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第3章 研究開発成果について

TiSi 2 相が Si 相を包み込む形態で複合 化し、かつ Si 相のアモルファス度が大

であることが高容量かつ高耐久性に 必要であることを確認。

・ 量産化に向けたシリコン合金の設計 指針に反映させた。

電池セル試作、

評価

3Ah 級セルで下記を実証

・ エネルギー密度:300Wh/kg

・ 出力密度:1,800W/kg

・ 耐久性:90%@300 サイクル

・ 安全性:釘刺異常無

・ コスト:1.5 万円/kWh

・ 面圧・エージング条件の最適化や負 極製造プロセスの改良を行い、3Ah 級 セ ル を 作 製 。 エ ネ ル ギ ー 密 度 300Wh/kg、出力密度 2,200W/kg、耐久 性として 84%@300 サイクル、安全性と して釘刺し試験時異常無きこと、更に コストとして 1.4 万円/kWh の見通しを 得た(675MWh/年生産時の予測値)。

◎大幅達成、○達成、△一部未達、×未達

(1) 高性能シリコン合金負極活物質の量産化

高性能なシリコン合金活物質の組成スクリーニングにおいて、活物質のみの「薄膜電極」を試作・

評価することにより、高サイクル耐久性を有するシリコン活物質としては、「アモルファス化」、「多元合 金化」が必須であることを確認した。量産化も考慮したメカニカルアロイ処理による合金活物質粒子 を用いた検討の結果、高容量と高サイクル耐久性を両立できる有望なシリコンアモルファス合金組成 として Si-Sn-Ti 合金を見出した。更に組成比の最適化及び電極合剤の作成方法を検討し、Li 金属 を対極としたハーフセルを作製して充放電容量を評価した。その結果を図 3.1.1-1 に示す。

Si65Sn5Ti30合金は放電容量 1,300mAh/g を示し、目標の放電容量 800mAh/g を達成した。

図 3.1.1-1 シリコン合金の充放電容量

次いで、本負極材料を用いて 50mAh 級小型ラミネートセルを作製した。正極は Li 過剰系、負極 は炭素被覆したシリコン合金、電解液としては LiPF6/FEC-DEC+添加物を使用した。この小型ラミ ネートセルのサイクル耐久性を評価した結果を図 3.1.1-2 に示す。

図 3.1.1-2 シリコン合金を用いた小型ラミネートセルのサイクル試験時の充放電曲線

このグラフには1回目と 300 回目の容量確認時の充放電曲線及び 10 から 100 回目までの 0.3C での充放電曲線を記載した。グラフから1回目の容量は 54.6mAh であり、300 回目の容量は 48.3mAh であることから、300 サイクル目の容量維持率は約 90%となり、目標値を達成した。

これまでスパッタ薄膜や小型遊星ボールミル等の少量試作レベルでは高性能なシリコン合金を 50mAh 級小型ラミネートセル

動作電圧:2.0 – 4.55V 充電:CCCV、放電:CC 温度:25℃

サイクル試験時:0.3C 容量確認時:0.1C 0

0.5 1 1.5 2

0 500 1000 1500 2000

Voltage [V]

Cathode Capacity [mAh/g]

シリコン合金/Li 金属 ハーフセル 充電:10mV-0.05C-CCCV, 放電:2.0V-0.05C-CC

合成できているものの、実用化に向けては大量のシリコン合金の作製が可能な工法で、少量合成 時と同等の放電容量・サイクル耐性を両立することが必要不可欠である。そこでメカニカルアロイ法 として「撹拌ボールミル装置」、急冷凝固法として「急冷ロール凝固装置」を組み合わせた製造方法 によりシリコン合金を作製し、電池性能を評価した。図 3.1.1-3 に示した中型単ロール急冷凝固装 置及びグラファイトノズルを用いて、平均膜厚 28μm の急冷薄帯を作製した。得られた薄帯を撹拌 ボールミル装置にてメカニカルアロイ処理を行った。

図 3.1.1-3 単ロール急冷凝固装置(中型)

図 3.1.1-4 に平均膜厚 28μm の急冷薄帯を用いてメカニカルアロイ処理した Si65Sn5Ti30合金、及 びメカニカルアロイ法のみで作製した Si65Sn5Ti30合金について、メカニカルアロイ処理時間に対する 50 サイクル後の耐久性を比較した図を示す。

図 3.1.1-4 Si

65

Sn

5

Ti

30

合金のメカニカルアロイ処理時間と耐久性

メカニカルアロイ法のみで作製した合金は 50 サイクル後の耐久性が 96%に達するのに 5 時間の メカニカルアロイ処理時間が必要であるのに対し、28μm の急冷薄帯を用いてメカニカルアロイ処理 をした場合は、2.5 時間の処理時間で十分なことが分かる。この図より、量産を想定した中型急冷 ロール装置と撹拌ボールミルを組み合わせた工法においても、メカニカルアロイ時間を約 1/2 の 2.5hr まで短縮できることが分かり、急冷ロール法/撹拌ボールミルの組み合わせ工法の効果を実証 することができた。メカニカルアロイ時間 2.5hr であれば、1 日に 2 バッチ(100g/バッチ)仕込めるた め、仮に営業日数を 20 日/月とした場合、原料投入量 4kg/月×収率 80%=合金試作可能量は 3.2kg/月となる。中型単ロール急冷凝固装置での作製可能量は 3.5kg/月であるため、急冷装置 とメカニカルアロイとの組み合わせにより目標 1kg/月以上の合金作製可能量 2.8kg/月を達成した。

