1 はじめに
これらの不整脈は,臨床的には発症とともに急激な有 効血流の低下を来たし即時に意識消失となり,適切な治 療により回復しない場合は死に至るものである.心室細 動と無脈性心室頻拍は心停止の病態として一般的な電気 生理的背景と言えるが,他に高度の徐脈性不整脈,心静 止があることも少なくない.このガイドラインでは心室 細動と多形性心室頻拍に無脈性心室頻拍を含め,いずれ もが心停止を来たすことからここで扱うことにした.
具体的な対処につき病態が①発作が自然停止しない場 合,②自然停止するが反復する場合に大別した.おおよ そ①が心室細動,②が多形性心室頻拍に対応する.無脈 性心室頻拍は①に準ずる病態とみなす.
2 病態・臨床的意義
心室細動は,最も重篤な不整脈で,発作後ただちに脈 が触れなくなり意識が消失する.虚血,心不全などに伴 って発症することが多いが,明らかな心疾患を伴わない で起こる場合(特発性)がある151).無脈性心室頻拍 β遮断薬
Caチャネル遮断薬 Naチャネル遮断薬
Caチャネル遮断薬 β遮断薬
Naチャネル遮断薬 Electrical Storm時
(静注)
ニフェカラント アミオダロン β遮断薬
ICDに併用**
アミオダロン ソタロール β遮断薬
アミオダロン ソタロール ベプリジル β遮断薬 # ICD
成功
ICD拒否・できない例 不成功・拒否
なし あり*
カテーテルアブレーション
LBBB+RAD型 RBBB+LAD型
基礎心疾患
図 20 持続性心室頻拍の再発予防
*:基礎疾患がある例でもカテーテルアブレーションの有効例がある.
**:ソタロールまたはアミオダロン+β遮断薬で作動の減少が図れる.
#心不全例で有用.
(
pulseless VT
)は脈拍を触知しない心室頻拍であり有効 な循環を維持し得ない不整脈であるため心室細動と同様 に扱う.多形性心室頻拍は頻拍中の
QRS
波形が刻々と変化し,QRS
波形が基線を中心にしてねじれているように見え る.多くは非持続性で自然停止するが,時に心室細動に 移行する.多形性心室頻拍はQT
延長を伴っている場合 と伴っていない場合に分けられる.この区別は,両者の 治療法が異なるので重要である152).
QT
延長に伴い発症する多形性心室頻拍はtorsade de pointes
(TdP
)と呼ばれ,二次的原因が明らかな後天性QT
延長症候群と二次的原因を認めない先天性QT
延長 症候群に分類される.後天性の原因は薬剤によるものが 多く,抗不整脈薬(Ⅰa
群,Ⅲ群)だけでなく,非心臓 薬(向精神薬,抗生剤,抗アレルギー薬など)が原因の こともある(表9).先天性の場合は,遺伝の様式と聾 唖の有無からJervell and Lange-Nielsen
症候群とRoma-no-Ward
症候群に分類される.今日ではRomano-Ward
症候群は遺伝子型によりLQT1
からLQT10
までの10型 が2007年までに報告されている153).
QT
延長を伴わない多形性心室頻拍は,虚血,心不全,ショックなどの心機能低下に伴って起こる場合が多い が,この場合は心室細動への前駆的不整脈といえる.明 らかな心疾患を伴わず起こる多形性心室頻拍(特発性)
の代表的なものに,
Brugada
症候群,カテコラミン誘発 多形性心室頻拍がある.Brugada
症候群は胸部誘導(V
1~
V
3)のST
上昇を特徴とする疾患で,若年~壮年男性 の突然死の原因として注目されている154).一方,カテ コラミン誘発多形性心室頻拍は,感情の高まり,運動,イ ソ プ ロ テ レ ノ ー ル で 発 作 が 誘 発 さ れ る( 用 語 解 説)155).その他に,
QT
短縮症候群(SQTS
)156),明らか な誘因や心電図学的特徴が認められない特発性多形性心 室頻拍・心室細動がある.3 薬物治療の実際
①発作時の治療(図21)
1)自然停止しない場合
緊急を要し可能な限り早期の停止が望まれるので,た だちに直流通電(
DC
ショック)を行う.心室性不整脈 による心停止では,DC
ショックを除細動器の最高出力(一般に単相電流使用の除細動器では360J)で施行する
(原則として1ショックプロトコールが推奨される)157). 停止しない場合には,心肺蘇生術(
CPR
)をACLS
に習 い速やかに再開するとともにエピネフリンまたはバソプ レッシンを静注する.原則としてCPR5
サイクルを施行 し,心電図により発作の停止を確認できない時には再度DC
ショックを施行する.これでも停止しない場合には,ニフェカラント,アミオダロンを第一選択として,また は第二選択としてリドカイン(急性冠症候群(
ACS
)に 伴う多形性心室頻拍には妥当とされる)158)を静注し,再 度DC
