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DLCO/VA 80.2%

当院におけるベリリウム肺の 4 症例

横山 多佳子

症例1 ベリリウムばく露が1ヶ月で発症した症例 70歳男性 症例2 ステロイド投与にて陰影の改善を認めた症例 29歳男性

症例3 慢性呼吸不全となり在宅酸素療法を必要とした症例① 71歳男性 症例4 慢性呼吸不全となり在宅酸素療法を必要とした症例② 79歳男性

症例1 70歳 男性

【現病歴】29歳(1976年)時より胸部X線写真にて全肺野にびまん性粒状陰影が指摘さ れていた。ベリリウムリンパ球幼若化試験(beryllium lymphocyte proliferation test:以 下BeLPT)は陽性であった。その後は特に呼吸器症状の出現を認めなかった。64歳(2010 年)時、精査のため施行した気管支鏡検査でベリリウム肺と診断された。その後、管理手帳 健診を受診しているが、自他覚所見の変化は認められていない。

【既往歴】高血圧、脂質代謝異常症 53歳:腸閉塞、55歳:鼠径ヘルニア

【アレルギー歴】特になし 【家族歴】特になし 【生活歴】特になし

【喫煙歴】15本×6年(20歳~26歳)

【職業歴】22歳(1969年3月)時、1ヶ月間の工場実習に参加した。ベリリウム銅製造鋳 造業務などを行い、1ヶ月間の実習で合計10時間程度のベリリウムばく露を受けた。以後、

事務職でありベリリウムばく露歴はない。

【気管支鏡検査時検査所見】KL-6とACE は正常範囲内であった。動脈血液ガス分析結果 は正常範囲内であったが、呼吸機能検査では拡散能の低下を認めた(表 1)。

【気管支鏡検査時画像所見】胸部X線写真(図 1)では両側にびまん性粒状影を認めた。胸 部CT画像では、両上葉優位に小葉中心性のびまん性粒状影を認め、石灰化を伴う両側縦隔 リンパ節の腫大を認めた(図 2)。

【BeLPT】BeLP T stimulation index(以下BeLPT S.I)は400%以上が続いていた(図 3)。

【気管支鏡所見】気管支粘膜は可視範囲内に異常所見を認めなかった。右B4よりBALを 施行した。BALF中リンパ球は50.5%で、CD4/CD8比は15.32であった。右B3a、B4a、 B8a より施行した経気管支肺生検の病理組織では、巨細胞を伴わないが類上皮肉芽腫がみ られ、線維化を認めた(図 4)。

【診断後の臨床経過】2010年と2016年を比較したところ、胸部X線写真(図 5)、胸部CT 画像(図 6)、呼吸機能検査(図 7)は著変を認めなかった。

49

本症例は、ベリリウムばく露歴は 1 ヶ月と非常に短いが、ベリリウムに感作されベリリ ウム肺と診断された症例である。

表 1. 気管支鏡検査時検査所見

図 1. 気管支鏡検査時胸部 X 線写真 Hematology

RBC 460×104 /μl

Hb 15.1 g/dl

Ht 44.8 %

WBC 6,100 / μl neut. 55.3 % eosi. 1.6 % baso. 0.6 % mono. 9.1 % lymp. 33.4 % Plt 17.5×104 / μl

ESR 4 mm/hr

Biochemistry TP 7.7 g/dl BUN 16.9 mg/dl Cre 0.9 mg/dl CPK 115 U/L

AST 23 IU/L

ALT 27 IU/L

LDH 157 IU/L

Na 145 mEq/L

K 4.3 mEq/L

Cl 106 mEq/L

Ca 9.4 mEq/L

Serology

KL-6 367 U/dl ACE 7.6 IU/L CRP 0.01 mg/dl

ABG

pH 7.42

PaCO2 37.8 Torr PaO2 94.9 Torr HCO 24.4 mmol/l I/L

BE 0.3 mmol/l

A-aDO2 15.8 mmHg

Pulmonary function test

VC 3.58 L

%VC 88.6 % FEV1.0 2.65 L FEV1.0% 74.2 %

%DLCO 68.8 %

49

図 2. 気管支鏡検査時胸部 CT 画像

図 3. BeLPT

BeLPT(%) ACE(IU/L)

