3 信頼性・実効性の確保手段
7.6 環境影響評価の公的審査
現 行 法 は, 第 二 種 事 業 の 判 定( ス ク リ ーニ ン グ),方法書作成(スコーピング),準備書作成,
評価書作成,許認可等に係る環境保全審査等の 手続について,市町村長・都道府県知事・主務 官庁・環境省による手続関与を認めて,事業者に よるアセスの実施を公的機関が審査し,その客観 性・信頼性の確保に配慮している112。このような 公的審査による手当ては、事業者アセス制度に内 在する弊害―事業者による自己出題・自己採点、
お手盛り、自己ベスト追求、等々、事業者性善説
108 Id.
109 Id.(2). 110 Id.(3).
111 第一次意見書「6.6 関連行為の評価」は、「対象事業と関連して環境アセスメントを要する他の事業の範囲を拡大すると共に,相互に関連す る複数の行為につき環境アセスメントに係る規定を環境影響評価法において整備する」ことを提言している。
112 公的審査の詳細につき、拙稿(3)「3 環境影響評価の審査」139〜141頁、参照。
に立った自主的取り組み手法による客観性・信頼 性の欠如―を除去する上でも、不可欠な仕組みと いえる。公的審査が適正・適法に行われるために は、審査基準・手続が法定されている必要がある が、現行法上は定めがない。
7.6.1 公的審査基準
公的審査は、事業者が上述した評価基準に従っ て適正・適法にアセス評価したかを、公的機関 が第三者的に審査する以上、審査のモノサシであ る審査基準も評価基準と同じであるのは当然であ ろう。評価基準も審査基準も基準(規範)である以 上、同一のモノサシでなければならない。違う目 盛りの分度器で計測しても追試できないのと同じ である。上記のように、現行法上の評価基準は一 般的・抽象的すぎて基準といえるものではなく、
重要な具体的基準は基本的事項が定めている。立 法技術的には、上述した重要な評価基準は法自体 に規定すると同時に、これを公的審査基準とする 旨の準用規定を設けるべきであろう。
7.6.2 公的審査手続
7.6.2.1 環境大臣の関与
現行法は後述する各種の公的審査手続を用意し ている。公的審査の主体(関係者)は各手続ごとに 異なる。(1)の判定では都道府県知事・主務大臣 等の自治体首長と国の機関、(2)(3)の方法書・準 備書では、都道府県知事・市町村長の自治体首 長、(4)の評価書では環境大臣・主務大臣等の国 の機関、(5)の環境保全審査では主務大臣等の国 の機関が、それぞれ手続関与する。
環境大臣は、(4)の評価書段階に至って意見提 出するだけで、公的審査における役割は限定さ れている。露骨に言えば、この段階まで環境大臣 は、手足を縛られ口を塞がれた状態である。アセ ス実施後の評価書段階ではアセスの内容もほぼ固 まり、環境大臣による公的審査の関与のタイミン グとしては、遅きに失した感がある。アセス法は 環境省の所管に属するのに、アセス手続の「揺り かごから墓場まで」環境大臣が手続関与できない 仕組みでは、アセス法の実効性を確保できない。
立法論としては、すべての段階において環境大臣 の手続関与を認め、適宜、自らの判断で意見提出 できるようにすべきである。
中間報告は方法書段階での環境大臣の意見提出 を検討課題としている113。
7.6.2.2 審査手続の概要
現行法上の公的審査手続には以下のものがあ る。
(1)判定手続(スクリーニング)における審査(法4条)
①都道府県知事の意見
②主務大臣等の判定
(2)方法書作成手続における審査(法10条)
①市町村長の意見
②都道府県知事等の意見
(3)準備書作成手続における審査(法20条)
①市町村長の意見
②都道府県知事等の意見
(4)評価書作成手続における審査
①環境大臣の意見(法23条)
②主務大臣等の意見(法24条)
(5)横断条項に基づく環境保全審査(法33条)
113 中間報告「3.(2)方法書段階での環境大臣からの意見提出について」は、評価書段階の「環境大臣意見において方法書段階で述べれれるべき 内容が含まれ、新たな調査等により終了するまで長時間がかかることが想定」されるので、「事業者が主務大臣に助言を求めることができ る現行法の規定を受け、この際に環境大臣も技術的見地から意見を述べられる仕組みが考えられる」とする。
(5)については上述したので、以下、(1)ないし
(4)について簡単にみていく。
(1)判定手続(スクリーニング)における審査
ここでの審査事項は、「第二種事業の種類及び 規模、第二種事業が実施されるべき区域及びその 周辺の区域の環境の状況その他の事情」である(4 条9項)。これらは事業者によって届けられた第二 種事業の概要―第二種事業の種類及び規模、第二 種事業が実施されるべき区域及びその他―に基づ くものである(同条1項)。これらの審査事項の詳 細は、基本的事項において、所謂「判定基準」事項 として定められている114。
