第 4 章 熱力学第二法則 24
4.5 熱力学的絶対温度
二つの熱源を用いる可逆熱機関の一つとして,理想気体を作業物質とする「カルノー機関」
がある。その効率は,熱源の温度のみを用いて,
ηCarnot =1− T3
T1
(4.6) と表せることを既に見た。従って,一般の熱機関に関する不等式(4.5f)は,証明中の可逆熱機 関としてカルノー機関を用いることで,
η≡1− −∆Q3
∆Q1
≤1− T3
T1
(4.7) へと書き換えられる。これは,「熱機関の最大効率」という作業物質に依存しない普遍量を用い た絶対温度の定義式とも見なせる(次の段落参照)。このことを提唱して絶対温度を理想気体の 状態方程式と整合するように定義し,「絶対零度0K」の存在とその値0K=−273.15◦Cを明確 にしたのがトムソン(改名後のケルビン)である。この業績に因んで,絶対温度の単位は「K
(ケルビン)」となっている。
具体的に,高温熱源の温度をT1 →T,低温熱源の温度をT3 →T0,高温熱源から受け取る 熱量を∆Q1→∆Q,低温熱源が受け取る熱量を∆Q3→∆Q0と置き換えると,最大効率の場合 の(4.7)式は,
T =− ∆Q
∆Q0
T0
と表せる。この式は,T <T0の場合,すなわち高温熱源の温度をT0と選んだ場合にも成立し,
比−∆Q/∆Q0>0は,作業物質に依存せず一意に決まる。従って,温度の体系は,基準値T0を 適当に定める(例:1気圧下における水の融点の温度を273.15Kとする)ことで完全に決まる のである。
4.6 「ケルビンの原理」から「クラウジウス不等式」へ
クラウジウス不等式(4.1)からは,「ケルビンの原理」と「クラウジウスの原理」が導けるこ とを既に示した。実際には,この三つは等価であり,歴史的には,逆に,「クラウジウスの原 理」または「ケルビンの原理」の数式表現として,クラウジウス不等式が導かれたのである。
この歴史的過程をたどり,ここでは,「ケルビンの原理」からクラウジウス不等式を導き,両者
第4章 熱力学第二法則 29 の等価性の証明を完成する。「クラウジウスの原理」と「ケルビンの原理」の同等性については
次節を見られたい。ちなみに,熱力学を実際に使う上では,クラウジウス不等式(4.1)のみを 知っていればよいので,以下の議論は割愛してもよい。
出発点は,熱機関の効率に関する不等式(4.7)であり,その導出には「第一法則」と「ケルビ ンの原理」が前提として用いられていた。この式を書き換えると,∆Q3/∆Q1+T3/T1≤0とな り,それに∆Q1/T3を掛けることで,
∆Q1
T1 + ∆Q3
T3 ≤0 (4.8)
へと書き換えられる。この式は,さらに,n個の熱量と温度を含む式
∑n j=1
∆Qj
Tj
≤0 (4.9)
へと一般化できる。
(4.9)式の証明
第一法則とケルビンの原理が成り立つものとする。証明に用いる系は,図のように,二つの 熱源を用いて駆動されるn個の可逆循環過程と,n個の熱源を用いる一つの一般熱機関で構成 されている。
熱源0(温度T 0)
熱源1(温度T 1)
∆Q10
∆Q1 可逆熱機関1
熱源2(温度T 2)
∆Q20
∆Q2 可逆熱機関2
熱源n(温度T n)
∆Qn0
∆Qn 可逆熱機関n
・・・・・
一般熱機関E
∆Q1
∆Q2
∆Qn
ここでは,熱の流れのみを示し,熱の出入りで符号に区別はつけていない。まず,温度T0の 熱源から可逆熱機関 j(j=1,2,· · · ,n)に熱量∆Qj0を供給して駆動し,温度Tj を持つ熱源に 熱量∆Qj を排出する。ただし,各∆Qj0と∆Qjは,正負いずれの値の値もとりうるものとす る。各熱機関は可逆であることから,(4.9)式の等号に相当する等式
∆Qj0
T0 + −∆Qj
Tj =0 ←→∆Qj0=T0
∆Qj
Tj
が成立する。次に,各熱源 j(j= 1,2,· · · ,n)から,前の過程で受け取った熱量∆Qjを,n個 の熱源を用いる一般熱機関Eに供給して駆動する。各可逆熱機関への熱の出入りは相殺するの
第4章 熱力学第二法則 30 で,全系が受け取った熱量∆Qは,単一の熱源0から供給される熱量の和
∆Q=
∑n j=1
∆Qj0=T0
∑n j=1