0 5 10 15 20 25 30 35 40

0 200 400 600 800 1000 1200 1400

2006/3 2006/9 2007/3 2007/9 2008/3 2008/9 2009/3 2009/9 2010/3

BeLPT ACE

51

図 4. 経気管支肺生検の病理組織

図 5. 胸部 X 線写真

51

図 6. 胸部 CT 画像

図 7. 呼吸機能検査

20

40 60 80 100

2010/4 2010/10 2011/4 2011/10 2012/4 2012/10 2013/4 2013/10 2014/4 2014/10 2015/4 2015/10 2016/4 2016/10

%VC FEV1.0/FVC

%FEV

%DLCO

53 症例2 29歳 男性

【現病歴】ベリリウムばく露作業従事前はBeLPT陰性であったが、ベリリウム作業開始1 年後の19歳(2007年3月)時にはBeLPT S.Iは212%と上昇していた。21歳(2008年 11月)時より胸部X線写真で両肺野にびまん性粒状影を指摘され、21歳(2009年5月)

時に施行された気管支鏡検査でベリリウム肺と診断された。

【既往歴】特になし 【アレルギー歴】特になし 【生活歴】特になし

【喫煙歴】特になし

【職業歴】18歳から1年5ヶ月間(2006年4月~2007年8月頃)断続的にベリリウム合 金銅製造過程で溶解鋳造作業に従事していた。

【気管支鏡検査時検査所見】KL-6とACEの上昇を認めた。動脈血液ガス分析ではPaO2が 71.9 Torrと低酸素がみられ、呼吸機能検査ではFEV1.0/FVCと%DLCOの低下を認めた(表 2)。

【気管支鏡検査時画像所見】胸部X線写真では両側に淡いびまん性粒状影を認めた(図 8)。 胸部CT画像では、びまん性に小葉中心性の粒状影とその周囲のすりガラス陰影、広義間質 の肥厚、気管支血管壁の肥厚がみられ、両側に石灰化を伴わない縦隔リンパ節の腫大を認め た(図 9)。

【BeLPT】従事前に陰性であったBeLPTは、ベリリウムばく露開始12ヶ月後の健診にて BeLPT S.Iは212%となり、その3ヶ月後の検査でも239%であったが、2008年11月に はBeLPT S.I 3768%となり、その後9797%まで上昇した(図 10)。

【気管支鏡所見】気管支粘膜は可視範囲内に異常所見を認めなかった。右B5よりBALを 施行した。BALF中リンパ球は89.8%で、CD4/CD8比は3.02であった。右B2b、B3a、 B8a より採取した経気管支肺生検の病理組織では、類上皮肉芽腫がみられ、線維化を認め た(図 11)。

【臨床経過】ベリリウム肺と診断後、咳症状増悪、KL-6の値上昇、SpO2の低下があり、胸 部X線写真で粒状影の増悪(図 12)を認めたため、PSL 30㎎(0.5㎎/㎏)の投与を開始し たところ、自他覚所見の改善を認めた(図 13)。その後、自覚症状の悪化はなく、呼吸機能 検査結果も改善した(図 14)。KL-6と ACE の値も安定していたため、2016 年5 月には PSLを3㎎まで減量した(図 15)。胸部CT画像では粒状影は残存したが、すりガラス陰影 は改善した。しかし、2016年11月頃より咳症状があったためPSLを20㎎まで増量した ところ症状は改善し、現在はPSL 10㎎を内服中である(図 16)。

