錦織 貞郎
3. 溶接技術の確立
3. 1 溶接施工技術の検討
溶接性を確認するとともに溶接条件を確立するため,板 材および鍛造管を用いて,溶接施工試験を実施した.その 結果を第1 表に示す.継手の確証試験は,溶接部の側曲 げ試験,引張試験,シャルピー衝撃試験を実施した.ま た,溶接継手のクリープ破断強度を確認するため,最大
10 000 hのクリープ破断試験を実施した.代表例として,
HR6W溶接継手の断面マクロ写真を第4図に示す.いず れの合金においても,側曲げ試験から溶接時の溶接欠陥な どがないこと,ミクロ組織観察からも溶接部に微細な割れ がないことを確認した. ボンド部および溶接熱影響部
( HAZ ) のシャルピー衝撃値は,いずれの合金においても
100 J/cm2と高い値を示した.また,引張強さはいずれの
合金についても母材と同等であることを確認した.溶接継 手のクリープ破断強度は,約10 000 hの試験において,
母材と同等であることを確認した.以上の結果,板材およ び鍛造管で確立した溶接条件が問題ないと判断し,次に実 サイズの配管について溶接性を検証する.
3. 2 配管の溶接施工技術の確立
母材のクリープ破断強度および配管の製造性の観点か ら,A-USCの大径管候補材料としてAlloy617,HR6W,
HR35の3合金を選定した.また,小径管候補材料とし てAlloy617,HR6W,HR35,Alloy263,Alloy740Hの 5合金を選定した.これらの合金について配管を用いた溶 接施工試験を実施した.その結果をまとめて第2表に示 す.
溶接方法は,GTAWおよびSMAWである.SMAWに よる溶接試験は,HR6W大径管のみ実施した.Alloy617
100 000 hクリープ破断応力 ( MPa )
550 600 650 700 750 800 850
温 度 (℃)
400 300
200
10090 80 70 60 50 40 30
:Alloy740
:Alloy263
:Alloy617
:HR35
:HR6W
:HR3C
:SUPER304H
:Gr.92
:Gr.91
第3図 ボイラ材料の100 000 h破断強度 Fig. 3 100 000 h creep rupture strength of boiler materials
第1表 板材および鍛造管の溶接試験結果
Table 1 List of welding tests for plates and forged pipes for A-USC boilers 試 料 形 状
( mm ) 材 質 溶 接 材 料 溶接方法 溶接部の割れ
ミクロおよび曲げ試験
シャルピー特性 ボンド部,HAZ
( J/cm2 )
引 張 強 さ
( 室温,高温 ) クリープ強度
・板 材 t( 厚さ )= 25
・鍛造穴ぐり管 f 80 × 20 ( t )
HR6W WEL-AUTO-TIG-617 GTAW な し 100以上 母材と同等 母材と同等
HR35 WEL-AUTO-TIG-617 GTAW な し 100以上 母材と同等 母材と同等
Alloy617 WEL-AUTO-TIG-617 GTAW な し 100以上 母材と同等 母材と同等
Alloy263 NIMONIC Filler Metal 263 GTAW な し 100以上 母材と同等 母材と同等
Alloy740H NIMONIC Filler Metal 263 GTAW な し 100以上 母材と同等 母材と同等
( 注 ) GTAW:Gas Tungsten Arc Welding
大径管については,B( ほう素 )添加量の調整によってク リープ強度が異なるとの報告もあるため( 14 ),クリープ強 度に及ぼすBの影響についても検討した.溶接後の継手 の評価は,シャルピー衝撃試験,曲げ試験,引張試験およ びクリープ破断試験を実施した.併せて,大径管溶接部に ついては,SR(Stress Relieving:応力除去焼なまし )処 理についても検討した ( 15 ).
代表として,HR6W配管について溶接後の断面マクロ 観察結果を第5 図に示す.
側曲げ試験およびミクロ組織観察から,B添加量が高
いAlloy617大径管についてのみ高温割れが一部発生して
いることが明らかになった.よってAlloy617大径管につ いては,溶接性の観点からB量を含めた微量元素を調整
したAlloy617を選定するか,溶接可能な条件を再選定す
る必要がある.そのほかの大径管および小径管について は,いずれの合金においても側曲げ試験およびミクロ組織 観察結果からも溶接部に割れが発生していないことを確認 した.
クリープ破断強度については,代表例として,HR6W 溶接継手部のクリープ破断強度試験結果を第6図に示す.
