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第2章 食品製造業の現状と課題

4. 直面する脅威と課題

(1)少子化・高齢化に伴う人口減少による国内市場の縮小

我が国の総人口は、長期の人口減少過程に入っており、2026 年に人口 1 億 2,000 万 人を下回った後も減少を続け、2050 年には 9,700 万人(2015 年の1億 2,700 万人から 24%減少)になると推計されている。

また、高齢者人口は、「団塊の世代」が 65 歳以上となった 2015 年に 3,392 万人と なり、その後も高齢者人口は増加を続け、2042 年に 3,878 万人でピークを迎えると推 計されている。総人口が減少する中で高齢者が増加することにより高齢化率は上昇を 続け、2035 年に 33.4%で 3 人に 1 人、2060 年には 39.9%に達して、国民の約 2.5 人 に 1 人が 65 歳以上の高齢者となる社会が到来すると推計されている。従来と同じ販 売を続けるだけでは、国内の食市場は縮小するおそれがある。

(2)人手不足が将来的に確実な中での人材確保

人手不足、人材確保難が多くの産業で顕著になっているが、元々給与水準が低かっ た食品産業では労働力人口の減少に加え、他業種への移動も生じており、とりわけ深 刻になっている。常用労働者の欠員率(常用労働者数に対する未充足求人数の割合)を 見ると、飲食店・宿泊業の欠員率は全産業平均の 2 倍以上になっており、食料品等製 造業の欠員率も製造業平均の 2 倍以上になっている。

17 平成 30 年 3 月調べ

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日本政策金融公庫が平成 29(2017)年 7 月に実施した調査によれば、同年通年見通 しの雇用判断 DI が、平成 9(1997)年の調査開始以来最大となり、食品企業の人手不足 感が最も高まっている。労働不足の原因として「求人に対する応募がない」を理由に 挙げた食品企業が 86.4%に上り、「離職者が多い」の 25.4%、「求人に対する応募が ない」の 24.5%が続いた。また、飲食業は「離職者が多い」と回答した割合が 48.8%

と食品製造業、食品卸売業、食品小売業に比べ多く、安定的な雇用の確保が特に難し いことがうかがえる18

人材確保難により、稼働率の維持が困難になり、結果的に廃業をせざるを得ない事 例も増えている。帝国データバンクが負債 1,000 万円以上の法的整理を対象に集計し たところ、平成 29(2017)年の人手不足倒産は 106 件と前年の 72 件から大幅に増加し ている19

注:欠員率とは、常用労働者数に対する未充足求人数の割合をいい、次式により算出。

欠員率=未充足求人数/6 月末日現在の常用労働者数×100(%)

出典:厚生労働省「雇用動向調査(産業、企業規模、職業別欠員率)」

(3)食品の安全性に係る規格・認証の要請と安心への関心

食の安全に対する関心は高い水準で推移している。消費者庁が平成 25(2013)年度に 実施した「消費者意識基本調査」で消費者問題に「関心がある」と答えた人に対して どの分野の消費者問題に関心があるか聞いたところ、「食中毒事故や食品添加物の問 題等の食品の安全性について」と答えた人は、平成 20(2008)年度の結果をやや下回っ たものの、81.7%と最も高かった。

18 日本政策金融公庫「平成 29 年上半期食品産業動向調査」

19 帝国データバンク「全国企業倒産集計 2017 年報」

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 (%)

調査産業計 製造業

食料品、飲料・たばこ・飼料製造業 卸売・小売業 図表37 業種別欠員率の推移

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長く複雑になるフードチェーンにおける食品安全の信頼確保が求められる中、欧米 では食品事業者による HACCP に基づく衛生管理の制度化が進められた。EU では 2006 年に原則全ての食品事業者に義務化され、米国では 2016 年 9 月から原則米国内に流 通する食品全てについて義務化された。日本でも、HACCP に沿った衛生管理の制度化 (義務化)を含む食品衛生法の改正案が第 196 回常会に提出された。

一方、欧米の食品事業者を中心に、食品流通においても取引相手の事業者に HACCP を含む食品安全管理規格の第三者認証を求める動きが広がっている。様々な食品安全 等に関する認証スキームが設けられた結果、食品事業者の監査等の重複が負担になり、

また、かえって食品安全への信頼性を損ないかねないとの問題意識から、2000 年、グ ローバルに展開する小売業が集まり、食品安全の向上と消費者の信頼強化に向け、The Consumer Goods Forum(TCGF:世界 70 か国、約 400 社のメーカー、小売業者、サービ ス・プロバイダーによる国際的な組織)の下部組織として、Global Food Safety Initiative(GFSI)が発足した。この組織により各国の民間団体が設ける認証スキーム の標準化が進められており、FSSC22000 等のように GFSI に承認された認証スキーム が存在感を増している。

食の安心への関心を背景に、表示義務も見直されている。食品表示法に基づき一部 の加工食品に義務付けられていた原料原産地表示は、平成 29(2017)年から全ての加 工食品に義務付けられることとなった。また、導入から 15 年を経過した遺伝子組換 え表示制度の見直しも消費者庁で検討されている。こうした表示制度への対応も必要 となる。

