6.1 緒言
風力エネルギーは再生可能エネルギーの一つであり、幅広く利用されている。風力発電シ ステムでは、発電機として誘導機を採用することが多いが、永久磁石同期発電機(PMSG:
Permanent Magnet Synchronous Generator)を用いたシステムに関する研究が数多く行われ、実 用化もされている(30)(31)(60)~(62)(112)~(123)。永久磁石同期発電機は永久磁石を利用するため励磁 損失が無く、低速から効率の高い発電が可能である。特に、埋込磁石同期発電機(IPMSG:
Interior Permanent Magnet Synchronous Generator)は、埋込磁石同期モータと同様にマグネット トルクに加えてリラクタンストルクが利用でき、高効率、高い制御性能といった特徴を持つ。
風速は時々刻々と変化しており、風のエネルギーを最大限に得るためには、風速に応じて 発電機回転子速度を変化させる可変速発電が有効である(124)。可変速発電システムにおける 最大電力点追従(MPPT: Maximum Power Point Tracking)制御法は数多く報告されている
(60)~(62)(114)~(123)(125)~(127)。中でも、オブザーバー等で推定した風速を用いる方法(119)~(121)(126)や、
風速の情報を直接的に利用せずにトルクや速度の制御で実現する方法(60)~(62)(122)(125)が報告さ れており、風速センサレスのシステムを構築できる。風速センサレス化により信頼性向上、
小型のシステムであればコスト低減も期待できる。
次に、発電機に接続する電力変換器に注目する。発電システムの出力に直流を想定した場 合、三相交流から直流への変換が必要である。永久磁石同期発電機は励磁が不要であること からダイオード整流器が使用でき(117)~(119)、この場合は電力変換器の低コスト化を実現でき る。しかし、埋込磁石同期発電機を採用する利点を生かすためには、最大効率制御や弱め磁 束制御といった最適電流ベクトル制御を実現できるPWM制御のAC/DCコンバータ(PWM コンバータ)を使用する必要がある。
発電機とコンバータの制御法として、d,q軸上での電流制御方式がこれまで適用されてき た。この場合、三相座標からd-q座標への変換において、発電機の回転子位置の情報が必要 であり、位置センサの設置、もしくは位置推定が求められる。磁束や誘起電圧の推定値を用 いて回転子位置を推定できるが、インダクタンスや抵抗といった発電機パラメータを必要と する(60)~(62)(120)~(122)。
本章では、埋込磁石同期発電機と直接トルク制御を組み合わせた可変速の風力発電システ ムを提案する(52)~(59)。風速センサレスのために、トルク制御を基にした最大電力点追従制御
(60)~(62)を適用することで、直接トルク制御の特徴を生かすことができる。さらに、埋込磁石
同期発電機で生じる誘起電圧の周期を利用して、カットイン風速への到達を検出する。第4 章で提案した弱め磁束制御法とトルク制限法を高風速時に適用することにより、発電機とコ ンバータの電圧・電流制限を考慮した発電電力の最大化が容易に実現でき、さらにパラメー タ変動の影響が小さいことを示す。
風車エミュレータを用いた実験で提案システムの発電特性について検討し、風速センサレ スかつ回転子位置・速度センサレスのシステムで発電電力の最大化制御が可能であることを 示す。
6.2 風力発電システムの構成
図6.1に提案する風力発電システムの構成を示す。ハードウェア部は、埋込磁石同期発電 機、AC/DC コンバータ、パルス幅変調(PWM)によるゲート信号作成回路に加えて、カット イン風速到達判定のために必要な誘起電圧の符号検出器で構成される。コンバータの直流出 力には、電力系統に接続するためのインバータや蓄電池充電用などのDC/DCコンバータが 接続されることを想定している。最大電力点追従制御などで必要となる発電機回転子速度の 推定部、発電電力最大化のためのトルク指令値 Tg*と電機子鎖交磁束の指令値Ψs*の作成部、