本症例は、病理組織学的にはサルコイドーシスと鑑別ができないが、BeLPTがベリリウ ムばく露後に陽性になっておりベリリウム肺と診断した。自他覚所見の悪化がありステロ イド投与を開始したところ、症状と画像所見は共に改善した。ステロイドを漸減したが、自 覚症状の悪化がありステロイドの増量が再度必要となった。本症例については、今後ベリリ

53

ウム肺に対するステロイドの適応や長期投与について検討する予定である。

表 2. 気管支鏡検査時検査所見

図 8. 胸部 X 線写真 Hematology

RBC 584×104 /μl

Hb 16.8 g/dl

Ht 49.3 %

WBC 4,500 / μl neut. 69.9 % eosi. 0.7 % baso. 0.3 % mono. 9.2 % lymp. 19.9 % Plt 18.7×104 / μl

ESR 3 mm/hr

Biochemistry TP 7.0 g/dl BUN 12.2 mg/dl Cre 0.9 mg/dl

CPK 86 U/L

AST 26 IU/L

ALT 19 IU/L

LDH 231 IU/L

Na 145 mEq/L

K 4.3 mEq/L

Cl 106 mEq/L

Ca 9.6 mEq/L

Serology

KL-6 2270 U/dl ACE 34.8 IU/L CRP 0.2 mg/dl

ABG

pH 7.42

PaCO2 37.9 Torr PaO2 71.9 Torr HCO 24.3 mmol/l

BE 0.2 mmol/l

A-aDO2 32.44 mmHg

Pulmonary function test

VC 4.25 L

%VC 82.3 %

FEV1.0 2.80 L FEV1.0% 65.8 %

%DLCO 62.6 %

55 図 9. 胸部 CT 画像

図 10. BeLPT

BeLPT(%)

0 2000 4000 6000 8000 10000

2006/2 2006/8 2007/2 2007/8 2008/2 2008/8 2009/2 2009/8

BeLPT

Beばく露期間

55

図 11. 経気管支肺生検の病理組織

図 12. 胸部 X 線写真

57

図 13. 胸部 X 線写真の推移

図 14. 呼吸機能検査の推移 20

40 60 80 100

2009/5 2009/11 2010/5 2010/11 2011/5 2011/11 2012/5 2012/11 2013/5 2013/11 2014/5 2014/11 2015/5 2015/11 2016/5 2016/11

%VC FEV1.0/FVC

%FEV %DLCO

呼吸機能検査 0

10 20 30

2009/5 2009/11 2010/5 2010/11 2011/5 2011/11 2012/5 2012/11 2013/5 2013/11 2014/5 2014/11 2015/5 2015/11 2016/5 2016/11 mg

PSL

57

図 15. KL-6、ACE の推移

図 16. 胸部 CT 画像の推移

0 5 10 15 20 25 30 35 40

0 500 1000 1500 2000 2500

2009/5 2009/11 2010/5 2010/11 2011/5 2011/11 2012/5 2012/11 2013/5 2013/11 2014/5 2014/11 2015/5 2015/11 2016/5 2016/11

KL-6 ACE

KL-6, ACE 0

10 20 30

2009/5 2009/11 2010/5 2010/11 2011/5 2011/11 2012/5 2012/11 2013/5 2013/11 2014/5 2014/11 2015/5 2015/11 2016/5 2016/11 U/dl

mg

IU/L

PSL

59 症例3 71歳 男性

【現病歴】17歳(1962年)時に急性ベリリウム症と診断され10日間の入院治療を受けた。

34歳(1977年)時に会社のベリリウム定期健診の胸部 X 線写真において両側のびまん性 結節陰影を指摘された。37歳(1982年)時に他院にて経気管支肺生検が施行され慢性ベリ リウム肺と診断された。60歳(2006年)時に気胸を発症した。64歳(2009年)時より在 宅酸素療法が導入された。現在は酸素を安静時に4L/分、労作時に6L/分使用している。

【既往歴】特になし 【アレルギー歴】特になし

【家族歴】特になし 【生活歴】特になし

【喫煙歴】40本×6年(20歳~26歳)

