2.1 分野の概況
生活基盤整備にはあらゆる分野が含まれ、それぞれ関係し合っている。中でも
BHN
の主 要な要素である保健・教育・環境衛生・社会保障が重要な柱と考えられる。ここでは本報 告書で別に取り上げられているものを除き、保健と社会保障に重点を置いて、セクター概 況をまとめる。保健・社会保障の概況の背景として、生活基盤整備全体に影響を与える事項と、当該国 の都市部と農村部の状況の把握が必要である。ホンデュラスは都市部への人口集中が
80
年 代から激増し、1995年には全人口の43%がテグシガルパ市(32.9 %)とサン・ペドロ・ス
ーラ市(16.2 %)に居住していることが報告されている43。この2
つの都市の人口増加率は年率
4%におよび、増加人口の多くは都市周辺地区に不法に居住する人々である。急激な人
口増加は保健・教育・交通・環境衛生・社会保障などあらゆる生活基盤サービスの実施を 困難なものとしている。都市部の失業率は
17%と報告されている
44。一方、農村では保健・教育などの
BHN
サービスが享受できない人口が多く、貧困の状況 も深刻である。農村の失業率は34%におよび、職を求めて 2
大都市に移住する人が多いこ とを示唆している。都市部の貧困水準以下の人口が、1991
年の68.4%から 1999
年に57.3%
と若干減少しているのに対し、農村部では
1991
年に79.6%が 1999
年でも74.6%とあまり
変わっていないことが報告されている45。貧困住民の生活基盤は1998
年のハリケーン・ミ ッチでさらに脅かされることとなった。構造調整後の保健行政予算の圧縮の中、1980 年代と比べて乳児死亡率(IMR、Infant
Mortality Rate)、 5
歳未満児死亡率(U5MR、Under-five Mortality Rate)、妊産婦死亡率(MMR、
Maternal Mortality Rate)、出生時平均余命などの保健水準を示す指標にはいくつかの改善が
見られた。特にワクチン接種率の拡大や予防活動への重点移行に伴い、IMR
は1989
年の1000
出生当たり50.0
が1997
年に40.2
と大きく改善した46。43 PAHO/WHO, “Las Condiciones de Salud en las Américas”, 1994のpp258-271と同じくPAHO/WHO, “La Salud en las Américas”, 1998, pp 346-358を出所としている。
44 同上
45 ホンデュラスPRSP, 2001
46 UNDP, “Informe sobre Desarrollo Humano Honduras 2000”, 2000, p.60
(1) 保健・社会保障の政策と行政
公共保健施設の医師などの人件費が保健予算を圧迫し、保健行政の持続性を損なってい るという国際機関などからの指摘もあり、1990 年以降、公共事業費における事業投資費を 維持しながら、運営管理費を削減する政策が取られ、それに伴い各セクター内の構造調整 が行なわれた。政府予算が急激に減少する中、保健事業投資費は増加した。その後も人件 費などを削減しながら、保健医療サービスの質を落とさないという困難な政策を掲げ、今 日に至っている。
表3.2-1 構造調整時の保健行政予算(単位:万ドル*)
1989 1990 1992
政府支出
63,190 31,510 23,940
保健事業への投資支出
(人件費などの運営管 理費は含まない)
- 90 150
出所:PAHO/WHO, “Las Condiciones de Salud en lad Americas”, 1994, p.268
*金額は1988年の交換比率に合わせて換算したもの
1990
年代の保健分野の総支出(GDPにおける割合)を見ると、1990年の2.7%から 1998
年の
7.2%へと増加している。 1998
年の一人当たり保健支出額は59.1
米ドルに相当するが、近隣国と比べまだ低い方である。
表3.2-2 保健支出額の推移
1990 1995 1998 GDPにおける保
健分野の総支出 額の割合(%)
2.7 3.0 7.2
出所:1990年から1995年はPAHO/WHO, “La Salud en las Américas”, 1998, p. 357、1998年は PAHO/WHO、”Situación de Salud en Las Américas Indicadores Básicos 2001”
表3.2-3 周辺国の保健総支出(1998年)
パナマ コスタ・リ カ
エル・サル ヴァドル
グァテマラ ホンデュラ ス
ニカラグァ 一人当たり保健分野総
支出額
(米ドル)
354.2 285.0 161.6 93.8 59.1 40.9
GDP における保健分 野 の 総 支 出 額 の 割 合
(%)
7.1 9.1 8.2 5.4 7.2 8.9
出所:PAHO/WHO, “Situación de Salud en Las Américas Indicadores Básicos”, 2001
政府支出における保健分野の予算総額(人件費などの運営管理費を含む)は、年によっ てバラツキがあり、政府財政事情の影響を受けやすい脆弱な性質を表している。
表3.2-4 政府支出における保健予算の割合
1990 1993 1995 1996 1997 1998 1999 2000 政府支出におけ