コンバータへの指令電圧(vu*, vv*, vw*)を作成する直接トルク制御器は、ソフトウェアで処理 が行われる。
直接トルク制御器として、第3章で詳細を述べたRFVC DTCを用いるが、風力発電シス テムで使用するために変更を加えている。風力発電システムでは一般に、カットイン風速を 超えてから発電電力が得られるため、カットイン風速に満たない場合には発電機とコンバー タの制御を行わない。そのため、制御の開始と休止の処理が必要となるが、これの詳細につ
いては6.3.1節で後述する。さらに、提案システムでは、風力エネルギーを最大限に得るた
めに、銅損と鉄損の両方を考慮した制御を行う。(3.1)~(3.3)式によるトルク推定では発電機 で生じる鉄損を考慮に入れていないため、発電機の発生トルクとの間に差が生じる。したが って、鉄損を考慮したトルク推定式が必要である。
鉄損を考慮した永久磁石同期機モデル(128)(129)を用いると、鉄損によって生じるトルク誤差
Tˆiは(6.1)式より推定でき、発電機での発生トルクTˆgは(6.2)式で推定できる。
iu iw
IPMSG Tg
ωg
Vw
Converter
vu*,vv*,vw*
DC Output
Tg* Ψs*
RFVC DTC System Speed Estimator
Ref. Torque &
Ref. Flux Calculator
ωˆg
θˆs
iα,iβ ψˆα,ψˆβ
Sign Detector sign(vuv)
Software on DSP PWM circuit
Gate signals Wind Speed
Generated Power Wind
Power
c g s
i n R
T PΨˆ ωˆ
ˆ = 2 2 ... (6.1)
i e
g T T
Tˆ = ˆ − ˆ ... (6.2) ただし,Rcは等価鉄損抵抗であり、発電機回転子速度の関数として与えられる。
6.3 発電機の速度センサレス制御
直接トルク制御では、回転子位置の情報は不要であるものの、運転状態に応じてトルクと 磁束を適切に制御するために、回転子速度の情報は必要である。第4章のトルクと磁束の指 令値計算では、モータに取り付けられた速度センサから得た速度情報を利用していた。本節 では、発電機の速度センサレス制御のための方法について説明する。なお、6.3.2 節で説明 する速度推定法はモータの場合にも適用できるため(38)(130)、第4章のモータ駆動システムを 回転子速度センサレス化することが可能である。
6.3.1 カットイン風速到達検出のための速度推定法と初期磁束設定法
提案システムでは、風速計と発電機の速度センサを設置していないため、誘起電圧の周期 を用いてカットイン風速への到達を検出し、コンバータ制御を開始させる。加えて、
(3.1),(3.2)式による磁束推定の初期化と、6.3.2節で述べる速度推定の初期化を行う。
ここで、発電機の回転子位置θ と誘起電圧の関係を図6.2に示す。図6.2(a)は回転子位置θ を横軸に与えた場合におけるu-v相の線間誘起電圧波形であり、図6.2(b)はベクトル図によ る回転子位置と誘起電圧の関係である。コンバータ停止時には、磁石磁束によって生じる誘 起電圧が発電機端子に現れる。本システムでは、フォトカプラを用いてu相とv相間の線間 電圧の符号を検出し、その周期から発電機回転子速度を計算する。一方、電圧符号の変化点 を利用して回転子位置を推定し、磁束推定器の初期化を行う。
π π 2
6 11
θ [rad]
6π
1 (=30 deg.)
