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産業政策的な側面を強める   農業政策

ドキュメント内 農林金融2018年1月号 (ページ 31-35)

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) 農業競争力強化を目的とした制度 改革

92年に策定された「新しい食料・農業・

農村政策の方向」(新政策)と,それを受け て99年に成立した「食料・農業・農村基本 法」(新基本法)のもとで,日本の農業政策 は,貿易自由化に対応できる「効率的かつ 安定的な農業経営」の育成を1つの軸とし て重視してきた。17年度通常国会に提出さ れた農業競争力強化関連法も,農業の生産 性を高め競争力を強化することを目指す点 では,新政策,新基本法に連なる産業政策 的な農業政策とみることができる。

17年度の通常国会で成立した法律では,

近年の農業政策が志向する農業経営体の競 争力強化の姿勢が貫かれている。例えば,

農業競争力強化支援法は,農業経営体が持 続的に発展していくために必要な低廉な資 材の供給と流通の合理化を法律の目的に挙 げている。また,土地改良法の改正は,農 地所有者の負担なしで基盤整備を行う仕組 みを導入することで,農地の集積・集約化 を促進させることを目的にしている。

しかし,新政策や新基本法以降の農業政

時に新基本法は,産業政策にとどまらない 視野の広さを持っており,国内の農業生産 の増大を通じた食の安定供給や食料自給率 を重視し,農業の多面的機能という枠組み を提示したうえで,地域の多様性を前提に して農業の持続的な発展を目指す姿勢を明 示していた。加えて,農業の持続的な発展 の基盤に農村を位置づけ,その振興も重視 した。国内経済に占める農業の位置づけが 低下し農業就業人口も減少するなかで(第 2表),農工間格差の是正を目的とした農業 基本法が主として農家を政策対象にしたの とは異なり,新基本法は農業の多様な価値 を示すことで,国民全体に農業政策への理 解を求めた点に特徴があった。そして,新 基本法の農業の多様な側面を重視する姿勢 を体現する政策として,2000年度から本格 的な直接支払として中山間地域等直接支払(注4)

が開始された。

(注2 認定農業者制度は,市町村が地域の実情に 合わせて「効率的かつ安定的な農業経営」の目 標等を内容とした基本構想を策定し,この目標 に合わせて農業者が作成する農業経営改善計画 を市町村が認定する制度であり,認定されると スーパーL資金などの低利融資制度や税制措置で の優遇,農地流動化対策などの政策的な支援を 受けることができる。

(注3 同法の目的には「特定農山村地域について,

地域における創意工夫を生かしつつ,農林業そ の他の事業の活性化のための基盤の整備を促進 するための措置を講ずることにより,地域の特

定的な農業経営」に稲作生産の8割を集中 させるなど,一部の経営を選別した農業政 策の方針が盛り込まれた。新政策を受けて,

93年には農用地利用増進法の改定という形 で成立した農業経営基盤強化促進法に基づ き,特定の農業者を融資や税制の面などで 優遇する認定農業者制度が導入された(注2)

一方,中山間地域のような条件不利地に 対して特別な位置づけを与える政策も同時 に導入が進められ,93年に「特定農山村地 域における農林業等の活性化のための基盤 整備の促進に関する法律」が施行された。

同法は,新たな農作物の作付けや付加価値 の高い農作物の作付けに対する助成措置に とどまったが,条件不利地を対象に農業の 活性化とともに農村の振興を目的としてお り,前述した第2の軸に連なる動きであっ たと言える(注3)

URは93年12月に合意に達し,95年に新た に発足したWTO体制のもとで,原則とし て輸入制限は関税化され,貿易歪曲的な価 格支持政策などの国内助成や関税率が削減 されることになった。95年に国は食管法を 廃止して「主要食糧の需給及び価格の安定 に関する法律」(食糧法)を制定し,米の流 通や価格形成は原則的に市場に委ねられる ことになった。

「21世紀に向けての農政の基本方 向」と新政策を受けて,99年に制定 された新基本法は,この2つの軸を 合わせ持っていた。「効率的かつ安定 的な農業経営」の育成を目的とした 新政策の方針は引き継がれたが,同

85年 95 05 10 15

農業産出額(兆円)

農業就業人口(万人)

耕地面積(万ha)

1人当たりの米消費量(㎏)

食料自給率(カロリーベース)(%)

11.6 543538 7553

10.5 414504 6843

8.5 335469 6140

8.1 261459 6039

8.8 210450 5538 資料  農林水産省による各種統計資料より筆者作成。

第2表 日本農業の変化

業団体が主体となった需給調整は全国的な 米の過剰作付けの要因となり,米価は大幅 に下落した。そのため国は,08年産米から 過剰米に対するペナルティを強化するなど,

再び米政策への関与を強めた。

さらに,09年の政権交代で誕生した民主 党政権の下では,選別的な農業政策を改め,

多様な農業者の存在を前提にその取組みを 支援する農業政策が展開された。戸別所得 補償制度に基づいた水田利活用自給力向上 事業は,米の生産調整に参加した農業者を 対象に補助金を支給する一方,生産調整に 不参加でも水田で麦・大豆を作れば補助金 の支給対象にした(注5)。また,10年3月に閣議 決定された「食料・農業・農村基本計画」