また、図 3.1.1-5 にメカニカルアロイ処理した Si65Sn5Ti30合金の放電容量と耐久性の関係を示す。

飛行管 操作盤

真空チャンバー

グラファイト ノズル

銅ロール

0 20 40 60 80 100

0 1 2 3 4 5

耐久性(%)@50クル

MA時間(h)

0 20 40 60 80 100

1200 1300 1400 1500

耐久性(%)@50クル

放電容量(mAh/g) MA時間半減

MS+MA1h MS+MA1.5h MS+MA2.5h

MA2h MA3h

MA4h MA5h

28μmMS+MA MA

28μmMS+MA MA

製した合金の方が 50mAh/g ほど放電容量が高いことが分かる。これはメカニカルアロイ処理の時間 短縮のため、酸化やメカニカルアロイプロセス中のコンタミ混入によるシリコン合金の容量低下を抑 制できるためである。

図 3.1.1-5 メカニカルアロイ処理した Si

65

Sn

5

Ti

30

合金の放電容量と耐久性

以上の検討より、シリコン合金の作製プロセスとしては、①メカニカルアロイ処理時間の短縮、②容 量の向上、という観点より、急冷ロール法/メカニカルアロイ法の組み合わせが有効である。

(2) 高度解析

「多元素化」による添加元素分布とミクロ組織分布が、サイクル耐久性に与える影響を把握するた め、Cs-STEM(球面収差補正透過型電子顕微鏡)を用いたシリコンアモルファス合金粒子のミクロ組 織観察及び TEM-MRO 測定を行った。サンプルとしては、メカニカルアロイ法で合成されたアモル ファスシリコン合金粒子を用いた。図 3.1.1-6 にその観察例として Si65Sn5Ti30合金の Cs-STEM・EDX マッピング像、TEM 像、電子線回折像、TEM 像の逆フーリエ変換像を示す。

図 3.1.1-6 高容量と高サイクル耐久性を両立できる Si-Sn-Ti 合金のナノ組織・構造

0 20 40 60 80 100

0 1 2 3 4 5

耐久性(%)@50クル

MA時間(h)

0 20 40 60 80 100

1200 1300 1400 1500

耐久性(%)@50クル

放電容量(mAh/g) MA時間半減

MS+MA1h MS+MA1.5h MS+MA2.5h

MA2h MA3h

MA4h MA5h

28μmMS+MA MA

28μmMS+MA MA

良好なサイクル耐性を示す合金の場合、一次粒子中にアモルファス合金相と TiSi2合金結晶相の 二相があり、それらが粒子中に数 10nm オーダーで複合化されていることが認められた。また、TEM 像から得られた電子像から Si(220)の回折データを抽出し、逆フーリエ変換像を得た。図中に黄色 の円で示した格子縞領域の存在(中距離秩序構造 medium range order 以下 MRO)が確認された。

シリコンの結晶領域の大きさを示す MRO サイズは撹拌 BM で処理を行ったいずれのサンプルにお いても 2-3nm であることが分かった。一方で、逆フーリエ変換像 Si(220)間の距離(シリコン四面体間 距離)を計測したところ、差異が確認され、高耐久な合金ほどその距離が増大していることが確認さ れた。シリコン四面体間距離が増大する要因として、Sn がアモルファスシリコン中に侵入固溶するこ とで、Si-Si 間の結合距離が広がっていることが考えられる。実際に Cs-STEM 観察結果とも対応して おり、Sn が高耐久な合金を形成する上で重要な役割を担っていることが明らかになった。これらの結 果からシリコン合金負極のサイクル耐久性向上に適したシリコンアモルファス合金のミクロ組織構造 が判明し、今後の量産化に向けた仕様決定と品質目標値設定のための合金組成の設計指針に反 映させていく方針である。

(3) 電池セル試作、評価

実使用電池レベルの大容量電池で電池性能や安全性能を確認するために、50mAh 級小型ラミ ネートセルの検討結果を反映させた 3Ah 級大型セルを作製した。大型化にあたり、いくつかの検討 を実施した。まず、電極面積が大幅に増加するため、電極面への均一な圧力を加えることが難しくな る。このため、治具の板材や緩衝ゴムを最適化させた面圧加圧治具を作製した。また、負極内反応 分布を均一にするため、負極作製プロセスを改良した。具体的には負極用バインダの不均一状態を 解消するために、ボールミル混合時のボール量、ボール径、回転数、撹拌時間等を適正化し、バイ ンダの均一分散化を行った。更に、初期のエージング条件についても、品質工学の直交表を用いて、

上限電圧、下限電圧、電流密度のサイクル耐久性に対する影響度合いを検討した。その結果、電流 密度が最もサイクル耐久性への感度が高いことが分かり、エージング条件を最適化した。

以上のように負極プロセス、面圧検討、エージング条件検討の検討を行った結果を反映し、3Ah 級セルを作製した。正極は Li 過剰系、負極は炭素被覆した Si65Sn5Ti30合金、電解液としては LiPF6/FEC-DEC+添加物を使用した。図 3.1.1-7 に活性化後の充放電曲線を示すが、放電容量とし て約 3Ah 得られている。また、図 3.1.1-8 にサイクル耐久試験の結果を示すが、 3Ah 級セルで 84%

@300 サイクルを達成した。今後、電極要素及び添加剤の最適化、集電体の改良により 90%@300 サイクルを見込んでいる。

図 3.1.1-7 3Ah 級セルの充放電曲線

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