V. 暴露評価~排出源ごとの暴露シナリオ~
V.3 暴露評価Ⅰ
V.3.6 物質の分類に応じた暴露評価Ⅰでの扱い
17
本スキームの評価Ⅰでは、暴露評価を実施するときには、優先評価化学物質が下記の図 18
表 V-24の3つの分類のどれに該当するかを識別し、それに対応する数理モデルや物理化学 19
的性状を用いるものとしている。これは以下の定義と考え方に基づいている。なお、識別 20
は評価の準備段階で行うのでⅠ章も参照されたい。
21 22 23 24 25
1 平水流量:流量の観測開始から欠測期間を除いた統計期間の「1年を通じて185日はこれ を下らない日流量」(国土交通省河川局編 (2005) 『流量年表 第55回(平成14年) 』 日本河川協会)
2 低水流量:流量の観測開始から欠測期間を除いた統計期間の「1年を通じて275日はこれ を下らない日流量」(国土交通省河川局編 (2005) 『流量年表 第55回(平成14年)』
日本河川協会.)
3 ECHA (2010) Guidance on information requirements and chemical safety
assessment chapter R.16: environmental exposure estimation, Version: 2, R.16.2.3.
Time frame. pp.8-9.
4 ECHA (2010) ECHA, Guidance on information requirements and chemical safety assessment chapter R.16: environmental exposure estimation, version: 2, R.16.6.6.2.
Calculation of PEClocal for the aquatic compartment. pp.61-64.
5 U.S. EPA (2007) Exposure and Fate Assessment Screening Tool (E-FAST) Version 2.0 Documentation Manual.
(http://www.epa.gov/opptintr/exposure/pubs/efast2man.pdf)
図表 V-24 物質の分類と暴露評価Ⅰの扱い対応箇所 1
物質の分類 対応箇所
環境分配モデル適用物質(構造特定可能) V.3.3(既出)
環境分配モデル適用物質(構造不定) V.3.6.1 環境分配モデル適用外物質 V.3.6.2 2
「環境分配モデル適用物質」とは、本スキームの暴露評価Ⅰにおいては「環境媒体間の 3
分配の予測に必要な物理化学的性状が測定もしくは推計可能な化学物質」と定義する。反 4
対に「環境媒体間の分配の予測に必要な物理化学的性状が測定不可かつ推計不可な化学物 5
質」を「環境分配モデル適用外物質」と定義する。
6
リスク評価に用いる暴露評価手法の多くは、単一構造の低分子有機化合物を想定して作 7
られている。化学物質の環境中の分配を予測するために、評価Ⅰで排出源ごとの暴露シナ 8
リオで用いる環境分配モデルでは、物理化学的性状のうち分子量、融点、蒸気圧、水溶解 9
度、logPow、Koc、ヘンリー係数、生物濃縮係数(BCF)が必要であり、これらが上記の 10
定義での「環境媒体間の分配の予測に必要な物理化学的性状」に該当する。なお、暴露評 11
価Ⅰでは、これらの環境媒体間の分配の予測に必要な物理化学的性状がそろい、環境分配 12
モデル適用物質として分類していた物質でも暴露評価Ⅱでは個別に対応し、物質の性状に 13
応じた手法を用いる場合もある(後述のV.4.9参照)。
14
「環境分配モデル適用物質(構造不定)」とは、「○と△の反応生成物」といった名称の 15
物質のうち、構造は特定できないものの有機化学物質等であるため「環境分配モデル適用 16
物質相当」と分類したものであり、環境分配モデルの適用範囲に属する。なお、構造が特 17
定できる環境分配モデルの適用物質は「環境分配モデル適用物質(構造特定可能)」と定義 18
する。
19
3つに分類した物質のうち、環境分配モデル適用物質(構造特定可能)はV.3.3で説明し 20
た環境中濃度推計手法を適用することができる。本項では、残りの2つの分類について暴 21
露評価Ⅰでの扱いを記載する。
22 23
V.3.6.1
環境分配モデル適用物質(構造不定)の暴露評価Ⅰ24
この分類の化学物質は、構造は特定できないものの「環境分配モデル適用物質相当」と 25
分類したものである。しかし、この物質群は、基本的に物理化学的性状の実測値は通常は 26
得られず、構造が特定できないために推計も不可能である。そこで、以下のように扱うも 27
のとする。
28 29
(1) 排出量推計 30
物理化学的性状データが得られない優先評価化学物質の排出係数については、Ⅳ章の物理 31
化学的性状データが得られない優先評価化学物質の扱いで記載した次のとおりであり、高 32
