第3章 国立国会図書館における蔵書評価:チェックリスト法を用いた試験的な試み
1. 目的と方法
・引用文献リスト
(a)図書館情報学分野における権威ある図書中の引用文献リスト
(b)図書館情報学分野における主要雑誌に掲載された論文中の引用文献リスト
このように、本研究で使用するチェックリストは、網羅的な二次資料およびILLデータ、引 用文献リストである。この点に関して、三浦・根本[1]は、
チェックリスト法の一つの発展形態として、良書リストや書評図書、選定図書のような 何らかの意味で価値づけを受けた資料に限定しないで、網羅的な一般書誌(全国書誌、販 売書誌等)ないしその抽出リストを用いる方法がある。
と述べ(p.227)、この方法を「一般書誌抽出法」と呼んでいるが、蔵書目録や書誌ユーティリ
ティの目録を使うという本研究の方針はこの「一般書誌抽出法」を使用することに他ならない。
いずれにせよ、本研究では、評価者がある観点からのひとつの基準として用いる「理想のリス ト」としてチェックリストを捉えることとし、良書リスト以外の二次資料等もそれに広く含め ることとする(実際、三浦・根本[1]にもさまざまな種類のチェックリストが掲げられている)。 以下に、本研究が使用するチェックリストについて詳述する。
(2) 大規模図書館の蔵書目録
チェックリストとして最初に考えうるのは、NDL に比肩する規模を持ち、当該分野の図書 を網羅的に収集していると想定される図書館の所蔵リスト(蔵書目録)である。今回は特に、
米国議会図書館(Library of Congress: LC)と中国国家図書館の所蔵リストを使用することと した。LC は改めて言うまでもなく、世界最大規模の中央図書館であり、さらに、今回の評価 対象が洋図書であることからも、その蔵書目録はチェックリストとして有効であると考えられ よう。
また、アジア圏において大きな規模を持つ、中国国家図書館の蔵書をチェックリストに加え ることとした。理想的には、当該言語を母国語とする国の中央図書館の蔵書目録をそれぞれチ ェックリストとして使えば万全である。例えば、フランス語の図書を評価するならばフランス 国立図書館(Bibliothèque nationale de France)、ドイツ語ならばドイツ国立図書館(Deutsche
Bibliothek)における所蔵リストは、それぞれの評価に最も適した網羅的なチェックリストに
なりうると予想される。しかしながら、今回の研究では、時間・予算・技術の点でそれらを取 り上げるには至らず、LC および、言語に関して日本と類似した状況にて洋図書を収集してい る中国国家図書館を対象とするのに留めることとした(加えて、OPACを使っての検索集合作 成・ダウンロードが難しく、実行に至らなかったという点も付記しておく)。
さらに、各国の中央図書館だけでなく、大規模な大学図書館の蔵書との比較も有用であると 考えられる。例えば、今回の場合には図書館情報学分野の評価であるため、慶應義塾大学や筑 波大学などの大規模かつ学科・専攻レベルの図書館情報学をサポートしている図書館の蔵書目 録をチェックリストとして利用することもできたと考えられる(今回は使用しない)。
(3) 書誌ユーティリティにおけるデータ
書誌ユーティリティが維持している目録データベースは、通常、参加館の所蔵リストを統合
した総合目録であるため、当然のことながら網羅性が高く、良質のチェックリストとして利用 できる。第1章で見たように、OCLCはこの利点を生かして、蔵書評価サービスを展開してい る。そこで、本研究でもOCLC の目録データベースを使用することが考えられたが、残念な がら使用条件の点で折り合いが付かず、今回は日本の国立情報学研究所(NII)が提供するサービ スNACSIS-CATの目録データベースを使うこととした。NACSIS-CATには、学術・研究図 書館を中心に 1,139 の大学・機関が参加しており1、この点、日本における書誌ユーティリテ ィでありながら、その目録データベースは洋図書のチェックリストとして十分に高い品質を備 えていると考えることができる。
さらに、書誌ユーティリティからは、相互貸借においてどの資料が実際に請求されたかを示 す、一種の「利用データ」をも得ることができる。図書館情報学分野でよく知られているよう に、資料利用に関してはジップの法則(Zipf ’s law)が成立する。すなわち、利用の大部分は 蔵書の比較的小さな部分に対してなされる一方、蔵書の大部分はそれほど利用されないという 状況が一般的に観察される(利用の80%が蔵書の20%によって潜在的にまかなわれるという
