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漢方診療の実際 診断学(その 2)

ドキュメント内 漢方治療の診断と実践 (ページ 45-70)

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2-1 舌診・脈診・腹診の特徴

 舌診の診断学であるが,舌診の中で診断に特に役に立つのは,舌に黄色い苔こ けが つく状態で,これを黄お うた いという.黄苔の中で,非常に厚い汚い苔を黄お うた い,へら で落とせるような苔を黄お うた いという.このうち膩苔は炎症性サイトカイン IL─6 が高い状態である.腐苔は,黄色い苔だが,へらで落とすとぽろっと取れてしま うような苔で,歯で少し削れているのですぐにわかる.膩苔の方は食事の影響で 出てきたようなタイプで,へらで削っても取れないような苔である.この場合に は漢方の抗 IL─6 製剤,黄色の名前のつくグループを用いる.

舌 診 図 2-1

 循環血け っしょう漿量が不足すると,脱水になる.ただ脱水予備軍の状態でも,舌はま ず乾燥が出てくる.舌が非常に乾燥してきたときは,小しょうさ いと うは絶対に使っては ならない.

 脈の状態は,循環血漿量と血清浸透圧,血流速度,粘ね んちょう稠度,血管の硬さなど によって規定される.循環血漿量が多いか少ないかを診るのは,滑か つみゃくかどうかと いうことである.また,血液の粘稠度を診るのは,渋じゅうみゃくかどうかという診方をす る.血清浸透圧がどうかは,押さえて血管がつぶれてしまうかどうかという見方 をする.

 腹診の中で,自律神経失調症のタイプは,胸きょうきょう脇苦ま んと,副ふ くじ ん内分泌の弱くなっ てきたタイプである.基本的には,舌診は急性疾患,腹診は慢性疾患と言われて いるが,そうでないケースもある.忙しい臨床の中で診るにはこういう見方がい い,ということである.日本の古方で腹を診ることが非常に多いのは,このあた りに理由があるのだろう.

 日本の場合には,急性病には舌診はあまり診ないことが多い.中医学では「こ の舌診も急性・慢性疾患で出るから一緒に診なさい」といわれるのだが.日本と 中国で考え方が違うところである.

 舌診からわかることは,1 つは苔がないということ.これが,脱水予備軍であ る.例えば,シェーグレン症候群のような状態になるとか,そこまでいかなくて も舌の表面に亀裂が入るだけの場合もある.これは,循環血漿量が少し落ちてき ている状態を表している.

 このとき一番気をつけなければならないのが,絶対に小柴胡湯を投与してはい けないということである.数年前に,小柴胡湯における間質性肺炎というのがず いぶん話題になったが,ほとんど全部が小柴胡湯を投与した結果なのである.脱 水のときに小柴胡湯を使って,さらに脱水を強くしてしまった.そうすると,黄 芩とか抗アレルギーの薬が,逆にアレルギーを強くしてしまうケースが出てく る.本来抗アレルギーの薬を脱水のときに使ってしまったために,逆にアレル ギーを強く起こしてしまうケースが,小柴胡湯の投与による間質性肺炎である.

逆に,間質性肺炎のときは小柴胡湯でよく治る.小柴胡湯を使うときは,その下 にある白苔が目安になるが,たまに黄色い苔になる場合もある.黄色い苔でも,

小柴胡湯を使う場合がある.白苔から黄苔のときは小柴胡湯がいいのだが,乾燥 舌だけには使ってはいけない.

 乾燥舌のときは,循環血漿量を計るとわかるが,体中の循環血漿量が低下して

きている.そのとき,現代医学の立場では,点滴をしましょうということにな る.点滴をすると実際によく治るのだが,点滴ばかりしていると,医療監査で 引っかかってしまう.そこで,陰液を補う薬,滋い んざ いを使う.陰液というのは,

循環血漿量を増やす漢方である.例えば砂糖を舐めると,子どもの自家中毒など もかなり落ち着く.砂糖は循環血漿量を増やしてくれるのである.漢方薬でも循 環血漿量を増やすグループがある.大た いそ う,麦ば くも んと うが代表になる.麦門冬は,蛇じ ゃの 髭ひ げ

という薬だが,体内コルチゾール濃度を維持し循環血漿量を増やす働きを持っ ている.その代表が,滋い んこ うと うという薬である.

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2-2 虚熱を取る滋陰降火湯・滋陰至宝湯

 体全体に循環血漿量がなくなり,ドライ(=脱水)になると,鼻からのどの粘 膜蠕ぜ んど う運動が悪くなってくる.するとそこにウイルスがつくようになり,ウイル スによる軽い感染を起こすと,熱が発生する.それを漢方では「虚熱」という.