∆Qj
Tj
に等しい。そして,循環過程に関する第一法則によると,この熱量は,外部への仕事−∆Wへ と変換される。すなわち,
−∆W= ∆Q
が成立する。一方で,各可逆熱機関への熱の出入りが相殺するこの全系は,単一の熱源0によ り駆動されており,ケルビンの原理−∆W ≤ 0が成立する。この不等式を,その上で導いた等 式を下から順に用いて書き換えると,
0≥ −∆W= ∆Q=T0
∑n j=1
∆Qj
Tj
が得られる。これは(4.9)式に等価である。証明終り。
さらに,(4.9)式で各∆Qiを無限小にすると共にn→ ∞の極限を取り,不等式が循環過程に
関するものであることに注意すると,(4.9)式は,
0≥ lim
n→∞
∑n j=1
∆Qj
Tj =
I d′Q T へと書き換えられる。つまり,
I d′Q
T ≤0 (4.10)
が成立する。
(4.10)の等号は「可逆過程」について成立する。可逆過程は,熱平衡状態を結ぶ過程で,現実
的には,非常にゆっくりと変化を起こす「準静的過程」により実現される。この可逆過程では,
エントロピー dS ≡ d′Q
T (4.11)
で定義される「エントロピー」が,
I
dS =0 (4.12)
を満たす。すなわち,S は,「熱平衡状態の空間=可逆過程で結ばれる空間」における「状態 量=ポテンシャル」である。
A 可逆過程(R) B
一般の過程(G)
以上を準備として,積分不等式(4.10)を,右図のよう に,可逆(reversible)過程と一般の(general)過程からな る閉曲線を,反時計回りに一周する経路に対して適用す
る。その積分は,可逆過程について積分の上限と下限を入れ替えて,
∫ B A(G)
d′Q T −
∫ B A(R)
d′Q T ≤0
第4章 熱力学第二法則 31 と表せる。さらに,可逆過程の積分について(4.11)式を代入すると,
∫ B A(G)
d′Q T ≤
∫ B A(R)
dS (4.13)
が得られる。さらに,AとBの隔たりが無限小の場合を考えると,上の式から積分記号を除く ことが可能になり,「クラウジウス不等式」
d′Q T ≤dS
が導かれる。このようにして,「ケルビンの原理」から,「クラウジウス不等式」が導出できた。
以前には,「クラウジウス不等式」から「ケルビンの原理」が導けたので,これで,両者が同等 であることを証明できたことになる。
4.7 「クラウジウスの原理」と「ケルビンの原理」の等価性
「ケルビンの原理」と「クラウジウスの原理」も等価な内容を持つ。これは,背理法により証 明できる。以下では,熱と仕事の流れのみを示し,それらの出入りで符号に区別はつけない。
証明
高温熱源(温度T 1)
低温熱源(温度T 3)
∆Q1
∆Q3 カルノー過程
∆W
高温熱源(温度T 1)
低温熱源(温度T 3)
∆Q 3
(a)まず,クラウジウスの原理が成り 立たないものと仮定する。すると,左 図のような過程が可能になる。まず,
高温熱源から熱量∆Q1を供給して外 部へ仕事∆Wをし,残りのエネルギー を熱∆Q3として低温熱源に排出する。
そして,その後,低温熱源から高温熱
源に熱量∆Q3を移す。すると,全系としては,高温熱源から熱量∆Q1−∆Q3を供給してその 全てを仕事に変換したことになる。これは,ケルビンの原理に反する。
高温熱源(温度T 1)
1
第二種永久機関 ∆W
高温熱源(温度T 1)
低温熱源(温度T 3) 熱∆Q +∆1 Q
熱∆Q3
逆カルノー過程 熱∆Q 3
仕事
(b)次に,ケルビンの原理が成り立た ないものと仮定する。すると,右図の ような過程が可能になる。まず,高温 熱源から熱量∆Q1 を第二種永久機関 へ供給して,仕事∆W = ∆Q1をする。
そして,その後,その仕事を利用して 逆カルノー過程を駆動し,低温熱源か ら熱量∆Q3を取って高温熱源へ熱量∆Q1+ ∆Q3を排出する。すると,全系としては,低温熱 源から高温熱源へ熱量∆Q3を移したことになる。これは,クラウジウスの原理に反する。
このようにして,二つの原理は等価であることが示せた。そして,それらの数式表現が,ク ラウジウス不等式(4.1)に他ならない。
第4章 熱力学第二法則 32