Flory-Huggns理論に基く現象論では、溶媒成分0 と溶質高分子成分
j(j= 1,2,· · ·, q)から成る多成分系のGibbs 自由エネルギーGは G=n0µ◦0+
∑q
j=1
njµ◦j
+RT {
(1−ϕ) ln(1−ϕ) +
∑q
j=1
ϕξj
Pj ln(ϕξj) +g(T, p, ϕ,[ξj]; [Pj])ϕ(1−ϕ)
}
(3.13) と表される。ここで、[Pj]はP1, P2,· · ·, Pqを表す。この式より、溶媒の 化学ポテンシャルµ0は
µ0=µ◦0+RT [
ln(1−ϕ) + (
1− 1 Pn
)
ϕ+χ(T, p, ϕ;f(P))ϕ2 ]
(3.14) となる。ここで、f(P)は[ξj]と[Pj]で与えられる鎖長分布であり、Pnは 数平均相対鎖長で、
1 Pn ≡
∑q
j=1
ξj
Pj (3.15)
で定義される。
溶質成分iの化学ポテンシャルµiは µi=µ◦i +RT
[
ln(ξiϕ)−(Pi−1) +Pi (
1− 1 Pn
) ϕ
+Pi(1−ϕ) {
(1−ϕ) [
g+ (∂g
∂ϕ )
ϕ ]
+ϕ [
mi
(∂g
∂ξi )
−
q−1
∑
j=1
ξj
(∂g
∂ξj )]}]
(3.16) と書ける。ただし、i̸=qのとき、mi = 1であり、i=qのとき、mi= 0 とする。χは前章と同様、
χ=g−(1−ϕ) (∂g
∂ϕ )
T ,p
(3.17) と書ける。
χがf(P)に依らない場合、式(3.8)と(3.13)から、尖点は次式で与え られる。
1
1−ϕ+ 1
Pwϕ−2χ− (∂χ
∂ϕ )
T ,p
ϕ= 0 (3.18)
ここで、Pwは重量平均相対鎖長で、
Pw≡
∑q
j=1
ξjPj (3.19)
と定義される。また、臨界点は式(3.18)と次式から求められる。
1
(1−ϕ)2 − Pz (Pwϕ)2−3
(∂χ
∂ϕ )
T ,p
− (∂2χ
∂ϕ2 )
T ,p
ϕ= 0 (3.20) ただし、Pzは
Pz≡
∑q j=1ξj2Pj
Pw (3.21)
である。
gあるいはχがϕおよびf(P)に依らない場合、臨界点のϕcとχ(Tc)は ϕc= 1
1 + Pw
Pz1/2
(3.22)
図3.4アタクチックポリスチレン+シクロヘキサン系の尖点温度
χ(Tc) =1 2
(
1 + Pz1/2
Pw
)(
1 + 1 Pz1/2
)
(3.23) と与えられる。
式(3.18)によると、χが鎖長あるいはその分布f(P)に依らない場合、
尖点温度Tsp対ϕの尖点曲線は重量平均鎖長Pw(すなわち重量平均分子 量Mw)のみに依存し、Mwが同一であれば分子量分布に依らず1本の曲 線になる筈である。これを確かめたのが図3.4である。4この図で、試料 PS166はMw= 1.66×105の単分散ポリスチレンであり、試料PSM5は Mw= 1.65×105でz−平均分子量MzとMwの比Mz/Mwが3.68の2 成分ポリスチレン混合物である。両試料のMwの値が実質的に同じであ るにも拘わらず、両者のシクロヘキサン溶液の尖点曲線は大きく異なって いる。この結果はχパラメータが溶質高分子の分子量あるいは分子量分 布に依ることを示すものと云える。
3.2.1 分離因子
分離因子(separation factor)σiは無次元量で、次式で定義される。
σi≡ ln(ϕ′′i/ϕ′i) Pi
(i= 1,2,· · ·, q) (3.24) ここで、ϕ′iとϕ′′i はそれぞれ稀薄相と濃厚相における高分子成分iの体積
図3.5Breitenbach-Wolfプロット(アタクチックポリスチレン+シクロヘキサン 溶液)
分率である。式(3.24)は ln
(Wi′ Wi′′
)
= lnr−σiMi (3.25) と書き換えられる。ここで、Wi′とWi′′は成分iの稀薄相と濃厚相における 重量、Miは成分iの分子量である。また、rはϕiからWiへの換算および PiからMiへの換算に伴って生じる因子で、ここでは重要ではない。この式 に基くln(Wi′/Wi′′)対MiのプロットをBreitenbach-Wolfプロットと云 う。5gが鎖長分布f(P)に依らないとき、平衡条件µ′i=µ′′i(i= 1,2,· · ·, q) より、
σi = ∆ [
ln(1−ϕ) + 2(ϕ−1)g−ϕ(1−ϕ) (∂g
∂ϕ )]
(3.26) となる。ただし、∆Xは濃厚相と稀薄相のXの差X′′−X′である。この 場合、gは[ξi]には依らないのでσi はiに依らず同一の値をとる。した がって、Breitenbach-Wolfプロットは直線を与えねばならない、この点を 確かめたのが図3.5である。図の溶質高分子は極めて多分散のポリスチレ
ンで、Mn= 8.2×104、Mw= 4.10×105、Mz= 1.22×106である。ま た、溶媒にはシクロヘキサンを使用している。図中の濃度の数値は母溶液 の濃度を示す。いずれの濃度の母溶液からの相分離でもプロットは大きく 下に湾曲した曲線を与えている。この結果は上の議論が成り立たず、gは 鎖長分布f(P)に依存することを示している。
gがf(P)に依るとき、式(3.26)は次式で置き換えられる。
σi= ∆ [
ln(1−ϕ) + (2ϕ−1)g−ϕ(1−ϕ) (∂g
∂ϕ )
−(1−ϕ) {
mi
(∂g
∂ξi )
−
q−1
∑
j=1
ξj
(∂g
∂ξj )}]
(3.27) ここで、i̸=qではmi= 1、i=qではmi= 0である。鎖長分布f(P)は 稀薄相と濃厚相で異なると考えられるので、この式中の∂g/∂ξi2つの相で iに伴って異なる変化をすることになる。これがσiがPi に依る原因であ り、湾曲したBreienbach-Wolfプロットが生じる要因である。7, 8