要するに,IL─6 の状態が少し上がってきている状態は虚熱であり,それが CRP まで反応してしまうと「実熱」になる.実熱の場合,漢方では治療が難しい.

 体の循環血漿量を増やしながら IL─6 を抑制してウイルス感染における軽い熱 を取るのが,滋陰降火湯である.その中に入っている 1 つが麦門冬で,抗ウイ ルス作用があるのが,知・黄お うば くである.

 漢方の世界では,この滋陰降火湯は虚熱を清する代表的な方剤とされている.

つまり,体が全体にドライ(=脱水)になって,軽いウイルス感染を起こして出 てきたような熱である.一番判断しやすいケースが老人の慢性呼吸器疾患で,枯 れ木のようになっている人,脱水状態になって,舌を診ると乾燥している人であ る.こういう人は,夜寝るとき,布団に入って体が暖まってくると咳せ きをしはじめ る.布団に入って体が暖まってくると,外からの熱が強くなってくるので,咳を し始めるのである.つまり,滋陰降火湯は,脱水傾向のある老人の慢性呼吸器疾 患で,夜布団に入ると咳き込んでいるような人に使う.それ以外にも,脱水傾向 があってウイルス感染があるような場合に広く使える.ただし,すべて舌に苔が ないのが目安である.

 もう 1 つ,同じグループに滋陰至宝湯というものもある.滋陰至宝湯と滋陰 降火湯の違いは何かというと,滋陰至宝湯には柴さ いが入ってくるところにある.

柴胡は清熱効果と自律神経調整をする働きが強く出る.精神的な要因で咳が出て おり,咳を主訴とする心身症,乾燥傾向のある人は,舌が乾燥してドライになっ

ていて,自律神経の反応において咳が出る.コンサートのとき,聴衆の中に咳を する人が必ずいるが,こういう人たちには滋陰至宝湯がいい.ただし,舌が乾燥 していることがポイントである.

 同じように麦ば くも んど うと うという薬がある.これはやはり循環血漿量を増やす薬で,

中枢反射を抑制し咳を止める.麦門冬湯は,乾燥型の風や妊娠中の女性にい い.妊娠中の女性は羊水に体液を持っていかれるので,ほとんどのケースが脱水 になる.だから,妊娠中の咳は治りにくい.

 これ以外にも循環血漿量を増やす薬がある.例えば,清せ いし ょえ っと う.これは人に んじ ん とか附が入っていて,循環血漿量を増やす薬である.また,腎臓系統の循環血 漿量を増やす薬は,地お うが入っているとか,さまざまである.一番代表的なのが 滋陰剤である.舌が乾燥しているときには,そういう薬をまず頭に思い浮かべる ことが必要である.その他,咳を主訴としているのか,それとも胃腸の方の脱水 か,あるいは腎臓の方の脱水なのかによって,薬が変わってくる.

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2-3 舌診─水毒─利水剤と利尿剤

 舌に白苔(=白い苔)がつくのは,水分バランスが乱れていることを表してい る.水分バランスの乱れを,漢方では「水す いど く」という.

 漢方には,利水剤というものがあるが,これは利尿剤ではない.利尿剤と利水 剤との違いは何かというと,利尿剤は,Na─k ポンプで消化管内液も細胞外液も 尿として排出される.ラシックス,ダイアート,アルダクトンといった利尿剤 は,消化管内液も細胞外液もぎゅっと絞って尿に出す.ところが,漢方の利水剤 は,アクアポリンを使って,細胞内外液を維持しながら消化管内液を尿として 出す.つまり細胞外液を維持できる。それが両者の違いである.細胞内液が変化 すると死んでしまうので,細胞内液は絶対変化しないのだが,細胞外液は変化す る.利尿剤ではないという意味から,わざわざ利水剤という名前がついている.

つまり,漢方の利水剤は細胞外液を維持する働きがあるので,脱水があるときに も使える.また.アクアポリン 4 は脳室周囲に存在するため脳内圧の低下にも 役立つ.

 例えば,うっ血性心不全などで脱水傾向のある年配の人で,胸水がたまってい る場合,利尿剤を使うと余計に脱水が強くなり「のどが渇いて,心臓がドキドキ して困る」というケースで,胸水がたまっていてコントロールできない,脱水は あるが余分な病理的な水がたまっているというとき,利水剤,例えば五れ いさ んなど

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