意味で「80/20ルール」と呼ばれることもある)。とすれば、当然、よく利用される「重要な」
図書を所蔵しているほうが望ましいということになり、相互貸借のデータはこの観点からの評 価を可能にする。もちろん、当該図書館で提供できない資料が相互貸借への請求にまわるわけ であるから、直ちに、これを「典型的」利用データと見なすことはできない。すなわち、相互 貸借への請求のデータを、「利用」についての完全に代表的な標本とみなすことはできない。し かし、図書館情報学分野における 1970 年代から 80 年代にかけての英国図書館(British
Library)の相互貸借データに関する議論を参照すれば[2]、相互貸借データが「利用データ」
をかなりの程度で近似しうると考えてもそれほど大きな危険はないと考えられる。
(4) 引用文献リスト
よく利用される図書をさらに直接的に識別するには、「引用データ」を活用することが考え られる。第1章で述べたように、大学図書館の蔵書評価においては、自らの大学における修士・
博士論文の引用文献リストが有用なチェックリストになる。いわゆる「孫引き」の可能性もあ るものの、それらの引用文献リスト中に掲載された資料は、基本的には、その修士課程・博士 課程の学生に利用されたものとして捉えることができるからである。もし、その引用文献リス トに当該図書館が所蔵していない資料が含まれれば、その学生はその他の情報源からその資料 を得たことになる。これは、その図書館が利用者に対して十分な利用可能性(availability)を 提供していないことの傍証となる。
さらには、「引用」という事象は、単なる「利用」を示すだけでなく、引用された文献の「権 威・名声」あるいは「重要性」を示すものとして捉えることもできる。このため最近では、学 術論文による引用のデータに基づいて算出された指標を用い、科学者の活動を評価する試みも 盛んになされている[3][4]。この点でも、引用文献リストは貴重なチェックリストであるとい える。
ただし、今回は、雑誌ではなく「図書」の評価であり、図書に関する引用データがそれほど 潤沢に得られるとは考えにくい。例外はあろうが、学術論文が数多く引用するのはやはり論文 であって図書ではない。さらには、雑誌ではなく図書自体を情報源としてその参照文献から「引 用データ」を抽出する(例えばその分野の基本的な図書における参照文献リストを活用する)
ことももちろん可能であるが、一定規模のチェックリストを得るには多大な労力が必要となる。
そこで、今回は、この方法については、限定的に、主要図書としては『図書館情報学ハンドブ
1 2006年2月28日現在、http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/contents/ncat_stat_org.html
ック第2版』、学術論文としてはLibrary and Information Science Research、日本図書館情報 学会誌、Library and Information Science(三田図書館・情報学会)の3誌のみに掲載された ものを利用した評価とし、方法の有効性を簡単に確かめる程度に留めることとした。
2. 「所蔵率」の定義と書誌同定
(1) 「所蔵率」の定義
ここでは、LC 蔵書目録をチェックリストとして使う場合を例として、その基本的な評価方 法を確認しておく。おおよその手順は以下のとおりである。
① 評価対象(範囲)の定義(分類記号・出版年・使用言語による限定)
② 評価対象となる図書のLC蔵書目録からの抽出(チェックリストの確定)
③ チェックリストとNDL蔵書目録との照合
この結果、最終的に、チェックリスト中の図書の何パーセントを実際に所蔵しているかを示 す所蔵率を算出することができる。厳密には、上記③の照合作業におけるLCとNDLの各蔵 書の集合的な関係は、図3-1のようになる。
LCの蔵書 NDLの蔵書
A B C
図3-1 2つの図書館における蔵書の重なり
すなわち、これら2つの図書館における蔵書を比較した場合、
A:LCのみが所蔵している図書
B:LCとNDLがともに所蔵している図書
C:NDLのみが所蔵している図書
の3つの部分を特定できることになる。ここで、今回はLC蔵書目録(A+B)が「チェックリ スト」として設定されるので、「所蔵率」は、
所蔵率=
× 100 + B A
B
(%)で定義される。すなわち、LC蔵書目録を一種の「準拠枠」として使用するため、図3-1の C の部分は今回の研究目的では完全に無視することになる。