る保健予算の割 合(%)
8.1 6.0 9.2 11.9 9.2 8.6 9.2 10.6
出所:1990年から1995年はPAHO/WHO, “La Salud en las Américas”, 1998, p. 357、1996年から2000年は Secretaría de Salud, “Salud en Cifras 1996 – 2000”, 2000。
公 共 保 健 医 療 サ ー ビ ス は 、 保 健 省 の 病 院 ・ 保 健 セ ン タ ー と 社 会 保 険 庁 (
Instituto Hondureñode Seguro Social)の経営する病院などから受けられる。保健省下の機関で対応で
きているのが全人口の60%であり、社会保険庁は公務員と民間企業の保険加入者を対象と
し、その割合は22.5%程度である
47。 1999年の保健医療施設の数48は、国立病院が6、地域
(Region)病院が
6、地区(Area)病院が 16、医師の常駐する保健センター(CESAMO)
が
241、医師の常駐しない保健センター(CESAR)が 867、都市周辺緊急クリニックが首都
テグシガルパに
3
ヵ所である。国土の大部分を占める農村にはCESAR
しかない。また、民 間病院・クリニックの数・ベッド数などは統計資料がない。保健セクターの構造調整と期を同じくして、
1990
年にホンデュラス社会投資基金(FondoHondureño de Inversión Social: FHIS)が設立され、当時の FHIS
のプログラム予算のうち13.5%
は保健と栄養の改善分野に投資された49。FHIS はホンデュラスの保健・社会保障事業とし て定着し、1995 年には保健・社会保障分野の総資金額の
2%を占めるようになったが、税
務的に外部依存率の高い構造となっている。(表3.2-5
参照)47 Institute Nacional de Estadistica, “Anuario Estadistico de Honduras”, 2000, p. 249
48 Institute Nacional de Estadistica, “Anuario Estadistico de Honduras”, 2000, p. 253
49 PAHO/WHO, “Las Condiciones de Salud en las Américas”, 1994, p.268
表3.2-5 ホンデュラスの保健・社会保障分野の資金の状況(1995年)
(単位は億米ドル、( )内は%)
資金源 資金利用者
住民 企業 政府収入 社会保険庁
(IHSS)年金
外部 計
社 会 保 険 庁 プログラム
0.059 (2.1) 0.125 (4.4) 0.012 (0.4) 0.028 (1.0) 0.225 (7.8)
保健省 0.641 (22.3) 0.046 (1.6) 0.687 (23.9)
財務省 0.054 (1.9) 0.054 (1.9)
自治大学 0.022 (0.8) 0.022 (0.8)
PRAF 0.008 (0.3) 0.028 (1.0) 0.036 (1.3)
FHIS 0.011 (0.4) 0.048 (1.7) 0.059 (2.0)
国際機関・ド ナー
0.086 (3.0) 0.086 (3.0)
NGO 0.003 (0.1) 0.119 (4.1) 0.122 (4.3)
住民 1.54.0 (53.7) 1.540 (53.7)
民間保険 0.007 (0.2) 0.031 (1.1) 0.038 (1.3) 計 1.609 (56.1) 0.157 (5.5) 0.749 (26.1) 0.028 (1.0) 0.327 (11.4) 2.870 (100.0)
対GDP比* 4.1 0.4 1.9 0.1 0.8 7.2
出所:World Bank, “Honduras Improving Access, Efficiency, and Quality of Care in the Health Sector”, 1997, p.65
* 1995年のGDPは39億6100万米ドル
(2) 保健指標に見られる状況
他の途上国にも共通する課題であるが、ホンデュラスは保健情報システムが弱体であり、
死亡者や罹病者の統計の信頼性には問題がある。ここではそれを与件とした保健概況一般 の洞察を可能な範囲で行う。
1)
死亡状況上記のような事情から、死亡率の推定には特別な調査を必要とする。1990 年と
2000
年に保健を含む人口動態調査が行なわれている。計画省の推定では1990
年の死亡者数は 男性1
万8510
人、女性1
万4156
人、合計3
万2666
人であり、人口1000
人当たり5.8
人であった。そのうち病院・保健センターなどの保健医療施設で死亡する人は15%(5355
人)だったと報告されている50。1990
年の死亡要因上位は、心臓・循環器障害(19.0%)、事故・暴力(13.0%)、気管 支系障害(9.5%)、胃腸内感染症(9.0%)、悪性腫瘍(8.2%)だった。1993年から1996
年には気管支系障害(11.8%)、心臓・循環器系障害(9.1%)、事故・暴力(8.2%)悪性 腫瘍(5.7%)、ウイルス感染症(5.4%)、エイズ(5.4%)と報告されている51。50 PAHO/WHO, “La Salud en las Américas”, 1998, p. 347