(4)環境・社会・ガバナンス(ESG)に配慮した事業活動の要求

特に欧米では、ESG(環境・社会・ガバナンス)に配慮した事業活動への関心が高まっ ている。

【水口剛専門委員(高崎経済大学教授)の発表から】

水口専門委員によれば、英国、米国、オランダの公的年金、企業年金基金などの機 関投資家を中心に平成 29(2017)年 3 月時点で約 1700 機関が責任投資原則(PRI)に署 名しているという。国内は海外と比較して遅れているものの、GPIF(年金積立金管理 運用独立行政法人)が平成 26(2014)年に金融庁が公表したスチュワードシップ・コー ドを受け入れ、平成 27(2015)年には PRI にも署名するなど積極的に推進したことも あり関心が高まっている。金融庁は、企業の価値を高めながら長期的に株主の利益を 伸ばす建設的な対話を機関投資家に推進しており、国内でも ESG が投資の世界に広が りつつある。食品産業における具体的な ESG 課題として、水口専門委員は、①気候変 動リスク(干ばつや豪雨などによる不作の短期的リスクと気候変動による生産適地移 動に向けた原料調達対応などの長期的リスク)、②工場的畜産が抗生物質依存により 耐性菌が発生し持続不可能となる考えから投資リスクとして指摘されており、大手投 資家が企業の工場的畜産へのリスク対策をランキングしていること、③水産業におい ても漁業資源の保護や養殖時の抗生物質による水質汚染、漁船での強制労働などを記 した大手投資家によるガイダンスの公表や、フィッシュ・トラッカー・イニシアチブ が自然資源リスクの観点で水産上場企業に魚種と海域の開示の必要性を主張するな ど、サステナブル・フィッシングが大きな流れになっていること、④森林問題に関し

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ては CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)がパーム油・牛肉・大豆・

材木の 4 種類のコモディティを扱っている企業に対して、森林伐採による生物多様性 リスクや温室効果ガス排出、強制労働・児童労働・先住民の人権侵害等の論点で情報 開示を求めており、原材料の調達側企業もレピュテーション・リスクを負うこと、特 に代表的なパーム油では RSPO の持続可能性認証を取得した企業が人権侵害問題等を 起こしている事例があり、グローバルな食品企業は調達基準を強化していること、⑤ ESG 関連の会議で先進国・新興国の肥満問題と貧困地域の飢餓・栄養不良問題のアン バランスを解消することが食品産業の責任との指摘があること、を挙げた。そして、

今後、海外戦略として ESG に取り組んでいることをアピールするフレームワークづく りが必要と指摘している。

(5)多発する自然災害でも求められる持続的供給

東日本大震災や熊本震災などの地震や津波、台風や集中豪雨、豪雪などの自然災害 が近年頻発する中、食品産業には、災害でも損傷しにくく、仮に被害が生じた場合に はできる限り早く復旧するという他の製造業と同様の対策が必要である。それに加え、

食品産業には、被災地に食を安定して届けるとの社会的な期待も担っている。

(6)世界の食市場の拡大に伴う原材料争奪の激化

国際的な食料需給は様々な要因によって影響を受ける。需要面においては、①世界 人口の増加、②所得の向上に伴う畜産物等の需要増加に加え、近年では、③中国等の 急激な経済発展、④バイオ燃料向け等農産物の需要増加等が挙げられる。一方、供給 面においては、①収穫面積の動向、②単位面積当たり収量の増加に加え、近年では、

③異常気象の頻発、④砂漠化の進行や水資源の制約、⑤家畜伝染病の発生等が挙げら れる20

世界の人口は、開発途上国を中心に増加し、2050 年には 97 億人になる見通しとな っている。特に、アフリカでは 12 億人から 25 億人と約 2 倍に増加するとされてい る。このような中、世界の穀物需要については、開発途上国を中心とする肉類需要の 増加に伴う飼料用と人口増による食用が増加することで、全体として増加する見通し である。これまで世界の穀物の生産量は、技術革新等による単収の向上で支えられ、

需要量の増加に対応してきた。しかしながら、近年は単収の伸び率は鈍化してきてお り、今後、遺伝子組換え作物導入等で一定の伸びが期待されるものの、地球温暖化等 の気候変動や、水需給の逼迫、土壌劣化等も不安要素として存在しており、中長期的 には、穀物需給の逼迫も懸念されている21。穀物のみならず、コーヒー豆やチョコレ ートの原料となるカカオ豆などの奢侈品の原材料も新興国の経済発展に伴い今後逼 迫することが懸念される。

20 農林水産省「平成 24 年度 食料・農業・農村白書」

21 農林水産省「平成 28 年度 食料・農業・農村白書」

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【片桐裕之委員(株式会社明治常務執行役員菓子営業本部長)の発表から】

片桐委員は、カカオ豆の安定調達のため、同社がブラジルのアグロフォレストリー という連作障害にならないように循環させる農業を支援するため、アグロフォレスト リーで作ったブラジルの豆を使ったチョコレートを、おいしいプレミアムの製品とし て販売促進していることが紹介された。

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