この結果は,3. 1 節で実施した板材のクリープ破断試験結
10 mm
( a ) 板 材 ( b ) 鍛造管
第4図 HR6W溶接継手の断面マクロ写真 Fig. 4 Cross-section of the macrostructure of HR6W welds
10 mm
( a ) 大径管 ( b ) 小径管
第5図 HR6W溶接継手の断面マクロ写真 Fig. 5 Cross-section of the macrostructure of HR6W welds
応 力 ( MPa )
10 100 1 000 10 000 100 000
時 間 ( h ) 400
300
200
10090 80 70 60 50 40
700℃
750℃ 800℃
:板材溶接継手
: 大径管溶接継手
: 小径管溶接継手
: 母材平均線 ( 16 )
:母材99%下限線 ( 16 )
700℃ 750℃ 800℃
第6図 HR6W溶接継手部のクリープ破断強度
Fig. 6 Creep rupture strength of HR6W welds at 700, 725 and 800°C at stresses from 50 to 180 MPa
第2表 大径管および小径管の板材および鍛造管の溶接試験結果 Table 2 List of welding tests for A-USC boiler pipes and tubes 試 料 形 状
( mm ) 材 質 溶 接 材 料 溶接方法 溶接部の割れ 引 張 強 さ クリープ特性評価
大径管 f 350 × 40 ( t )
HR6W WEL-AUTO-TIG-617 GTAW な し 母材と同等 試験中
HR6W WEL117 SMAW な し 母材と同等 試験中
HR35 WEL-AUTO-TIG-617 GTAW な し 母材と同等 試験中
Alloy617( 高B) NIMONIC Filler Metal 263 GTAW 高温割れ 母材と同等 母材と同等
Alloy617 WEL-AUTO-TIG-617 GTAW な し 母材と同等 試験中
小径管 f 45 × 8.8 ( t )
HR6W WEL-AUTO-TIG-617 GTAW な し 母材と同等 試験中
HR35 WEL-AUTO-TIG-617 GTAW な し 母材と同等 試験中
Alloy617 WEL-AUTO-TIG-617 GTAW な し 母材と同等 試験中
Alloy263 NIMONIC Filler Metal 740H GTAW な し 母材と同等 試験中
Alloy740H NIMONIC Filler Metal 740H GTAW な し 母材と同等 試験中
( 注 ) SMAW:Shielded Metal Arc Welding
果も含まれている.実線で母材の平均クリープ破断強度,
破線で母材の99%下限強度を示す ( 16 ).
溶接継手のクリープ破断データは,すべて母材の強度の 範囲内にプロットされる.小径管の溶接継手が10 000 h 未満で母材の平均強度よりも低かった理由は,短時間にお ける小径管母材のクリープ破断強度が低いためである.
10 000 h以上では,小径管材の溶接継手においても,母
材の平均強度とほぼ同じ強度が得られている.現在
10 000 h破断強度を検証するため,試験を継続中である.
次に,板材溶接継手についてクリープ破断後の断面マク ロ観察結果を第7図に示す.温度700 〜800℃において
300 〜18 000 hで破断した試験結果である.いずれの破
断材においても,溶接ボンド部から10 mm以上離れた領 域で破断していた.すなわち,溶接金属およびHAZで破 断せず,母材で破断していた.野村( 17 )らは破断したサ ンプルを詳細にミクロ観察し,HAZではマイクロクラッ クおよびクリープボイドについても発生していないことを 確認している.よって,HR6W溶接部のクリープ破断強 度は,いずれの条件においても溶接金属> HAZ >母材と なると考えられる.
溶接金属の強度が高い理由は,溶接金属にAlloy617を 用いており,HR6Wよりも高温強度が高いためである.
HAZが母材よりクリープ破断強度が高かった原因につい ては,ミクロ組織の違いによって第8図 ( 17 ) に示す模式
図のように説明できる.
クリープ試験前は,ボンド部近傍のHAZ やボンド部か
ら10 mm離れた母材でも析出物は観察されず,硬さおよ
び転位密度のみ異なっていた( 18 ).クリープ破断後の組織 を観察したところ,HR6Wのクリープ強度を向上させる ラーベス相の大きさは,結晶粒内,粒界ともにボンド部か らの距離によらず一定であった.一方,HR6Wのもう一 つの強化相であるM23C6炭化物は,HAZ の結晶粒内およ び粒界ともに,母材に比べ微細に析出していた.結晶粒内
( g ) 800℃,120 MPa ( h ) 800℃,90 MPa ( i ) 800℃,80 MPa
( d ) 750℃,140 MPa ( e ) 750℃,120 MPa ( f ) 750℃,100 MPa
( a ) 700℃,180 MPa ( b ) 700℃,160 MPa ( c ) 700℃,140 MPa
溶接金属 母 材 溶接金属 母 材 溶接金属 母 材
溶接金属 母 材 溶接金属 母 材 溶接金属 母 材
溶接金属 母 材 溶接金属 母 材 溶接金属 母 材
5 mm 第7図 板材HR6W溶接継手クリープ破断材の断面マクロ観察結果
Fig. 7 Cross-sections of the macrostructure of ruptured specimens in HR6W welds HAZ
クリープ試験後 クリープ試験前
項 目 母 材
ラーベス相
炭化物
第8図 HAZと母材におけるクリープ前後のミクロ組織の模式図 Fig. 8 Schematic illustrations showing the precipitates of HR6W welds
before and after creep
に着目すると,ボンド部から約10 mm 離れた領域では,
M23C6炭化物はほぼ同じであったが,ボンド部に近づく ほど,微細化していた.結晶粒界では,ボンド部から
10 mm以上離れた領域に比べ,HAZでは結晶粒界に
M23C6炭化物が多く析出していた.このように,析出物 の分布がHAZと母材では異なり,これら結晶粒内および 粒界でのM23C6炭化物の析出の違いが HAZおよび母材 のクリープ強度に現れたと考えた.よって,フェライト鋼 で生じる溶接部のクリープ強度の低下( 19 )およびHAZ による破壊 ( 20 ) 〜 ( 23 ) は,HR6Wでは生じないと予想され る.