6π
5
+1
−1
Induced voltage vuv
sign( vuv ) vuv
0
θ
6π
1
Induced voltage If vo exists in this region, then sign( vuv ) < 0.
vo
u, α v
w uv
Ψa Magnet flux
(a) u-v相の線間誘起電圧波形 (b) ベクトル図
図6.2 誘起電圧と回転子位置との関係
6.3.2 推定磁束を用いた速度推定法
発電機とコンバータの制御を行うと6.3.1節の速度推定法は利用できないが、電機子鎖交 磁束の推定位置を用いて回転子速度を得ることができる(91)。
図4.2より、回転子位置θ と電機子鎖交磁束の位置θsとの関係が(6.3)式で与えられる。
δ θ
θ = s− ... (6.3)
(6.3)式の両辺を時間微分すると、回転子の電気角速度ω の計算式である(6.4)式が得られる。
) (θ δ
θ = −
dt s
d dt d
dt d dt dθs δ
ω= − ... (6.4)
電機子鎖交磁束の推定位置θsは(3.4)式で推定できるが、トルク角δ の計算にはインダクタ ンスなどのモータパラメータを必要とする。ここで、定常状態にはトルク角の変化が小さい ことに注目すると、(6.4)式の右辺第2項は無視できるので、電機子鎖交磁束の位置を時間微 分することにより回転子の電気角速度が近似的に得られる。
dt dθs
ω≈ ... (6.5)
直接トルク制御では、制御周期tsおきに電機子鎖交磁束を推定しているので、(6.5)式の時 間微分を時間差分に置き換えることにより、速度推定値ωˆ を求めるための(6.6)式を得ること ができる。
s s s
t k k] ˆ[ 1] ˆ[
ˆ − −
=θ θ
ω ... (6.6) ただし、θˆs[k]: 現在の電機子鎖交磁束の推定位置
] 1 ˆs[k−
θ : 前回の電機子鎖交磁束の推定位置
(6.6)式を用いて回転子速度を推定することができるが、過渡時の速度誤差が大きいといっ た問題がある。これは、回転子は機械系の時定数で運動が制約されるのに対して、電機子鎖
LPF ωˆg
θˆs +
z 1
– ts
1 ωˆ
Pn filtered 1 ωˆ
図6.3 推定磁束の時間差分を利用した速度推定器
交磁束は電気系の特性に準じ、その変化が比較的速いためである。そこで、速度推定値の急 な変化を抑えるために、低域通過フィルタ(LPF: Low Pass Filter)を使用する。以上で説明し た速度推定に必要な処理をブロック図として図6.3に示す。
6.4 発電機制御法
発電電力を最大化するために、風速や発電機の状態に応じて、制御法を切り替える必要が ある。提案システムでは、図6.4に示す構成でトルクと電機子鎖交磁束の指令値を計算する。
電流制限の範囲内で風車から得られるエネルギーが最大となるように指令トルクが作成さ れる。そのため、通常は最大電力点追従制御が適用され、電機子電流が制限値に達するとト ルク制限が適用される。一方、発電機から得られるエネルギー(発電機効率)の最大化と発 電速度領域の広範囲化のために、指令磁束が作成される。以降では、それら制御方式の詳細 について説明する。
6.4.1 風車の最大電力点追従制御
風車特性の一例として、固定ピッチ角プロペラ形風車の特性を図6.5に示す。発電機制御 法との関係を分かりやすくするために、発電機の回転軸での速度とトルクを用いた。図6.5(a)
0 200 400 600 800
0 200 400 600
Generator speed ωg [rad/s]
Vw = 12 m/s
Power Pm [W]
10 m/s 7 m/s 4 m/s
g3 opt max
m K
P− = ω
0 1 2 3
0 200 400 600
Generator speed ωg [rad/s]
Vw = 12 m/s
TorqueTm [Nm]
10 m/s 7 m/s 4 m/s
g2 opt opt K
T = ω
(a) 機械出力特性 (b) トルク特性
6.5 風車特性の一例(固定ピッチ角プロペラ形風車, 0.74m, 2.1)
Tg*
Ψs*
Tlim: Eq. (6.10)
Ψs-FW: Eq. (4.10)
Ψs-MaxEff
Topt
Ref.Torque
Ref. Flux
–Tlim
Ψs-FW
ωˆg MPPT Control Torque Limiter
2 g opt
opt K
T = ω
(Eq. (6.8))
Loss-minimization Control (Eq. (6.9))
FW Control
図6.4 トルクと磁束の指令計算器