Ⅰ 緒 言
ヤーコン(Smallanthus sonchifolius(Poepp. &
Endl.)H. Robinson)の新品種「アンデスの乙女」7)
が 2014 年に品種登録(品種登録番号:第 23007 号)
された.これにより,農研機構で育成した品種は,
「サラダオトメ」,「アンデスの雪」および「サラダ オカメ」と合わせ4品種となり1,6),農研機構では これら品種の普及を進めている.ヤーコンの育種は,
1984 年以降に国内に導入され,広く普及したヤーコ ンで問題となっている,塊根の収量の不安定性や亀 裂の多発による外観品質低下の改善および消費者の 要望に対応するための品種の多様化を目的に,1991 年から農研機構近畿中国四国農業研究センター四国 研究センター(以下四国研究センター.旧四国農業 試験場を含む.)で行われてきた.育種には,1984 年以降に国内で広く普及したヤーコンから分離し,
四国研究センターで命名したペルーA群系統12)を 中心に,1991 年にボリビアより導入したボリビア群
系統3)と 1992 年に国際馬鈴薯センターから導入し たペルーB群系統4)およびそれらをベースに交配し て得た系統を用いた.「サラダオトメ」は,ボリビ ア群系統である「SY102」とペルーA群の分離系統 である「SY12」との交雑品種であり,塊根は割れ が少なく多収となる特徴を持つ,国内最初の品種で ある6).「アンデスの雪」は,ペルーB群系統であ る「CA5073(SY106)」とペルーA群の分離系統で ある「SY4」との交雑品種であり,塊根は割れが少 なく多収であり,塊根の肉色が白く,また塊根の貯 蔵性が良い特徴を持つ1).「サラダオカメ」は,ペ ルーB群系統である「CA5074(SY107)」とペルー A群の分離系統である「SY23」との交雑品種であ り,塊根は割れが少なく多収であり,塊根の形状は 凹凸が発生しやすいが,塊根の肉色は浅黄橙色で塊 根中の糖含量が高い特徴を持つ1).「アンデスの乙 女」は,「SY107」と「サラダオトメ」との交雑系 統である「97C5-56」と,ペルーA群の分離系統で 品種育成において標準として利用している「SY11」
との交雑品種である(第1図)7).その特徴は,一
Ⅰ 緒 言 ………29
Ⅱ 材料および方法 ………30 1 2012 年の特性調査 ………30 2 2013 年の特性調査 ………31
Ⅲ 結 果 ………31 1 2012 年の特性調査 ………31
2 2013 年の特性調査 ………34
Ⅳ 考 察 ………35
Ⅴ 摘 要 ………36 謝 辞 ………37 引 用 文 献 ………37 S u m m a r y ………38
ヤーコン(Smallanthus sonchifolius(Poepp. & Endl.)H. Robinson)
「アンデスの乙女」の生育期における特性と他の品種
般的な 10 月以降の収穫時において,塊根の形状が 滑らかな紡錘形で揃いが良く,亀裂が少ないこと,
株あたりの塊根の個数が多く,収量が多いこと,収 穫直後の塊根の表皮の色が淡い赤色から赤紫色の赤 みを帯びていること,茎長が長く,茎数が多いため 株あたりの地上部乾物重が重いことである.しかし,
「アンデスの乙女」の塊根の表皮の色や茎数が多い 特性については,地上部が枯れる時期の収穫時にお ける品種特性であるという結果以外,不明な点が多 く,他の品種との相違点や形質の遺伝,および「ア ンデスの乙女」の特性の発現時期について,品種登 録における審査員や生産者から説明が求められてき た.また「アンデスの乙女」の育成における特性評 価では,主に地上部が枯れる頃の収量等を「サラダ オトメ」や「SY11」と比較しているだけであり,
現在の栽培方法が「アンデスの乙女」を栽培したい 農家にとって適した栽培方法であるかは不明である ため,今後,「アンデスの乙女」を普及するには,
「アンデスの乙女」に適した栽培方法や収穫時期を 検討していく必要がある.このため,他の品種との 比較や生育時期による生育パターン,塊根の表皮の 色の特徴を調査し,「アンデスの乙女」の特性を明 らかにしていく必要がある.
本資料では,2012 年に香川県善通寺市の四国研究 センターの圃場において,また,2013 年に品種育成 の際に育成地の生産力検定試験で利用した愛媛県上 浮穴郡久万高原町の愛媛県中予地方局産業振興課地 域農業室久万高原農業指導班(以下久万高原)の圃 場において,「アンデスの乙女」と比較品種および 系統を栽培し,生育期における「アンデスの乙女」
の特徴と他の品種および系統との類似性を明らかに した.
Ⅱ 材料および方法
1 2012 年の特性調査
「アンデスの乙女」,「サラダオトメ」,「サラダオ カメ」,「アンデスの雪」,「SY11」および「SY107」
を供試した.
栽培は,四国研究センター(海抜 24 m)内の灰 色低地土の圃場で実施した.2012 年2月 27 日に,
水稲用育苗土を詰めた直径9㎝の黒ビニールポット に新鮮重 20 〜 25 gの塊茎を植付け,萌芽後6葉展 開したポット苗を,4月 13 日に白黒ポリマルチを 張った半円形の畝(畝の高さは約 20 ㎝)に定植し た.栽植密度は畝間 100 ㎝,株間 50 ㎝(㎡あたり 2.0 株)とした.試験区は,各品種および系統それ ぞれ 12 ㎡の3反復とし,乱塊法により配置した.