分子化合物であるか否かでそのデフォルト値の設定が異なる。
1
評価Iでは、高分子化合物であれば、蒸気圧区分<1Pa、水溶解度区分≧10,000mg/Lの 2
排出係数の値をデフォルト値として付与する。高分子化合物でなければ、蒸気圧区分 3
≧10,000Pa、水溶解度区分≧10,000mg/Lの値をデフォルト値として付与する。これは、各 4
化学物質において物理化学的性状データが得られない場合に、推計排出量がワーストにな 5
るようなデフォルト値を設定するためである。
6 7
(2) 環境中濃度と人の摂取量の推計 8
環境中濃度と人の摂取量の推計においては、環境分配モデルによる人の暴露量が最大(す 9
なわち、きびしく暴露評価する安全側)となる物理化学的性状一式の組合せを見つけ、そ 10
のワーストデフォルト暴露量(単位排出量当たり)を暴露評価Ⅰに用いる。なお、水域排 11
出の場合、水域経由の人の暴露量はBCFに大きく依存し、BCFが大きいほど人の暴露量が 12
大きくなる。BCF は評価の準備段階のキースタディ選定によって選ばれた値を用いる。よ 13
って、大気経由の暴露量を最大とする物理化学的性状一式の組合せを見つけて設定した。
14
この大気経由の暴露量の最大値は、最初に 352 種類の組合せの物理化学的性状の中から 15
暴露量が最大となる組合せを見つけ、次にその組合せの値を起点として最適化機能(目的 16
関数の最大値や最小値等を求める機能)を搭載したソフトウェアに入力し、暴露量の最大 17
値を計算する、という手順によって導出している(付属資料V.7.4.2 、V.7.5.6 参照)。
18 19
(3) 水生生物の暴露濃度推計 20
物理化学的性状は(2)と同じものを用い、「V.3.5 水生生物の暴露濃度推計」と同じ推計式 21
を用いる。
22 23
V.3.6.2
環境分配モデル適用外物質の暴露評価Ⅰ24
環境分配モデル適用外物質は、通常、logPow が測定又は予測できないものになるため、
25
図表 V-25に示すとおりlogPowを出発点として推計する農作物と畜産物等の濃度の推計は 26
不可能となる。ここではこれらの化学物質の暴露評価Ⅰにおける扱いを示す。
27 28
環境中濃度推計物理化学的性状等
沸点
融点
蒸気圧
ヘンリー 係数
水溶解度
logPow
大気中濃度
吸入暴露量
大気からの 水中濃度 沈着量 大気への
排出量
排出係数の選択基準 排出係数の選択基準
土壌中濃度
魚介類中濃度 土壌間隙水中
濃度
地上部農作物 中濃度
魚類の 生物濃縮係数 有機炭素補正 土壌吸着係数
牛肉中濃度
牛乳中濃度
植物への 濃縮係数 畜産物(牛肉)
への移行係数
地下部農作物 経由の摂取量
地上部の作物 経由の摂取量
牛肉経由の 摂取量
牛乳経由の 摂取量
畜産物(牛乳)
への移行係数
魚介類経由の 摂取量 飲水経由の
摂取量
排出量推計
地下部農作物 中濃度
分子量
人の摂取量推計 水生生物の暴露濃度 水中濃度
水域への 排出量
底質中濃度
底質中濃度
1
図表 V-25 環境分配モデル適用外物質の暴露評価で考慮する経路(濃い部分)
2 3
(1) 排出量推計 4
V.3.6.1 (1)と同じ扱いとする。
5 6
(2) 環境中濃度と人の摂取量の推計 7
環境中濃度推計では、図表 V-25に薄く示した部分の推計はできないため、物理化学的性 8
状データを用いない単純希釈による推計と魚介類中濃度推計の部分のみの推計を行う。単 9
純希釈とは、ここでは、大気相に関しては拡散のみを考慮し土壌への沈着は考慮しない1こ 10
と、水相に関しては希釈のみを考慮し懸濁粒子への吸着等は考慮しないことと定義する2。 11
これを本スキームでは単純希釈モデルという。単純希釈モデルの推計式を以下に示す。
12 13
大気から土壌への沈着以降の経路を考えないため、大気中濃度推計では沈着による減少 14
を考慮しないV.3.3.2 (1)の式 V-7を用いる。
15 16
大気中濃度=大気濃度換算係数×大気への排出量 式 V-7(再掲)
17
1 土壌へ沈着以降の農作物、畜産物への濃縮を推計できないためである。
2 同じ単純希釈という呼び方であっても、大気相は距離による濃度の減衰を考慮し、水相は 考慮してないという相違があることに注意。
河川水中濃度推計は式 V-27の懸濁粒子への吸着補正項がなく、次式となる。淡水魚、海 1
水魚の濃度は式 V-28と式 V-29と同様である。
2 3
河川水中濃度=水域への排出量/河川流量 式 V-32 4
人の摂取量の推計式は式 V-31と同様であるが、経路は大気吸入、飲料水・魚介類(淡水 5
魚・海水魚)からの摂取のみとなる。なお、魚介類中濃度の推計に必要なBCFは評価の準 6
備段階のキースタディ選定によって選ばれた値を用いる。
7 8
(3) 水生生物の暴露濃度推計 9
水生生物の暴露濃度である河川水中濃度の推計には、懸濁粒子への吸着補正項がない式 10
V-32 を用いる。この場合、河川流量は生態評価用の値を用いる(「V.3.5 水生生物の暴露 11
濃度推計」参照)。
12 13