表紙には、課題の概要・進め方の説明に加え、誤った分類を防ぐ ため、分類する刺激がカテゴリーごとに一覧表示されていた。また、偏見一致・不一致ブ ロックの練習試行の前には、そのブロックでの分類方法(左右の分類カテゴリー)を説明 するページが挿入されていた。参加者には、実験者の合図とともに刺激の分類を始め、制 限時間内にできるだけ多く、かつ正確に分類していくよう教示した。偏見一致・不一致ブ ロックの練習試行では 20 の刺激が並べられており(黒人・白人の写真、良い・悪い関連 語の各刺激が1回ずつ)、制限時間10秒で分類してもらった。本試行では40の刺激に対 し(各種類の刺激が2回ずつ)、制限時間20秒で分類してもらった。

顕在的人種偏見の測定

顕在的な人種偏見は、質問紙で6対の形容詞対を示し、各形容詞対上で黒人・白人それ ぞれがどの位置にあてはまるかを、両極7件法で回答してもらうことで測定した。用いた

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