第 4 章 結論
4.3 理論的含意
この節では、知識経営の視点からどのように翻訳者をマネジメントするのか をまとめる。
翻訳をする際に、翻訳者と翻訳者、翻訳者と顧客の間の活動になるため、膨 大な知識、暗黙知と形式知が生じてくると認識しなければならない。
34 2013年8月14日に東京都渋谷区でgengoのCTOへのインタビュー.
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翻訳活動において、翻訳者から翻訳者への知識転換が行われると同時に、翻 訳者から顧客への知識転換が移転されるが、その途中でいろんな問題が出てく るのは当然のことである。
これらの問題を解決するには、gengoの人事管理部門は、翻訳者を中心とする 頭脳労働者の集団から真の意味でのナレッジワーカーの集団へと進化する必要 がある。知識経営の視点から翻訳活動を見ると、同じ問題解決に取り組む中で、
個人知の交流が生まれ、組織知への転換が始まる。翻訳者や顧客の個人の体内 に深く入りこんでいた「個人知」が組織知として形成され、人事管理部門は組 織としてナレッジマネジメントシステムを創造する。人事管理部門は、ナレッ ジマネジメントシステムを活用することで、高付加価値で効率的なサービスの 提供を長期継続的に行うことを可能となる。
また、翻訳活動の中でより多くの知識を得るためには、翻訳者と翻訳者の相 互「信頼」および、翻訳者と顧客の相互「信頼」を必要である。
翻訳者と翻訳者、そして顧客とのコミュニケーションはネットワークで結ば れており、電子メール、共有アクセスデータベースなどを活用することが絶対 に必要となる。顧客が原文について翻訳者に簡単に伝え、ウェブサイトのリン クや参考資料も、文脈を理解するのに役立つ。関連情報や詳細を翻訳者に提供 するほど、より良い成果が見込める。そして、顧客と翻訳者の認識を合わせる ために、伝えたいメッセージやポイント、希望の文体、特定の訳を望まれる用 語やフレーズなど依頼案件の要点や優先事項を共有する。
翻訳活動の初期段階の仕様書の作成では、「目に見えないノウハウ」、「常識」
が存在するため、ノウハウに関する移転プロセスは困難である。企業に存在す るそのような暗黙的な知識を形式知に変換しなければならない。企業は翻訳活 動に共通のルールやマニュアルを作ることで、翻訳作業を成功に導くことがで きる。
マニュアルは形式知を最も具体的な形にしたものの一つである。マニュアル の価値が特に明らかになるのは、新しい翻訳者が作業を始めるときである。マ ニュアル化しないで翻訳者が変わると、同じミスを繰り返すことが多くなる。
そして、特に問題になっているのは、顧客の翻訳依頼内容の保護である。翻訳 活動を始める前に、これらの問題に対し事前防止対策を準備する必要があり、
知識経営の視点でその部分を形式化し、契約やマニュアルを作る必要がある。
マニュアルの整備、知識やノウハウの文書化もナレッジマネジメントの一つ であるが、もちろんマニュアルにも限界がある。当然のことであるが、マニュ アルにはすべて書くことができないので、想定外のことが起きると、その時に マニュアルだけで行動していると、活動が止まってしまう。
グローバルな異文化知識創造では、共同化がきわめて重要である。翻訳者マ
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ネジメントにおいて、日本人は暗黙知に傾きやすく、直観、比喩的で曖昧な言 語、体験知を使う傾向がある。翻訳者と翻訳者との交流の中、翻訳者と顧客と の共創の中、ほかの国の翻訳者は日本企業の暗黙知を学んだほうがよいが、逆 に日本人の翻訳者もほかの国の翻訳者と顧客の暗黙知を学ぶ必要もある。翻訳 者は異文化や翻訳事情に関する暗黙知を身に着けるのに、かなり時間と費用が かかるが、知識の共同化のために欠かせないプロセスである。
そして、翻訳者マネジメントでは、知識の表出化も非常に重要である。翻訳 者は経験に基づく暗黙的な知識をより明示的なもの、たとえばテストやダッシ ュボードなどに表出する努力が求められる。
図3-1 で、翻訳活動を SECI モデルで提示したこのプロセスはサークルでは なく、「内面化」で獲得した知識を利用し、新たな「共同化」を始めるダイナミ ックでエンドレスのスパイラルとなる。知識創造の日本的スタイルのもう一つ の強みは内面化である。翻訳活動が始まると、実行を通じて、高質の暗黙知が 個人レベルと組織レベルに急速に蓄積されることになる。
そして、連結化の一環として、自社独自の技術や用語を概念化、文書化された 内容を翻訳活動のデータベースに蓄積する。
暗黙知 暗黙知
暗黙知 形式知 共同化
翻訳者と翻訳者また顧客と の交流の中で暗黙知を獲得、
蓄積する。
表出化
常識などを形式知化する。暗 黙的な知識を文書化に転換 する。
内面化
マニュアルやデータベース で学んだ知識を実践の現場 で試してみる。
連結化
自社のルールをマニュアル 化する。技術、用語、仕組み を文書化データベースに蓄 積する。
暗黙知 形式知 形式知 形式知
図4-1 デジタル翻訳ビジネス・プロセスのマネジメント・モデル
出典:野中・竹内(1996)を基に筆者作成
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