5.3 モニター値の長期的な変動
5.3.1 異常検知されたチャンネルの変動
2019c期間で実装をしている異常検知システムを運用している中で, 他のチャンネルと
は異なる変動を行うチャンネルが4つ見つかった(図5.7). HVの電流値は平均∼0.6µA 程度だが, これらのチャンネル関しては電流値が平均に比べて高く, かつ挙動に特徴的な 傾向がみられた. 実際図5.7左上のモジュール番号365の逆バイアス電圧を印加するチャ ンネルはHVクレートの状態においてエラーを表示した. このチャンネルに関しては電圧 印加を無効としたが, この異常の原因については不明である. 他の3チャンネルについて は電流値が高いこと以外は問題なく動いているが, 今後このような変動をするチャンネル については異常が生じる可能性が高いので, 特に注視していく必要がある.
図5.4 モジュール番号1のHAPDの印加電圧値の時間変動(左部)加速用電圧(中央 部)逆バイアス電圧 (右部)ガード電圧(上部)秋の実験期間での時間変動 (下部)春の 実験期間での時間変動
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図5.5 モジュール番号1のHAPDの電流値の時間変動 (左部)加速用電圧 (中央 部)逆バイアス電圧 (右部)ガード電圧(上部)秋の実験期間での時間変動 (下部)春の 実験期間での時間変動
図 5.6 モジュール番号 1 に接続されている読み出し回路の温度の時間変動 (左 部)MBの温度 (中央部)FEBのHAPD側の温度 (右部)FEBのMB側の温度 (上部) 秋の実験期間での時間変動 (下部)春の実験期間での時間変動
図5.7 特に電流値の不安定なチャンネル (左上) 11月27日から急上昇 (右上)11月 8 日から上昇, 21日をピークに下降傾向(左下)2019c期間開始時から下降傾向, なお 2019a期間では6.5µA付近で微小な上昇傾向(右下)10月17日から上昇傾向
5.3.2 モニター値データ解析
2019c期間(10月1日∼12月20日)のモニター値データを解析することで, 異常検知 率を算出しシステムの評価を行った.
HVの電流モニター値について, 各チャンネルごとにモニター値の平均値を算出し, 他 のチャンネルと比較して高い平均値を持つチャンネルを抽出した. “高い”の定義について は各typeごとにモニター値分布を作成し, ピークを超える閾値を設定した (図5.8). この ようにして抽出したチャンネルの一覧が図5.9である. 抽出された高い平均値を持つチャ ンネルは75チャンネルあり,その内21チャンネル(=28%)は異常検知システムが異常と 判定をした. また基準の2倍以上大きい平均値を持つ26チャンネルにおいては16チャ ンネル(≒ 62%)がシステムによって検出された. 残りのシステムによる検知が行われな かったチャンネルに関しては, 普段は無効化がなされており, HVテストの(異常検知シス テムが動いていない)タイミングでのモニター値を使用していると考えられるが, これら についても検知できるようシステムの改良が必要である.
また読み出し回路の温度についても同様に特に高い温度を取るチャンネルがないかを調
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べた. 図5.10は各MB, FEBの温度平均値をプロットしたものである. MB, FEBである 程度のばらつきはあるものの, 特出して高い温度を取るチャンネルは無く, また最大でも 40◦C程度で収まっている. また, 異常検知システムにおいても読み出し回路の温度で異常 を検知したMB, FEBはなかった.
図5.8 各typeごとのモニター値分布. 緑の線を超えた値を平均値に持つチャンネル を平均値が高いチャンネルとする.
図5.9 平均値の高いチャンネル一覧. 数字はモジュール番号であり,背景がピンクの チャンネルは基準の2倍以上の平均値を持ち,太字は異常検知システムで検知がなされ たチャンネル,下線が異常検知システムでの閾値を個別に設定したチャンネルである.
図5.10 読み出し回路の温度のモニター値分布. 10月1日∼12月20日のモニター値 データを使用し,各月ごとに平均値を算出した.
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第 6 章
結論
Belle II実験は高エネルギー加速器研究機構(KEK)で行われているSuperKEKB加速 器による電子, 陽電子の非対称エネルギー衝突実験である. Belle II測定器は衝突によっ て生成されたB中間子を精密観測する測定器であり, その中でB中間子の崩壊の中でも 新物理の関与が期待されている崩壊モードに多く含まれる荷電K/π中間子の識別を測定 器エンドキャップ部で行っているARICH検出器を開発·運用している.