(以下「基本計画」という)では,食料自給率 目標を45%から50%に引き上げるとともに,

「兼業農家や小規模農業経営を含む意欲あ るすべての農業者が将来にわたって農業を 継続し,経営発展に取り組むことができる 環境を整備する」として,多様な農業者の 存在を前提とした政策姿勢を鮮明にした。

しかし,民主党の農業政策は,10年10月 のTPPへの参加表明と前後して,産業競争 力の重視に傾いていった。11年に食と農林 漁業の再生推進本部が発表した「我が国の 食と農林漁業の再生のための基本方針・行 動計画」(以下「行動計画」という)では,輸 出拡大による農業の「成長産業化」を強調 し,また「平地で20〜30ha,中山間地域で 10〜20haの規模の経営体が大宗を占める構 造」を目指すとした。そして,この実現に 向けて,「担い手,農地,生産対策,関連組

性に即した農林業その他の事業の振興を図り,

もって豊かで住みよい農山村の育成に寄与する ことを目的とする」とある。

(注4 中山間地域等(第35条)に対する国の基本 施策では,「地域の特性に応じて,新規の作物の 導入,地域特産物の生産及び販売等を通じた農 業その他の産業の振興による就業機会の増大,

生活環境の整備による定住の促進その他必要な 施策を講ずるものとする」として「適切な農業 生産活動が継続的に行われるよう農業の生産条 件に関する不利を補正するための支援を行うこ と等により,多面的機能の確保を特に図るため の施策を講ずるものとする」としている。

3

) 「

2

つの農政」の実施とゆらぎ その後の農業政策は,「効率的かつ安定的 な農業経営」の育成を目的にした選別的な 産業政策と,農業の多様な側面を重視した 地域政策の2つの軸で展開していったもの の,2つの農政のバランスは必ずしも一貫 していなかった。

新基本法後の米政策では,国による生産 調整に代わって地域内の農業者・農業団体 が主体となった産地づくりに重点が置かれ る一方で,一部の農業経営に限定した直接 支払制度が導入された。02年に国は「米政 策改革大綱」を策定し,04年度からは市町 村・農協などで構成される地域水田農業推 進協議会(以下「地域協議会」という)が設 置され,農業者と話し合いながら将来のビ ジョンを作成することになった。また,07 年度産からは農業者・農業団体が主体とな った需給調整システムが導入され,同時に 4ha以上(北海道は10ha以上)の認定農業 者,20ha以上の集落営農組織などに絞った 選別的な政策である品目横断的経営安定対 策が開始された。

しかし,07年から開始された農業者・農

めの輸出促進,地産地消,食育等の推進,

②6次産業化の推進,③農地中間管理機構 の活用等による農業構造の改革と生産コス トの削減,④経営所得安定対策の見直し及 び日本型直接支払制度の創設などが盛り込 まれ,この実現に向けて政策が講じられる ことになり,以下の「4つの改革」が進め られた。

①農地の集積・集約化を目的に農地中間 管理機構二法(13年12月)が成立し,14年度 からは担い手への集積率8割を目標に農地 中間管理機構の運用が始まった。

②主食用米の生産調整参加者に対する 10aあたり15,000円の直接支払が,14〜17年 度は7,500円に減額され,18年度からは廃止 されることになった。

③水田フル活用と米政策を見直して,主 食用米の過剰作付けに伴う米価下落を抑え ることを目的に,飼料用米の作付けに転換 した経営に対する補助金の支払いを開始し た。

④中山間地域等直接支払と環境保全型農 業直接支払に,貿易歪曲的にならない多面 的機能支払を加えた日本型直接支払制度を 創設した。

そして,この4つの改革を,①〜③の産 業政策と④の地域政策が連動した「車の両 輪」として推進するとしたものの,第2の 軸に相当する分野は,多面的機能支払に含 まれる農地維持支払の創設にとどまり限定 的であった。

14年6月には,規制改革会議の提言を受 けて活力創造プランが改訂され(1次),企 織等に関する仕組みを見直し,一体的に改

革する」として,一部の大規模経営を重視 する路線に転換し,行動計画に基づき,市 町村や集落を単位とした話合いのなかで中 心的な経営に農地の集積を推進する「人・

農地プラン(地域農業マスタープラン)」の 作成を進めるなど,農業政策は選別的な色 合いを強めた。

(注5 大規模な経営ほど米・麦を生産しながら補 助金を多く受給することができたため,農業者 の規模拡大を進める効果があったとの指摘もあ る(柳村(2014))。

(4)  「農業成長産業化」の推進と地域政策 の軽視

12年12月に発足した第2次安倍政権下の 農業政策では,官邸主導のもと,農業政策 は規制改革会議(16年9月から規制改革推進 会議に改組)と産業競争力会議(16年9月か ら未来投資会議に改組)が深く関与すること で産業政策への傾斜をさらに強めていった。

13年6月に閣議決定された「日本再興戦略」

では,「今後10年間で6次産業化を進める中 で,農業・農村全体の所得を倍増させる」

とする農林水産業の「成長産業化路線」を 明確に打ち出した。その目的は農業・農村 全体の底上げにあるのではなく,一部の競 争力のある農業経営の育成にあった。

さらに,13年12月に閣議決定された活力 創造プランでは,TPP参加を前提とした輸 出主導型の経済成長路線が追及され,一般 企業の参入を含めて競争力のある農業経営 の形成が目標に設定された。この活力創造 プランには,①国内外の需要を取り込むた

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