ショックを試みる113).2)自然停止するが再発を繰り返す場合
洞調律の心電図(発作前または発作の合間に記録され る心電図)において
QT
延長の有無を診断する.QT
延 長を認める場合はQT
延長を起こしている原因治療が基 本であるが,いずれの原因でもマグネシウム(Mg
)の 静注が有効である159).また,低カリウム血症など電解 質異常を認めれば補正することが重要である.QT
延長 の原因が徐脈の場合は心室ペーシングが最も有効である が,心拍数が比較的保たれている場合でも心室ペーシン グで心拍数を増加させると発作が消失することが多 い160).二次的原因を認めない先天性QT
延長症候群の場 合は,理論的には責任遺伝子の違いで有効薬剤が異なる 可能性がある.β遮断薬が基本的な発作予防薬161)とな るが,LQT3
では明らかな効果がないとする報告162),あ るいはLQT1
と比較してLQT2
,LQT3
での心事故発症表 9 後天性 QT 延長症候群の原因 1. 抗不整脈薬: Ia群,III群薬
2. 著明な徐脈: 完全房室ブロック,洞機能不全
3. 電解質異常: 低K血症,低Mg血症,低Ca血症
4. 向精神薬: 抗精神病薬①フェノチアジン系(クロールプロマジンなど)
②ブチロフェノン系(ハロペリドールなど),抗うつ薬(アミトリプリチンなど)
5. 抗生剤: エリスロマイシン,アジスロマイシン,クラリスロマイシン,ペンタミジン
6. その他の薬剤: テルフェナジン,シメチジン,プロブコール,シサプリド
7. 心疾患: 心筋炎,心筋梗塞,心腫瘍
8. 内分泌疾患: 甲状腺機能低下症,副甲状腺機能低下症,褐色細胞腫
9. 脳血管障害: クモ膜下出血,脳内出血,頭部外傷
10. 栄養障害: 神経性食欲不振,飢餓
11. 感染症: HIV
率が高いことが示されている163),164).なお,SCN5A変 異による
LQT3
ではNa
チャネルの不活性化の障害が病 因とされることから,メキシレチン,フレカイニドとい ったNa
チャネル遮断薬がQT
間隔の短縮目的に利用さ れる165).QT
延長を認めない場合は,虚血の関与が最も 重要なのでその有無を診断し,虚血が関与している場合 は虚血の改善が最も有効な手段となる.改善するまでの 間はアミオダロン静注(二次選択としてリドカイン静注)の効果が期待できる158).虚血の関与がない場合には心 機能改善の治療とともにニフェカラントないしアミオダ ロンを静注する.
QT
延長が明らかでない場合でもマグ ネシウムの静注が有効なこともあり,虚血や心不全の治 療とともに併用薬として使用してもよい.3)再発予防に対する治療(図22)
器質的心疾患を有し心機能が低下している場合の長期 治療は,植込み型除細動器(
ICD
)が第一選択であ る132).器質的心疾患を有するが心機能が正常または軽 度低下の場合は,ICD
に代わる治療としてアミオダロン 投与がある.明らかな器質的心疾患を認めない場合は
QT
延長の有 無により対応が異なる.QT
延長を認めその原因が明ら かな場合,原因治療のみで発作は消失する.二次的原因 を認めない先天性QT
延長症候群の場合は,β遮断薬が 効果的である.β遮断薬使用後も再発する場合はICD
の適応となる.QT
延長を認めない場合は,心電図と臨 床所見からBrugada
症候群,カテコラミン誘発多形性心多形性心室頻拍・心室細動・無脈性心室頻拍
DCショック
DCショック
DCショック
持続している場合 反復する場合
原因治療 心室ペーシング
虚血の関与 あり
あり
なし
アミオダロン ニフェカラント
静注
あり なし
なし DCショック1回施行し停止しない場合は,
ACLS開始,エピネフリン,バゾプレシン静注
停止不能の場合 ニフェカラント静注,
アミオダロン静注,
リドカイン静注*
β遮断薬 静注 先天性QT延長群 後天性QT延長群
*第二選択として(本文参照)
QT延長
Mg静注 QT延長の原因
虚血の治療 アミオダロン
リドカイン ニフェカラント
静注 図 21 多形性心室頻拍・心室細動・無脈性心室頻拍:発作時の治療
図 22 多形性心室頻拍・心室細動・無脈性心室頻拍の予防 多形性心室頻拍・心室細動・無脈性心室頻拍
器質的心疾患の有無
心機能評価
あり なし
正常または
軽度低下 低下
除去可能な ICD 不整脈発症原因
原因除去
あり なし
あり なし
QT延長の原因 発作時・非発作時の心電図
あり なし
その他
QT延長の
原因治療 β遮断薬 ICD
ICD β遮断薬
ICD ICD
アミオダロン アミオダロンICD
カテコラミン 誘発性頻拍 Brugada
症候群 先天性QT延長群
後天性QT延長群
QT延長