施肥量は,N,P2O5,K2O それぞれ㎡あたり 15 g とし,全量基肥とした.夏季に畝間灌水を2回行っ た.生育調査は,栽培区の中央の4株,3反復の合 計 12 株について,5月 28 日(定植後 45 日目),6 月 29 日(定植後 77 日目),7月 29 日(定植後 107 日 目)に主茎長および地際から5㎝より下の茎から分 岐した茎数の調査を行い,7月 30 日(定植後 108 日 目)に主茎の葉数と中央部の茎径,地上部乾物重,
塊根数および塊根重を調査した.なお,塊根は最大 肥大部の直径が2㎝以上の根とし,新鮮重 100 g未 満と 100 g以上に分けて調査した.また,塊根の直 径1㎝以下の部分は切除した.地上部乾物重は,
105 ℃で3日間以上乾燥後測定した.
また,7月 30 日に収穫し,新鮮重 50 〜 100 gで 収穫直後に表皮の色が赤色を呈していない塊根を用 い貯蔵試験を行い,収穫後の塊根の表皮の色の変化 を調査した.試験は 20 ℃設定の恒温器(MIR-153,
SANYO)内で,上部に取り付けた昼光色の直管蛍 光灯(FL15D,TOSHIBA)により 24 時間明条件で 行った.塊根を並べた位置での上部からの光量子量 は 11.6µmol/s/㎡であった.供試した各品種および 系統の塊根それぞれ5本ずつを無作為に選び,それ ぞれをまとめて透明なビニール袋(明条件)または 黒いビニール袋と黒い布(暗条件)で緩く覆い,1 週間おきに塊根全体に光が当たるように塊根を並べ 替え,30 日後に塊根の表皮の色が,赤および赤紫に 第1図 「アンデスの乙女」の育成経過
1)1991 年導入のボリビア群系統.
2)1984 年以降にニュージーランドから導入されたペルーA群 の分離系統.
3)1992 年,国際馬鈴薯センターより導入.
着色した割合について目視で調査した.調査基準は,
各塊根について,まったく染まらなかった場合を「無」, 全体の表面積の 1/4 未満の着色のある場合を「少」,
全体の 1/4 以上 1/2 未満の着色のある場合を「中」,
全体の 1/2 以上 3/4 未満の着色のある場合を「多」,
「多」よりも多く着色している場合を「全」の5段 階とした.
生育期間中の気温および降雨量は四国研究センタ ー内の気象観測データを使用した.
2 2013 年の特性調査
「アンデスの乙女」,「アンデスの雪」,「SY11」
および「SY107」を供試した.
栽培は,久万高原の黒ボク土の圃場(海抜 500 m)
で実施した.2013 年5月 21 日に,白黒ポリマルチ を張った半円形の畝(畝の高さは約 20 ㎝)にポッ ト苗を定植した.ポット苗は 2012 年の試験と同様 な生育状態のものとした.栽植密度は畝間 120 ㎝,
株間 50 ㎝(㎡あたり 1.7 株)とした.試験区は,各 品種および系統それぞれ 15 ㎡の2反復とした.施 肥は 2012 年の試験と同様に行った.白黒ポリマル チは7月 23 日に除去し,夏季に畝間灌水を2回行 った.生育調査は9月9日(定植後 111 日目)に,
品種登録における品種特性審査基準に従い,各株の 最長茎の最大葉について,個葉の大きさ(葉身長,
葉身幅,葉柄長)および,目視で葉縁の鋸歯の量と 葉色について調査し,アントシアニンの着色度は各 株の最長茎の上位葉について目視で調査した.また,
11 月6日(定植後 169 日目)に,株あたりの最長茎 長,最長茎の中央部の茎径,茎数,地上部乾物重や 塊根の収量,個数,平均1個重,糖度および塊茎乾 物重あたりの芽数を調査した.なお,塊根は最大肥 大部の直径が5㎝以上の根とし,新鮮重 100 g以上 の塊根について調査した.また,塊根の直径1㎝以 下の部分は切除した.地上部および塊根の乾物重は,
105 ℃で3日間以上乾燥後測定した.調査個体数は 栽培区の中央部の連続した 10 株,2反復の合計 20 株とした.
生育期間中の気温および降雨量は,試験に使用し た久万高原の敷地内に設置されているアメダスの気 象観測データを使用した.
2012 年および 2013 年の試験ともに,各調査にお け る 統 計 処 理 は S P S S ( 日 本 I B M ㈱ ) を 用 い , Tukey の多重比較により検定した.
Ⅲ 結 果
1 2012 年の特性調査
旬別の日平均気温は,7月中旬以降 25 ℃を超え,
7月および8月の日平均気温の平均は,27.4 ℃およ び 29.0 ℃で,7月中旬から8月上旬の平均は 29.2 ℃ であり,1981 年から 2010 年までの過去 30 年の平均 値 (平年値)よりも 1.4 ℃高かった(第2図).ま た,降雨量がなかったため畝間灌水を行ったが,8 月上旬には供試した品種および系統はすべて萎凋 し,その後枯死したため,生育調査は定植後 107 日
第2図 四国研究センターにおける4月から8月までの旬別の日平均気温(左)およ び積算降雨量(右)の 2012 年および平年値(1981 年から 2010 年の平均)