主務大臣等は、第二種事業が実施されるべき 区域を管轄する都道府県知事の意見を「勘案」し て(同条3項)、第二種事業についての環境影響の 程度が著しいものとなるおそれがあるかどうか の「判定」を行い、「環境影響の程度が著しいもの となるおそれ」の有無を決する(2条3項、4条3項)。 主務大臣等による都道府県知事の意見の扱い、つ まり上記「勘案」について、基本的事項は「都道府 県知事の意見が適切に反映できる」ものとすべき 旨を定めている115。
立法論として、基本的事項で定められた判定基 準の重要事項は法で規定すると共に、手続関与の 主体としてと都道府県知事だけでなく市町村長・
住民らにも拡大し、上記「勘案」の具体的な基準に ついても法定する必要がある。
(2)方法書作成手続における審査
ここでの公的審査の対象は法5条1項2ないし4号 に規定された以下の事項である。
「2号 対象事業の目的及び内容
3号 対象事業が実施されるべき区域及びその 周囲の概況
4号 対象事業に係る環境影響評価の項目並び に調査、予測及び評価の手法」
審査手続には、①市町村長の環境の保全の見 地からの意見(10条2項)、②都道府県知事の環境 の保全の見地からの意見(同条1項)の二つがある。
②の手続において、都道府県知事は、①の市町 村長の意見を「勘案」するだけでなく、第8条1項に より環境の保全の見地からの意見を有する者が提 出した意見書の「意見の概要を記載した書類」に記 載された意見に「配意」すべきものとしている。現 行法は、この「勘案」「配意」の基準について沈黙し ているので、その基準を法上明記する必要があろ う。
これらの意見提出手続は各自治体が条例で自由 に定めうるとすべきである。立法論としては、61 条2号括弧書きを削除することになるが、この点 は後述する。
(3)準備書作成手続における審査
ここでの審査事項としては以下のものが重要で ある(法14条1項7号)。
「環境影響評価の結果のうち、次に掲げるもの イ 調査の結果の概要並びに予測及び評価の
結果を環境影響評価の項目ごとにとりまと めたもの(環境影響評価を行ったにもかかわ らず環境影響の内容及び程度が明らかとな らなかった項目に係るものを含む)
ロ 環境の保全のための措置(当該措置を講ず
114 判定基準事項には、事業特性に関する「個別の事業の内容に基づく判定基準」のものと、地域特性に関する「第二種事業が実施されるべき区 域及びその周辺の区域の環境の状況その他の事情(以下「環境の状況その他の事情」という。)に基づく判定基準」のものとがある。その詳し い内容につき、基本的事項「第一 判定基準に関する基本的事項」中の「二 判定基準の内容」、参照。
115 同上「三 判定基準を定めるに当たっての留意事項(2)」参照。
ることとするに至った検討の状況を含む)
ハ ロに掲げる措置が将来判明すべき環境の 状況に応じて講ずるものである場合には、
当該環境の状況の把握のための措置
ニ 対象事業に係る環境影響の総合的な評価」
審査手続には、①市町村長の環境の保全の見 地からの意見(20条2項)、②都道府県知事の環境 の保全の見地からの意見(同条1項)の二つがある。
方法書の場合におけると同じく、②の都道府県 知事の意見においては、(1)の市町村長意見を「勘 案」するだけでなく、第18条1項により環境の保全 の見地からの意見を有する者が提出した意見書の
「意見の概要を記載した書類」に記載された意見に
「配意」すべきものとされる。ここでも「勘案」「配 意」の基準は明示されておらず、市町村意見や一 般市民の意見のあつかいは、知事に一任されてい るかの如くである。
立法論として、方法書におけると同じく「勘案」
「配意」の基準を法上明記すべきであろう。上記意 見提出の手続についても、各自治体が条例で自由 に定めうるとすべきである。立法論としては、こ こでも61条2号括弧書きを削除することになるが、
この点は後述する。
(4)評価書作成手続における審査
ここでの審査対象事項として重要なのは以下の ものである(法21条2項)。
「(1) 準備書の場合と同じもの(同条項1号は14条 1項7号を準用)
(2) 準備書について環境の保全の見地からの意 見を有する者が提出した意見書の意見の概 要(法21条2項2号)
(3) 準備書について環境の保全の見地からの都 道府県知事の意見(同項3号)
(4) 上記(2)(3)の意見についての事業者の見 解」
この段階で国レベルの審査が入る。①環境大臣 の環境の保全の見地からの意見(法23条)、②免許 等を行う者等の環境の保全の見地からの意見(法 24条)の二つの審査手続がこれである。両意見の 関係については、(2)の意見は(1)の環境大臣の意 見を「勘案」すべきものとされているが、その具体 的基準の明示はない。方法書・準備書の場合と 同じく、その基準を法上明記すべきであろう。更 に、両意見が対立した場合には、その調整手続を 設けるなどして、手続の透明性を図ると共に、情 報公開、説明責任の徹底を図るべきであろう116。
第8 争訟手続