本研究で開発したARICH検出器に対する異常検知システムでは, ARICH検出器の異 常を検知しシフターに対して異常への対応を促す情報提供を実現した. 2019年春の実験
期間ではARICH検出器の設定が頻繁に変更され, 閾値の設定がARICHの状態の変化に
追従できずアラートは閾値を超えたモニター値を検出したが, それらは異常ではなかった. 2019年秋の実験期間では監視データのカテゴリごとに統一した条件を設定することで誤 検知を削減することができた. また, 本システムの運用の中で11月12日にHAPD用印 加電圧のうちの加速用電圧1チャンネルにおける重大な異常を1件検知することができ, シフターに対応を促すことができた.
蓄積したデータを利用して各チャンネルの時間変動を見ることのできるウェブインター フェースを開発した. これにより長期的な変動の確認などができるヒストリーをわかりや すく閲覧することができ, またこのようなデータをKEK外にいるエキスパートも閲覧す ることができるようになった.
Belle II 実験は本格的な運転が開始されてから1 年が経過し, ARICH 検出器のモニ
ター値に関する情報も蓄積されてきている. 蓄積されたデー適切なリファレンスデータの 作成を行いより精度の高いシステムの開発が可能となると考えられる.
謝辞
本研究を進めるにあたり, 多くの方のご指導とご協力をいただきました. 首都大学東京 では角野秀一教授,住吉孝行教授, 汲田哲郎助教をはじめ, 研究室の皆様には大変お世話に なりました. 特に指導教員である角野秀一教授にはBelle II実験という世界有数の国際実 験に参加する機会を頂けましたこと, 深謝申し上げます. 住吉孝行先生, 汲田哲郎助教に は素粒子実験に関して様々なことをご教授いただき, また, 研究へのご意見や論文の添削 などをして頂きました. 感謝申し上げます. 千葉雅美客員助教、浜津良輔客員准教授にも 様々な面でご指導頂きました.
また, 本研究についてお声を掛けて頂き, 研究の進め方をはじめとして様々なご指導を 頂きました北里大学の今野智之助教には大変お世話になりました. 深く感謝申し上げます. 同研究室の先輩である米永匡伸さんには研究についてだけでなく, 実験に関する申請な ど, 様々な面から助言や手助けを頂きました. ありがとうございます。. 同期である粟田 口唯人君, 久世 健太郎君, 堀 悠平君とはお互いに切磋琢磨し, 充実した研究生活を送らせ ていただきました. また後輩である在原君,鶴藤君, 三宅君にも楽しい学生生活を送らせて 頂きました. 皆様に感謝します.
ARICHグループの共同研究者の方々にも大変お世話になりました. 高エネルギー加速
器研究機構 (KEK)の西田昌平准教授, 足立一郎准教授には研究に関する助言を頂いたり, 現場での作業でご指導頂きましたこと感謝申し上げます. Joˇzef Stefan InstituteのSamo
Korparさん, Rok Pestotnikさんにも進捗報告の際には様々な助言をしていただきまし
た. ありがとうございます. また, 西村美紀さん, 総研大の金道玄樹さん, 新潟大学の小川 和也さん, 東邦大学の北村勇人君, 東京大学の古井君には研究を進める上で大変お世話に なりました.
最後になりますが, 経済面 ·精神面で支えて頂いた両親に感謝を申し上げ, 謝辞とさせ て頂きます。
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参考文献
[1] KEK,標準理論を超えるためには, https://www.kek.jp/ja/newsroom/2012/08/31/1800/
(参照日:2019-10-30).
[2] L¨uders, G. “roof of the TCP theorem”, Ann. Phys. 2, 1–15 (1957).
[3] Sakharov, A.D. “Violation of CP Invariance C Asymmetry and Baryon Asym-metry of Universe”. JETP Letters , 5, 24-27, (1967).
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[9] H.Y. Cheng, C.-K Chua, “Revisiting Charmless Hadronic Bu,d Decays in QCD Factorization”, hep-ph/0909.5229 (2009).
[10] S.W. Lin et al. (Belle Collaboration), “Measurements of Branching Fractions for B→Kπ and B→ππ Decays”, Phys. Rev.Lett. 99, 121601 (2007).
[11] S.W. Lin et al. (Belle Collaboration),“Observation of B Decays to Two Kaons”, Phys. Rev.Lett. 98, 181804 (2007).
[12] Y. Chao et al. (Belle Collaboration), “Observation of B0 →π0π0 ” , Phys. Rev.
Lett. 94, 181803 (2005).
[13] Y. Nakahama et al. (Belle Collaboration), “Measurement of Time-Dependent CP-Violating Parameters in B0 →KS0KS0 Decays”, Phys. Rev. Lett. 100, 121601