【職業歴】17歳時に2ヶ月間ベリリウム磁器製造で、酸化ベリリウムを混入する作業に従 事していた。

【現在の画像所見】胸部X線写真では両肺野網状粒状影、嚢胞性変化が見られる(図 17)。 胸部 CT 画像では上葉優位にびまん性粒状影、小葉間隔壁の肥厚、気管支血管束肥厚を認 め、一部にすりガラス影も認めた。両肺野にびまん性嚢胞性変化がみられ、石灰化を伴わな い両側縦隔リンパ節腫大が見られる(図 18)。

【画像所見の経過】当院で確認できた2003年からの画像所見を振りかえると、びまん性粒 状影が徐々に減少し嚢胞性変化が出現した(図 19、図 20)。

【呼吸機能検査、KL-6値の推移】当院で経過観察しえた2009年よりの経過では、KL-6値 は1000~1500 U/dLで推移し大きな変化はなかった。呼吸機能検査では%VC、FEV1.0/FVC に大きな変化を認めなかったが、%DLCOは低下傾向であった(図 21)。

本症例は長い臨床経過で、胸部の画像において嚢胞性変化が進行し、慢性呼吸不全をきた した症例である。

59

図 17. 胸部 X 線写真

図 18. 胸部 CT 画像

61

図 19. 胸部 X 線写真経過

図 20. 胸部 CT 画像経過

61

図 21. 呼吸機能検査、KL-6 値の推移

症例4 79歳 男性

【現病歴】38歳(1975年)時より胸部X線写真にて両肺野に小粒状影を指摘されていた。

56歳(1993年)時より階段昇降時に息切れを自覚した。65歳(2003年)時に施行された 胸腔鏡下肺生検(VATS)でベリリウム肺と診断された。71歳(2008年)時に右気胸を発 症した。72歳(2009年)時より在宅酸素が導入され、現在は酸素を安静時1L/分、労作時 1.5L/分使用している。

【既往歴】痛風、前立腺肥大

【アレルギー歴】特になし 【家族歴】特になし 【生活歴】特になし

【喫煙歴】20本×45年(20歳~65歳)

【職業歴】23歳から断続的に1年間(1961年5月~1964年3月頃)ベリリウム金属の精 錬研究や融解塩の粘度特性評価など試験研究業務に従事。

【現在の画像所見】胸部 X 線写真では両肺野に網状粒状影が広がり、嚢胞性変化を認める

(図 22)。胸部CT画像では、両側の一部にすりガラス陰影がみられ、両上肺野優位にびま ん性粒状影、小葉間隔壁の肥厚、軽度の気管支血管束の肥厚があり、広義間質の肥厚、牽引 性の気管支拡張を認める。両肺野にびまん性の嚢胞性変化と石灰化を伴う両側縦隔リンパ 節の腫大がみられる。両側に境界明瞭な結節影、石灰化した胸膜病変を認める(図 23)。

【気管支鏡、肺生検が前医で施行された時の検査所見】KL-6 値の上昇を認めた(表 3)。 BALF中リンパ球は55.0%であり、CD4/CD8比は11.74であった。VATSで得られた病理 組織所見(左下葉S8)では、胸膜の肥厚や肺胞構造が壊れた部分が散見される。胸膜直下

呼吸機能検査

KL-6

U/dl

0 20 40 60 80

2009/1 2009/7 2010/1 2010/7 2011/1 2011/7 2012/1 2012/7 2013/1 2013/7 2014/1 2014/7 2015/1 2015/7 2016/1 2016/7

%VC FEV1/FVC

%FEV1 %DLCO

0 500 1000 1500 2000

2009/2 2009/8 2010/2 2010/8 2011/2 2011/8 2012/2 2012/8 2013/2 2013/8 2014/2 2014/8 2015/2 2015/8 2016/2 2016/8 2017/2

KL-6

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