既に述べたとおり,本章ではダイポールアンテナのアンテナエレメントを電流分 布推定の対象とする.ダイポールアンテナとする理由は,形状が単純であるという ことのほかに,モーメント法の初期段階で求まる線状ダイポール上の電流分布を,
提案法による推定結果の比較対象として用いることができるからである.そのよう な都合から,単純な形状でもマイクロストリップラインなどではなくダイポールア ンテナエレメントを対象に選んだ.
モーメント法(Metho d of Moments: MoM)[6]は,古くはPocklingtonやHallen によって線状アンテナ上の電流分布の考察が始められ,1967年にHarringtonによっ て現在の積分方程式を行列の形で解く原型がつくられた.現在は,多くの応用がな されあらゆる形状のアンテナを扱えるアンテナ解析手法にまで発展したが,その原 点は線状アンテナの電流分布の理論的解析にある.
モーメント法では,まずアンテナの電流分布を計算し,これを元に放射パターン やSパラメータなどを導出する.本研究では,この最初に求まる電流分布を 理論 電流分布 とよび,推定結果の評価に用いる.
図4.1に示すような,半径a,長さ2Lの完全導体からなる直線状導体が誘電率
",透磁率の媒質中にy軸に沿って置かれているとき,直線状導体がつくるy方
向の電界EyはMaxwell方程式より
E
y
= 1
j!"
Z
+L
0L
"
@ 2
V(y;y 0
)
@y 2
+ 2
V(y;y 0
)
#
I(y 0
) dy 0
(4.1)
のように導かれる.ただし,
V(y;y 0
)= 1
4 e
0jr (y ;y 0
)
r (y;y 0
)
(4.2)
r (y;y 0
)= q
a 2
+(y0y 0
) 2
(4.3)
で, 0 は直線状導体の中心を流れる電流である.直線状導体は扱う周波数にお
y
a +L
-L
0 y y’
I(y’)
図 4.1: 直線状導体
分をEyi とすると,完全導体からなる直線状導体の表面では電界の接線方向成分は
0であるから
E
y +E
i
y
=0 (4.4)
となる.式(4.1)と式(4.4)より
1
j!"
Z
+L
0L
"
@ 2
V(y;y 0
)
@y 2
+ 2
V(y;y 0
)
#
I(y 0
)dy 0
+E i
y
(y)=0 (4.5)
である.この式は,ポックリントンの積分方程式(Po cklington'sintegralequation)[27]
とよばれる.
積分方程式中のV(y ;y0)とEyi
(z)は既知関数であり,実際には積分項
R
を展開関 数で和Pの形に離散化して電流分布I(y0)の計算を行う.重み関数を式(4.5)に掛 けて積分することで電流Inについての連立方程式
" #" # " #
-0.002 0 0.002 0.004 0.006 0.008 0.01 0.012 0.014
-15 -10 -5 0 5 10 15
Cur re n t [ A ]
y [cm]
Real part Imaginary part
1+ j 0 〔V〕
図 4.2: 理論電流分布(480 MHz)
の形となる.ここで[Zmn](m= 1;2;:::;N; n =1;2;:::;N)は拡張インピーダンス 行列,[Vm]は電圧行列と呼ばれ,Nはセグメントの分割数である.ダイポールア ンテナの電流分布[In]を求めるには,電圧行列の給電セグメントにのみ1+j0〔V〕 を与え,
"
I
n
#
=
"
Z
mn
#
01
"
V
m
#
(4.7)
を解けばよい.与える電圧は,計算を単純にするため1+j0〔V〕とするのが最も 一般的である.本論文におけるモーメント法の計算は,すべてダイポールアンテナ の給電セグメント(2本のエレメント間のギャップ)位置に電圧1+j0〔V〕を与え ている.図4.2に,長さ30cm,太さ 1mmのダイポールアンテナの480 MHzにお ける理論電流分布を示す.