51 PAHO/WHO, “La Salud en las Américas”, 1998, p.347
1990
年代には乳児死亡率・5歳未満児死亡率・妊産婦死亡率・出生時平均余命などの 保健指標がいずれも向上している。中でも、乳児死亡率は1990
年の52.7/1000
出生が1998
年に42.0/1000
出生と大きく減少している。この間に公共・NGOを合わせたワクチン接種拡大キャンペーンが強化されたことが、この改善に貢献していると考えられる
(表
3.2-6
参照)。表3.2-6 乳幼児死亡率・5歳未満児死亡率・妊産婦死亡率・出生時平均余命の推移
1980年近辺の データ
1990年近辺の データ
2000年近辺の データ 乳児死亡率
(/1000出生)*
78.6 (1980)
52.7 (1990)
42.0 (1998) 5歳未満児死亡率
(/1000出生)**
− 62.0
(1987)
51.6 (2000) 妊産婦死亡率
(/1000出生)*
− 221
(1990)
182 (1998) 出生時平均余命
(年)*
64.0 (1980)
64.9
(1990)
69.9
(1998)
出所:* Secretaría de Salud, “Informe de Desarrollo Humano e Indicadores Básicos de la Secretaria de Salud”, 1999
**Secretaría de Salud, “Information Bulletin - Statistics of Mobile Health Care”, 2000
1991−1992
年および1996
年の疫学調査によると、5
歳未満児の死亡の最大原因はどちらの年も急性気管支炎であり、1992年には全体の
22%、1996
年には23%に及んだ。第 2
の原因は下痢症であり、1992年の19%が 1996
年には21%に増加した。1990
年の女性 の死亡原因では、循環器系障害(28.3%)、悪性腫瘍(11.1%)が主要な原因であり、15 歳から49
歳の女性の死亡の21.7%が出産時の妊産婦死亡であり、ここでも妊娠・出産時
のケアの重要性が示されている52。2)
罹病状況一次施設を利用する理由に関しては信頼できる統計がない。ここでは病院に来院する 主な理由からホンデュラスの罹病状況を推察する。また、公共・民間病院利用の割合も 合わせて考察する。
公共・民間病院に来院する最大の理由は出産と中絶、周産期に起因する障害であり、病 院利用の理由の半分以上を占める。公共・民間病院に来院する最大の理由は出産と流産、
周産期に起因する障害であり、病院利用の理由の半分以上を占める。次いで気管支炎症・
感染症・下痢症などの開発途上国に特徴的な疾病が多い。
52 PAHO/WHO, “La Salud en las Américas”, 1998, pp262
表3.2-7 病院への来院理由(疾病グループ別)(1999年)
来院理由 患者数 %
妊娠・出産
103,185 47.9
気管支障害
20,511 9.5
外傷・中毒症
15,198 7.1
感染・寄生虫症
11,498 5.3
消化器系障害10,430 4.8
泌尿器系障害
8,581 4.0
周産期に起因する障害
8,397 3.9
循環器系の障害
6,425 3.0
悪性新生物
6,215 2.9
精神障害
5,168 2.4
出所:Secretaría de Salud, “Boletin de Informacion Estadistica de Atencion Hospitalaria”, 1999
3)
都市部と農村部の保健水準の差53ホンデュラスの保健の問題は、資源の量よりも分配の問題であると言われている。保 健分野のスタッフの
60%は首都のあるフランシスコ・モラサン県で従事している。都市
部と農村部の保健水準に関して、乳児死亡率・発育不良・妊産婦検診・安全な水へのア クセスなどに大きな違いが現れている。都市部の中でも首都テグシガルパ、サン・ペド ロ・スーラとそれ以外の都市の差が大きい。1991
年から1992
年の乳児死亡率は、都市部が36/1000
出生に対し、農村部が59/1000
出生と、1.6倍高い数値が報告されている。1991 年の6
歳から8
歳の発育不良児は都市部で
6.9%だったが、農村部では 14.9%に達した。1987
年の妊産婦検診を受けている女性の割合は、首都テグシガルパとサン・ペドロ・スーラでは
79%だったが、それ以外の
都市では
71.3%、農村部では 59.9%と報告されている。
(3) 重要疾患対策 1)
予防可能な疾病1990
年代初めには、都市などの比較的アクセスの良い地区の子供へのワクチン接種率 はある程度高かったものの、農村部などのアクセスの悪い地区では子供のワクチン接種 率が低く、それを拡大することが大きな課題であった。その後、1999年にはワクチン接 種率は大きな進展を見せている。ポリオは
1989
年から発見されていない。はしかは、1994年に1
件、1995年に4
件が 報告されているが、1991
年から死亡例はない。1990
年に新生児の破傷風を撲滅する宣言53 この項に出る指標はPAHO/OPSのLas Condiciones de Salud en las Américas, 1994のpp259から引用してい る。